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実務裁判例 借地借家契約における原状回復義務

発売日
2016年06月13日
出版社
日本加除出版
編著等
伊藤 秀城

同様の相談を受けたときの、確かな指針! 重要、最新130判例を厳選 【好評シリーズ最新刊】 ●事例により紛争要因が異なり、結果的に様々な内容の判例が示されてきた、原状回復義務、賃貸人修繕義務、必要費・有益費償還請求権、造作買取請求権に関する裁判例につき、義務・請求等を「認めた判例」「認めなかった判例」に分類した上でコンパクトに解説。 ●各判例の概要・要点・裁判例要旨が一目で確認できるよう、体裁を工夫。 ●目次では、探したい事例に関する判例を容易に検索できるよう、類型別、年月日順に要旨を掲載。

目次

表紙

はしがき

凡例

目次

第1 原状回復義務

1 賃借人に原状回復義務等を認めた事例

1 原状回復費用について,当事者双方に争いのない箇所及びクリーニング費用の半分を賃借人の負担とした事例

2 賃借人の原状回復義務について,契約上の約定のほかに,通常の使用方法を超えるような使用による損耗等を認めた事例

3「原状回復義務には本貸室の破損,汚損箇所の修理・取替はもちろん,家具等の設置及び通年経過による汚れ等による壁面,襖,床面,ジュウタン等の変色,窪み等の回復のための張替・取替等も含まれるものとする。」との特約が,公序良俗に反する無効なものとはいえないとした事例

4 一般に,店舗等,営業用建物の賃貸借の場合,壁紙や照明などの内装についても完全に撤去するいわゆるスケルトンの状態で賃貸借契約が締結されることが多く,本件も同様であるとして,壁紙,ボード,照明器具,フロントサッシ,手洗い台,作業台,スポットライトについて,原状回復義務の一環として撤去義務があるが,賃貸借契約前から使用されていたカウンターには撤去義務はないとした事例

5 【参考判例】 建物の通常の使用に伴う損傷の程度を超え,かつ,賃借人の責めに帰すべき事由による損傷があると認められた事例

6 賃借人が,建物内で1 日7,000 食もの多量の天ぷら等を製造しており,建物内の状況等から賃借人に原状回復費用の負担を認めた事例

7 本件賃貸借においては,本件賃借部分を賃借した時点の原状に回復する旨が合意されたものであり,事務所使用目的の企業間の契約であることや,壁,天井等の塗装替も賃借人の負担とすることが合意されたことも勘案すると,通常損耗も含めて,賃借した時点の原状に回復すべき義務を負ったものであるとし,加えて,工事等の諸費用として運搬交通費,現場管理費等の負担を賃借人に認めた事例

8 建物の通常の使用による損耗・汚損についても,賃借人が除去・復旧するとの特約は,経済的合理性を肯定でき,有効であるとし,原状回復費用額についても相当であるとした事例

9 賃貸借契約が居住を目的とする民間賃貸住宅を対象とするものではなく,経済的合理性を追求するオフィスビルを対象とすることに照らせば,同契約に添付された原状回復基準表に基づいて原状回復工事をするとの合意は,何ら社会的妥当性に欠けることはなく,公序良俗に反しないとした事例

10 賃貸借契約書記載の原状回復条項は,賃借人が原状回復に際して負担すべきことになる通常損耗の範囲を,客観的,具体的に認識することが可能であり,賃借人である株式会社としては,契約内容に相当程度の注意を払ったことを考えると,記載内容どおりの合意があったとした事例

11 原状回復工事について,賃貸人の支払った工事費用と賃借人の見積額を比較検討し,各工事について原状回復費用を判断した事例

12 賃借人に原状回復費用の一部を負担させるとともに,産業廃棄物処理費及び人件費としての諸経費を,賃貸人と賃借人の原状回復費用の負担割合に応じて負担すべきであるとした事例

