台湾の会社経理人にはどのような職権および義務があるか

国際取引・海外進出

 日本企業である当社は台湾において子会社Aを設立し、台湾籍の甲を経理人として採用しました。A社は甲との契約において、甲がA社のために署名する権限を有すること、ただし経理人の権限はA社の不動産の売却には及ばないことを規定しました。

 下記の場合、A社は甲と乙が締結した売買契約が効力を生じないと主張できるのでしょうか。

事例①
甲はA社の董事の同意を得ずに、A社経理人の名義で、甲に会社不動産売却の権限がないことを知らない善意の第三者である乙と売買契約を締結し、A社の不動産を乙に売却した。A社は、甲との契約においてA社の不動産売却の権限を甲に付与していないことを理由に、甲と乙が締結した売買契約がA社に対して効力を生じないと主張することができるか。

事例②
乙の不動産売買契約締結時に、甲が署名において経理人の肩書きを示し、かつA社のために署名する意思を表示していたが、A社の社印を押印していなかった。A社は、甲と乙が締結した売買契約がA社に対して効力を生じないことを主張することができるか。

 各事例についての回答は下記のとおりです。

事例①
台湾の会社法の規定によれば、会社は、経理人の職権に設けた制限について善意の第三者に対抗することはできません。乙は甲に会社不動産売却の権限がないことを知らないため、A社は、甲にA社の不動産売却の権限を付与していないことを理由に、甲と乙が締結した売買契約がA社に対して効力を生じないと主張することはできません。ただし、A社の不動産の売却は甲の権限の範囲を超えており、A社は、経理人の権限を踰越した甲の行為について甲に損害賠償を請求することができます。

事例②
経理人は、定款または契約の授権の範囲内において会社を代理して法律行為をなす権限を有します。契約締結時に甲がA社のために署名する意思を表示している以上、A社は、甲が署名において経理人の肩書きを示しただけで、A社の社印を押印していないことを理由に、甲と乙が締結した売買契約がA社に対して効力を生じないと主張することはできません。ただし、こちらも事例①と同様、A社の不動産の売却は甲の権限の範囲を超えているため、A社は、経理人の権限を踰越した甲の行為について甲に損害賠償を請求することができます。

解説

目次

  1. 経理人の職権
  2. 経理人の忠実義務および善管注意義務
  3. 経理人の競業避止義務
  4. 決議の遵守義務

 ※以下、本稿において引用されている法規は、特に規定しないかぎり台湾の法規を指すものとします。

 会社法(中国語名:公司法)では、会社の経理人の職権および義務について以下の通り規定されています。

経理人の職権

 会社法31条の規定によれば、経理人の職権は定款および会社と経理人が締結する契約によって定められます。会社が授権する範囲内において、経理人は会社のために事務を管理し、署名し、法律行為をなす権限を有します。会社は定款または契約において経理人の職権を制限することができますが、会社法36条の規定に基づき、会社はその定款または契約において経理人の職権に設けた制限について善意の第三者に対抗することはできません
 よって、設例の事例①において、A社は、契約においてA社の不動産売却の権限を甲に付与していないことを理由に、甲と乙が締結した売買契約がA社に対して効力を生じないことを主張できません。
 また、経理人が会社を代理して法律行為を行う場合の方式について、書面契約を締結する場合には、経理人は「◯◯会社経理人××」と署名するだけで会社を代理することになり、別途、社印を押印する必要はありません 1。よって、設例の事例②の場合では、A社は、甲が署名において経理人の肩書きを示したのみでA社の社印が押印されていないことを理由に、甲と乙が締結した売買契約がA社に対して効力を生じないことを主張することはできません。

経理人の忠実義務および善管注意義務

 会社法8条の規定によれば、合同会社および株式会社では董事が会社責任者となりますが、その業務執行の範囲内において経理人も会社責任者となります。会社責任者の責任については、主に会社法23条に規定されています。当該規定によれば、会社責任者は、業務を忠実に執行する義務を負い、かつ善管注意義務を負い、この義務に違反して会社に損害を与えた場合、会社に対して損害賠償責任を負わなければなりません。また、会社責任者が会社の業務を執行する際に、法令違反により他人に損害を与えた場合、その他人に対し会社と連帯して損害賠償責任を負わなければなりません。よって、経理人は、その業務執行の範囲内において会社に対し忠実義務および善管注意義務を負うほか、経理人が会社の業務を執行する際に法令違反により他人に損害を与えた場合、その他人に対し会社と連帯して損害賠償責任を負わなければなりません。

経理人の競業避止義務

 会社法32条によれば、合同会社においては全株主の過半数が同意しないかぎり、また株式会社においては董事会において董事の過半数が出席し、出席董事の過半数の同意による決議を経ないかぎり、経理人はその他営利事業の経理人を兼任することはできず、また、同種の業務を自ら行いまたは他人のために行うことはできません。経理人が競業避止義務に違反した場合、会社は民法の規定により、経理人に対しその行為により得た利益をもって損害賠償をするよう請求することができます。

決議の遵守義務

 会社法33条によれば、経理人は董事の決定もしくは株主総会、董事会の決議を変更し、またはその所定の権限を踰越することはできません。また、会社法34条には経理人が法令、定款または同条の規定に違反し会社に損害を与えた場合、会社に対して損害賠償責任を負わなければならない旨が定められています。


  1. 支配人が契約書において会社名を示さず、自己の氏名のみを署名した場合の会社に対する効力は、実務上、一般的な社会通念に従って当該支配人が会社を代表すると認めるに足りる場合には、会社名または支配人の肩書きが示されていなくても会社に対して効力が生じると解されています。 ↩︎

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