平成28年の消費者契約法改正により新設された過量契約による取消しとは

取引・契約・債権回収
古川 昌平弁護士 弁護士法人大江橋法律事務所 吉村 幸祐弁護士 弁護士法人大江橋法律事務所

 当社は、呉服店を営んでいます。
 従前はあまり来店されず、それほど多くの着物を購入されたことがなかったある高齢の顧客が来店し、1着あたり数十万円の着物を数十枚、月賦で購入されました。毎月の支払代金は15万円ですが、購入代金は、合計3,000万円を超えています。
 平成28年の消費者契約法の改正により、顧客が通常の分量等を著しく超える契約をしたと事業者側が知っていた場合、その契約を取り消すことができるようになったと聞きました。
 当社では、顧客が来店した際には、当社の責任ある担当者が、商品の品質や値段等について丁寧に説明するなどした上で、商品の購入をお薦めしていますが、この顧客による着物購入の申込みは、取消しの対象となるのでしょうか。
 当社の立場からの意見ではありますが、取引をする各消費者にとっての通常の分量等を著しく超えるものであるか否かを逐一判断することは難しいように思います。
※本契約は平成29年10月1日に行われたとします。

 平成28年に消費者契約法が改正され、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、契約の目的物の分量等がその消費者にとっての通常の分量等を著しく超えるものであることを知っていた場合において、消費者が、その勧誘によりこの消費者契約の申込み・承諾の意思表示をしたときには、その契約を取り消すことができるとの規定が新設されました(改正後の消費者契約法4条4項)。
 上記の事例において、貴社が契約の相手方となる消費者にとっての「通常の分量等を著しく超えるものであること」を認識していないのであれば、改正後の消費者契約法4条4項に基づき契約の申込みが取り消されることはありません。
 ただし、従前はそれほど多くの着物を購入することはなかった顧客が1着数十万円の着物を数十枚購入し、購入代金が3,000万円を超えるという事態に照らすと、何らかの特別の事情がない限り、その顧客の購入量は「通常の分量等を著しく超え」、貴社が「通常の分量等を著しく超えるものであること」を「知っていた」と認定され、取り消せると判断されるおそれがあると考えられます。

解説

目次

  1. 新設された過量契約の取消権とは・その要件
  2. 過量契約の取消しの要件に該当するか
    1. 「勧誘をするに際し」という要件を満たすか(要件①)
    2. 「当該消費者にとっての通常の分量等」を「著しく超えるものであること」という要件を満たすか(要件②)
    3. 当該消費者にとっての通常の分量等を著しく超えるものであることを「知っていた場合」という要件を満たすか(要件②)
  3. おわりに

新設された過量契約の取消権とは・その要件

 平成28年5月25日に成立し、同年6月3日に公布された「消費者契約法の一部を改正する法律」(以下この改正法による改正後の消費者契約法を「改正後消費者契約法」といいます)により、

  • 事業者が「勧誘をするに際し」、
  • 契約の目的物の分量、回数または期間(以下「分量等」といいます)が「当該消費者にとっての通常の分量等」を「著しく超えるものであること」を「知っていた場合」において、
  • 消費者が、その勧誘によりこの消費者契約の申込み・承諾の意思表示をしたとき、

 消費者は、その契約を取り消すことができるとの規定が新設されました(改正後消費者契約法4条4項)。なお、この取消権には行使期間がありますが、この点については「平成28年6月公布! 改正消費者契約法のポイントと対策 (第2回)」をご参照ください。

新設された過量契約の取消権

 一般的には、過量契約の取消権として分類されています。
 これは、主として、高齢者の判断能力の低下等につけ込んで、大量に商品を購入させる被害事案が多く発生していることから、これに対応するために新設されたものです。

 なお、当該改正法は、事業者が、過去の同種契約の分量等を合わせた分量等が当該消費者にとっての通常の分量等を著しく超えるものであることを知っていた場合についても、同様に取り消せることとしています(次々契約の取消権として分類されることがあります)。
 具体的な条文は次のとおりです。今般の改正後消費者契約法の施行日は、平成29年6月3日ですが(同法附則1条本文)、上記設例はその施行日以後に行われた契約の申込みに関するものですので、以下、改正後消費者契約法による取消しの可否について検討します。

【改正後消費者契約法】
(消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)
第4条 (略)
2•3 (略)

4 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの分量、回数又は期間(以下この項において「分量等」という。)が当該消費者にとっての通常の分量等(消費者契約の目的となるものの内容及び取引条件並びに事業者がその締結について勧誘をする際の消費者の生活の状況及びこれについての当該消費者の認識に照らして当該消費者契約の目的となるものの分量等として通常想定される分量等をいう。以下この項において同じ。)を著しく超えるものであることを知っていた場合において、その勧誘により当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、消費者が既に当該消費者契約の目的となるものと同種のものを目的とする消費者契約(以下この項において「同種契約」という。)を締結し、当該同種契約の目的となるものの分量等と当該消費者契約の目的となるものの分量等とを合算した分量等が当該消費者にとっての通常の分量等を著しく超えるものであることを知っていた場合において、その勧誘により当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときも、同様とする。

