- 発売日
- 2015年03月20日
- 出版社
- 経団連出版
- 編著等
- 「統合人事管理」研究会
企業が国境を越えて人を雇う場面で浮上する日常的な問題に加え、近時は、現地子会社で不祥事が発生するという深刻な事態も増えています。これらは日本企業がグローバル化する過程で必ず直面する課題であり、そこから日本企業の将来を見通すことができ、新しい視点で自社の人事施策・労務管理を考え直すことにもつなげられます。本書は、これまで取り扱われることの少なかった国際的な労働問題に焦点を当て、グローバル展開を推進する企業が労働法をよりどころにしつつ、解決方法を見出すことができるよう具体策を提示するものです。
目次
表紙
目次
1章 労働法を国際場面に適用する
1-1 当社では、社員に海外出張や海外の支店等への赴任を命ずる機会が増えてきました。こうした海外勤務にはどこの国の労働法が適用されるでしょうか。そもそも、国際的な労働関係の場合、労働法の適用はどのように考えるべきでしょうか。
1-2 当社では、外国人の雇用を考えています。こうした外国人社員にはどこの国の労働法が適用されるのでしょうか。また、日本法が適用される場合、日本人社員とは内容が異なるでしょうか。
1-3 当社は、アメリカ本社(ニューヨーク州法人)の日本の子会社ですが、アメリカ本社の社員が当社に赴任しています。この社員への労働法の適用はどうなるでしょうか。契約でニューヨーク州法を適用することは可能でしょうか。
1-4 当社は国際的に事業展開をしていますが、国際的な労働関係に関する紛争については、どこの国の裁判所で訴訟が行われるのでしょうか。
1-5 当社の海外子会社で採用し当社東京本店に出向していたAがミスを多発させたため、子会社はAに対して解雇通知を発しました。Aは、解雇をしたのは当社だとして、解雇無効を理由に、地位確認訴訟を東京地裁に提起しました。どう対応すべきでしょうか。
1-6 当社は、東京で採用して就労させていた日本在住のアメリカ人を成績不良により解雇したところ、アメリカ人は帰国し、当社を被告として解雇の適法性を争う訴えをニューヨーク州の裁判所に提起しました。どう対応すべきでしょうか。
2章 海外で適材を採用する
2-1 当社は、優秀な若手社員獲得のため、インドネシアに採用担当者を出張させて採用活動を行う予定ですが、求職者に宗教について質問することにつき、日本の労働法規の適用の有無や留意点を教えてください。
2-2 当社は、アメリカ・ニューヨーク州在住のアメリカ人に対し、採用のオファーレターを送り、当該レターにサインしてもらい労働契約を締結する予定ですが、当該レターにどのような事項を記載すべきですか。
2-3 当社は、採用に至らなかった求職者の個人データを、国外の子会社に対し、同社での採用検討のために提供したいと考えていますが、どのような手続が必要でしょうか。
2-4 当社は日本国内に複数の子会社を有し、そのうち一つはグループに対する人事シェアードサービスを提供しています。グループ各社の採用面接は、当該人事子会社の採用専門チームが代行する予定ですが、法的な規制はありますか。
2-5 当社では、適材適所のために、基幹要員を企業グループ名で採用し、国内外のグループ各社いずれに配属されるかは、採用時に告げません。労働法上の問題はありますか。
2-6 当社は、日本に住む外国人留学生の採用を内定しましたが、当該留学生は日本での知り合いが少なく身元保証契約を締結できる身元保証人がいません。どのように対応したらよいでしょうか。
2-7 当社は、アメリカ等で優秀な人材を中途採用で確保する際に、入社を動機づける魅力として、サイニングボーナスを支払う予定ですが、気をつける点はありますか。
2-8 当社は、アジア人の大学生を新卒採用した際に期間の定めのない労働契約を締結し、当該大学生の日本での在留資格に対応する業務内容を記載しましたが、他の業務に携わる職種に変更することはできないのでしょうか。
3章 外国人を受け入れる
3-1 当社は、世界各地に子会社を有して事業展開するアメリカ本社の子会社のひとつです。アメリカ本社から出向社員(外国人)を受け入れて、当社で就労させるための在留資格は何でしょうか。
3-2 当社は、優秀かつ低賃金の労働力確保のため、相応の経験と資格のある外国在住の外国人IT技術者を複数雇用し、東京で勤務させたいと考えています。本給と諸手当についてどのように定めるべきでしょうか。
