本人による保有個人データに関する訴えの提起はどのような場合にできるのか

IT・情報セキュリティ

 本人による個人情報取扱事業者に対する保有個人データの開示、訂正等、利用停止等および第三者提供の停止については、どのような改正がなされますか。

 改正前は疑義のあった、本人が個人情報取扱事業者に対して、保有個人データの開示、訂正等、利用停止等、第三者提供の停止の裁判上の訴えを提起することができる請求権を有することが明確化されました。この場合、本人は、保有個人データの開示、訂正等および利用停止等の裁判上の訴えを提起する前に、個人情報取扱事業者に対して当該請求をしなければなりません。

解説

目次

  1. 改正の背景
  2. 保有個人データ
  3. 請求権の明確化
  4. 裁判外の事前の請求
    1. 裁判外の事前の請求
    2. 請求到達後の期間
    3. 仮処分命令の申立ての場合

※本QAの凡例は注の通りです1

改正の背景

 改正前の個人情報保護法においては、本人が個人情報取扱事業者に対して保有個人データの「開示」、「訂正等」、「利用停止等」および「第三者提供の停止」を「求めたとき」は、当該個人情報取扱事業者は一定の場合を除きこれに応じなければならないと規定されていました(改正前個人情報保護法25条2項、26条2項、27条1項・2項)。

 行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律12条は「開示請求権」との標題の下に「開示を請求することができる。」という文言で開示請求権を規定し、また、独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律12条も同様の標題および文言で開示請求権を規定していますが、個人情報保護法にはこのような「請求権」を認めた規定はなく、本人が個人情報取扱事業者に対して裁判上の訴えができるか否かが明らかではありません。

 東京地裁平成19年6月27日判決・判タ1275号323頁は、患者である個人が病院である個人情報取扱事業者に対して、改正前個人情報保護法25条1項に基づき診療録の開示を求めた事件ですが、裁判上の開示請求権を否定しました。同事件において裁判所は、仮に、本人が、改正前個人情報保護法25条1項に基づいて個人情報取扱事業者に対する保有個人データの開示を裁判手続で請求することができると解すると、法が定めた当事者間における自主的解決手段や主務大臣による紛争解決手段によるよりも裁判上の請求の方が直裁であるとして、法の定めた紛争解決手段によることなく、直接裁判上の開示請求がされることになり、紛争解決手段に関する法の規定が空文化することにもなりかねないとしました。

 EUのデータ保護指令では、EU域内から個人データを第三国に移転できる場合について、EUから見て十分なレベルの保護措置を確保している場合に限定しています(「十分性の認定」)。
 日本は現在のところ、「十分性の認定」の申請をしていませんが、日本政府は、EUから十分性の認定を得るために必要な要件の一つとして、「開示請求権の適用の明確化」について定める必要があると考えました。

 参照:「EU一般データ保護規則が改正個人情報保護法に与える影響

 今回の改正は、開示、訂正等、利用停止等、第三者提供の停止の「求め」が請求権であることを明確化したものであり、開示、訂正等、利用停止等ができる場合や事業者が拒否することができる場合等の実質的な規律は改正前後で変更ありません

保有個人データ

 「個人データ」とは、「個人情報データベース等」(改正前個人情報保護法2条2項・改正個人情報保護法2条4項)を構成する個人情報をいい(改正前個人情報保護法2条4項・改正個人情報保護法2条6項)、「保有個人データ」とは、「個人データ」のうち、「個人情報取扱事業者」が、開示、内容の訂正、追加又は削除、利用の停止、消去及び第三者への提供の停止を行うことのできる権限を有する個人データ(6月以内に消去することとなるもの等を除く)をいいます(改正前個人情報保護法2条5項・改正個人情報保護法2条7項、改正前個人情報保護法施行令4条・改正個人情報保護法施行令5条)。

 「保有個人データ」からは次の①から④までに掲げるものが除外されます(改正前個人情報保護法施行令3条、改正個人情報保護法施行令4条、GL(通則編)2-7)。

  1. 当該個人データの存否が明らかになることにより、本人または第三者の生命、身体または財産に危害が及ぶおそれがあるもの
    (事例)家庭内暴力、児童虐待の被害者の支援団体が、加害者(配偶者または親権者)および被害者(配偶者または子)を本人とする個人データを持っている場合

