消費者契約法により無効とされる、事業者が負担する損害賠償責任の免除条項とは

取引・契約・債権回収
古川 昌平弁護士 弁護士法人大江橋法律事務所 吉村 幸祐弁護士 弁護士法人大江橋法律事務所

 当社は、社会人をターゲットに、料理教室を開設しようと考えています。
 しかし、料理には火や包丁を使いますので、何か教員の不手際によってお客様に損害を与えてしまう事態があるかもしれません。
 また、夕方の時間を別のことに使いたいと思われるのか、会員が途中から来なくなってしまうケースがよくありますが、解約の申出をいつも受け付けていては、とても商売として成り立ちません。
 そこで、料理教室に関する契約を締結するにあたって、「契約締結後は、いかなる理由であれ、損害賠償請求や、契約解除(代金返還・返品の要求)には一切応じません」との条項を付した契約書に署名してもらうことを考えているのですが、何か問題はありますでしょうか。

 貴社が検討している条項のうち、損害賠償請求に一切応じない旨の条項は、消費者契約法8条1項1号および同3号に該当し、無効となります。
 また、契約解除(代金返還・返品の要求)には一切応じない旨の条項は、消費者契約法10条により無効と判断される可能性があります。

解説

目次

  1. 消費者契約法が定める無効となる条項とは
  2. 無効とされる事業者の損害賠償の責任を免除する条項(消費者契約法8条)とは
  3. 無効とされる消費者の利益を一方的に害する条項(消費者契約法10条)とは
  4. 上記設例における各条項は有効か
    1. 損害賠償請求に一切応じない旨の条項は有効か
    2. 契約解除(代金返還・返品の要求)の要求に一切応じない旨の条項は有効か
  5. 補足:消費者契約法の改正等
    1. 不当条項規制の追加
    2. 民法改正との整合を図るための改正
  6. おわりに

消費者契約法が定める無効となる条項とは

 消費者契約法は、事業者と消費者との間に情報の質・量、交渉力に構造的な格差があることから、事業者の損害賠償の責任を免除する条項を無効とすること(同法8条)、消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等を無効とすること(同法9条)、消費者の利益を一方的に害する条項を無効とすることを定めています(同法10条)。

消費者契約法が定める無効となる条項

無効とされる事業者の損害賠償の責任を免除する条項(消費者契約法8条)とは

 消費者契約法8条は、消費者が損害を受けた場合に正当な額の損害賠償を請求できるように、事業者が消費者に対して負担する損害賠償責任を免除・制限する特約(条項)について、次の5つの特約(条項)を無効と定めています。

(1) 債務不履行責任に関する責任制限条項 (1-1) 債務不履行に基づく損害賠償責任の全部を免除する条項(消費者契約法8条1項1号)
(1-2) 債務不履行(故意・重過失によるものに限る。)に基づく損害賠償責任の一部を免除する条項(同項2号)
(2) 不法行為責任に関する責任制限条項 (2-1) 債務の履行に際してされた事業者の不法行為に基づく損害賠償責任の全部を免除する条項(同項3号)
(2-2) 債務の履行に際してされた事業者の不法行為(故意・重過失によるものに限る。)に基づく損害賠償責任の一部を免除する条項(同項4号)
(3) 瑕疵担保責任に関する責任制限条項 有償契約である消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるとき(請負契約の場合には、仕事の目的物に瑕疵があるとき。以下同じ。)に、当該瑕疵により生じた損害の賠償責任の全部を免除する条項(同項5号)
※ただし、瑕疵担保責任に関する責任制限条項については、①当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるときに、当該事業者が瑕疵のない物と取り換える責任または当該瑕疵を修補する責任を負うこととされている場合や、②例えばファイナンシャルリース契約において、リース会社が瑕疵担保責任を負担しないもののサプライヤーが瑕疵担保責任を負担することとされているといった場合には、消費者に救済の手段が残されているため、当該条項は無効とはされません(同条2項)。
(事業者の損害賠償の責任を免除する条項の無効)
第8条 次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。

一 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項

二 事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する条項

三 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する民法の規定による責任の全部を免除する条項

四 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する民法の規定による責任の一部を免除する条項

五 消費者契約が有償契約である場合において、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるとき(当該消費者契約が請負契約である場合には、当該消費者契約の仕事の目的物に瑕疵があるとき。次項において同じ。)に、当該瑕疵により消費者に生じた損害を賠償する事業者の責任の全部を免除する条項

2 前項第五号に掲げる条項については、次に掲げる場合に該当するときは、同項の規定は、適用しない。

一 当該消費者契約において、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるときに、当該事業者が瑕疵のない物をもってこれに代える責任又は当該瑕疵を修補する責任を負うこととされている場合

二 当該消費者と当該事業者の委託を受けた他の事業者との間の契約又は当該事業者と他の事業者との間の当該消費者のためにする契約で、当該消費者契約の締結に先立って又はこれと同時に締結されたものにおいて、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるときに、当該他の事業者が、当該瑕疵により当該消費者に生じた損害を賠償する責任の全部若しくは一部を負い、瑕疵のない物をもってこれに代える責任を負い、又は当該瑕疵を修補する責任を負うこととされている場合