13 賃貸借契約終了後,賃貸人が賃借人の紹介する者と新たな契約を締結すれば原状回復は不要であるにもかかわらず,賃貸人がそれを拒否し,賃借人に対して原状回復費用を請求することは信義則に反するとの賃借人の主張を認めなかった事例

14 賃借人が猫を飼ったため糞尿の臭気の除去が必要であり,かなり凝った造りの和室については,人為的な損傷のほか,猫にかじられたことによる大掛かりな工事も必要であるとして,賃借人に原状回復費用の負担を認めた事例

15 賃貸人が行った原状回復工事が,通常の原状回復工事の中に含まれるとは認めがたく,賃貸期間が3 年余りに過ぎないことから,原状回復費用を賃借人において認めた費用の3分の1とした事例

16 【参考判例】 賃貸借契約が終了し,建物に生じた通常損耗を含む損耗,破損等の原状回復費用として,敷金の一定の額を充てる償却特約が合理的な約定であるとした事例

17 庭付き一戸建て物件の賃貸借契約においては,庭の使用状況に照らして,庭及びその植栽等も建物と一体として賃貸借の目的物に含まれると解するのが当事者の合理的意思に合致するというべきであるから,賃貸物件の敷地,庭の植栽についても,信義則上,一定の善管注意義務を負うと解するのが相当であるとして,賃借人に庭の修復費用の一部を負担させた事例〘善管注意義務違反〙

18 賃借人が通常損耗につき原状回復義務を負担する旨の特約が,明確に合意されているとした事例

19 敷金のうち,一定額を基本清掃料の名目で控除する旨の特約が,信義則に反するものではなく,消費者契約法10条により無効であるとはいえないとした事例

20 賃借人の原状回復費用について,一部通常損耗を超えている部分を認定したほか,階段の踏み板や床などについて,賃借人に30パーセントの負担を認めた事例

2 賃借人に原状回復義務等を認めなかった事例

21 「賃借人は,本件室内の建具,壁,天井,床面その他本件貸室及びその関連する総てに対し,故意又は過失により損傷を与えているときは,別途にその損料を賃貸人に支払うものとする。」との特約にいう損傷には,賃借人による賃借物の通常の使用によって生ずる程度の損耗,汚損は含まれないものと解するのが相当であるなどとして,原判決を破棄し,原審に差し戻した事例

22 本件契約における保証金の償却は,建物の自然損耗の保証及び建物の修繕費用等の趣旨によるものと考えるのが相当であり,賃借人に原状回復費用のほかに保証金の償却を認めるのは,実質的に二重取りを許容することになるとして,原状回復費用の保証金による償却分に相当する額を無効とした事例

23 原状回復義務は負わないとの合意があったとした事例

24 「事務所内カーペットタイルの交換及び天井の塗装は賃貸人が行う。」との特約は,賃貸人が工事を行うことのみを意味するものではなく,その工事費用も賃貸人が負担するとの意味であるとした事例

25 本件賃貸借契約における原状回復とは,賃借人が設置した内装設備等を,賃借人の責任と負担において撤去すれば足り,旧店舗の内装に復元することまでは含まれないとした事例

26 原状回復義務の履行を求め,若しくは敷金の返還に際して,その控除を主張する賃貸人は,賃貸物件に損耗があり,それが経時的に発生した自然損耗に止まらないことを主張,立証しなければならないが,賃貸人の主張内容等は抽象的で,具体的な場所等を明示して指摘するものではなく,裏付けとなる証拠に欠けるとして,賃借人の原状回復義務を否定した事例

27 賃借人は工事負担区分表による原状回復義務は負うが,賃貸人と賃借人の間で,賃借人が退去時に原設計どおりの原状にまで回復する旨の合意はなかったとした事例

28 賃貸借契約解約時に,カーペット,建具,照明等の損傷又は修理代や室内のクリーニング,クロス交換代等は賃借人の負担とするとの特約は,賃借人が負担すべき費用の範囲内と項目を一般的に例示したものであるとして,一部を除き,賃借人に原状回復義務を認めなかった事例

