M&A仲介大手のストライクとIPOやM&Aを多く手掛ける弁護士が語る デューデリジェンスとPMIの作法

コーポレート・M&A

目次

  1. M&Aはカジュアルに、設備投資の感覚で
  2. 照準を絞ったデューデリジェンスで成功の確度を高める
  3. M&Aを担える弁護士のバリュー

M&Aマーケットの活況が続いている。富士フイルムホールディングスによる富士ゼロックスの子会社化(約2,530億円)、アサヒグループホールディングスによるカールトン&ユナイテッドブリュワリーズの買収(約1兆2,000億円)など、大企業がプレーヤーとなる大型案件が相次ぐなか、足下では金融緩和で生まれた潤沢な資金を後継者難の中小企業やスタートアップをターゲットとするM&Aに振り向ける流れも顕著だ。

過熱するマーケットのなかでM&Aを失敗に終わらせないために、企業の法務担当者や弁護士に求められているものとは何か。数多くのM&A仲介を手掛ける株式会社ストライクの荒井邦彦氏と多数の上場企業およびIPO準備企業(ベンチャーやスタートアップ等)の法律顧問を務め、数多くのM&A案件を取り扱うフォーサイト総合法律事務所の大村健 代表パートナー弁護士に聞いた。

M&Aはカジュアルに、設備投資の感覚で

昨今の日本企業のM&Aの状況をお二人はどのように見ていますか。

荒井氏:
日本のM&Aは今まさに普及期にあります。要因は大きく分けて3つです。

1つ目は金融緩和。この政策の影響が一番大きいと思います。優良な貸出先を見つけにくいなかで、前向きな資金需要に対しては、銀行がバックアップしてくれるという環境があります。2つ目は事業承継。団塊の世代の経営者が引退期に差し掛かり、お子さんが会社を継いでくれない中小企業が非常に多くなっています。3つ目は制度改正。M&Aとは法律行為ですから、法改正の影響を大きく受けます。過去20年の大きな方向性としては、M&Aを増やす方向に法整備がなされてきましたし、この先もおそらくその傾向は変わりません。

少子化・高齢化の進行によって多くの産業が収縮していくなかで、今後も資本効率の改善を目指した業界再編の動きは続いていくでしょう。「1+1」を「2」や「3」にするためではなく、「1+1」を「1.7」にするようなM&Aが増えていくとみています。

株式会社ストライク 代表取締役社長 荒井邦彦氏

株式会社ストライク 代表取締役社長 荒井邦彦氏

大村弁護士:
さらに最近は、M&Aのパターンも増えてきました。昨今のスタートアップブームもあり、スタートアップのイグジット手段として、IPOではなくM&Aを選択するクライアントが増えています。最近では、完全にイグジットするだけでなく、一部の株式をイグジットして大手企業の傘下に入ったうえで、IPOを目指すパターンもあります。あるいは、プライベート・エクイティ・ファンド(PEファンド)に一部、M&Aしたうえで、体力をつけてからIPOを目指すケースも増えてきています。

とはいえ、昨今のIPOはこれまで以上に難しくなってきていますから、今後も数が増えるかというと、そう簡単には増えません。そのため、日本でもシリコンバレーのように、イグジットの手段としてM&Aが選択されるケースが増えてくると思います。

事業承継関連のM&Aの状況はいかがでしょうか。

荒井氏:
当社が仲介するM&Aは、約6割の企業が後継者不在です。一般的には選択と集中の一環として不採算事業や競争力が低下している事業を売却するケースが多いですね。

買い手側に共通点はありますか。

荒井氏:
資金力のある企業です。ほとんどの業種で、業界全体が右肩下がりになっていく状況で成功を手にするために、M&Aは企業にとって外せない選択肢になってきます。設備投資と同じ感覚でM&Aを実行していかなければならない時代に入ったのかもしれません。

この数年、あるいは10年ほどのスパンのなかで、M&Aに対する企業のマインドに変化はありますか。

大村弁護士:
M&Aが比較的カジュアルになってきましたね。企業が成長戦略としてM&Aを掲げる例が増え、M&Aに対するハードルが確実に低くなっています。

当事務所の顧問先の多くは上場企業またはIPO準備企業ですが、上場後の成長戦略として必ずM&Aがあげられます。最近はディール額も増加傾向にあります。

企業の資金調達手段も多様化しています。案件としては、特に後継者問題は従前と変わらずニーズがありますし、今後も増えるでしょう。スタートアップに関しても、IPOでのイグジットが難しくなるなかで、M&Aを選択する会社が多くなりました。M&A全体の件数としては、今後増えてくるのでしょうね。

