ゴルフ場が民事再生手続を申し立てた場合の留意点
事業再生・倒産会員になっているゴルフ場経営会社が民事再生手続を申し立て、会員である私にその旨の通知文書が届きました。ゴルフ場経営会社の民事再生手続において会員債権者として留意すべき点を教えて下さい。
預託金制ゴルフ場における会員債権者の権利は預託金返還請求権という金銭債権と施設利用権という非金銭債権が結合した複合的権利と考えられています。会員債権者は再生債権者として再生手続に関与しますが、高額の預託金債権を有する会員債権者が多数存在する場合、預託金債権に対する弁済率は低くなる傾向があります。一方、施設利用権という観点からは、会員の将来のプレー権が再生計画案においてどの程度保障されるかという点も検討する必要があります。
解説
目次
預託金会員制ゴルフ場について
現在、わが国においては全国に約2,400箇所のゴルフ場がありますが、そのうちの約80%は預託金会員制のゴルフ場といわれています。預託金会員制のゴルフ場とは、ゴルフ場経営会社が会員募集する際に各会員から多くの場合高額の預託金を預かり、一定の据置期間(多くは10年間)経過後、会員がゴルフクラブを退会する際にその預託金を償還する制度を採用するゴルフ場をいいます。
バブル経済の崩壊によりゴルフ会員権の市場価格が大幅に値下がりした結果、据置期間経過後に預託金の償還を求める会員が増加し、償還に応じることが困難なゴルフ場経営企業が法的倒産手続、特に民事再生手続を申し立てる例が増加しました。
預託金会員制ゴルフ場における会員債権者の権利
ゴルフ場における会員の権利は、一般的にはゴルフクラブ会則に定められています。もっとも、裁判例では、預託金会員制を採用するゴルフ場の会員の権利内容は、金銭債権である預託金請求権と非金銭債権であるゴルフ場の施設利用権(プレー権)が結合した複合的権利ととらえられています。
そして、ゴルフ場経営企業について民事再生手続が開始した場合、会員の権利は預託金債権のみならずプレー権についても再生債権と解されており、会員は再生手続の中で再生債権者として権利行使を行う必要があります。
再生手続への参加について
ゴルフ場経営企業の民事再生手続では、通常の場合でも数百人から数千人、再生債務者が複数のゴルフ場企業を経営する場合には数万人にわたる会員債権者が存在することから、多数の会員債権者に手続の詳細を周知し、権利行使を促すためにいろいろな工夫がなされます。
例えば、ホームページ上で民事再生手続に関する詳細なQ&Aを掲載したり、債権届出書に債権額や権利内容を予め印字したものを会員債権者に送付したりして、民事再生手続に詳しくない会員債権者が容易に権利行使できるように工夫する例が見られます。
ゴルフ場経営企業の再生計画案について
スポンサー企業について
ゴルフ場経営会社の民事再生手続においては、資金力のあるスポンサー企業が選定される例が数多く見られます。
ただし、外資の投資ファンド系企業がスポンサーに選定される場合には、ゴルフ場運営手法としてゴルフ場に多数のビジターを誘致して既存会員の従前のプレー権が十分に保障されない懸念が生じること、また旧経営陣の経営責任を問わない形でのスポンサー選定がなされる場合には、多数の会員から旧経営陣の経営責任を明確化する要求が高まることがあります。
こうした場合においては、民事再生手続に対抗する形で会社更生手続が申し立てられたり、再生債務者が提出する再生計画案に対抗する別スポンサーの支援を前提とする再生計画案が債権者主導で裁判所に提出されたりして、ゴルフ場の将来の経営権を巡って競合が生じるケースがあります。
会員の立場から見ると、スポンサーがビジターを積極的に誘致する運営手法を採用した場合には、当該ゴルフ場の会員としての希少価値が失われてプレー権の実質的価値が毀損され、その結果としてゴルフ会員権の市場での評価も下落する可能性があります。一方、資金力のある企業がスポンサーとして支援する場合、コースやクラブハウスに対する積極的な投資により施設利用権の充実が期待できる側面もあります。
預託金債権に対する弁済について
預託金債権に対してどれだけの弁済がなされるかについては、スポンサーによる支援の内容に加えて、担保権者や租税債権者など優先的な権利の有無、預託金債権者の数や預託金額、プレー権保障の内容等によって変わります。もっとも、高額の預託金債権者が多数存在する場合には、再生計画に基づく権利変更後の預託金債権に対する弁済額は僅少なものとなるのが通常です。
再生計画案に対する判断
再生計画案が可決されるためには、議決権を行使した届出再生債権者の頭数の過半数かつ議決権総額の2分の1以上の賛成が必要です。そして会員債権者は、議決権額要件との関係では原則としてその保有する預託金債権の債権額に応じて議決権を持つことになります。まず、会員債権者が将来施設利用を継続せず退会する場合には、純粋に預託金債権に対する配当額の多寡で再生計画案の当否を判断することになります。
一方、施設利用を継続する場合には、プレー権が従前通り実質的に保障されるか、年会費等の値上げがなされることはないか、コースやクラブハウスの改修等、積極的に投資を行ってゴルフ場の価値を高めてくれるスポンサーか、によって再生計画案の当否を判断すべきと思われます。
いずれにしても、再生債務者側が提出した再生計画案が否決された場合には、最悪の場合には民事再生手続が廃止されて破産手続に移行し、会員としての権利がさらに毀損されたり、ゴルフ場が閉鎖されたりするおそれも生じますので、慎重に判断する必要があります。

東京ベイ法律事務所