デジタル・プラットフォーマー規制とデータの移転・解放

第2回 データの移転・開放等の在り方に関するオプションの概要(後半)と考え方のポイント、政府の動向

IT・情報セキュリティ
日置 巴美弁護士 三浦法律事務所

目次

  1. データの移転・開放等の在り方に関するオプションの概要
    1. 競争の促進のための移転・開放ルールの内容
    2. データの移転・開放を実現するためのアプローチの選択肢の整理
  2. データ移転・開放に関する考え方のポイントと政府の動向
    1. データ移転・開放に関する考え方のポイント
    2. 政府の動向
  3. 「デジタル・プラットフォーマーと個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方(案)」と個人情報利活用への影響
  4. まとめ

 前回は、デジタル・プラットフォーマーによるデータの寡占化と規制に関して、「データの移転・開放等の在り方に関するオプション」(デジタル・プラットフォーマーを巡る取引環境整備に関する検討会、データの移転・開放等の在り方に関するワーキング・グループ。以下「データ移転・開放オプション」という)における検討状況を踏まえ、公正な競争環境の整備および利用者の選択機会の確保に関する課題を整理しました。
 本稿では、引き続き、データ移転・開放オプションの概要を説明し、データ移転・開放に関する考え方のポイントと政府の動向を解説します。

データの移転・開放等の在り方に関するオプションの概要

競争の促進のための移転・開放ルールの内容

 前回の 2-4(2)移転・開放の対象範囲で特定した範囲において、具体的にどのようなデータの移転・開放を求めるかについては、利用者が安心して、簡便にデータを再利用できることが重要です。データ移転・開放オプションでは、「公正な競争環境の整備」および「競争促進のための利用者の選択の機会の確保」の観点から、ルールの内容について整理されています。

取扱条件の明確化および表示の適正化 <背景・問題>
データの移転・解放の規制がない場合、個別の契約・約款に応じた対応がなされることとなるが、デジタル・プラットフォーマーと利用者の力関係やロックインの状況によってデジタル・プラットフォーマーが提示する対象や取扱い条件を受け入れざるを得なくなる。

<検討すべき事項>
  • データの移転・開放に関する公正性を確保するため、データの移転・開放を求めることに加えて、少なくとも、データの移転・開放の対象や取扱条件の明確化による透明性の確保についても、検討すべき。

  • Data Transfer Project等の自主的な取組を注視しつつ、下記についても検討する必要がある。
    1. いかなる場合にデータの移転・開放を可能とすべきか
    2. 個別の契約や約款において、データの移転・開放の対象や取扱い条件を含む内容の透明化を確保する在り方

  • 明示する取扱い条件については、その内容が利用者にとってわかりづらいものであったり、利用者にとって誤解を招くような表示となったりすることのないよう、取扱い条件の表示の適正化についても検討することが重要。
簡便な操作性の確保 データの利用者が随意に移転を実現できるよう、アクセスの容易性や簡便な操作性を確保することが必要。
同時に、競争の促進の観点からは、利用者に対して、その活用によるメリット等について理解を深める取組を行うことも考えられる。
データ移転先の安全性の確保 <検討事項>
  • データの移転・開放の際に、たとえばAPIの開放による利用者を経由しない形での移転など、データの安全性をどのように確保するのか
  • データの受け手:体制整備や通信の安全性
  • 利用者保護の観点から:本人およびデータの受け手の同一性・権限の確認等の必要な措置
相互運用性の確保 移転・開放先での可用性の確保のため、データの相互運用性を確保する取り組みが必要
費用負担の検討 デジタル・プラットフォーマーと利用者とでの分担について、慎重に検討する必要がある

データの移転・開放を実現するためのアプローチの選択肢の整理

 データの移転・開放を実現するためのアプローチは複数存在しますが、下記のメリット・デメリットを踏まえ、データの移転・開放ルールの必要性として掲げた、公正な競争環境の整備および利用者の選択の機会の確保による競争の促進の観点から、検討されるべきとされています。

 検討の際に留意すべき点としては次の2つの視点があげられています。

検討の視点 1:国内外の事業者のイコールフッティング
検討の視点 2:適切なエンフォースメントの仕組み

アプローチの選択肢に関するメリット・デメリット

オプション メリット デメリット
法規制 ①新たな立法措置 法的拘束力を有し、規律に基づく執行が可能 詳細な運用ルールや技術標準を法令で規定することは、イノベーションのスピードが速く、規制が陳腐化するおそれがある。また、法律が技術を固定化する弊害を生じ得る。
②既存の法制度に基づくガイドラインの策定 新たな立法措置に比べて迅速な対応が可能 現行の法律の範囲内での対応に限定されるため、実現可能性が疑問
自主規制 業界団体による
①行為規範、
②民間のガイドラインの策定
※十分な自主規制が早期に制定されない場合等、自主規制で不十分な場合には、政府による法規制等の対応が必須とする。
イノベーションのスピードや技術の変化に柔軟に対応可能
  • 拘束力に問題がある
  • 一部の者のみ自発的に対応することでは全般的な課題解決に資するものではない
  • 新規参入の阻止や消費者にとって不利なものとなるおそれ
共同規制※
  • 基本的な枠組みは法規制
  • 技術的な側面や詳細な運用ルールについては、ステークホルダーによる①行為規範や②民間ガイドラインなどの形で策定
法規制、自主規制の課題解決の一案。詳細を民間の規制に委ね、また、その策定・運用に政府が関与すれば、適切性や実効性の担保が可能 明確なデメリットではないが、注意すべきところとして、法執行の実効性確保の観点から、共同規制の適切な枠組みの検討とバランスを図ることが重要

