民法改正が契約書の解除条項に与える影響

取引・契約・債権回収
幅野 直人弁護士 かなめ総合法律事務所

 2020年4月に施行される民法(債権法)改正によって、契約書における解除条項を修正する必要はあるでしょうか。

 改正民法においては、債権者に帰責性がある場合に解除ができないとされていますから、この場合にも解除できる場面を認めたいのであれば、その旨を契約書で明記しておくことが必要であると考えます。また、改正民法541条ただし書の適用の有無についても契約書上明記しておくことが望ましいでしょう。

解説

目次

  1. 改正前民法下における解除条項の例
  2. 民法改正のポイント
    1. 解除条項に影響を与える民法改正事項
    2. ①債務者の帰責事由の廃止
    3. ②債権者に帰責性がある場合の解除の制限
    4. ③催告解除の制限
    5. ④無催告解除の拡大
  3. 民法改正による契約条項の修正について
    1. ①債務者の帰責事由の廃止
    2. ②債権者に帰責性がある場合の解除の制限
    3. ③催告解除の制限
    4. ④無催告解除の拡大
    5. 民法改正に対応した解除条項例
  4. 今後の動向について
    ※本記事の凡例は以下のとおりです。
  • 改正民法:民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)に基づく改正後の民法
  • 改正前民法:上記改正前の民法

改正前民法下における解除条項の例

 民法改正施行前である現在も、解除条項は、多くの契約書に定められています。条項例としては、次のようなものがあります。

【改正前民法下における一般的な解除条項例】
第◯条(解除)
1 甲又は乙は、相手方が本契約のいずれかの条項に違反し、相当期間を定めて是正を求める催告後もその期間内にこれを是正しない場合は、本契約の全部又は一部を解除することができる。
2 甲又は乙は、相手方に次の各号のいずれかに該当する事由が生じた場合には、何らの催告なしに直ちに本契約の全部又は一部を解除することができる。
  1. 監督官庁より営業の取消又は停止等の処分を受けたとき。
  2. 自ら振り出し、又は裏書した手形又は小切手の不渡り処分を受けたとき。
  3. 第三者より仮差押、仮処分又は差押等の強制執行を受けたとき
  4. 破産、会社法上の特別清算、民事再生又は会社更生の手続開始の申立てがあったとき。
  5. 公租公課の滞納処分を受けたとき。
  6. 解散、合併、会社分割又は事業の全部若しくは重要な一部の譲渡の決議をしたとき。
  7. 財産状態が悪化し、又はそのおそれがあると認めることができる相当の事由があるとき。
  8. その他前各号に準ずる事由があるとき。

 改正前民法上も、履行遅滞解除(改正前民法541条、542条)や履行不能解除(同543条)などが認められており、契約書で解除条項を設けていなくてもこれらの法定解除は可能です。
 もっとも、法定解除だけでは不十分な場合があり、多くの契約書では、上記条項例のような解除条項を設けています。

民法改正のポイント

解除条項に影響を与える民法改正事項

 改正事項のうち、解除条項への影響が大きいものとしては、解除の要件に関するもの(改正民法541条~543条)があります。以下ではこれを、①債務者の帰責事由の廃止、②債権者に帰責性がある場合の解除の制限、③催告解除の制限、④無催告解除の拡大の4つに分けて説明します。

①債務者の帰責事由の廃止

 解除に債務者の帰責事由を要求している改正前民法(履行不能につき、改正前民法543条ただし書。履行不能以外については、明文はないものの一般に必要と解されています)を修正し、解除の要件から債務者の帰責事由を廃止しました(改正民法541条、542条)。

②債権者に帰責性がある場合の解除の制限

 債権者の帰責事由がある場合の解除の可否について改正前民法には明文の規定がありませんでしたが、改正民法においては、債務不履行が債権者の帰責事由による場合には、債権者は契約の解除ができないこととされました(改正民法543条)。

③催告解除の制限

 改正前民法は、解除をするために必要な不履行の程度を限定していなかったものの、判例 1 は、不履行の部分がわずかである場合や契約目的を達成するために必須とはいえない付随的な義務の不履行の場合、解除を認めていませんでした 2。そこで、改正民法は、債務不履行が「その契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるとき」には解除ができないとして、解除ができる場合を制限しました(改正民法541条ただし書)。

④無催告解除の拡大

 改正前民法では、債務不履行解除には原則として催告が必要であり(改正前民法541条)、無催告解除ができるのは、定期行為の履行遅滞による解除(同542条)と履行不能による解除(同543条)にかぎられていました。

 改正民法542条は、定期行為による解除(改正民法542条1項4号)と履行不能解除(同項1号)に加え、無催告解除ができる場合として、以下を明文化しました

  1. 債務者がその履行の全部を拒絶する意思を明確に表示したとき(同項2号)
  2. 債務の一部の履行が不能である場合または債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき(同項3号)
  3. 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が改正民法541条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき(同項5号)