29 借主は,契約終了の時は,諸設備を撤去し,原状に回復して明け渡す旨の特約は,通常損耗を含まないとした事例

30 「本契約終了と同時に賃借人は賃貸借室に設置した造作その他の設備一切及び賃借人所有の物件を自己の費用をもって収去するとともに,賃貸借室及びその附属設備,造作の破損箇所を自己の費用をもって修理し,賃貸借室を原状に復して賃貸人に引き渡すものとする。」との特約は,リフォームの費用を賃借人が負担するとの合意とは認められず,賃貸人が行ったリフォーム工事の内容は,破損箇所の修理ではなく,新たに賃貸するためのリフォームであるとし,賃借人が負担すべき費用は含まれていないとした事例

31 「賃借人は賃貸借物件の返還に際し,同物件に附加した造作を収去し,故意又は過失により毀損した箇所はこれを修理したうえ,原状に復して明け渡さなければならない。但し,賃貸人が原状回復にかえ,造作物の残置を認めた場合には,その限りにあらず。」との特約は,附加した造作物の収去と毀損箇所の修理が定められているにすぎないとし,賃貸人が原状回復を要しない状態で本件建物を他に売却してしまったことを理由に,賃借人は原状回復義務を免除されたもので,原状回復費用相当額の支払義務はないとした事例

32 原状回復条項のうち,汚損・破損について敷金から控除される金額の算定を賃貸人側に一任する旨の条項及び清掃の要不要の判断等を賃貸人側に一任する旨の条項は,賃貸人に著しく有利であるなどを理由に,当該条項は公序良俗に反し,効力を有しないとし,ハウスクリーニング代は賃借人の負担とする特約も社会通念上相当と認められる額の限度でのみ賃借人の負担を認めた事例

33 「本物件の部分的な小修繕及び故意・過失を問わず,賃借人が本物件に与えた汚損,破損,紛失等の修繕・補充については賃借人の負担とする。」との特約は,信義則に照らし,経年劣化による自然損耗や通常の使用による損耗等の修繕については,賃借人に負担させるのは相当でなく,これに反する上記条項は,その範囲で無効であるとした事例

34 建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは,賃借人に予期しない特別の負担を課することになるから,賃借人に同義務が認められるためには,少なくとも,賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか,仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には,賃貸人が口頭により説明し,賃借人がその旨を明確に認識し,それを合意の内容としたものと認められるなど,その旨の特約が明確に合意されていることが必要である。

35 本件賃貸借契約における原状回復とは,いわゆるスケルトン状態に戻すことではなく,事務所仕様に戻すことであるとした事例

36 賃貸借契約書には,原状回復工事の内容が例示されているが,それらの物の損耗の程度が通常損耗の範囲内にある場合にもそれらの工事をしなければならないことを明記しているものとはいえないから,同契約の規定によって,賃借人が本件貸室の使用によって生ずる通常損耗について原状回復義務を負うことが明確に合意されたものとはいえないとした事例

37 賃貸借契約書記載の原状回復条項は,通常損耗分についてまで賃借人に原状回復義務を認めたものではないとした事例

38 原状回復費用及びハウスクリーニング費用について,賃借人が通常損耗の補修をするとの内容が,いずれも条項に具体的に明記されておらず,また,口頭で当該条項の内容を明確に説明したとは認められないとした事例

39 原状回復特約における条項等は,通常損耗補修特約が具体的に明記されているものとはいえず,たばこのヤニによる汚損も通常損耗の範囲を超えていないとした事例

40 原状回復費用及びハウスクリーニング費用等は賃借人の負担とするとの特約は,いずれも通常損耗補修について合意したとは認められないとした事例

41 賃貸借契約書には,原状回復合意の対象となる物件は明示されておらず,賃借人が故意又は過失によって,賃借目的物を破損し,汚損したことの認定は著しく困難であり,仮に,損害があるとしてもその具体的な額までも証明することは著しく困難であるとして,賃借人の認めた原状回復費用のほかは,賃貸人の主張を認めなかった事例

