40年ぶりとなる相続法改正が国際相続に与える影響(遺言制度、遺留分制度の見直し、相続人以外の者の貢献、適用時期)

国際取引・海外進出
薬師寺 怜弁護士 牛島総合法律事務所

 昭和55年以来約40年ぶりとなる、民法の相続法部分の抜本的改正が実施されたと聞きました。その具体的内容はどのようなものですか。また、国際相続に関してどのような影響を与えることになりますか。

 今般の相続法改正は、多岐にわたり、これまでの実務を大きく変えるものも数多く含んでいます。その中には国際相続に影響を与えるものも少なくないものと考えられます
 そのうち、「40年ぶりとなる相続法改正が国際相続に与える影響(配偶者の居住権を保護するための方策、遺産分割等に関する見直しについて」では相続法改正の全体像、配偶者の居住権を保護するための方策、遺産分割等に関する見直しについて解説しましたが、そのほかにも遺言制度、遺留分制度の見直し、相続人以外の者の貢献などにおいて、様々な面で国際相続にも影響があるものと考えられます。

解説

目次

  1. 遺言制度の見直し
    1. 改正法の概要
    2. 国際相続における影響と留意点
  2. 遺留分制度に関する見直し
    1. 改正法の概要
    2. 国際相続における影響と留意点
  3. 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策
    1. 特別の寄与の制度
    2. 国際相続における影響と留意点
  4. 改正法はいつから適用されるのか

※本記事の凡例は以下のとおりです。
民法:民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律を改正する法律(平成30年法律第72号)に基づく改正後の民法

 本稿では、多岐にわたる改正相続法の内容のうち、遺言制度の見直し、遺留分制度に関する見直し、相続人以外の者の貢献を考慮するための方策について説明したうえで、最後に改正相続法がいつから適用されるのかについても解説します。相続法改正の全体像、配偶者の居住権を保護するための方策、および遺産分割等に関する見直しの内容は「40年ぶりとなる相続法改正が国際相続に与える影響(配偶者の居住権を保護するための方策、遺産分割等に関する見直しについて)」をご参照ください。

 なお、国際相続一般についての概説は「取引先である外国人の顧客に相続が発生した場合の一般的な注意点」をご参照ください。

遺言制度の見直し

改正法の概要

 改正相続法においては、遺言制度が見直され、遺言の方法の1つである自筆証書遺言に求められる方式が緩和されて、より利用しやすくなりました。この改正に関する規定は、2019年1月13日に施行済みです。
 また、上記のように利用の増加が見込まれる自筆証書遺言を確実に保管し、相続人等が相続開始後にその存在を容易に把握することができるように、新たに自筆証書遺言の保管制度を創設するための新法も制定されました。この新法は、2020年7月10日施行予定です。

(1)自筆証書遺言の方式緩和

 日本で作成できる遺言書の方式は、一般的には自筆証書遺言公正証書遺言秘密証書遺言の3つでしたが、このうち、1人で作成ができる自筆証書遺言については、これまで全文自署が必要でした。
 しかし、改正民法においては、自筆証書に、パソコン等で作成した目録を添付したり、銀行通帳のコピーや不動産の登記事項証明書等を目録として添付したりして遺言を作成することができることとなりました(民法968条(自筆証書遺言)の2項および3項に規定を新設)。

(2)遺言書保管法

 自筆証書遺言の保管制度を創設するための新法として、遺言書保管法(法務局における遺言書の保管等に関する法律)が制定されました。
 自筆証書遺言の保管制度とは、遺言者が、法務局所管の遺言書保管所において、自筆証書遺言(無封のものに限る)にかかる遺言書の保管を申請することができる制度です。
 遺言書保管所に保管されている遺言書については、検認(民法1004条)が不要です
 また、相続人等は、以下のように遺言の保管状況・内容を知ることができることとなっています。

相続人が保管の事実を知る方法
  1. 遺言者への保管証明書の発行を通じて、相続人が知る方法
  2. 相続人による、遺言書保管事実証明書の交付請求により知る方法
  3. 遺言書情報証明書の閲覧謄写がなされた際に、遺言書保管の事実を知らない相続人全員に対して通知がなされるため、これにより知る方法

相続人等が遺言書の内容を知る方法
  1. 遺言者生存中は遺言者のみ閲覧が可能
  2. 遺言者死亡後は、関係相続人等が閲覧や遺言書情報証明書の交付請求により内容を知ることが可能
  3. 文書提出命令・調査嘱託等にも応じることが予定されている

