簡易合併の要件と存続会社の株主総会の承認の要否
コーポレート・M&A当社は、現在、Y社との間で、Y社を吸収合併することについて協議を進めています。前事業年度末の当社の資産は約100億円、負債は約70億円、純資産は約30億円であり、合併対価は現金5億円とする予定なのですが、この場合、当社において株主総会を開催する必要はあるのでしょうか。
合併対価が現金5億円であることを前提とした場合、Y社との間で吸収合併契約を締結する時点においても貴社の純資産額が25億円以上あるのであれば、いわゆる「簡易合併」に該当し、会社法796条3項に規定する場合に該当しない限り、貴社において吸収合併を承認する株主総会決議を得る必要はなく、株主総会を開催する必要はありません。
解説
吸収合併の存続会社における株主総会の承認の要否
吸収合併を行う場合、存続会社は、効力発生日の前日までに、原則として株主総会決議により吸収合併契約の承認を受ける必要があります(会社法795条1項)。
ただし、いわゆる「簡易合併」(会社法796条2項)または「略式合併」(会社法796条1項)に該当する場合には、存続会社における株主総会の承認決議は原則として不要となります。なお、不要となるのはあくまで株主総会決議であり、存続会社の種類株主を保護するための種類株主総会の決議は省略できません(会社法795条4項、322条1項7号)。
簡易合併の要件
簡易合併とは、
下記(1)に掲げる額≦下記(2)に掲げる額×1/5
(これを下回る割合を存続会社の定款で定めた場合はその割合)
に該当する合併をいいます(会社法796条2項、会社法施行規則196条)。
(1)次に掲げる額の合計額(会社法796条2項1号)
- イ 消滅会社の株主等に対して交付する存続会社の株式の数×1株当たり純資産額
- ロ 消滅会社の株主等に対して交付する存続会社の社債、新株予約権または新株予約権付社債の帳簿価額の合計額
- ハ 消滅会社の株主等に対して交付する存続会社の株式、社債および新株予約権以外の財産の帳簿価額の合計額
(2)存続会社の純資産額(次に定める方法により算定される額)(会社法796条2項2号、会社法施行規則196条)
吸収合併契約を締結した日(吸収合併契約により当該契約締結日後から当該吸収合併の効力が生ずる時の直前までの間の特定の時を定めた場合には、当該時)における、下記①~⑥の合計額-下記⑦の額
- 資本金の額
- 資本準備金の額
- 利益準備金の額
- 剰余金の額
- 最終事業年度(臨時計算書類を作成した場合は、臨時計算書類の対象期間)の末日(最終事業年度がない場合は、設立日)における評価・換算差額等に係る額
- 新株予約権の帳簿価額
- 自己株式および自己新株予約権の帳簿価額の合計額
少し複雑ですが、簡単にいえば、存続会社が吸収合併の対価として交付する存続会社の株式その他の財産の合計額が、存続会社の純資産額の5分の1以下であれば、「簡易合併」に該当すると考えてよいでしょう。
簡易合併の要件を満たしていても簡易合併を利用できない場合
上記2の簡易合併の要件を満たしていても、以下の場合には、例外的に簡易合併を利用することはできません(会社法796条2項ただし書)。
(1)会社法795条2項各号に掲げる場合(いわゆる差損が生じる場合)
- 存続会社の承継債務額>存続会社の承継資産額 の場合(会社法795条2項1号)
- 合併対価>承継純資産額 の場合(会社法795条2項2号)
(2)会社法796条1項ただし書に規定する場合
消滅会社の株主等に交付する合併対価の全部または一部が存続会社の譲渡制限株式であって、存続会社が公開会社でない場合
(3)会社法796条3項に規定する場合
会社法施行規則197条で定める数の株式を有する株主(会社法795条1項の株主総会において議決権を行使することができるものに限る)が、株主に対する通知(会社法797条3項)または公告(会社法797条4項)の日から2週間以内に吸収合併に反対する旨を存続会社に通知した場合
簡易合併を利用できる場合の効果
簡易合併を利用できる場合、存続会社においては、上記1のとおり、吸収合併契約の承認の株主総会決議(会社法795条1項)が不要となります。簡易合併を利用できる場合というのは、消滅会社の規模が存続会社の規模に比べて著しく小さく、合併が存続会社またはその株主に及ぼす影響が軽微であるため、株主総会決議の省略を認めるものです。また、差損が生じる場合および自己株式を承継取得する場合の株主総会での説明義務(会社法795条2項、3項)も不要となります(会社法796条2項)。
存続会社における吸収合併契約の承認は、取締役会設置会社の場合には取締役会決議、取締役会非設置会社の場合には取締役の過半数による決定により行うことになります。
なお、簡易合併を利用できる場合には、存続会社の反対株主には株式買取請求権は認められず(会社法797条1項ただし書)、また、存続会社の株主には吸収合併の差止請求権もありません(会社法796条の2ただし書)。

三宅坂総合法律事務所
- コーポレート・M&A
- 人事労務
- 知的財産権・エンタメ
- 事業再生・倒産
- 危機管理・内部統制
- 競争法・独占禁止法
- 訴訟・争訟
- ベンチャー