フォーサイト総合法律事務所 大村健 代表パートナー弁護士

フォーサイト総合法律事務所 大村健 代表パートナー弁護士

スタートアップのイグジットとしてのM&Aに関しては、最近特にコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)の話題が聞かれます。ベンチャーを取り巻くお金の流れが活発化する背景にはどのような要因があるのでしょうか。

大村弁護士:
まず、金融緩和によって企業に潤沢な資金があります。さらに、スタートアップブームのような市場のムードも手伝って、現在はバリュエーションもあってないようなものです。純資産額が数億円に満たないような会社が、何十億円で評価されるということが普通に起こっていますからね。

ただ、純資産額よりも高いバリュエーションをつけすぎると、次にM&Aするときに、のれんの計上が重くなり、上場会社が手を出しにくくなる案件もあります。

荒井氏:
スタートアップを買収した会社は、かなり高い確率で減損していますね。ただ、伝統的な大企業から新しいビジネスのネタはそう簡単には出てきません。なぜなら、大企業に勤めたい人の多くは、ベンチャー企業での仕事より大企業の仕事に魅力を感じているからです。そういった意識の人が、急に「新しいことをやれ」と言われても難しいですよね。ネタは外にあり、そこを繋ぐのがCVCと考えれば、多少の減損は許容すべきでしょう。

照準を絞ったデューデリジェンスで成功の確度を高める

M&Aに成功のセオリーは存在するのでしょうか。

荒井氏:
残念ながら、成功のセオリーはありません。しかし、失敗には法則があります。それが多く見られるのがM&Aの後です。どちらも売るため、買うために事業をやってきたわけではないので、企業文化は違って当たり前なのですが、お互いに、あるいは一方が相手の文化をないがしろにしてしまう。このような場合は失敗します。人が辞め、会社がガタガタになっていくのです。そのような例は本当に多いですね。ですから、M&Aを行う場合は、「こちらとあちらは、もともと違う会社だ」という前提から入るべきだと思います。

規模の大小を問わず、M&Aの実務において外せないポイントはありますか。

大村弁護士:
どのようなM&Aでも、必要な範囲のデュー・デリジェンス(以下、「DD」といいます)は行うべきですね。財務、法務、場合によっては税務、ビジネスDDまで考えられます。どこまでやるかは状況次第ですが、最低限のDDはされた方が良いと言えます。

法務の領域に関して言えば、見ておくか、見ておかないかで、実務へのインパクトに大きな差が出ます。たとえば、買収対象の会社の事業の一部に違法性がある場合です。そのようなケースでは、該当する事業の切り離しについてアドバイスすることになります。

あとは買収後のPMIですね。買収して終わりというムードの会社も少なくありませんが、実のところ買収後のPMIこそ重要なのです。私はいろいろな会社の例を見てきましたが、勝負は買収後の100日ほどで決まります。買収後の100日間は、買収側の主要なポジションの方が買収した会社に張り付いている案件のほうが、比較的順調に進んでいく場合が多いですね。

DDやバリュエーションに関して、企業の法務担当者へのアドバイスはありますか。

大村弁護士:
クライアント側の予算が限られているケースも多く、必然的にDDは、ある程度限られた予算のなかでスコープを絞って行うことが多くなります。ただ、比較的経験の浅い法務担当者の方から「予算はこれくらいですが、全体を見てください」と言われる場合もないわけではありません。全体を見ることになれば、それなりの工数とコストがかかりますので、なかなか踏ん切りをつけるのも難しいところかもしれませんが、予算との兼ね合いで、危険な箇所を重点的に見ていくという判断も必要となります。

荒井氏:
DDをやってもわからないことがあります。たとえば、買収対象の建設会社が、過去に手抜き工事をしていたというケースがあったとします。それでも、その建設会社が請け負った過去の建築物すべてを調べるのは、現実的に不可能ですよね。ですから、どこかで腹を括る覚悟は必要です。時間とコストには当然制約がありますから、DDの対象項目を絞り込むことは、M&Aの実務上必須と言えるでしょう。

株式会社ストライク 代表取締役社長 荒井邦彦氏(左)、フォーサイト総合法律事務所 大村健 代表パートナー弁護士(右)