3-3 当社には、外国人社員が相当数いますが、そのうちの一人が、自分が昇進しないのは国籍差別だと主張しています。昇進は適性や実績を勘案して決定していますが、問題ありますか。
3-4 外国人が勤務する事業所では、当該外国人の母国語による就業規則の備え置きが必要でしょうか。
3-5 当社の地方工場では、多くの日系外国人を工場作業者として雇用しています。安全のために重要な作業手順について、部門の長が日本語で詳しく説明するか、外国人社員のリーダーに母国語で説明させるか迷っています。
3-6 前問(Q3-5)の工場で、ある外国人社員が在庫横流しをしている疑いがあります。当該社員はこれまで日本語で問題なく業務をこなしましたが、本人からの事実調査や、その後の懲罰委員会での弁明の聴き取りは日本語で行ってよいでしょうか。
3-7 当社は、Q3-5の工場で単純製造業務を行う社員のうち、外国人とは有期雇用契約を結び、日本人とは期間の定めのない雇用契約を結ぶこととしています。労基法3条違反といわれるでしょうか。
3-8 当社工場では数多くの工場作業者を雇用しており、その中には外国人も相当数います。外国人社員については、本人たちの希望も考慮し、雇用保険に入れず、その分賃金を増額しています。問題はありますか。
4章 人材を海外へ送り出す─赴任─
4-1 当社は、社員を海外子会社等に赴任させる予定ですが、どのような準備が必要ですか。出張の場合はどうでしょうか。
4-2 当社社員に海外子会社への出向を命じたところ、家庭の事情を理由に難色を示していますが、どのように対応すればよいですか。また、出向先が危険地域であることを理由とする場合はどうすべきでしょうか。
4-3 当社は最近海外に子会社を設立し、社員を数名出向させることになったため、海外赴任規程を作成することを考えていますが、どのような点に留意して作成すべきでしょうか。
4-4 当社は、社員をタイの現地子会社に出向させる予定ですが、日本での時間外勤務に対する法定割増率が1.25倍であるのに対し、タイでは1.5倍です。当社は、いずれの基準で割増賃金を支払うべきでしょうか。
4-5 当社から海外子会社に出向した社員が、メンタルヘルスの不調を訴えていますが、出向元としての当社はどのような対応が必要でしょうか。
4-6 当社は、インドネシア所在の子会社A社に出向中の社員を帰任させる予定です。当社で年次有給休暇を付与する際に、A社での勤務年数を通算すべきですか。A社での残存休暇はどうすべきですか。
5章 人材を海外へ送り出す─出張ほか─
5-1 当社の顧客である日本企業の多くがIT技術者を求めています。中国にある当社の関連会社は多くの中国人IT技術者社員を抱えています。同社から日本の顧客企業に技術者を派遣する事業を行うことができますか。
5-2 当社の中国子会社には日本語が堪能な中国人社員が数多くいます。中国子会社社員を出向受入れして、現在は派遣会社からの派遣社員が行っている業務を引き継がせることはできますか。
5-3 当社の海外子会社は多くの専門職の人材を必要としています。これに応え、当社が日本で複数の有期契約の社員を採用し、当該子会社に出向(在籍出向)させることはできますか。これら社員を当社で勤務させる予定はありません。
5-4 当社は、インド子会社設立に向け、管理職でない社員に海外出張を命じ、現地有力者への働きかけをさせています。出張中は労働時間の管理はせず、残業代の支払もありません。日本法上問題となりますか。
5-5 当社は、社員を業務の必要から海外の学会に出張させることがあります。どのように労働時間を管理すべきですか。日曜日に海外へ移動させる場合、日曜日に休日を与えたものとして扱ってよいのでしょうか。
5-6 当社は旅行会社であり、海外旅行の添乗員の不足時、派遣会社から添乗員の派遣を受けています。1、2週間の勤務ですが、その間の添乗員の労働時間や休日の管理について教えてください。
5-7 当社がカンボジア子会社の工場設営のため3か月の予定で出張させた技術者が、2か月後の休日、ホテルで強盗に刺され死亡しました。労災は適用されますか。遺族が損害賠償を求めていますが、当社に責任はありますか。
5-8 当社は、ベトナム子会社設立のため、半年間、法務の担当部長に毎月2回ほど約1週間の出張をさせていたところ、部長は脳出血によりホテルで倒れ死亡しました。労災は適用されますか。自宅で死亡したときはどうなりますか。
