法務部門はシステム開発の現場をどのようにサポートするべきか
IT・情報セキュリティ 当社では、基幹システムの刷新プロジェクトが発足し、SIベンダーに対して、システム開発の業務を発注することとなりました。法務担当者として、どのように関与をしていくべきでしょうか。
上記の基幹システム刷新プロジェクトでトラブルが起きた場合、法務担当者としてシステム開発の部門をどのようにサポートをするべきでしょうか。
- 契約書締結段階においても、法務部門が早くから関与をすることが重要です。まず、契約の大きな方向性を決める際に、法的な観点からのアドバイスが必要になります。また、契約条件を詰めていく際には、当該プロジェクトの現実的なリスクの洗い出しが必要になりますが、技術と法律の両面からの分析が必要になるため、システム開発の責任部門と法務部門とで緊密な協議を持つようにするべきです。
- トラブルになってしまった場合も、法務部門が早めに関与することが重要です。一旦深刻なトラブルに陥ってしまったプロジェクトの多くは、契約内容の見直しをするといった抜本的な方法を取らない限り、トラブルを収束することができないことが多く、法務部門の関与は欠かせません。法務部門が適切に関与できるようにするためには、システム開発の責任部門との日頃からの関係構築が重要になってきます。
解説
契約書締結段階でのサポート
システム開発はそれ自体が複雑で専門性が高いものですが、どのような合意をして、どちらがどのようなリスクを負うかという点は、法的な検討に基づいて行われる必要があり、法務部門によるサポートは欠かせないという点では、他の取引と変わるものではありません。
まず、契約の相手方と交渉をする前に、そのプロジェクトの目的や特色について、システム開発の責任部門(ベンダーであれば開発部門、ユーザーであれば情報システム部や経営企画部)と法務部門の間で確認をしたうえで、一括契約とするのか多段階契約とするのか、請負契約とするのか準委任契約とするのかといった基本的な事項を確認し、会社としての方針を固める必要があります。
また、具体的な契約の条項を交渉する際には、プロジェクトに生じうるリスクを洗い出していく必要があります。たとえば、ベンダー側であれば、ユーザーがプロジェクトに協力的でなく、納期が間に合わなくなることや工数が想定以上に増大してしまうといったことが考えられますし、ユーザー側であれば、システムが完成した後に想定以上の不具合が出て、業務に大きな支障が生じてしまうといったことが考えられます。そのようなリスクをどのように回避もしくは限定するか、または、ビジネスジャッジとして受け入れるのかを協議し、具体的な文言に落とし込んでいく必要があります。
このようなプロセスは時間と労力を要するものであり、システム開発の責任部門から法務部門に対して不満があがることもあります。しかし、両部門の間でコミュニケーションを取ることで自ずから妥協点は見えてくるものですし、プロジェクトのリスクを洗い出していくという作業を通じて、コミュニケーションを繰り返していくことで、両部門がお互いの事情を理解するようになり、徐々に円滑なコミュニケーションを取れるようになることが期待できます。
トラブル発生時のサポート
システム開発は往々にして予定どおりいかないものです。日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の調査によれば、2015年度において、500人月以上のプロジェクトで予定どおり工期が完了したのは21.9%に過ぎなかったとのことです1。
プロジェクトにトラブルが発生すると、ベンダーとユーザーの双方のプロジェクト関係者の信頼関係が悪化したり、士気が低下したりすることと相まって、取り返しのつかないところまで混乱が広がってしまうことは珍しくありません(そのような状態を「炎上」などと呼ぶことがあります)。プロジェクトのトラブルを収拾するためには、通常、作業要員の追加などの対策が取られることになります。しかし、いわゆる炎上状態に陥ってしまうと、対症療法的な方法で収束を図るのは困難な場合が多く、プロジェクトのスコープ(対象範囲)や納期の見直しといった、契約内容の見直しを伴う抜本的な対応が必要になることが少なくありません。そのような契約内容の見直しをするためには、当然、法務面からのサポートが必要になります。
そのような場面で法務部門が適切なサポートをするには、トラブルが起きた理由や経緯を把握する必要がありますが、プロジェクトの混乱時には資料がどこにあるのか誰もわからないといった状況になりがちです。また、システム開発の責任部門が、法務部門に相談するほどの問題ではなく、自己の部門内でトラブルを解決できると判断し、結果として、取り返しのつかない状態にまで問題が深刻化してしまうことも珍しくありません。
そのような点からも、プロジェクトのトラブルが深刻化する前に法務部門が関与できることは重要であり、法務部門としては、日頃からシステム開発の責任部門との連携をとり、できるだけ早い段階から気軽に相談してもらえるような関係を構築しておくことが重要です。
また、プロジェクトのトラブルの収束を図るのと同時に、相手方との紛争に備えて、証拠を収集・保全しておくことも重要です。上記のように、プロジェクトが混乱すると資料の管理がおろそかになりますし、後に重要な証拠となりうる議事録などの文書が十分に作成されないといった状態になってしまいます。そのような状況において、法務部門には、当該プロジェクトについて客観的な法的評価を行うとともに、システム部門と協力し、必要に応じて指示をすることで、証拠の収集・保全をすることが期待されるのです。
契約締結時とトラブル発生時の法務部門のサポートのあり方について説明をしましたが、システム開発を成功させるためには、法律面からのサポートは欠かせません。そのためには、日ごろからシステム部門とよい関係を構築しておくことが重要です。

- 参考文献
- 裁判例から考えるシステム開発紛争の法律実務『第2章 システム開発の進め方』
- 著者:難波修一、中谷浩一、松尾剛行、尾城亮輔
- 定価:本体4,600円+税
- 出版社:商事法務
- 発売年月:2017年2月
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独立行政法人情報処理推進機構 技術本部ソフトウェア高信頼化センター編「ユーザのための要件定義ガイド~要求を明確にするための勘どころ~」(独立行政法人情報処理推進機構、2017年)10頁 ↩︎

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