取引先である外国人の顧客に相続が発生した場合の準拠法に関する注意点

国際取引・海外進出
薬師寺 怜弁護士 牛島総合法律事務所

 外国籍のお客様に相続が発生した場合、その相続手続にはどの国の法律が適用されるのかについて教えてください。

 相続に関しては、原則としては相続が発生した方(被相続人)の本国の法律が適用されることになります。ただし、このような例はむしろ少なく、複数の国の法律が適用されることが一般的です。また、各国においてどの国の法律を適用するかの判断も異なってくるため、一層複雑さを増します。
 そのため、国際相続は、入り口の準拠法の段階から複雑になるという認識を持つことが必要になってきます。

解説

目次

  1. 準拠法とは
  2. 準拠法の基本
    1. 抵触法
    2. 各国における抵触法の違い(相続統一主義・相続分割主義)
    3. 反致
    4. 一般的な帰結
  3. 準拠法の応用問題
    1. 二重国籍・不統一国等の場合
    2. 公序良俗
    3. 先決問題に関する準拠法
  4. まとめ

準拠法とは

 被相続人(本件では逝去された顧客を意味します)やその相続人の国籍・住所、財産の所在地等が複数の国に関係する場合、具体的な相続処理にあたって、どの国の法令を適用すればよいかが問題になります。この際に適用される法令のことを準拠法といい、その事件にどの準拠法を適用すべきかというルールを定めるのが国際私法と呼ばれる法分野です。また、適用される法令の選択のルールを各国において具体的に定めた法は抵触法(conflict of law)と呼ばれています。

 なお、準拠法に限らない外国籍の顧客の相続に関わる一般的な問題点については「取引先である外国人の顧客に相続が発生した場合の一般的な注意点」をご参照ください。

準拠法の基本

抵触法

 日本において、準拠法は、問題となっている法律関係やその法的性質ごとに定められています。
 具体的には、準拠法の基本的なルールは、「法の適用に関する通則法」で定められています。法の適用に関する通則法における、相続に関する準拠法の定め方は以下のとおり非常にシンプルです(法の適用に関する通則法36条)。

法の適用に関する通則法36条
相続は、被相続人の本国法による。

 つまり、設例のように、外国籍の顧客が逝去した場合(被相続人が外国人の場合)、その顧客の国の法令が相続についての準拠法となります。

各国における抵触法の違い(相続統一主義・相続分割主義)

 日本においては、上記のとおり、相続の場合には単一の国の法律が適用されるという建付になっています。
 しかし、抵触法は各国において定められており、世界共通のルールはなく、各国が適用法の選択について独自の基準を持っています。

 たとえば、各国の法制度によって、そもそも準拠法の考え方が、以下のように大きく2パターンに分かれています。

分類 内容
相続統一主義 相続財産によって、準拠法を区別しない考え方。
この場合、不動産も動産も同一の準拠法が適用される。
例:ドイツ、イタリア、韓国等
(既述のとおり、日本も「相続は、被相続人の本国法による。」と規定しており、財産によって準拠法を分けていない)
相続分割主義 相続財産によって、準拠法を区別する考え方。
この場合、たとえば不動産は不動産の所在地の法が適用され、動産については被相続人の本国法が適用される。
例:アメリカ、イギリス、フランス、中国等

 そのため、適用される準拠法次第では、動産と不動産について適用される法律が異なることもあり得ることになります。

注意点:準拠法選択のルール自体が国によって異なるので、日本と外国のそれぞれの国で同じ相続問題を取り扱ったとしても、異なった法律が適用さることがあり得ます。その結果、相続の具体的な結論も異なる可能性があるということに注意が必要です。

反致

 日本においては、法の適用に関する通則法によって、外国人の顧客の相続については、その顧客の本国の法律が適用されることになります。ところが、上記2-2で述べたように、外国法では、日本法と異なり、不動産の相続の準拠法は、不動産の所在地法であるとされるケースが少なくありません。
 そうすると、相続対象となる日本所在の不動産については、いったん外国法を適用したものの、当該外国法を適用した結果、準拠法が日本法であると定められてしまう(戻ってきてしまう)ことになります。日本法では、このような場合には日本法を適用してよいとされています。このようなルールを定めているのが反致(はんち)と呼ばれる考え方です。

法の適用に関する通則法41条
当事者の本国法によるべき場合において、その国の法に従えば日本法によるべきときは、日本法による。(以下略)

 その結果、その顧客の本国の法律が日本法を指定しているような場合には、翻って準拠法が日本法となるわけです。

 そのため、いかなる国の法令が適用されるかを確認するためには、日本の抵触法を把握しておくだけでは足りず、当該外国法がどのような規定をしているかを把握しておく必要もあることになります。

一般的な帰結

 たとえば、設問のように、外国籍(A国とします)の顧客に相続が発生した場合、当該顧客が日本・A国・B国にそれぞれ不動産と動産を有していたような場合の準拠法は、日本の裁判所においては以下のように判断されます。どこの国の法律が本国法になるかによってだけでも、このように複数のバリエーションが存在します。