※共同規制:法規制と行動規範や民間ガイドラインの組み合わせ

データ移転・開放に関する考え方のポイントと政府の動向

データ移転・開放に関する考え方のポイント

 データの有する価値が見いだされ、そのために競争法的にデータの利活用を推進する政策を推し進めることは、経済にとって一面ポジティブにとらえられるものではあると考えます。

 しかしながら、個社ごとにサービス内容を検討し、コストをかけてサービスを提供するなかで、サービスの提供に必須、またはサービス提供に伴い副次的に集まったデータについて、法的または政策的介入を許す状況や範囲とはどのようなものか疑問がわきます。このため、データ移転・開放について具体的な対応を検討するにあたっては、規制し、または自主規制等に対して推奨する閾値を定めるべく、基準を明瞭にする必要があると考えられます。

 また、そもそもそのような法的または政策的介入を根拠づける理由についても明らかにすべきではないかと思われます。データに関する本人の保護、デジタル・プラットフォーマーの営業利益、競争政策の観点という対立軸によって判断基準が異なるものとなりますが、データ移転・開放の詳細についてどのような線引きがされるのか、また、アプローチがされるのかと相関的なところもあり、今後の検討における注目点と考えられます。

政府の動向

 データポータビリティとAPI開放は、「成長戦略実行計画」(令和元年6月21日)の中で内閣官房にデジタル市場の競争状況の評価等を行う専門組織を設置するとして方針作成等を行うことや、金融分野、医療分野といった具体的分野ごとにデータポータビリティ・API開放について具体的制度設計の検討を行うこととされています。また、レガシー規制について、デジタル市場に即したルールの整備を図ることが併せて謳われています。

 データポータビリティについては、個人情報保護の文脈で取り上げられることが多くありますが、個人情報保護法の改正論点としては、消極的な位置づけにあります。前述の成長戦略実行計画においては、個人情報保護法の見直しという項目がありますが、そのなかでデータポータビリティは明示されていません。

 また、個人情報保護法の改正について謳っている「デジタル時代の新たなIT政策大綱」(令和元年 6 月 7 日、高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部・官民データ活用推進戦略会議)においても、データポータビリティの明示はありません。さらに、個人情報保護委員会が公表した「個人情報保護法いわゆる3年ごと見直しに係る検討の中間整理」(平成31年4月25日)においても、データポータビリティは「必要性等について、消費者ニーズや事業者のメリット・実務負担等を含め、議論が現在様々な場で行われている段階であることから、このような議論の推移を見守る必要がある。」と慎重な姿勢がうかがわれます。

 実際、個人情報保護委員会が検討を進めまとめた「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直し 制度改正大綱(骨子)」(令和元年11月29日公表)にも、データポータビリティの記載はありませんでした。

 個人情報保護法においては、EUが代表例ではありますが、データポータビリティ権が明記される国、地域があります。しかし、たとえばEUにおいては、欧州基本権憲章において、プライバシーと個人情報保護が別途権利として明記される背景があり、したがって強い権利が法令において認められるところがあります。わが国においては、個人情報保護法の制定当時、開示、訂正、利用停止等の求めについて、それが請求権であるのか、何を根拠とするのかあいまいなままとされてきたところを、平成27年の改正で権利として明記しているところです。このような背景の違いを加味しつつ、どのような結論を得るのか今後の検討に注目が集まるところです。

「デジタル・プラットフォーマーと個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方(案)」と個人情報利活用への影響

 公正取引委員会は、令和元年8月29日「デジタル・プラットフォーマーと個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方(案)」(以下「ガイドライン案」といいます)を公表し、パブリックコメントに付しました(同年9月30日締め切り)。

 その内容は、デジタル・プラットフォーマーによる消費者からの個人情報等の取得・利用に対して、独占禁止法の優越的地位の濫用規制を適用するものであり、従来の公正取引委員会のスタンスとは異なるものです。競争法的な観点からの議論のほか、個人情報保護法の観点からも次のような疑問があります。

 ガイドライン案は、デジタル・プラットフォーマーと個人情報等を提供する消費者との取引を対象とするものですが、その文面上は明確にしていないものの、デジタル・プラットフォーマーによる消費者の個人情報等の取扱いは、個人情報保護法の規律する個人情報取扱事業者(同法2条5項)による個人情報(同法2条1項)の取扱いを含むものと考えられます。

 しかし、個人情報保護法との関係が明確ではないことから、同法の運用との平仄についてどのように考えているのか定かではありません(ただし、この点は個人情報保護委員会が『「デジタル・プラットフォーマーと個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方(案)」に対する当委員会の考え方について』を令和元年8月29日に公表し、個人情報保護法が必要最低限の規律であることに触れつつ、独占禁止法による規制を許容する立場を明らかとしています)。
 同法の運用上適法である行為については、デジタル・プラットフォーマーにおいても当然に問題のないものとしてビジネスモデルを設計し、個人情報を取り扱ってきたところであり、消費者にもその運用が浸透しているところがあります。このため、少なくとも、問題となる行為があるとすれば、個人情報保護法の運用を踏まえて、基本的には謙抑的かつ限定的なもののみ対象とするべきではないかとの疑問があります。

まとめ

 以上のとおり、データに着目したデジタル・プラットフォーマー規制については、結論を得ていないものではありますが、法令によって規制される場面も想定され、また、政府の中心的な政策となっています。直近では3の独占禁止法の規制がどのようなものとなるかが注目され、また、データ移転・開放についての検討については「デジタル市場競争会議」やそのワーキンググループの議論等に注目しつつ、意見表明や必要な準備を検討していく必要があるものと考えられます。

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