  2. 当該個人データの存否が明らかになることにより、違法または不当な行為を助長し、または誘発するおそれがあるもの
    (事例1)いわゆる総会屋等による不当要求被害を防止するため、事業者が総会屋等を本人とする個人データを持っている場合
    (事例2)いわゆる不審者、悪質なクレーマー等からの不当要求被害を防止するため、当該行為を繰り返す者を本人とする個人データを保有している場合

  3. 当該個人データの存否が明らかになることにより、国の安全が害されるおそれ、他国もしくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれまたは他国もしくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあるもの
    (事例1)製造業者、情報サービス事業者等が、防衛に関連する兵器・設備・機器・ソフトウェア等の設計、開発担当者名が記録された個人データを保有している場合
    (事例2)要人の訪問先やその警備会社が、当該要人を本人とする行動予定や記録等を保有している場合

  4. 当該個人データの存否が明らかになることにより、犯罪の予防、鎮圧または捜査その他の公共の安全と秩序の維持に支障が及ぶおそれがあるもの
    (事例1)警察からの捜査関係事項照会や捜索差押令状の対象となった事業者がその対応の過程で捜査対象者または被疑者を本人とする個人データを保有している場合
    (事例2)犯罪収益との関係が疑わしい取引の届出の対象情報

請求権の明確化

 上記1の「改正の背景」に基づき、改正個人情報保護法において、本人が個人情報取扱事業者に対して「開示」、「訂正等」、「利用停止等」、「第三者提供の停止」の請求権を有することが明文で規定されました(改正個人情報保護法28条1項、29条1項、30条1項・3項)。

裁判外の事前の請求

裁判外の事前の請求

 上記3のとおり、改正個人情報保護法においては、本人が個人情報取扱事業者に対して「開示」、「訂正等」、「利用停止等」、「第三者提供の停止」の請求権を有することが明確化され、裁判上の訴えの提起ができることが明確になりました。

 ただし、本人が個人情報取扱事業者に対して「開示」、「訂正等」、「利用停止等」または「第三者提供の停止」の請求(以下「開示等の請求」といいます)の訴えを提起する場合には、その訴えの被告となるべき個人情報取扱事業者に対し、あらかじめ、裁判外の請求を行い、かつ、その到達した日から2週間を経過した後でなければ、その訴えを提起することができません(改正個人情報保護法34条1項)。
 これは、裁判外において当事者間で任意で解決できる方が迅速であり望ましいこと、また、事業者の応訴の負担の懸念に配慮したものです。

 裁判外の事前の請求における手続は改正前後で変更はありません。

請求到達後の期間

 開示等の請求が「到達した日から2週間を経過した後」とされているのは、裁判外で請求を受けた個人情報取扱事業者が任意に開示等を行うために通常必要となると考えられる期間を考慮したものです。また、裁判所に訴えを提起して迅速な開示等を求めたいという本人の利益に配慮したものです。

 ただし、個人情報取扱事業者が開示等の請求を拒んだ場合は、2週間を待たずただちに訴えを提起することができます(改正個人情報保護法34条1項ただし書)。
 「請求を拒んだ場合」には、①被告となる個人情報取扱事業者が原告となる本人に対し不開示等の通知を行った場合、②被告となる個人情報取扱事業者が請求に応じない態度を明らかにした場合、③本人が求める開示等の請求が一部しか認められなかった場合のその余の部分が該当します。

 開示等の請求の「到達」は、その請求が通常到達すべきであった時に、到達したものとみなされます(改正個人情報保護法34条2項)。

仮処分命令の申立ての場合

 裁判上の訴えの提起と同様に、仮処分命令の申立てについても、同様に被申立人である個人情報取扱事業者に対し、あらかじめ、裁判外の請求を行い、かつ、その到達した日から2週間を経過した後でなければ、仮処分命令の申立てをすることができません(改正個人情報保護法34条3項)。


    • 個人情報保護法、改正個人情報保護法:個人情報の保護に関する法律及び行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の一部を改正する法律(平成27年9月9日法律第65号)に基づく改正後の個人情報保護法
    • 改正前個人情報保護法:全面改正前の個人情報の保護に関する法律
    • 改正前個人情報保護法施行令:全面改正前の個人情報の保護に関する法律施行令
    • 施行令、改正個人情報保護法施行令:個人情報の保護に関する法律及び行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備及び経過措置に関する政令(平成28年10月5日政令第324号)に基づく改正後の個人情報の保護に関する法律施行令
    • 個人情報保護法ガイドライン(通則編)、GL(通則編):個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)(平成28年11月30日個人情報保護委員会告示第6号)

    ↩︎

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