無効な取締役会決議に基づく代表取締役の行為は無効なのか
コーポレート・M&A取締役会招集手続が違法だったとされ、取締役会が無効となった場合、その取締役会で決議された重要な業務執行について、代表取締役の行為も無効となるのでしょうか。
本来取締役会による承認が必要な行為について、その承認決議がない場合であっても、原則として有効です。ただし、相手方が、その取締役会決議がないこと(無効となる場合なども含みます)について悪意(法律用語の「悪意」とは、ある事実を知っていることをいいます)または有過失の場合には、無効とされます。
解説
取締役会決議がなくても代表取締役の行為は原則として有効
取締役会決議の必要性
取締役会は重要な業務執行の決定を行い、この決定を代表取締役らに委任することができません(会社法362条4項柱書)。そのため、代表取締役は、重要な業務執行を行うに当たり、取締役会の決定に基づく必要があります。
この取締役会決議がなかった場合、事後的に無効または不存在と判断された場合、あるいは、取締役会決議があるのにそれに反する場合、代表取締役の行為は無効となるのでしょうか。
判例の考え方
判例理論
この点、代表取締役の代表権の範囲は会社の業務に関する一切の裁判上・裁判外の行為に及びます(会社法349条4項)。
代表取締役の行為の相手方としては、代表取締役が有効に会社を代表する権限があると考えて取引などを行うのであって、取締役会決議という内部的な手続を経ていないことをもって、一律に無効であるとされると、不測の不利益・損害を被ることになりかねません。
そのため、代表取締役が、取締役会の決議を経てすることを要する対外的な個々的取引行為を、その決議を経ないでした場合でも、その取引行為は、内部的意思決定を欠くに止まるから、原則として有効であって、相手方が取締役会決議を経ていないことを知りまたは知ることができたときに限って、無効である、と解するのが相当であるとされています(最高裁昭和40年9月22日判決)。
つまり、 取締役会の決議がなくても、原則として代表取締役の行為は有効ですが、相手方が、取締役会決議がないことについて悪意(=事実を知っていること)または有過失の場合には無効となる ということです。
相手方の調査義務
上記の判例に従うと、相手方からすれば、取締役会決議のない代表取締役の行為が無効とされないために、決議がないことを知らないことについて過失がないと言える必要があります。そうすると、相手方は、取締役会決議の有無を調査しなければならないことにもなりそうです。
この点については、主に金融機関が会社に対して融資する際、それが融資を受ける会社にとって「多額の借財」(会社法362条4項2号)に該当するか、そして、取締役会決議がされたのかということを調査する義務を金融機関に課す裁判例が多いようですが、中小企業については、調査義務までは課せられないと考えるべきだとされています1。
無効な取締役会決議とそれに基づく行為の有効性
判例を踏まえた原則論
上記のとおり、取締役会決議がなく、そのことについて、相手方が悪意または有過失の場合には、代表取締役の行為は無効となります。
しかし、取締役会の決議がなくても、取引の安全(=取引を行った者の利益保護を図ること)が強く要請される行為などについては、相手方の主観(悪意か、過失があるのかなど)にかかわらず、有効になると考えられています。
適法な決議によらない会社の行為・代表取締役の行為の効果はまちまちであり、個別に考える必要があります2。
具体的な行為
代表取締役の選定
そもそも代表取締役の選定決議が無効になった場合、代表取締役の選定自体が無効となります。
もっとも、代表取締役の選定が無効でも、代表取締役の行為の相手方は、表見代理に関する規定(民法109条)などによって保護されることがあります3。
株主総会の招集
取締役会設置会社においては、原則として取締役会決議に従って株主総会を招集します(会社法298条4項)。
このように、取締役会決議は株主総会招集行為の前提要件をなすものなので、取締役会決議が無効の場合、招集手続の法令違反として株主総会決議取消しの原因になります(会社法831条1項1号)(最高裁昭和46年3月18日判決参照)。
募集株式の発行等・社債の募集
募集株式の発行については、代表取締役が新株を発行した以上、これにつき有効な取締役会決議がなくても、有効であるとされています(最高裁昭和36年3月31日判決)。
また、社債の募集についても、取引の安全の要請から、同様に、取締役会の適法な決議を欠いていたとしても当然に無効となると考えるべきではないとされています4。
競業行為・利益相反取引の承認
取引の安全の見地から、善意の第三者を保護する必要があるので、会社は、その取引について取締役会の承認を受けなかったことのほか、相手方である第三者が悪意であることを主張し、立証して始めて、その無効をその相手方である第三者に主張できます(最高裁昭和43年12月25日判決)。
取締役の利益相反取引については、「取締役の利益相反取引について取締役会承認が必要となるのはどのような場合か」をあわせてご覧ください。
譲渡制限株式についての譲渡承認
譲渡制限株式を譲渡しようとする場合、取締役会設置会社においては取締役会の承認が必要となります(会社法139条1項)。
この場合の取締役会決議は、事柄の性質上、譲渡の承認または不承認の有効要件であり、取締役会決議が不存在または無効のときは、譲渡承認・不承認自体が無効であると考えるべきですが、代表取締役が譲渡人に対して譲渡承認があった旨を通知し、株式譲渡の当事者がその通知を信頼して譲渡を行った場合には、取引安全の見地から、その譲渡を完全に有効と認めるべきであると考えられています5。
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