42 原状回復について,通常損耗補修特約が具体的に明記されているとは到底認められないから,通常損耗補修特約が明確に合意されていたとの事実は認められないとした事例

43 ハウスクリーニング費用及びエアコン取替費用について,賃借人の負担を認めなかった事例

44 本件賃貸借契約に定められたハウスクリーニングを行う義務は,建物明渡しの際も,専門業者に行わせることを特に義務付けている場合等を除き,賃借人が使用中に行う清掃と同程度のものがなされていれば足りるとした事例

45 賃借人が特別損耗を除去するための補修を行った結果,通常損耗をも回復することとなる場合,通常損耗による減価分を賃貸人に請求できるとして,減価分を90 パーセントと認めた事例

46 オフィスビルの賃貸借契約においても,賃借人に通常損耗についての原状回復義務を負わせるためには,通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか,賃貸人がそのことについて口頭で説明し,賃借人がその旨を明確に認識し,それを合意の内容としたものと認められるなど,その旨の特約が明確に合意されていることが必要であると解すべきであり,このことは居住用の建物と異ならないとし,特約の成立を認めなかった事例

47 通常損耗を超える損耗は認められず,したがって,賃借人に原状回復は必要でないとする一方,賃借人のしたクロス張替の補修は,事務管理費用として賃貸人に請求できるとした事例

第2 賃貸人の修繕義務

1 賃貸人に修繕義務等を認めた事例や賃借人の主張を認めた事例

(1) 借地契約

(2) 借家契約

2 賃貸人に修繕義務等を認めなかった事例や賃借人の主張を認めなかった事例

(1) 借地契約

(2) 借家契約

第3 必要費償還請求権

1 賃借人に必要費償還請求を認めた事例等

82 賃借人が,賃借家屋について必要費又は有益費を支出したときは,現時の所有者に対して留置権を有する。

83 賃料が低額であっても,賃借人が家屋の雨漏りを修理した場合には,賃貸人は家屋自体の維持保存のために必要な費用として,賃借人に償還すべきであるとした事例

84 賃借人が賃借建物について行った,井戸の修理,都市ガス設備の設置及び浴室の設置については,支出した費用を必要費として認めなかったが,居間等の根太,土台,床板等の取替え,雨漏りの補修,積雪による建物倒壊を防ぐ梁の取替え等の補強工事については,必要費として,支出費用の全額あるいは2 分の1 程度等を認めた事例

85 賃借人が賃借建物に加えた工作は,いずれも天井の落下,建物の傾斜あるいは梁の折損等を防止するために,老朽化した柱や梁に鉄柱,鉄板,丸鋼等を添えて補強したものであって,建物の原状を維持するための必要費であり,造作模様替えの制限に関する特約には違反しないとした事例

86 賃借人が床下の工事等を行ったのは,いずれも,建物の原状を維持,回復し,又は通常の使用収益に適する状態に置くために支出された費用であるとして,賃借人に必要費償還請求を認めた事例〔裁判例53・114〕

87 賃借人が行った建物の壁又は間仕切りの一部を撤去して柱を設置する工事及び天井に断熱材を設置する工事は,賃借人が診療所としての使用上の利便性向上を目的とした工事であり,必要費としては認められないが,水道管破裂に伴う工事は,建物の原状を維持し,建物を通常の使用に適する状態に置くための不可欠な工事であるとして,必要費償還請求を認めた事例

