台湾の会社における会社経理人(支配人)の資格および任命手続
国際取引・海外進出 日本企業である当社は、台湾において台湾企業Aと共同出資で、株式会社Bを設立し、医薬品の製造に従事しています。当社から2名の董事が選任され、A社からも2名の董事が選任されています。また、B社の定款において、経理人を設置し会社事務を管理させることができると定められています。
A社は、医薬品製造の専門家である甲をB社の経理人として推挙しました。当社は、A社の人選を信頼していたため、董事会では甲を経理人として選任することに同意しましたが、その後、甲が以前、台湾で詐欺罪を犯し、有期懲役1年以上の宣告を受け、服役していたという事実を知りました。甲が刑期を終えてから1年しか経っていません。当社は、甲がB社の経理人としてふさわしくないと考えているのですが、どのようにして甲を解任すべきでしょうか。また、仮に甲が刑期を終えてから3年経過していた場合との違いはありますか。
台湾の会社法29条の規定によると、株式会社の場合、経理人の選任および解任は、董事会が、董事の過半数の出席を得て出席董事の過半数による同意をもってなされた決議により行わなければなりません。したがって、本件の場合、A社の選任した2名の董事のうち、少なくとも1名の董事の同意を得なければ、質問者の会社は甲を解任することができません。
しかし、甲は以前、台湾で詐欺罪を犯し、有期懲役1年以上の宣告を受け、服役した事実があり、刑期を終えてから2年未満です。この場合は同法30条の経理人の解任事由に該当します。したがって、B社は董事会の決議を経るまでもなく、甲を解任しなければなりません。台湾の会社登記主管機関も、このような事実を発見したときは、甲の経理人登記を抹消しなければなりません。
これに対し、甲が刑期を終えてから3年経っている場合、董事の過半数の出席を得て出席董事の過半数による同意をもってなされたB社の董事会での決議によらなければ甲を解任できません。
解説
※以下、本稿において引用されている法規は、特に規定しないかぎり台湾の法規を指すものとします。
経理人の意義
経理人とは、会社から授権され、会社のために事務を管理し、署名し、法律行為をなす者を指し、日本における商法上の「支配人」に相当します。会社法(中国語名:公司法)の規定によると、会社の経営において経理人を設置することができますが、経理人を設置する場合は、定款に会社が経理人を設置する旨を定めなければなりません。
経理人の選任方法に関して、会社法29条の規定によると、合同会社の場合は、全株主の過半数の同意が必要であり、株式会社の場合は、董事会が董事の過半数の出席を得て出席董事の過半数による同意をもってなされた決議により行わなければなりません。経理人の解任、および経理人の報酬の決定方法についても、上記と同様です。
会社の種類 | 経理人の選任、解任、報酬の決定方法 |
---|---|
合同会社 | 全株主の過半数の同意 |
株式会社 | 董事会の決議 (董事の過半数の出席を得て出席董事の過半数による同意をもってなされたもの) |
経理人の不適格事由
会社法30条の規定によれば、以下のいずれかの事由に該当する者は、経理人となることができず、経理人となった後に以下の事由が生じた場合は、会社は解任しなければなりません。
- 「組織犯罪条例」に規定されている罪を犯し、有罪判決が確定し、刑期を終えてから5年未満の者
- 詐欺、背任、横領の罪を犯し、有期懲役1年以上の宣告を受け、刑期を終えてから2年未満の者
- 公務に就いて公費を使い込み、有罪判決が確定し、刑期を終えてから2年未満の者
- 破産宣告を受け、未だ復権していない者
- 手形を使用し、取引停止となり、未だ復権していない者
- 行為無能力者または制限行為能力者
- 輔助の宣告を受け、未だ取り消されていない者
経理人が上記7つの事由のうち、いずれかに該当する場合には、会社はその経理人を解任しなければならず、台湾の会社登記主管機関も、職権によりその経理人の登記を抹消しなければなりません。
よって、設例において、台湾で詐欺罪を犯し、有期懲役1年以上の宣告を受け、服役したことがある甲が、刑期を終えてから1年しか経っていない場合は、会社法30条の経理人の不適格事由に該当するため、董事会の決議を経るまでもなく、甲を解任しなければなりません。これに対し、甲が刑期を終えてから3年経っている場合、甲を解任するには、董事の過半数の出席を得て出席董事の過半数による同意をもってなされたB社の董事会での決議により行わなければなりません。

弁護士法人 黒田法律事務所
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