- 発売日
- 2021年06月30日
- 出版社
- 信山社
- 編著等
- 井上典之
複雑なEUの仕組みを、サッカーを媒介に平易かつ詳細に解説。サッカーからEUを、EUからサッカーを考えよう!
目次
表紙
はしがき
目次
序 なぜEUか?
1 日本の問題を考えるために
スポーツ団体のモデルとなるヨーロッパ
日本も事情は同じ
スポーツ法の検討は同時にEUをも対象にする
2 複雑で理解しづらいEU
二一世紀の「新たな試み」としてのEU
統合への発展は同時に揺らぎをも引き起こす
サッカーから考える
3 日本とは異なるスポーツ選手の地位
スポーツ選手は尊敬される
選手の法的地位は権利問題
4 特徴的なヨーロッパ・サッカーとEU法
結局は「多様性における統合」を目指して
第一章 欧州統合への船出─EUとは何か・その一
1 二〇世紀ヨーロッパの苦悩
近代の主権・国民国家の枠組み
悲劇を生み出す近代の主権・国民国家
主役を追われた欧州
2 苦悩からの自律的脱却の提案
まずは経済の立て直し
もう一つは平和の実現
昨日の敵は今日の友
3 シューマン宣言
「フランスからドイツ」への提案
世界平和へ向けた欧州の貢献
共通の最高機関の設置
4 欧州統合の基盤としての条約
条約に基づく欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)
英国の不参加
共同体発展の可能性を残し
第二章 規範複合体として─EUとは何か・その二
1 欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)からECへ
まず経済から始めよう
三つを一つに
英国加盟から始まるECの拡大
ECの量的拡大と質的停滞
2 質的拡大からEUへ
域内市場の構築
国境検査なしの移動の自由は警察協力も伴う
ベルリンの壁崩壊と欧州連合への展開
3 マーストリヒト条約からリスボン条約へ
条約改正による統合の深化
東への拡大の準備のための条約改正
EU独自の基本権保障
憲法制定による連邦国家化の失敗
憲法条約の修正の模索とリスボン条約
4 条約によって創られた超国家的連合体
すべての活動は条約の範囲内
独立の法人格は持つが……
分かりにくい存在を理解するために
第三章 欧州統合への道のりとスポーツ
1 EUへの参加拡大
EUへの加盟国の増加
EUの出発点
2 参加することに意義がある
「平和の祭典」:オリンピック
「友愛」精神に基づく汎ヨーロッパ主義
国家の枠組みとオリンピック
3 UEFAをモデルにしたEU?
EUは市民の連合体か?
国家間条約によるEU
共通文化としてのサッカー
独自のビジョンを持つUEFA
ノーベル平和賞を受賞したEU
第四章 リスボン条約におけるスポーツのテーマ化
1 ECとEU
欧州統合の出発
ECとEUの併存
EUへの一元化
2 EUにおける民主主義の赤字(Defizit der Demokratie)
EUの性格決定プロセスの民主的正当性
民主制実現のための「EU市民」
3 「EU市民」形成の触媒としてのスポーツ
スポーツの持つ社会統合的機能
EUスポーツ・フォーラムの開催
経済的側面からのみとらえられたスポーツ
不明確さの残ったスポーツ政策
4 リスボン条約でのスポーツ条項の導入
リスボン条約による不確実さの解消
スポーツ条項の導入と権限の明確化
経済性と公共性を併せ持つスポーツ
スポーツ領域での補完性原理
第五章 ヨーロッパ・サッカーとEU法
1 平和構築・維持の機構としてのEU
戦争の歴史としての欧州史
欧州の平和構築を目的にしたEU
物理的軍事力を持たないEU
2 国家単位で構成されたUEFA
平和維持をも目的とするサッカー
ヨーロッパ地域を統括するUEFA
ヨーロッパ全体でのサッカーの強化
ワールドカップでのヨーロッパチームの独占
3 ナショナル・チームとナショナリズム
国家の利害衝突をも惹起する超国家的組織
ナショナル・チームによる国際大会
ナショナリズムの喚起と国際大会
4 UEFAの持つもう一つの顔
市民の自然な感情からの社会統合のために
経済的側面からの規制の存在
第六章 ヨーロッパ・サッカー・リーグの特徴
1 秋の気配とともに
スポーツの秋
サッカーの季節の始まり
2 プロ・クラブとしてのリーグ戦とナショナル・チームの試合
クラブ・チームと区別されるナショナル・チームの国際大会
サッカーという同一のパフォーマンスの法的関係
プロ・クラブによる優先的選手管理
圧力団体としてのG14と欧州クラブ協会
3 各国リーグ組織の内容とその相違
イングランド・プレミア・リーグの仕組み
ドイツ・ブンデス・リーガの仕組み
その他の加盟国リーグの仕組み
4 モデルとしての「多様性における統一(unity in diversity)」
サッカー・リーグにみる「多様性における統一」
第七章 EUに対してUEFAの持つ二面性
1 超国家的連合体としてのEUとUEFA
人権尊重というEUの理念
超国家的連合体の母体は加盟国、それとも市民?
国家を超えて何ができるのか?
2 EUの規律対象としてのUEFA
EUから見た経済活動の主体となる団体の位置づけ
UEFAによる経済活動
UEFA主催の大会の非営利性?
UEFAの持つ規制権限の行使
3 複雑なプロ・スポーツの組織構造
EUとEU市民の間にある私的団体
スポーツのプロ化の仕組み
統一的ルールの存在
団体に吸収される個人
4 EU法の出番はどこに?
プロ・サッカーはEU法の規律対象?
UEFAと加盟各国協会という自律的組織
私的団体に直接介入するEU
第八章 選手は労働者、それとも文化の担い手?