2 賃借人に必要費償還請求を認めなかった事例等

88 6年9か月の建物賃貸借期間中に,賃借人が支出した修繕費用が家賃額をはるかに超過しているとして,必要費とは認められないとした事例

89 【参考判例】賃借人が支出した必要費及び有益費は,その後に賃貸人の地位を承継した者が当然承継すべきものではないとした事例

90 賃借人が賃貸人に対し,何らの予告もせず,相当長期にわたって勝手に修繕を繰り返し,しかもその間,修繕費用について何らの報告をしない場合は,もはや賃貸人に修繕義務はなく,賃借人がその修繕義務を負担する旨の特約が結ばれていたものと推認するのを相当とするとした事例

91 【参考判例】買主の残代金不払により,約定に基づき建物の売買契約が解除されたが,その後も買主が不法に建物を占有し,その間に,建物について支出した費用を理由に買主が建物の留置権を主張することは,民法295 条2 項の類推適用により許されないとした事例

92 建物の賃貸借契約が解除によって終了し,賃借人が当該建物を不法に占有している場合は,その間に建物について修繕費を支出したとしても,賃借人は修繕費償還請求権をもって建物について留置権を行使できないとした事例

93 【参考判例】 賃貸人と賃借人との間で,賃借人が賃借建物に関して支出する必要費,有益費の償還請求権を予め放棄する特約は,借家法6条(借地借家法30条)に抵触しない。

94 賃借人が行った建物の改装工事は,むしろ施設を経営するために行った改良工事であり,支出した費用は必要費に該当するとはいえず,仮に該当するとしても,特約により賃貸人に請求しない旨の合意があるとして,賃借人の必要費償還請求を認めなかった事例

95 賃借人が購入した押入れの床等を補強するための板の費用は,各押入れを通常の用法に適する状態において保存するために支出された費用,すなわち必要費であるとは認められないとした事例〔裁判例115〕

96 「本件建物につき,現状のまま賃貸するものとする。但し,賃借人が必要最小限の修理を自らの費用で行うことに異議を述べない。その場合の費用は賃借人の負担とする。」との和解条項は,賃貸人の修繕義務を免除するのみならず,賃借人が無制限に建物に手を入れることを制限する意味で,賃借人が必要最小限の修繕を自らの費用で行うことを認める旨の規定であるとした事例

第4 有益費償還請求権

1 賃借人に有益費償還請求を認めた事例等

97 賃借人が,賃借建物の隅まで引いてあった水道を,店舗の内部にまで上水道を設置させたことにつき,有益費償還請求を認めた事例

98 【参考判例】賃借人が有益費を支出した後に賃貸人が交替したときは,特段の事情がない限り,新賃貸人において旧賃貸人の権利義務一切を承継し,有益費償還義務者の地位も承継する。

99 建物に対する占有は,適法な転借権に基づいて開始されたものであって,有益費として認められるガレージ建築費用も,建物に対する抵当権の実行前に支出されたものであるとして,有益費の償還を受けるまで建物についての留置権を認めた事例

100 一時使用のための土地賃貸借において,賃借人が支出した上水道引き込み工事費用について費用償還請求権を認め,賃借人は,賃貸人が当該費用を償還するまで,留置権に基づき建物を占有する権限があるとした事例

101 【参考判例】建物の使用貸借中に生じた有益費償還請求権に基づき,賃借人に建物の留置権を認めた事例

102 原状回復工事に伴う賃借人の追加工事が有益費として認められた事例

103 有益費償還請求権を自働債権とし,未払賃料債務を受働債権とする相殺を認めた事例

104 有益費償還請求又は造作買取請求をした場合の買取代金額は,賃貸借契約終了時における残存価値であり,対象設備の残存価値は,その設置工事に要した費用から,法定耐用年数に応じた減価分控除した上,これらの工事が,一般的に賃貸する場合には過剰な質となっている面があるとして,さらに40パーセントを減価した価額とするのが相当であるとした事例

