特許無効審判の概要と無効理由

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 特許無効審判とはどのような手続ですか。また、どういった理由に基づいて請求することができるのでしょうか。

 特許無効審判とは、特許を無効にすることを目的とする審判です。主張することのできる無効理由には、公益的無効理由のほか、権利帰属をめぐる無効理由や後発的無効理由も含まれ、特許異議申立てと比較して、より多様の瑕疵を主張することができます。

解説

目次

  1. 特許無効審判の概要
  2. 特許無効審判の利用局面
  3. 無効理由
    1. 公益的無効理由
    2. 権利帰属に関する無効理由
    3. 後発的無効理由
  4. 審判請求書における無効理由の記載

特許無効審判の概要

 特許無効審判とは、特許を無効にすることを目的とする審判です(特許法123条1項)。運営主体は裁判所ではなく、特許庁が行う行政審判です。

 特許無効審判は、その目的が特許を無効にすることにあることに加え、審理構造として当事者対立構造を採用し、請求人適格を限定するなど、準司法的手続によって審理審判がなされるようになっており、紛争解決手続としての性質を色濃く有しています。

無効審判

出典:特許庁審判部「審判制度の概要と運用」(平成30年度)

特許無効審判の利用局面

 特許無効審判は、実務的には、特許権侵害の主張を受け、または受ける可能性が高い者が、そういった主張を回避するために用いる積極的な攻撃手段として位置付けられます。

 同種の制度として特許異議の申立てがありますが、特許異議申立てがダミー(紛争とは関係のない第三者)による申立ても可能な制度となっており、申立人は原則として審理に関与しないのに対し(参照:「特許異議の申立てとは」)、特許無効審判は、当事者対立構造で審理が行われるところが特徴です。そのため、特許権侵害等による対立が顕在化した局面で、正面から権利者と対峙して特許を無効化することを目指して利用される制度といえます。

 特許無効審判の審理や審決については、「特許無効審判の審理と審決」を、特許異議申立てとの使い分けについては「情報提供後に特許査定がなされた場合の対応(特許異議と特許無効審判)」を、それぞれ参照ください。

無効理由

 特許無効審判において主張することのできる無効理由は特許法123条1項各号に列挙されており、大きく、①公益的無効理由、②権利帰属に関する無効理由、③後発的無効理由に分けることができます。内容的には、一部の例外を除き、審査段階における拒絶理由を広くカバーしています。

公益的無効理由

内容 適用条文
権利享有違反 権利の享有が認められていない外国人に特許がされた場合 123条1項2号、25条
特許要件違反 産業上の利用可能性、新規性、進歩性、拡大先願、先願、公序良俗といった特許要件を欠く場合 123条1項2号、29条、29条の2、32条、39条1項ないし4項
記載要件違反 実施可能要件、サポート要件、明確性要件、簡潔性要件といった記載要件を欠く場合 123条1項4号、36条4項1号、同条6項各号(4号除く)
補正要件違反(新規事項違反(外国語書面出願を除く)) 違法な補正がなされた場合 123条1項1号、17条の2第3項
条約違反 条約に違反して特許された場合 123条1項3号
原文新規事項 外国語書面出願において、原文の範囲にない記載がある場合 123条1項5号
訂正要件違反 違法な訂正がされた場合 123条1項8号、126条1項ただし書、同条5項ないし7項、120条の5第2項ただし書、134条の2第1項ただし書

権利帰属に関する無効理由

内容 適用条文
冒認出願 冒認出願にかかる特許である場合 123条1項6号
共同出願違反 冒認出願にかかる特許である場合 123条1項2号、38条

(※)特許法74条1項の規定による請求に基づき、特許権の移転の登録があった時は無効理由から除かれる。

後発的無効理由

内容 適用条文
権利享有能力喪失 特許がされた後に、特許権者が権利を享有することができなくなった場合 123条1項7号、25条
後発的条約違反 特許がされた後に、条約に違反することとなった場合 123条1項7号

審判請求書における無効理由の記載

 特許無効審判の審判請求書においては、請求の理由に無効理由を記載するときは、「特許を無効にする根拠となる事実を具体的に特定し、かつ、立証を要する事実ごとに証拠との関係を記載したものでなければならない」と規定されています(特許法131条2項)。この規定は平成15年改正で加えられたものですが、無効審判についてのみこのような規定が置かれたのは、かつて、請求の理由の記載欄に、「請求の理由は後日主張する。」とだけ書かれた特許無効審判請求書がしばしば提出され、これを防止する必要があったからです。

 現行の規定のもとでは、請求の理由として「後日主張する」とだけ書かれた審判請求書が提出された場合、上述の特許法131条2項によって違法とされますが、これをきちんとした無効理由に補正するのは特許法131条の2第1項が禁じる要旨変更補正にあたり、かつ、同項各号に規定された例外が適用される余地もありません。そのため、このような審判請求書は、特許法133条3項によって却下されることとなります。

無効審判

出典:特許庁審判部「審判制度の概要と運用」(平成30年度)
「特許無効審判」に関する参考記事:
  1. 特許無効審判の概要と無効理由(当記事)
  2. 特許無効審判の請求人適格
  3. 特許無効審判の審理と審決

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