 この制度が広く利用されるようになれば、従来被相続人が自宅に保管等してしまうことで検索が困難となっていた自筆証書遺言について、容易に発見が可能となるものと考えられます。

国際相続における影響と留意点

 外国法が定める遺言の方式も様々であり、たとえばアメリカでは、(州法ごとに異なるため)自筆遺言についても、署名・全文および日付まで自署を求める州もあれば、署名と本質的な部分について自署があればよいとする州もあります。
 遺言の方式の準拠法については、遺言の方式の準拠法に関する法律により定められます。同法によれば、遺言者の遺言の成立時または死亡時の国籍や住所などが日本にあれば日本法の方式に適合する遺言は有効とされます(遺言の方式の準拠法に関する法律2条)。改正相続法により日本法上の自筆証書遺言の方式が緩和されると、今後日本国内で外国遺言が有効と取扱われる範囲が増えることになるものと考えられます。

遺留分制度に関する見直し

改正法の概要

 改正相続法においては、遺留分制度についてその前提が大きく変更される見直しがなされ、物権的効力を有するとされていた遺留分減殺請求権が、債権的効力のみを有する遺留分侵害額請求権に変更されました(民法第5編第9章に「遺留分」(民法1042条~1049条)の項目が新設)。この改正に関する規定は、2019年7月1日に施行済みです。

 遺留分制度とは、被相続人が自由に遺産を遺贈等で処分してしまった場合に、相続人を保護するために、相続財産の一定割合を一定の範囲の相続人に留保するための制度です。
 これまでは、遺留分権利者が遺留分減殺請求権を行使すると、対象となった遺贈または贈与については、遺留分を侵害する限度で当然に失効し、受遺者や受贈者が取得した権利はその限度で遺留分権利者に帰属するとされていました。つまり、遺留分減殺請求権には物権的効果があるとされ、行使されると対象物は遺留分権者と受遺者または受贈者との共有状態となります。一端共有状態が生じてしまうと、これを解消するためには煩雑な手続が必要になることが多く、遺産分割や事業承継等の支障となっていました。

 新制度により、遺留分権は、「遺留分侵害額請求権」と名前を変え、この権利行使の結果生じる権利を金銭債権(つまり、侵害された分の価値を金銭で請求できる権利)化することとしました。また、金銭をただちには準備できない受遺者または受贈者の利益を図るため、受遺者等の請求により、裁判所が、金銭債務の全部または一部の支払につき相当の期限を許与することができるようにすることとなりました(民法1047条5項)。
 そのため、遺留分減殺請求権の行使により共有状態が当然に生じることを回避することができ、遺贈や贈与の目的財産を受遺者等に与えたいという遺言の意思を尊重することができるとされます。


【事例】
経営者であった被相続人が、事業を手伝っていた長男に会社の土地建物(評価額1億1,123万円)を、長女に預金1,234万5,678円を相続させる旨の遺言をし、死亡した(配偶者はすでに死亡)。遺言の内容に不満な長女が長男に対し、遺留分減殺請求。

<長女の遺留分侵害額>
1,854万8,242円
=(1億1,123万円+1,234万5,678円)×1/2 × 1/2 − 1,234万5,678円

<現行法>
会社の土地建物が長男と長女の複雑な共有状態に
持分割合:長男9,268万1,758/1億1,123万、長女 1,854万8,242/1億1,123万

<改正後>
遺留分減殺請求によって生ずる権利は金銭債権となる。同じ事例では、長女は長男に対し、1,854万8,242円 請求できる。

(出典:「相続に関するルールが大きく変わります」法務省パンフレット)

国際相続における影響と留意点

 各国において、一定の範囲の相続人を保護する制度は比較的多く存在していますが、その制度内容や保護の割合等は多種多様です。たとえば、韓国や台湾では遺留分制度が存在します。一方で、そもそも遺留分権は存在せず、相続人の一定の相続割合を侵害する態様での遺贈を無効とするような形で相続人を保護する法制度も存在します(イスラム圏の法制度など)。そのため、まずは諸外国の法律との制度上の違いがあり得るということについて理解することが重要です。

 日本法が適用される場合、遺贈を受けた側の相続人としては、新制度により、スムーズな相続手続ができることになります。

 これに対し、遺贈を受けていない(遺留分が侵害された)相続人は、遺産についてこれまでよりも立場が弱くなりますので留意が必要です。
 特に、受遺者または受贈者が日本にあった遺産を売却等して外国に去ってしまったような場合、遺留分の侵害された相続人は受遺者または受贈者に対する金銭債権しか持たないことになるため、これまでのように直接対象物に対する共有権を主張することができませんので、事実上回収不能となるリスクは高まります。その受遺者または受贈者の所在を確認し、遺留分侵害額請求権を行使することはできたとしても、国外での債権の回収には困難が伴います。このようなおそれがある場合には、事前に資産を保全するような手続を採っておくことが必要になるものと考えられます。