2 賃借人に有益費償還請求を認めなかった事例等

(1) 借地契約

(2) 借家契約

第5 造作買取請求権

1 賃借人に造作買取請求を認めた事例等

117 賃借人の債務不履行によって賃貸借契約が終了した場合にも,借家法5条(借地借家法33条)の造作買取請求権の成立を認め,これを放棄する旨の特約は無効であるとした事例

118 営業用店舗に使用する目的で附加した物件であっても,営業用の設備として通用性を具えているものであれば,造作に含まれるとした事例

119 レストラン営業を使用目的とする賃借建物に附加された調理台,レンジ,食器棚,空調,ボイラー,ダクト等設備一式及び電気などの引込設備等が造作に当たるとした事例

2 賃借人に造作買取請求を認めなかった事例等

120 借家法5条(借地借家法33条)は,建物の賃貸借が賃貸期間の満了等,通常の事由により消滅した場合について規定したものであって,賃借人の債務不履行に基づき賃貸借契約が解除された場合には,その適用はないと解すべきことは,誠実な借家人の保護を主たる目的とする同条の立法趣旨に徴し,疑いを容れない。

121 【参考判例】借家法5条(借地借家法33条)にいわゆる造作とは,建物に附加された物件で,賃借人の所有に属し,かつ,建物の使用に客観的便益を与えるものをいい,賃借人がその建物を特殊の目的に使用するため,特に附加した設備を含まないと解すべきである。

122 借家法5条(借地借家法33条)は建物の賃貸借が賃貸期間の満了等通常の事由によって消滅した場合について規定したものであって,賃借人の債務不履行ないしその背信行為のため賃貸借が解除されたごとき場合には,その適用を見ないものと解すべきである。

123 借家法5条(借地借家法33条)の造作と認めるためには,単にその設備が一般的に造作と認められるものであるというだけでは足りず,それが本件家屋用の設備として客観的に利便をもたらすものであるかどうかをも判定しなければならないとして原審を破棄し,差し戻した事例

124 本件賃貸借契約は,賃借人の債務不履行によって解除されたのであるから,賃借人に何らの過失がない場合に限って賃借人を保護する規定である借家法5条(借地借家法33条)の造作買取請求権はその前提を欠き,本件建物について留置権を行使することはできないとした事例

125 本件造作設備は,飲食店用設備として使用する目的で行ったものであり,建物の使用に客観的な便益を与えるものではなく,借家法5条(借地借家法33条)に定める造作買取請求権の対象には含まれないとし,賃借人が賃貸人に対して,建物内に施した造作設備部分の買取りを請求しないとの約定は有効であるとした事例

126 焼肉店としての店舗の内装工事やカーペット,トイレ,自動ドア等の取付け,空調設備等の設置が,造作として認められなかった事例

127 賃貸借契約が,賃借人の賃料不払により解除されたものであるとして,賃借人の造作買取請求権を認めなかった事例

128 「店舗は現状のまま使用とするものとし,店舗又は造作の模様替の必要を生じた場合はあらかじめ原告の書面による許可を得て行い,明渡しの際は自費をもって原形に復すかあるいは無償にて残置するものとする。」との契約条項について,「本件賃貸借契約には借地借家法が適用され,同法施行前と異なって造作買取請求権を放棄する内容の本件条項の効力に疑問を生ずる余地がないから,本件条項は,建物の使用に客観的便益を与える造作を無償にて残置することができるにとどまり,建物の使用に客観的便益を与えない付属物の無償による残置を認めない内容のものとして有効である。」とした事例

129 賃借人が設置したエアコンは,造作買取請求権の対象にはならないとした事例

130 賃借人は,本来,賃貸借契約終了後,約定に基づいて,原状回復(スケルトン)工事をして建物を明け渡すべきであり,造作についても放棄する旨が定められているとして,賃借人が原状回復工事をせず,造作等について何ら回収しなかったことは,造作等の所有権を放棄したものであるとした事例

参考 原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)(抜粋)

判例索引

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奥付

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