破産前に商品等の資産を債権者へ分配してもよいか(否認権の制度)

事業再生・倒産
阪口 亮弁護士 弁護士法人大江橋法律事務所

 破産前に商品等の資産を債権者へ分配(売却や無償での譲渡、代物弁済等)しても問題ないでしょうか。

 破産手続開始申立前後に、債権者に対して商品等の資産を廉価で売却した場合や、無償で譲渡した場合、また代物弁済を行った場合には、破産法上、否認の対象となる可能性があります。

 これに対し、破産手続開始申立前後に財産を処分した場合であっても、資産等を適正対価で譲渡した場合や、当該債権者が商品等の資産に担保権を有している場合で、被担保債権の弁済期が到来し、かつ被担保債権額と目的物の価額の均衡がとれている場合などは、否認の対象となりません。

 参照:
 「会社(法人)の破産申請の概要
 「連帯保証人が自己破産前の財産処分をする際に留意しなければいけない点

解説

目次

  1. 否認権の制度とは
  2. 否認権の類型
    1. 詐害行為になる場合
    2. 偏頗行為になる場合
    3. 否認の対象とならない場合
  3. 設例について
  4. 最後に

否認権の制度とは

 破産会社が支払能力を欠いているとき(簡単にいえば、弁済期にある債務を一般的かつ継続的に弁済することができない状態のことをいい、このような状態を破産法上、「支払不能」といいます(破産法2条11項))に、財産を第三者に廉価で売却し、あるいは無償で贈与する行為を自由に認めると、他の債権者に対する責任財産(債権者の引当てとなる財産です)を減少させ、債権者全体の利益が害される結果となります。

 また、支払能力が不足しているときに、特定の債権者に対してのみ債務者が弁済をなすことを認めると、他の債権者との平等を害する結果となります。

 前者のように、債権者全体に対する責任財産を減少させる行為を「詐害行為」と呼び、後者のように、債権者平等に反する行為を「偏頗行為」と呼びます。これらの行為の効力を否定し、いったん責任財産から失われた財産を破産財団(破産債権者への配当原資となる財団)に回復し、破産債権者に対する公平な配当を可能にするための制度が「否認権」です。

 破産手続が開始すれば、裁判所から選任された破産管財人が、一定の要件の下、詐害行為や偏頗行為を否認する権限(否認権)を有することとなります。したがって、破産管財人は、詐害行為や偏頗行為があった場合は、否認権を行使するなどして、当該行為によって破産財団から逸出した財産を回復させることになります。

否認権の類型

否認の対象 行為の性質 主な行為類型 受益者の主観
詐害行為 破産会社の責任財産を減少させる行為 破産会社が破産債権者を害することを知ってした行為 破産債権者を害することを知っていた
支払停止または破産手続開始申立ての後にした破産債権者を害する行為 支払停止または破産手続申立てがあったことおよび破産債権者を害することを知っていた
支払停止等があった後またはその前6か月以内にした無償行為およびそれと同視すべき有償行為 破産会社および受益者のいずれの主観も問わない
偏頗行為 破産債権者間の平等を害する行為 破産会社が支払不能になった後または破産手続開始申立てがあった後にした、既存の債務に対する弁済等の行為 支払不能になったことまたは破産手続開始申立てがあったことを知っていた
破産会社の義務に属せず、またはその時期が義務に属しない行為であり、かつ支払不能前30日以内にした、既存の債務に対する弁済等の行為 他の破産債権者を害することを知っていた

詐害行為になる場合

 否認の対象となる詐害行為の主な類型は、以下の3つがあります。

  1つ目は、破産会社が破産債権者を害することを知ってした行為であり、かつ、その受益者が、行為の当時に破産債権者を害することを知っていた場合です(破産法160条1項1号)。

 たとえば、破産会社が、債務超過状態にあり、財産を廉価で処分すれば債権者の引当て財産が減少することを知りながら、財産処分行為を行った場合などがあげられます。

 2つ目は、破産会社が支払停止または破産手続開始の申立て(「支払停止等」)後にした破産債権者を害する行為であり、かつ、その受益者が行為の当時に支払停止等があったことおよび破産債権者を害することを知っていた場合です(破産法160条1項2号)。この場合、破産会社が破産債権者を害することを知っている必要はありません。