5•6 (略)

過量契約の取消しの要件に該当するか

「勧誘をするに際し」という要件を満たすか(要件①)

 ここでいう「勧誘」について、本改正法の立案担当者は、過量な内容の消費者契約の締結に関する勧誘のことを意味すると説明しています(須藤希祥「消費者契約法の一部を改正する法律の概説」NBL1076号6頁)。
 これを前提にすると、仮に、事業者が1着ずつ着物を示してそれぞれの着物について勧めたところ、当該消費者が、1着に決められないから勧められた10着全部購入すると言った事案では、理論的には、着物10着が下記の要件②を満たす過量なものであるかにかかわらず、事業者の行為は「勧誘」には当たらないということとなります(同NBL6頁はそれを前提とするものと考えられます)。

 もっとも、実際の事案において、初めから過量な内容の契約締結について勧誘していたかは紙一重ともいえ、形式的には1着ずつ示していたとしても、事業者の勧誘行為が初めから過量な内容の消費者契約の締結についてのものであると認定されるおそれは否定できません。そのように認定される場合には、「勧誘」に当たることとなります(同NBL7頁脚注8参照)。

 上記設例につきましても、過量な内容の消費者契約の締結に関する勧誘が行われていたのであれば、「勧誘をするに際し」の要件を満たすと考えられます。以下では、この「勧誘をするに際し」の要件を満たすと認められる事案を前提に、その他の要件について検討します。

 なお、「勧誘をするに際し」の要件がありますので、上記設例と異なり、例えば、消費者が自主的にレジに同種の商品を大量に持参しただけの場合には、過量契約の取消しは認められないものと考えられます(第190回国会消費者問題に関する特別委員会〔平成28年4月27日〕における中根康治議員の質問に対する井内正敏審議官の答弁も同趣旨と解されます)。

「当該消費者にとっての通常の分量等」を「著しく超えるものであること」という要件を満たすか(要件②)

 「当該消費者にとっての通常の分量等」とは、消費者契約の目的となるものの内容・取引条件事業者がその締結について勧誘をする際の消費者の生活状況これについての消費者の認識に照らして当該消費者契約の目的となるものの分量等として通常想定される分量等して通常想定される分量等をいいます(改正後消費者契約法4条4項)。
 上記設例において、着物を購入した顧客の生活状況等は不明ですが、契約の目的物は、1着数十万円する着物であり、当該顧客にとって数十枚もの着物を必要とする特別の事情がない限り、着物を購入する契約は、「当該消費者にとっての通常の分量等」を「著しく超え」たものと判断される可能性が高いといえます。

当該消費者にとっての通常の分量等を著しく超えるものであることを「知っていた場合」という要件を満たすか(要件②)

 上記の設例において、貴社としては、勧誘した際に、顧客が購入した商品につき、当該顧客との関係において過量取引に該当するか否かを判断するのは困難とのことですが、従前はそれほど多くの着物を購入することはなかった顧客が、1着数十万円の着物を数十枚購入し、購入代金が3,000万円を超えるという事態に照らすと、何らかの特別の事情がない限り、その顧客の購入量は「通常の分量等を著しく超え」、貴社が「通常の分量等を著しく超えること」を「知っていた」と判断されるおそれがあると考えられます。

 なお、仮に、当該顧客の家族が、貴社に対し、当該顧客が痴呆症を患っており、着物を大量に購入する必要はないということを事前に伝えていたようなケースでは、上記設例のように極めて大量の着物を購入した場合でなくても、「知っていた場合」に該当する可能性があると考えられます。

おわりに

 上記設例のように、極端な事案においては、新設された過量契約の取消しにより合理的な結論が導かれると思われますが、個別事案において、「当該消費者にとっての通常の分量等」を「著しく超えるものである」か否かの判断は必ずしも容易ではありません。過量契約の取消しが適切に認められるためには、「当該消費者にとっての通常の分量等」を「著しく超えるものである」か否かについて、明確かつ具体的な判断基準が示される必要があるといえます。
 消費者庁による解説や裁判例の集積が待たれるところですが、それに至るまでの間は、慎重に対応することが必要となると考えられます。
 また、過量契約の取消しの要件を満たさない場合であっても、判断能力の低下した高齢者との間で取引をするに当たり不適切な勧誘行為などを行ったときには、公序良俗(民法90条)や不法行為(民法709条等)の規定により申込みの無効や損害賠償請求を主張される可能性があるほか、意思無能力を理由に申込みが無効であると主張される可能性がある点にも留意が必要です。

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