ネットサービスにおける「なりすまし」と本人みなし条項の有効性について

IT・情報セキュリティ

 消費者向けのオンラインサービスを提供しています。あるユーザが、「身に覚えがない」利用による請求があったと抗議してきました。不正利用者による「なりすまし」の可能性があるのですが、その場合、当社は当該ユーザに対して利用料金を請求できないでしょうか。

 ユーザIDやパスワードの管理状況や、不正利用の態様によっては、表見代理の類推適用によって、そのサービス利用の効果が本人に帰属し、当該ユーザに対して請求できる場合もあり得ます。また、いわゆる「本人利用みなし条項」の適用によって同様の効果が生じ得ます。

解説

目次

  1. 「なりすまし」と表見代理
  2. 「本人利用みなし条項」とは
  3. 「本人利用みなし条項」は万能ではない
    1. 消費者契約法との関係
    2. 事業者側に落ち度があった場合
  4. おわりに

「なりすまし」と表見代理

 本人以外の行為の効果は、代理権を与えたなどの例外的な場合を除いて、本人に帰属しません。したがって、他人がユーザIDとパスワードを使用して「なりすまし」行為をしたとしても、その効果は原則として本人(当該ユーザIDの保有者)に帰属しません。

 しかし、民法上の表見代理の規定(民法109条、110条、112条)によって、帰責事由がある本人と、代理権があると信じた取引の相手方の利害を調整し、一定の条件を満たした場合には、無権限の他人の行為について、効果が本人に帰属することを定めています。

 表見代理は、「なりすまし」を対象にした規定ではありませんが、 オンラインサービスにおける他人の「なりすまし」行為においても、無権代理と同種の状況があることから、表見代理の規定を類推適用し、本人に効果帰属する場合がありうる でしょう(経済産業省 「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」平成27年4月版」(以下「準則」といいます)の i42頁参照)。

「本人利用みなし条項」とは

 しかし、表見代理の規定が類推適用されるかどうかはケースバイケースであり、予測可能性に乏しいことから、オンラインサービスの事業者は、利用規約において、下記のような条項(以下「本人利用みなし条項」といいます)を置き、なりすまし利用があった場合でも、その効果は本人に帰属するということを定めていることが多いです。

【「本人利用みなし条項」の例】
利用者のIDとパスワードが利用された場合には、利用者本人の利用があったものとみなします

「本人利用みなし条項」は万能ではない

消費者契約法との関係

 本人利用みなし条項は、ユーザに帰責性(IDとパスワードの不適切な管理等)があるか否かを問わず、また、相手方となる事業者の主観(善意・無過失)を問わず効果の帰属を認めるものであって、大量の取引を処理する事業者の立場からすると、不正利用、なりすまし事例に効率的に対応することができるというメリットがあります。
 しかし、 オンラインサービスの利用規約は、消費者契約の一種であることから、消費者契約法10条(下記)との関係を考慮する必要があります

消費者契約法10条
(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)

民法 、商法 (略)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項 に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

 つまり、 本人利用みなし条項が、民法等の任意規定よりも消費者の利益を一方的に害する内容になっているとすると無効になる可能性があります 。もっとも、本人利用みなし条項に直接に対応する民法等の規定はないことから、ただちに本人利用みなし条項が消費者契約法10条により無効になるとは言えないでしょう。

事業者側に落ち度があった場合

 しかし、認証システムの脆弱性を突いて「なりすまし」を可能にしてしまった等、事業者側の落ち度によって生じた場合にまで、事業者が本人利用みなし条項を援用することは、公平性を欠くと考えられるため、当該条項を限定解釈し、本人への効果帰属が否定される場合もあり得ます。

 特定のユーザが「なりすまし」の被害に遭っただけにとどまらず、多くの同種の被害が生じている場合には、事業者のシステム側の不備が推認され、本人利用みなし条項が適用されないという事態もあるでしょう。

おわりに

 以上により、本人利用みなし条項がただちに無効になるわけではありませんが、常に事業者に有利に作用するということはなく、「なりすまし」が起きた状況によっては限定的に解釈されるということに留意しなければなりません。

 この点については、本文中に掲げた準則のほか、森亮二「ソーシャルメディア利用ビジネスと法律問題」『クラウドビジネスと法』(第一法規、2012)162頁や、松田政行「ネットワーク取引と表見責任」(NBL316号16頁、同321号28頁)に詳細な検討がなされています。

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