無効とされる消費者の利益を一方的に害する条項(消費者契約法10条)とは

 消費者契約法10条は、次の①および②の要件を満たす契約条項を無効とすると規定しています。この①および②の要件の具体的な内容等については、「消費者契約法により無効とされる、消費者の利益を一方的に害する条項とは」をご参照ください。

  1. 「民法、商法(略)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項」であること(以下「10条前段要件」といいます)
  2. 「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」であること(以下「10条後段要件」といいます)

上記設例における各条項は有効か

設例のイメージ

設例のイメージ

損害賠償請求に一切応じない旨の条項は有効か

 上記設例における「契約締結後は、いかなる理由であれ、損害賠償請求及び教材返品の要求には応じません」との条項のうち、損害賠償請求に一切応じないとする部分は、債務不履行や不法行為に基づく損害賠償責任の全部を免除する条項ですので、消費者契約法8条1項1号および同3号に該当し、無効となります。
 そのため、たとえ、契約書にこのような条項が記載されていても、その条項に基づいた主張は認められません。

契約解除(代金返還・返品の要求)の要求に一切応じない旨の条項は有効か

 これに対し、契約解除(代金返還・返品の要求)要求に応じないとする部分は、消費者契約法8条には該当せず、同法9条(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効、詳細は「消費者契約法により一部無効とされる、消費者が負担する損害賠償額予定条項とは」参照)にも該当しませんので、同法10条により無効となるかが問題となります。
 本来、消費者は、所定の要件を満たす限り、債務不履行に基づく解除権または瑕疵担保責任の規定に基づく解除権を行使し、代金の返還(および返品に応じること)を請求できます。

 これに対し、当該条項は、その解除権の行使を制限するものですので、消費者の権利を制限しまたは義務を加重するものであり、2の①に掲げた10条前段要件を満たします。

 次に、当該条項が前記2の②に掲げた10条後段要件を満たすかは個別事案における様々な事情を踏まえた上で判断されることとなりますが、当該条項は、事業者に債務不履行がある場合や、事業者の行った給付に瑕疵があり、契約の目的を達することができない場合であっても、一律に、消費者が当該契約の拘束力から解放されて契約締結前の状態に戻る術を奪うものです。このため、不当性が高く、消費者の利益を一方的に害するものであり、10条後段要件も満たすと判断される可能性があると考えられます。

 したがって、当該条項は、消費者契約法10条に基づき無効と判断される可能性があると考えられます。

補足:消費者契約法の改正等

不当条項規制の追加

 平成28年5月25日に成立し、同年6月3日に公布された「消費者契約法の一部を改正する法律」(以下当該改正法による改正後の消費者契約法を「改正後消費者契約法」といいます)により、現行消費者契約法8条および9条(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等を無効とする規定)に加え、8条の2が新設されました。同条は、次の(a)・(b)の条項について、例外なく無効とする旨を規定しています(改正後消費者契約法8条の2)。

(a)事業者の債務不履行により生じた消費者の解除権を放棄させる条項

(b)有償契約である消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があること(請負契約の場合には、当該消費者契約の仕事の目的物に瑕疵があること)により生じた消費者の解除権を放棄させる条項


 具体的な条文は以下のとおりです。

【改正後消費者契約法】
(消費者の解除権を放棄させる条項の無効)
第8条の2 次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする
一 事業者の債務不履行により生じた消費者の解除権を放棄させる条項
二 消費者契約が有償契約である場合において、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があること(当該消費者契約が請負契約である場合には、当該消費者契約の仕事の目的物に瑕疵があること)により生じた消費者の解除権を放棄させる条項

 前記改正後消費者契約法の施行日は、平成29年6月3日とされています(同法附則1条本文)。したがって、当該改正法が施行された後には、上記設例における条項のうち、契約解除(代金返還・返品の要求)に一切応じないとする部分は、消費者契約法10条該当性判断によることなく、改正後消費者契約法8条の2により、例外なく無効となります。

民法改正との整合を図るための改正

 平成27年3月31日に国会に提出された「民法の一部を改正する法律案」においては、売買等の瑕疵担保責任を債務不履行責任に統合することとされています。そのため、その法案どおり民法が改正された場合には、瑕疵担保責任を前提とした消費者契約法8条1項5号を削除する等、それに沿った改正を行うことが予定されています(「民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案」98条、改正後消費者契約法附則6条)。

おわりに

 以上のとおり、上記設例における条項のうち、損害賠償請求に関する部分は当然に無効ですし、契約解除(代金返還・返品の要求)に関する部分は無効と判断される可能性があります。また、消費者契約法改正法が施行された後は、契約解除(代金返還・返品の要求)に関する部分も当然に無効となります。

 特に、消費者契約法8条の規定する不当条項は、例外なく無効となります。そのため、例えば、消費者との契約において、事業者の債務不履行責任に基づく損害賠償責任に関する条項を付す場合には、「事業者の損害賠償責任は○○円を限度とする。ただし、事業者に故意または重過失がある場合にはこの限りでない」といった規定を検討するなど、消費者契約法8条により無効とされない条項を検討することが必要となると考えられます。

 ただし、仮に消費者契約法8条により無効とならない場合であっても、同法10条により無効と判断される可能性もありますので、消費者契約の条項を検討するに当たっては、消費者の利益を一方的に害することにならないか、ということを検討することが重要となります。

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