5-9 当社は、アジアの現地子会社の幹部候補となる優秀な社員をアメリカの経営大学院へ留学させることを計画しています。留学後に退職されないよう、何か予防策はありますか。せめて退職時に留学費だけでも回収できませんか。
6章 グループ人事を国際化する
6-1 当社には、国内外に複数のグループ会社があるところ、さらに人事シェアードサービス子会社を設立し、グループ会社の給与計算や社会保険関連の事務を担当させる計画です。国内・海外に設立した場合、法的制約はあるでしょうか。
6-2 当社は、60歳以上の定年後社員を海外子会社で再雇用することを検討していますが、高齢者雇用安定法上の義務を果たしたといえますか。また、再雇用後、当該海外子会社が閉鎖となった場合、当社に再雇用の義務はあるでしょうか。
6-3 1年の有期契約を2度更新し、期間満了したAに国内のグループ総務子会社が求人中と当社が伝えるとAは応募し、1年の有期契約を2度更新後、子会社が期間満了1か月前に終了通知をすると、Aは当社に労働契約法18条の申込みをしました。有効ですか。
6-4 当社は1年契約を2度更新したアメリカ人Aの帰国希望で労働契約を期間満了で終了させ、求人中のアメリカ現地子会社が雇用しました。2年経過し現地子会社が成績不良で解雇を検討し始めると、Aは当社に労働契約法18条の申込みをしました。有効ですか。
6-5 アメリカ本社が随意雇用で3年雇用後、低成績で解雇したAを、子会社である当社が解雇と同時に招聘して1年の有期労働契約を2度更新し、3度目の更新はしないつもりが、Aが当社に労働契約法18条の申込みをしてきました。有効ですか。
6-6 当社は、アメリカ人Aと高額年俸で1年の有期労働契約を締結し、更新しつつ5年のプロジェクトに参加させる予定ですが、労働契約法18条による無期転換を危惧しています。Aからの、無期転換申込権を事前放棄する提案を受け入れてよいですか。
コラム 人事のアウトソーシング
7章 人事を全世界的に統一する
7-1 当社は、事業の海外展開を意図しています。人事政策や人事業務等をどのように変化・進化させるべきですか。グローバル企業におけるそれらの取組みには、どのような特色・特徴がみられるのでしょうか。
7-2 当社はアメリカ、ヨーロッパ、アジア等に、販売または製造のための子会社を置いていますが、人事業務の手続(プロセス)等に相違がみられます。グローバル経営の観点から、人事業務のあり方をどのようにしていくべきですか。
7-3 グローバル経営の観点から、現地子会社の経営や労務管理等において、当社から経営者や人事・労務の責任者を派遣したほうがよいのか、ローカルへの権限授与を行っていくべきか、どのような考え方や運営のあり方が望ましいでしょうか。
7-4 当社は、現地の会社の買収統合により海外での事業展開を進めていますが、グローバル経営の観点から、人事政策(人材要件、業績評価、昇進等)やコンプライアンス等は、どのような方針、内容とすべきですか。その場合の注意点等は?
コラム グローバル人事
8章 海外拠点リスクを管理する
8-1 当社は、ある事業部門の部長をインドネシア現地子会社に代表取締役として送り込むことを計画中です。部長の当社での社員資格はどう取り扱うべきですか。この人事異動に社員本人の同意は必要ですか。
8-2 他社では現地子会社の不祥事が多いようです。前問(Q8-1)のように代表取締役を送り出すとき、当社にはどのような準備が必要ですか。
8-3 当社は、ある事業部門の部長を出向させ、タイの現地子会社に取締役として送り込んでいます。この者が現地で巨額の横領をしていたことが判明しました。どのように調査・処分すべきですか。
8-4 当社は、経理部長を出向させ、現地子会社に取締役経理部長として送り込みました。当該経理部長在任中に現地人経理スタッフが犯した、巨額の横領行為が発覚しました。当社はこの者の監督不行届きの責任を問えますか。
8-5 当社には、インドネシアの現地子会社に代表取締役として出向中の社員がいます。この社員が現地でやむをえず贈賄していたことが発覚しました。当社はどう対応すべきでしょうか。
8-6 当社はタイの現地子会社に代表取締役を送り込んでいますが、不祥事防止の観点から任期や後任をどう考えるべきでしょうか。
8-7 当社では全社をあげて、海外子会社不祥事を防止するための取組みを検討しています。人事部ができることは何でしょうか。