株式会社ストライク 代表取締役社長 荒井邦彦氏(左)、フォーサイト総合法律事務所 大村健 代表パートナー弁護士(右)

M&Aの売り手と買い手が最も求めているものは何でしょうか。

荒井氏:
会社を売ろうとしている方が我々に求めるものは、「良い相手」と「良い条件」の2つです。譲渡価額は高いほうが良いに決まっていますし、思い入れのある会社を託すなら、経営者としては、知名度の高い会社や、世界で活躍するような企業に買ってもらえれば、名誉なことですよね。社員さんにも説明しやすいですし、きっと安心してもらえるでしょう。

買い手から見ても同じことです。両者が考える「良い相手」と「良い条件」の距離を埋めていく、未発見の事業機会を繋いでいくのが我々の仕事です。

「良い条件」と「良い相手」を揃えていくためには何が必要でしょうか。

荒井氏:
当たり前のことを当たり前にやることですね。当社のサービスでは今、買いたいという企業さんが8,000社ほど、売りたい企業さんは300社弱ほどいらっしゃいます。できるだけ、この情報量を増やしていくことが、お客様のご要望に応えることに繋がっていくと考えています。

M&Aを担える弁護士のバリュー

M&A案件に関して、大村先生はどのような形でサポートを行っているのでしょうか。

大村弁護士:
当事務所が行う主な支援の1つは、スキーム策定です。事業譲渡や株式譲渡、出資、吸収分割、新設分割したうえで株の譲渡を行うなど、様々なスキームに関して、法的な観点からアドバイスをします。当然、吸収分割や会社法上の組織再編に絡むものは、法定の手続きがありますから、スケジュール管理なども含めてアドバイスをします。

もう1つは法務DDです。たとえば、上場を目指すベンチャー企業やスタートアップ企業が、上場が難しくなってM&Aするケースなどでは、ある程度労務管理がなされているケースが多いのですが、創業数十年のオーナー社長の中小企業などでは労務管理がゆるい場合も少なくありません。そのような場合は、「労務を重点的にやりましょう」といったアドバイスをすることが多いです。

事業の適法性についてはいかがですか。

大村弁護士:
それは、大前提として確認しますね。その他には、事業上の契約を承継できるかどうか。チェンジオブコントロール条項があるかどうかなどの観点も見逃せません。

それから、SPA(株式譲渡契約書)や株式交換契約書等の契約書作成です。当事務所がクライアントに必ずお伝えしているのは、法務DDと契約書作成とは両輪であるということです。どちらかだけでは不完全です。法務DDで出てきた問題点をクロージングの条件にする、あるいは、クロージング後に履行してもらうといった点について判断してもらわなければなりません。ですから、DDと契約書作成は、一対でなければならないのです。

今後、日本のM&Aはどのような形で普及していくべきでしょうか。また、弁護士はどのように関わっていくことが求められていますか。

荒井氏:
M&Aとは、「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」という経営資源を、再配分する行為です。なぜ経営資源を再配分するかといえば、生産性を上げるため、企業の収益力を高めるためです。その結果、生産性が高まって給与の支払い余力が高まれば、従業員の給与が上がるかもしれません。企業の生産性が高まって相対的に安い価格で商品が提供できれば、消費者がメリットを享受できます。会社が儲かれば、投資家も儲かります。本来、M&Aとはそういうものですよね。私たちが考えていることは、まさにそのようなことです。

大村弁護士:
弁護士の関わり方としては、バイサイドのニーズが圧倒的に高いです。しかし、ここ数年は、当事務所もセルサイドに関わるケースが増えてきました。つまり、上場を目指していたけれど、いろいろな事情で断念せざるを得なくなり、M&Aに踏み切るケースが増えてきたわけですね。

以前、当事務所がバイサイドで関わった案件では、セルサイドに立った弁護士さんにM&A実務のノウハウが欠如していたことがボトルネックになり、案件を進めるために苦労したことがありました。弁護士業界全体として、M&A実務の知識を高めていくことは不可欠ですが、加えてセルサイドで関わることができる弁護士が増えていくことも望まれていると感じます。

また、M&Aは基本的には会社法の問題ですが、実際のDDは労働法や知的財産法など、様々な法分野を掛け合わせた総合格闘技のようなものになります。ですから、チーム体制で対応されたほうが良いでしょうね。

(取材・文・写真:BUSINESS LAWYERS 編集部)

この特集を見ている人はこちらも見ています

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

1分で登録完了

無料で会員登録する