権利者が不明な著作物を利用したい 〜裁定制度とは〜

知的財産権・エンタメ

 当社のホームページやパンフレットに、創業者に縁のある画家の絵画作品を掲載する企画を立てました。ところが、作品を常設展示している美術館に問い合わせても、その画家はすでに逝去しており、相続人の有無も所在もわからないため著作権者が不明だということでした。画家が亡くなったのは20年ほど前ですので、まだ著作権が切れていないのは確実です。このような作品については使用することを諦めるしかないのでしょうか。

 相当な努力を行っても著作権者が不明ということであれば、権利者の許可を得る代わりに文化庁長官の裁定を受ければ、通常の使用料額に相当する補償金を供託することで、適法に利用することができるようになります。

解説

目次

  1. 裁定制度とは
  2. 裁定制度の概要
    1. 裁定制度の対象
    2. 裁定制度の手続
    3. 裁定制度の効果

裁定制度とは

 著作者が死亡した場合、著作権は相続人に相続をされます。相続人が複数いる場合は、遺産分割協議などで権利者を特定の相続人と定められない限り、相続人全員の合意がないと著作物を利用することができません(著作権法65条1項、65条2項)。また、著作者人格権は相続されませんが、一定の範囲の遺族は、著作者の生前であれば著作者人格権侵害となる行為に対して差し止めなどを請求できることになっています(著作権法60条、116条1項)。
 ですから、著作者が死亡した場合には相続人の有無や範囲について調査をして利用についての許諾を得る必要があります。

 しかし、特に死亡してから長期間が経過し、住民票の除票などの保存期間も経過すると、本籍地もわからず、戸籍を調査することができず、相続人の有無・範囲が不明という場合があります。そのように、許諾を得ようとしても、「権利者が誰だかわからない」、「(権利者が誰かわかったとしても)権利者がどこにいるのかわからない」、「亡くなった権利者の相続人が誰でどこにいるのかわからない」等の理由で許諾を得ることができない場合に、権利者の許諾を得る代わりに文化庁長官の裁定を受け、通常の使用料額に相当する補償金を供託することにより、適法に利用することができるのが裁定制度です。

裁定制度の概要

裁定制度の対象

 裁定制度の対象は、権利者もしくは権利者の許諾を得た者により公表され、または相当期間にわたり公衆に提供等されている事実が明らかである著作物、実演、レコード、放送、有線放送です(著作権法67条1項、103条)。このように著作権のみならず著作隣接権も対象となっていますが、ここでは著作物についての裁定制度を中心に説明をします。
 「相当期間にわたり公衆に提供等されている事実が明らかである」著作物等とは、権利者等により公表されているかどうかは不明であるものの、相当期間にわたり世間に流布されている著作物等のことをいいます。本件では美術館で常設展示をされているということですから、これに該当すると考えてよいでしょう。

裁定制度の手続

 裁定制度は、権利者が不明な場合に利用することができる制度ですので、権利者が不明であるという事実を担保するに足りる程度の「相当な努力」を行うことが必要です(著作権法67条1項)。
 具体的には以下すべての措置を行うことが必要とされています(著作権法施行令7条の7第1項、平成21年文化庁告示第26号)。

(1)権利者情報を掲載する資料の閲覧
  • 名簿・名鑑等の閲覧
  • または
  • インターネット検索

(2)広く権利者情報を保有していると認められる者への照会

  • 著作権等管理事業者等への照会
  • および
  • 関連する著作者団体への照会
(3)公衆に対する権利者情報の提供の呼びかけ
  • 日刊新聞紙への広告
  • または
  • 著作権情報センターのウェブサイトへの広告

 なお、過去に裁定を受けた著作物等の場合、(1)については過去に裁定を受けた著作物等に関するデータベースの閲覧、(2)については過去に裁定を受けたデータベースを保有する文化庁への照会という、より簡便な方法も選択できます。

裁定制度の効果

 裁定の申請を受けた文化庁長官が裁定をした場合、決定された補償金額を供託した後に著作物等の利用を行うことができますが、早く利用を開始したい場合には、申請中利用制度を利用することもできます。
 これは、文化庁に裁定申請を行い、文化庁長官の定める担保金を供託することにより、裁定の決定前であっても著作物等の利用が開始できるという制度です(著作権法67条の2)。ただし、著作者が著作物の利用を廃絶しようとしていることが明らかな場合は利用できません。また、申請の結果文化庁長官から裁定を受けられなかった場合には、その時点で著作物等の利用を中止しなければなりません。
 なお、裁定制度を利用して作成された著作物の複製物には、裁定制度により作成された複製物である旨および裁定の申請をした年月日を表示しなければならないことになっています。

 裁定制度の手続の具体的な内容については文化庁の「裁定の手引き~権利者が不明な著作物等の利用について~ 」をご覧ください。

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