コラム 海外派遣前セミナー
9章 国際的にリストラを断行する
9-1 当社では、アジアで現地子会社を擁する事業部門の縮小計画を策定中です。労働法上の整理解雇の規制を考えた場合、人員削減は当社、現地子会社いずれでするべきでしょうか。
9-2 当社が擁するグループ内にある子会社では、グループ一括採用による社員がいます。この子会社の特別清算が決まり、所属する社員全員を解雇するに際して求められる解雇回避努力義務はどの程度ですか。
9-3 当社はアメリカ本社の現地子会社ですが、事業縮小のため整理解雇をすることになりました。人選基準として50歳以上を設けるつもりですが、アメリカ本社からは年齢差別に当たり不適切と指摘されました。年齢基準をどう考えるべきですか。
9-4 前問(Q9-3)の場合において、当社は51歳のアメリカ人を整理解雇しました。するとこのアメリカ人はアメリカに帰国後、アメリカの裁判所に当社を相手取って解雇の効力を争う訴訟を提起してきました。当社はどう対応すべきですか。
9-5 当社が属するアメリカ本社グループでは、2008年金融危機以降、グループ全体で人員削減を行っています。削減人数は本社から指示され、当社への割当ては10人です。整理解雇の4要件中、人員削減の必要性をどのように主張立証すべきですか。
9-6 当社はアメリカ本社のグループ傘下にあり、社員1000人を擁し、少数労働組合が一つだけあります。整理解雇を検討中ですが、人選の際に組合員資格をどう考えるべきですか。
9-7 当社はアメリカ本社のグループ傘下にあり、本社から人員削減を命じられています。当社は、社員の自主性に任せる希望退職の方法をとりたいのですが、それでは優秀な人材から辞めてしまうと指名退職勧奨が指示されました。どちらが適当でしょうか。
9-8 当社では退職加算金を付けた指名退職勧奨を行う計画です。退職勧奨のやり方に関し留意すべき点は何ですか。
9-9 当社では人員削減の方法として、まず希望退職を募り、それでも目標に届かなければ整理解雇をする計画です。しかし、いずれの段階においても極力社員からの自主的な退職申入れを促したいです。申入れを待つ期間はどの程度に設定すべきですか。
9-10 当社が属するアメリカ本社傘下のグローバル企業グループでは、パフォーマンスレビューが世界統一基準で行われ、アメリカ本社では低成績を繰り返す者は解雇されます。当社においても、本社から指示のあった、この政策の実現は可能ですか。
9-11 当社は、アメリカ本社の方針を受け、国内工場を閉鎖してタイに製造拠点を移し、国内では販売業務に特化して収益性を回復する計画です。工場で働く製造工の整理解雇は可能ですか。
コラム 企業と戦略的リストラ
10章 国際化する労組とつき合う
10-1 当社に対し、当社工場で数多く勤務するフィリピン人によって労組が組織されたという宣言と、英語で賃上げ交渉をし、それができない場合には英語通訳を当社負担で同席させること、という要求とがありました。応じる義務はありますか。
10-2 当社はタイに現地子会社を有し、現地子会社は現地労組と団体交渉してきました。現地労組は、日本の労組を通じて、当社および現地子会社に、日本で団交を申し入れてきました。当社には応諾義務がありますか。
10-3 当社は、労組とユニオンショップ協定を締結しています。ところが、このたび採用した外国人社員が、組合費を支払いたくないとして労組加入を拒否しています。どう対処すべきですか。労組から当該外国人社員の解雇を要請されたら、どうすべきですか。
10-4 当社は、有期で働く外国人労働者数十名を雇止めし、彼らが加入したという労組から要求を受けて、団交を数回重ねました。しかし、当社の調べでは、彼らの多くはすでに本国に帰国しています。当社は今後も団交に応じる必要があるでしょうか。
10-5 当社には過半数労組Mがあります。最近外国人社員が労組Nを結成し、Mと同等の組合事務所の無償貸与を求め、断わると国籍差別だと言っています。当社は応じる義務があるでしょうか。
10-6 当社には、ヨーロッパに現地子会社があります。当社社員が組合員である労働組合は、OECD多国籍企業行動指針に当社が違反したと、OECD日本連絡窓口に申立てしました。当社はこの手続に応じる義務がありますか。
コラム 労働争議に思うこと
あとがき─本書の由来
項目索引
監修者、執筆者略歴
奥付