相続人以外の者の貢献を考慮するための方策

特別の寄与の制度

 改正相続法においては、相続人以外の者の貢献を考慮するための方策として、特別の寄与の制度が創設されました。この改正に関する規定は、2019年7月1日に施行済みです。

 特別の寄与の制度とは、相続人以外の親族が、被相続人の療養看護等を行った場合、一定の要件のもとで、相続人に対して金銭の支払を請求することができることとするもので、今回の相続法改正で新設されました(民法第5編第10章に「特別の寄与」として民法1050条を新設)。

 これまでは、相続人以外の者(長男の妻等)は、被相続人の介護に尽くしても、相続財産を取得することができませんでした。
 しかし、新制度においては、相続開始後、たとえば長男の妻は、相続人ではありませんが、相続人(長男以外の相続人)に対して、金銭請求をすることができるようになりました。なお、特別寄与料の額の上限は、被相続人の遺産から遺贈されたものの価額を控除した残額となっています。


【事例】
亡き長男の妻が被相続人の介護をしていた場合

亡き長男の妻が被相続人の介護をしていた場合

(出典:「相続に関するルールが大きく変わります」法務省パンフレット)

国際相続における影響と留意点

 このような寄与については、相続開始後に判明して争いになることが多く、新制度において、相続人だけだったものが相続人の親族にまで範囲が広がったため、日本法が適用される場合には、従前よりも協議や紛争の多発や長期化が予想されます。
 一方で、当該親族としては、これまでの寄与に応じた金銭を相続財産から受領する機会が得られることになりますので、日本法の適用の可否、および本制度の要件を満たしているか否かを確認して、積極的に制度を利用することが考えられます。

改正法はいつから適用されるのか

 相続手続は、被相続人の死亡前に行われた遺言作成、贈与行為から、被相続人の実際の死亡、その後の遺産分割等の手続等、長期にわたって行われます。そのため、今回の改正相続法がどの時点で行われた行為から適用されるかについても、押さえておく必要があります。

 まず、改正相続法の施行日は以下のとおりであり、原則としてはすでに施行済みです(平成30年11月21日付け政令第316号、317号)。

原則としての施行日 施行済み(2019年7月1日)
配偶者の居住の権利 2020年4月1日に施行予定
遺言書の方式緩和 施行済み(2019年1月13日)
「法務局における遺言の保管等に関する法律」 2020年7月10日に施行予定

 また、施行日前後の相続についての適用関係は以下のとおりです。
 原則として、施行日前に開始した相続(施行日前に死亡した者の相続については、施行日までに遺産分割が終了していないものについても含まれる)については、改正前の法律を適用することとされています。

 まず、配偶者短期居住権および配偶者居住権(ご参照「40年ぶりとなる相続法改正が国際相続に与える影響(配偶者の居住権を保護するための方策、遺産分割等に関する見直しについて」)は、旧法にない制度であるため、施行日前に開始した相続には適用がありません。また、施行日後の相続であっても、施行日前に遺贈がなされる旨の遺言がある場合(遺言作成時には存在しない制度について遺言が書かれている場合)には、解釈に混乱を生じるので、効力を認めない趣旨で、改正民法は適用されません。

 持戻し免除の意思表示(ご参照「40年ぶりとなる相続法改正が国際相続に与える影響(配偶者の居住権を保護するための方策、遺産分割等に関する見直しについて)」)については、施行日後に相続があったとしても、当該夫婦間での居住不動産の贈与自体が施行日前であれば、改正民法は適用されません。これは、贈与後に、贈与者が意識不明等となり、改正民法に対応する意思表示(持戻し免除の推定をされたくない旨の意思表示)ができない可能性があるためです。

 自筆証書遺言の方式緩和(ご参照「本設問1-1(1)自筆証書遺言の方式緩和」)については、施行日前にされた遺言については、遺言の効力は遺言時において規律するのが妥当であるため、仮に相続開始が施行日後であっても、旧法が適用されます。

 特別の寄与(ご参照「本設問3相続人以外の者の後見を考慮するための方策」)については、原則どおり、改正法の施行日前に開始した相続については適用されません。

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