A国の抵触法が相続統一主義採用の場合

A国所在の財産 日本国所在の財産 B国所在の財産
不動産 A国法 A国法 A国法
動産 A国法 A国法 A国法


A国の抵触法が相続分割主義(不動産は所在地法、動産は本国法)採用の場合

A国所在の財産 日本国所在の財産 B国所在の財産
不動産 A国法 日本国法 B国法
動産 A国法 A国法 A国法


A国の抵触法が相続分割主義(不動産は所在地法、動産は常居所地法)採用で、かつ常居所地が日本であったような場合

A国所在の財産 日本国所在の財産 B国所在の財産
不動産 A国法 日本国法 B国法
動産 日本国法 日本国法 日本国法

※常居所地とは、社会生活を行ううえで人が現実に通常居住していると認められる場所を言います。

準拠法の応用問題

 上記が基本的な相続に関する準拠法の問題ですが、実際に個別具体的な案件で準拠法を判断しようとする場合には、判断が難しい場面が数多く出てきます。
 以下ではそのような場面についてどのように判断されるべきかについても説明します。

二重国籍・不統一国等の場合

 相続準拠法を確認する際、たとえば被相続人が二重国籍であった場合や無国籍であった場合、あるいは当事者の本国において、地域または属する宗教によって適用される法律が異なる場合など、被相続人の「本国法」がどこの国の法律かの判断が難しい場合があります。

 日本の国籍法では二重国籍を認めていないため、日本人は一般的に「本国法は1つ」だと思いがちですが、世界的には二重国籍が認められている国も多くあります(なお、余談ですが日本でも未成年の間は二重国籍が認められています(国籍法14条))。
 被相続人が二重国籍であった場合には、以下のルールで「本国法」が決められることになります(法の適用に関する通則法38条1項)。

  1. 国籍のうちのいずれかが日本の国籍であるとき
    日本法
  2. その国籍を有する国のうちに当事者が常居所を有する国があるとき
    その国の法
  3. その国籍を有する国のうちに当事者が常居所を有する国がないとき
    当事者に最も密接な関係がある国の法

※「最も密接な関係がある国」がどこかは、被相続人が出生した国か否か、居住・就労の経験の有無やその期間、家族が居住しているか否か、被相続人の使用言語等を考慮して判断されることになります。

 また、被相続人が無国籍の場合には「常居所地」の法律が本国法となります(法の適用に関する通則法38条2項)。

 さらに、アメリカ・カナダ・イギリスなど一国の中の地域や州によって適用される法律が異なる場合(地域的不統一国と言います)、イスラム圏など、宗教の違い等によって適用される法律が異なる場合(人的不統一国と言います)には、以下のルールで「本国法」が決められることになります(法の適用に関する通則法38条3項、40条1項)。

  1. 当事者が地域により法を異にする国の国籍を有する場合
    その国の規則に従い指定される法
  2. 上記①のような規則がない場合
    当事者に最も密接な関係がある地域の法

公序良俗

 「外国法によるべき場合において、その規定の適用が公の秩序又は善良の風俗に反するときは、これを適用しない」とされています(法の適用に関する通則法42条)。

先決問題に関する準拠法

 ひとえに「相続」と言っても、相続問題を解決するためには、相続の前提となる様々な問題が含まれていることもあります。
 たとえば、①被相続人の夫・妻と名乗る人が本当に相続人たる配偶者かについて争いがある場合(婚姻・離婚等の問題)、②被相続人が遺産として捉えていた不動産について、第三者との間で所有権の帰属について争いがある場合(物権の問題)、③遺言が有効か否かについて争いがある場合(遺言の問題)、などがあり得ます。このように、何かの法律問題の前提として解決しておかなければならない問題のことを、先決問題と言います。
 すでに述べたとおり、準拠法は問題となっている法律関係やその法的性質ごとに定められています。そのため、これらの先決問題については、ひとくくりに「相続」の問題として一つの国の法律が適用されると即断できず、それぞれの法的性質ごとに準拠法を確認していかなければなりません。
 上記の例で言えば、①婚姻や離婚の効力(法の適用に関する通則法25条、27条)、②物権およびその他の登記をすべき権利(法の適用に関する通則法13条)、③遺言の方式(遺言の方式の準拠法に関する法律)、遺言の成立および効力(法の適用に関する通則法37条)のように、それぞれの法的性質ごとに、準拠法の定められ方は異なっています。

先決問題に関する準拠法

注意点:準拠法は、個々の法律関係についてそれぞれ個別に定められていますので、一概に相続といっても、その法律問題すべてに同じ国の法律が適用されるわけでもないことに注意が必要です。

まとめ

 このように、一度国際相続が発生すると、前提問題を含めて複数の問題点が発生し、それに対して準拠法も複数の国の法律が適用され、複雑になることが一般的です。
 また、各国においてどの国の法律を適用するかの判断も異なってくるため、一層複雑さを増します。
 以上のように、国際相続は、入り口の準拠法の段階から複雑になるということを認識しておく必要があります。

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