外部のデザイナーが作成したデザインの著作権をすべて買い取るときの注意点
知的財産権・エンタメ会社のマスコットキャラクターを作ることになり、デザインを外部のデザイナーに依頼しました。将来的にはマスコットキャラクターが登場する動画やイベント用の着ぐるみを作成するなど、各種媒体で活用したいと考えていることもあり、その都度デザイナーに許諾を取るのも煩雑なので、多少対価が高くなっても著作権をすべて買い取ってしまいたいと考えています。デザイナーとの契約にあたってどのようなことに注意をしたらよいでしょうか。
著作権については著作権法27条および28条に規定する権利も譲渡の対象になることを明示した著作権譲渡の合意に加え、対抗要件としての著作権譲渡の登録をすることも検討した方がよいです。著作者人格権については放棄や不行使の合意をすることが行われていますが、有効性には疑義もあるので、仮に無効でも侵害とならないような手当てをしておく必要があります。
解説
著作者はデザイナー
外部のデザイナーに依頼をした場合、著作者すなわち「著作物を創作する者」(著作権法2条1項2号)は実際にデザインをしたデザイナーですから、そのデザイナーが著作者人格権および著作権を取得します(著作権法17条1項)。著作権法のこの規定は契約で変更することのできない規定(強硬法規)で、たとえ本件で「著作者は依頼者である会社とする」と定めたとしても、デザイナーはあくまで著作者のままです。
では、本件のように著作権を買い取りたい場合にどうしたらよいのでしょうか。著作権と著作者人格権のそれぞれについて説明をします。
著作権について
譲渡の対象となる権利について
著作権はその全部または一部を譲渡することができます(著作権法61条1項)。したがって著作権の全部を買い取りたいということであれば、その旨の著作権譲渡契約を締結することになります。ただ、ここで注意をする必要があるのは、著作権の中の翻案権(著作権法27条)および二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(著作権法28条)については、著作権譲渡契約において、譲渡の目的として特掲されていないと、譲渡した側に留保されたものと推定されるという点です(著作権法61条2項)。
あくまで推定ということなので、諸事情によりそれが覆ることもありますが、覆すことができない場合には、たとえばデザインしてもらったキャラクターを使った動画を作成したり、完成した動画を利用したりするためには改めてデザイナーの許可を得なければなりません。
そのため、著作権譲渡契約においては、譲渡の対象となる権利を単に「著作権の全て」とするのではなく、そこに「著作権法27条及び28条に規定する権利を含む」ということを追記する必要があります。
著作権譲渡の登録
有名な作曲家が音楽著作権を二重に譲渡したことが騒動になったことがありましたが、本件でも著作権譲渡をしたデザイナーが別の人に著作権を二重譲渡してしまった場合はどうなるでしょうか。もちろん、会社から依頼されたキャラクターのデザインを他人に譲渡するということは考えにくいことですが、実はデザイナーの債権者が債権保全のために著作権を差し押さえたり、また債権者が破産宣告を受けて著作権を含む全財産が裁判所の選任した破産管財人の管理下に置かれることとなったりした場合にも、差押をした債権者や破産管財人との間でどちらが優先するのかという、同じ問題が起きます。
このような場合、法律上は先に譲渡を受けた者ではなく、先に対抗要件という一定の手続を経た者が優先することになっています。著作権については登録(著作権法77条1号)です。登録は文化庁長官が著作権登録原簿に記載または記録して行うことになっていますので(著作権法78条1項)、先にこの記載または記録がなされた方が優先することになります。
このような著作権譲渡の登録は、実務上はあまり活用されていないのですが、本件のように会社の顔となるマスコットキャラクターという重要なデザインの著作権ですから、念のために著作権譲渡の登録をすることも検討すべきだと思います。
著作者人格権について
著作者人格権の放棄・不行使の合意
著作権法では、著作者人格権として公表権、氏名表示権、同一性保持権、名誉・声望保持権が定められています(著作権法18条〜20条、113条6項)。
著作権と異なり、著作者人格権は譲渡することのできない権利(一身専属権)とされています(著作権法59条)。ですから、著作権と共に著作者人格権を譲渡する旨の契約をしても無効ということになります。
そこで、実務上は契約書で著作者人格権の放棄(権利の放棄)あるいは行使しない(権利の不行使)といった条項を設けることが広く行われています。あくまで個人の権利ですから、権利者本人が放棄・不行使といったことを合意することも認められてよさそうです。しかし、著作者人格権が肖像権やプライバシー権といった権利と同じ性質を有する人格権で、法律上一身専属権とされていることからすると、その権利について放棄・不行使といった合意が果たして有効なのかについては疑義があることは否めません。念のためそのような条項を設けること自体は否定しませんが、それだけで安心をせず、利用に際して著作者人格権の侵害となることのないよう配慮することは必要です。
著作者人格権の侵害とならない利用方法
(1)公表をしてもよいか
まず公表権(著作権法18条1項)については、会社のマスコットキャラクターのデザインである以上、公表することについては当然許諾があったと考えられます。また、未公表の段階で著作権を譲渡していますので、著作権を取得した会社がそれを公表することについては同意したものと推定されます(著作権法18条2項1号)。ですから、公表権についてはあまり心配する必要はないでしょう。
(2)デザイナーの氏名を表示するか
氏名表示権(著作権法19条1項)については、会社のマスコットキャラクターについてデザイナーの名称を表示するという利用は通常は考えられないので省略をすることになると思いますが、デザインの性質上氏名表示をしないことについては同意があったと認められる場合が多いだろうと思います。
また、そうでないとしても、著作物の利用の目的および態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められ、また公正な慣行にも反しないと認められるという氏名表示を省略してよい場合(著作権法19条3項)にも該当するだろうと考えられます。ただ、念のため著作権譲渡契約において、使用に際して氏名表示はしない旨を合意しておく方がよいと思います。
(3)改変をするときは要注意
注意が必要なのは同一性保持権(著作権法20条1項)で、やはり改変をするのであれば、「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」(著作権法20条2項4号)と認められるような範囲にとどめるべきでしょう。利用する媒体などに適合させるための改変であれば、これに該当すると考えてよいのではないかと思います。
(4)著作者の名誉または声望を害さないように
なお、以上の著作者人格権を直接侵害しない場合でも、著作者の名誉または声望を害する方法によりその著作物を利用する行為は、その著作者人格権を侵害する行為とみなされます(著作権法113条6項)。会社のマスコットキャラクターについてそのような利用をすることは無いと思いますが、この点にも注意が必要です。