 たとえば、破産会社が、債権者に対して弁済の停止と事業の廃止を通知するなど、支払不能であることを外部に表示した後に、廉価で財産を処分した場合などがあげられます。

 3つ目は、破産会社に支払停止等があった後またはその前6か月以内にした無償行為およびこれと同視すべき有償行為です(破産法160条3項)。

 この場合は、詐害性が強いことなどから、破産会社および受益者のいずれの主観も問わず、否認権の行使が認められることとなります。

偏頗行為になる場合

 偏頗行為の否認の対象は、既存の債務についてされた担保の供与または債務消滅に関する行為(弁済や相殺、代物弁済など)です(破産法162条1項)。 具体的な類型としては以下の2つがあります。

 1つ目は、破産会社が支払不能になった後または破産手続開始申立てがあった後の偏頗行為であり(破産法162条1項柱書本文)、かつ、偏頗行為の受益者(債権者)が、行為の当時にそのことを知っていた場合です(破産法162条1項1号イ、ロ)。

 2つ目は、破産会社の義務に属せず、またはその時期が義務に属しない行為であって、それが支払不能前30日以内の行為であり、かつ、偏頗行為の受益者(債権者)が、行為の当時に他の債権者を害することを知っていた場合です(破産法162条1項2号)。

 この場合を「非義務行為の否認」といいますが、たとえば、支払不能前30日以内に、弁済期が到来していない債務について弁済や代物弁済を行うような場合があげられます。

否認の対象とならない場合

 次の2つの場合等は、否認権制度の趣旨に反しないため、否認権の対象とはなりません。  

(1)破産会社の責任財産が減少しない場合

 たとえば、破産会社が、商品を適正な価格で売却する行為は、商品が同価値の現金に変わるだけであり、責任財産は減少しないため、否認権の対象とはなりません。
 ただし、売却代金を隠匿したり、他の者に贈与するなどの意思をもってした場合は、否認権の対象となります(破産法161条1項)。

(2)破産債権者間の平等を害しない場合

 たとえば、破産会社の商品等には、所有権留保が設定されていることがありますが、破産法上、特定の財産に設定されている担保権(抵当権や質権、所有権留保などを指し、これらは破産法上「別除権」と呼ばれます)は、破産手続によらないでその権利を実行し、満足を受けることが保証されています(破産法2条、65条)。

 このことを前提にすると、破産会社が、破産手続開始前に担保権の目的物を担保権者に代物弁済した場合でも、被担保債権の弁済期が到来し、かつ、目的物の価額が被担保債権額を超えない限り、破産会社の行為は破産債権者にとって有害とはいえず、否認権の対象とはなりません。たとえ代物弁済行為を否認権の対象とし、目的物を破産財団に取り戻したところで、当該財産については担保権者が別除権を行使できることになり、破産債権者に対する責任財産にはならないからです。

 ただし、目的物の価額が被担保債権額を超過している場合には、その超過部分については、代物弁済行為は有害性を持つため、否認権の対象となり得ることには注意が必要です(破産法160条2項)。

設例について

 破産会社が、支払不能や支払停止等の前後に商品等の資産を債権者へ廉価で売却した場合や、無償で譲渡した場合、詐害行為に該当することを理由に、否認権の対象となる可能性があります。また、特定の債権者に対する代物弁済であれば、支払不能前30日以内の非義務行為にあたる場合や支払不能ないし破産手続開始申立後の場合には偏頗行為に該当することを理由に、またこれらにあたらない場合でも代物弁済した目的物の価額が債務の額を超えている場合は超過部分について詐害行為を理由に、否認権の対象となる可能性があるため、問題があります。

 もっとも、従前どおり取引を継続している中で、商品等を適正対価で売却することは問題ありません。また、特定の債権者が商品等の資産に担保権を有している場合で、被担保債権の弁済期が到来し、かつ被担保債権額と目的物の価額の均衡がとれている場合も、否認権の対象になりません。
 つまり、上記詐害行為または偏頗行為の類型に該当し、否認権の対象になり得るかという視点が非常に重要となります。

最後に

 会社の資金繰りが悪化し、破産等の法的手続を検討し始めた段階では、すでに支払不能等に陥っている可能性があるため、財産を処分する際は否認権のことを常に意識する必要があり、その前提として、否認権の制度をよく理解しておくことが肝要です。

この実務Q&Aを見ている人はこちらも見ています

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

1分で登録完了

無料で会員登録する