民法改正による契約条項の修正について

①債務者の帰責事由の廃止

 改正前民法下においても、契約書上の解除条項に債務者の帰責事由を要求する文言を設けていることはむしろ少ないと思います。解除の要件として債務者の帰責事由を不要とした改正民法下では、別段の文言がない場合には、あえてそのことを明示せずとも、解除に債務者の帰責事由が不要であることを前提としていると解釈するのが素直であり、民法改正による契約条項の修正は不要であると考えます。もっとも、疑義が出ないよう「相手方の責めに帰すべき事由の有無にかかわらず、」と明記しておいてもよいでしょう。
 反対に、解除に債務者の帰責事由という要件をあえて加重したい場合には、改正前民法543条ただし書のような規定を契約書に追記することが考えられます。

②債権者に帰責性がある場合の解除の制限

 改正民法543条によって債務不履行が債権者の帰責事由によるときには解除できないとされました。そのため、上記改正前民法下における一般的な解除条項例のように債権者の帰責事由について何ら言及がない場合、解除に際して、相手方から「債権者の帰責事由によるものであるから解除はできない」旨の反論がされることが予想されます。
 そこで、債務不履行が債権者の帰責事由によるものである場合にも、解除できることを明確にするためには、上記改正前民法下における一般的な解除条項例に以下のような追記をすることが考えられます。

3 前項の規定は、前項各号に該当する事由につき、解除する当事者の責めに帰すべき事由がある場合にも、その行使及び効力を妨げられない。

 なお、上記改正前民法下における一般的な解除条項例1項も3項の対象とする場合には、「3 前2項の規定は~」とすることになりますが、債権者の帰責事由による債務不履行でも無制限に解除できるとすることは、信義則や公平の観点から疑問がないわけではありません 3

③催告解除の制限

 改正民法541条ただし書は、不履行が軽微である場合には解除ができないこととしました。そのため、上記改正前民法下における一般的な解除条項例1項のように解除に必要な不履行の程度について何ら言及がない場合には、改正民法541条ただし書を適用する趣旨か、排除する趣旨か疑義が生じる可能性があり、この点を明確にしておくことが望ましいと考えます。

 そこで、たとえば、契約書上も、改正民法541条ただし書を適用し、不履行が軽微な場合には解除できないようにしたいという場合には、上記改正前民法下における一般的な解除条項例に以下のようなただし書を追記することが考えられます。

1 (本文省略)ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。

 反対に、改正民法541条ただし書の適用を排除し、不履行が軽微な場合にも解除ができるようにしたいという場合には、以下のように文言を追記することも考えられます。

1 甲又は乙は、相手方が本契約のいずれかの条項に違反し、相当期間を定めて是正を求める催告後もその期間内にこれを是正しない場合は、民法第541条ただし書にかかわらず、本契約の全部又は一部を解除することができる。

④無催告解除の拡大

 改正民法542条は、無催告解除ができる場合を拡大しましたが、契約書に解除条項を設けることは、民法に基づく解除を排除する趣旨ではないと考えるのが素直であって、契約書の解除条項に改正民法542条各号の事由を追記する修正を行うことは基本的に不要であると考えます。
 もっとも、疑義が生じるのを避けるために、上記改正前民法下における一般的な解除条項例第2項に、以下のように追記するといった対応も考えられます。

2 甲又は乙は、民法第542条に定めるもののほか、相手方に次の各号のいずれかに該当する事由が生じた場合には、何らの催告なしに直ちに本契約の全部又は一部を解除することができる。
 (以下省略)

民法改正に対応した解除条項例

 以上を踏まえて、民法改正に対応した解除条項例として、以下が考えられます。

【改正民法下における解除条項例】
1 甲又は乙は、相手方が本契約のいずれかの条項に違反し、相当期間を定めて是正を求める催告後もその期間内にこれを是正しない場合は、本契約の全部又は一部を解除することができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。
2 甲又は乙は、民法第542条に定めるもののほか、相手方に次の各号のいずれかに該当する事由が生じた場合には、何らの催告なしに直ちに本契約の全部又は一部を解除することができる。
 (省略)
3 前項の規定は、前項各号に該当する事由につき、解除する当事者の責に帰すべき事由がある場合にも、その行使及び効力を妨げられない。

今後の動向について

 上記は、改正民法施行前における回答であり、改正民法が施行され、今後、判例や学説が蓄積された場合には、本記事が妥当しなくなる可能性も十分考えられます。
 今後の判例や学説の動向には十分注意する必要があります。


  1. 大審院昭和14年12月13日判決・法律新報567号23頁、最高裁昭和36年11月21日判決・民集15巻10号2507頁。 ↩︎

  2. 筒井健夫=村松秀樹 編著『一問一答 民法(債権関係)改正』(商事法務、2018)(以下、「一問一答」という)236頁。 ↩︎

  3. 改正民法543条の趣旨に関して、一問一答235頁では、「債権者は故意に債務の履行を妨げた上で契約の拘束力を免れることが可能になり、信義則及び公平の観点から相当ではない」と述べられています。 ↩︎

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