1 グローバル化の進むヨーロッパ・サッカー
ヨーロッパ・サッカーの人気
より高額の収入を得られるヨーロッパ・サッカー
基本権としての職業・労働の自由
2 スポーツ・クラブの個人に対する非情さ
出発点での選手の弱い立場
選手契約の下での選手の地位の弱さ
クラブによる選手に対する強いガバナンス
3 EU法によるプロ・サッカーのコントロール
経済活動としてのサッカー
統一的ルールによる選手契約の規律
三つの基本的自由
EU法の下での直接的な法的問題
4 プロ・サッカー選手の法的問題としてのボスマン判決の事案
ボスマン判決とは
元々は国内法の問題
やはりUEFAの統一的ルールが問題
5 欧州司法裁判所におけるボスマン判決
スポーツに関する先例の存在
雇用契約ではないプロ選手契約の問題
労働者の移動の自由はEU法上の基本原則
プロ選手の移籍規制の正当化理由
目的との関係での規制の必要性は認められない
無効の効果は将来的なもの
第九章 助成のための資金調達?
1 オール・スターのようなサッカー・クラブの問題
ボスマン判決のプラスの効果
結果としての「銀河系軍団」の出現
選手の頻繁な異動とアイデンティティの揺らぎ
第三の当事者としてのサポーターの存在
2 ボスマン判決の最大の問題点
移籍金制度の存続?
選手契約の譲渡という新たな仕組み
傭兵として商品化の進む選手としての個人
3 競争のための資金調達?
リーグ間の競争も激化
競争のための国家による資金補助
国家もEUの規制対象
4 国の経済活動はEUの規制対象
民営化による規制事象の減少
補助金のための財源は?
スポーツ保護の財源確保の手段としての国家独占
欧州司法裁判所による違法判断
首尾一貫した方法での財源確保の必要性
EU加盟各国での国家独占の違法判断
第一〇章 EUの持続可能な発展のための活動
1 サッカーというスポーツの隆盛
サッカーの中心としてのヨーロッパ
商業化したプロ・サッカーの法的側面
経済性と公共性の融合する事象としてのプロ・サッカー
2 経済活動としてのプロ・サッカー
興行を商品とするプロ・スポーツ
様々な法的組織形態をとるサッカー・クラブ
赤字経営は許さないFFP
持続可能な発展のためのルール
両刃の刃となるFFP
3 企業の社会的責任
スポンサーを必要とするクラブ運営
企業の社会的責任の一環としてのサッカーを通じた社会貢献
社会の持続的発展のための企業による投資活動
4 サッカーからEUの発展へ
ステークホルダーに対する企業の説明責任
消費者としてのサポーターを視野に入れた企業の投資
第一一章 EU市民法とプロ・サッカー
1 地域密着型のプロ・サッカー
「おらがチーム」とフランチャイズ制
サッカーの「ホーム・アンド・アウェー方式」
2 EU市民法から見た地域密着型の問題
「ホームタウン」での開催の義務づけ
サッカーの経済的側面からの問題
EU競争法に服するプロ・サッカー
3 「ホームタウン制」は反競争的政策か?
「ホームタウン制」の競争法違反の可能性
一つの「ホームタウン」に複数のクラブ?
複数のプロ・スポーツの存在
サッカーの持つ独自性
4 サッカーに固有のルールとしての「ホームタウン制」
基本権主体としてのUEFA
結社の自由による団体の自律権の保障
固有のルールとしての競技・組織ルール
サッカー文化の隆盛と「ホームタウン制」
第一二章 EUの価値観の実現に向けて
1 欧州共通の文化的公共財
サッカーによる欧州統合
ヨーロッパにおけるサッカーの特殊性からの注意点
サッカーとヨーロッパ統合の根底にある理念・価値観
2 EUの価値観としての人権尊重
基本権に基礎づけられたEUのシステム
人権 ・基本権の一つとしての結社の自由
法秩序の下での個人・団体・国家という三極構造のとらえ方
3 サッカーでの差別的行為の根絶
団体にも求められる人権 ・基本権の尊重
サッカー団体による差別的行為の根絶活動
ヨーロッパ・サッカーにおける多人種化・多民族化
侮辱的・差別的行為の例
「人間の尊厳」という価値の実現のために必要な確固たる措置
4 多民族・多人種・多言語のEU
文化・宗教・言語の多様性の尊重
私的団体であるからこそ……
5 近代の主権・国民国家を超えて
新たな統治形態としてのEU
EUの揺らぎ
Brexitも結局は近代の枠組みから抜け出せない先祖返り
EUの存在そのものも近代の主権・国民国家のためのもの
平和共存・繁栄のために
エピローグ BrexitとEUの今後
1 コロナ禍のヨーロッパ・サッカーの中で
サッカーのない日々は日常の喪失
事情はUEFAでも同じ
サッカーが中止になる前に
2 Brexitとはどのような事象?
法的には条約加盟国からの離脱
国民投票は国家の決定か?
議会主権か、政府の外交大権か?
英国最高裁判所の判断とその後の経過
離脱の条件闘争(交渉)
主権の回復により失ったものも大きい
英国のエゴとナショナリズム
3 Brexitに触発された欧州懐疑主義
自国ファーストの欧州懐疑主義
加盟国の民主プロセスを利用したポピュリズム
ポーランドの追随
LGBTフリーゾーンと性的少数者に対する抑圧
EUからの対抗措置
4 リベラル(EU)か反リベラル(ポピュリズム)か
「反リベラル・デモクラシー」の宣言
ルール破りの現行犯
再びサッカーを考えてみよう
奥付