隼あすか法律事務所が考える、これからの企業と法律事務所の関係 新しい時代に選ばれる法律事務所となるために
法務部
目次
2007年に隼国際法律事務所とあすか協和法律事務所が合併する形で設立し、企業法務を主軸に多種多様な法分野におけるリーガルサービスを提供している隼あすか法律事務所。同所は法律事務所とクライアント企業との新しい関係性についても模索しており、毎月定額で契約書チェック・レビューを行う「契約書アウトソーシング」サービスといったアウトソーシング型リーガルサービスをはじめ、特徴的なサービスを提供しています。
本稿では、近年における法律事務所とクライアント企業との関係性の変化や、これからの時代の法律事務所に求められる役割、および同所の展望について、多田 光毅弁護士、鈴木 康之弁護士、幅野 直人弁護士に聞きました。
法律事務所は受け身の姿勢から、法務課題を自ら発見していく役割へ
貴所の沿革や専門分野について教えて下さい。
多田弁護士
当事務所は2007年に隼国際法律事務所とあすか協和法律事務所が合併する形で設立されました。特徴としては、国際的な案件を多く取り扱ってきたこと、大規模破産管財事件を複数担当してきたことがあげられます。特定の分野に限定することはなく、企業法務の総合事務所として、成長してきました。最近では、クライアントに的確なリーガルサービスを提供することを意識して、クライアント訪問などの取り組みも行っています。
クライアント企業との関係構築にむけて新たな取り組みも行っているのですね。これまでは、企業と法律事務所の関係はどのようなものでしたか。
多田弁護士
かつては、企業にはお抱えの法律事務所があり、何かあるとその法律事務所に相談を持ち込むという形が多かったと思います。法律事務所もそれに対応する形で、企業から相談が持ち込まれるまでは動かない、いわゆる受け身の姿勢が一般的だったのではないでしょうか。
企業と法律事務所の関係性は、近年ではどのように変わってきているのでしょうか。
多田弁護士
従来の関係を継続しているクライアント企業も多い一方で、いまは1つの企業が複数の法律事務所を使いわけるのが当たり前の時代となってきました。法律事務所側も案件を待つだけではなく、企業が抱える法務課題を自ら発見していく役割も求められているように感じます。
鈴木弁護士
各法律事務所が自らの強みや特徴を積極的にアピールするようになり、法律事務所の在り方も多様化してきたように感じます。企業が法律事務所を使いわけることを前提として、特定分野の専門性をアピールする法律事務所や弁護士が増えてきた印象がありますね。
多田弁護士
これまでもブティック系などといわれる専門特化した法律事務所はありましたが、最近はそれがより顕著になっているように思います。
幅野弁護士
あくまでも予想ですが、企業は法律事務所を、何か物を買うのと同じような感覚で選ぶようになるのではないか、と考えています。
「物を買うのと同じ」とは具体的にはどういうことでしょうか。
幅野弁護士
これまで企業は、過去のお付き合いや人のつながり、法律事務所のネームバリューで依頼先を選んできた部分が大きいと感じています。
一方、物を買う時は、もちろんお付き合いや会社のネームバリューを重視する場合もありますが、品質や価格を重視する場合が多いと思います。何を重視するかは企業や案件によるでしょうが、これまでよりも品質や価格がより重視されるようになるのではないかと考えています。
鈴木弁護士
その話でいえば、1つの会社からしか物を買わないということは普通ありえないですよね。先ほど、企業が法律事務所を使いわけるという時代になったという話がありましたが、それも物を買うのと同じように法律事務所を選ぶという傾向による変化の1つかもしれませんね。
企業と法律事務所の関係性が変化するなか、企業から依頼が増えている業務、また依頼タイミングの変化などはありますか。
多田弁護士
顧問弁護士が他にいる企業からたとえば「M&A関連業務だけ依頼したい」とご相談があるなど、当事務所の得意分野にもとづいた、特定分野や個別案件に絞った依頼が増えています。こうした依頼は、弁護士の数が増え、また弁護士による発信が盛んに行われるようになったことで、企業側が弁護士を比較検討できるようになったことも要因にあると考えています。
また、従来は単純な翻訳業務の依頼というのも多かったのですが、最近では、翻訳は企業がITツールを使って行い、翻訳後の特定箇所のレビューだけを依頼されることも増えてきています。
選ばれる法律事務所となるために、「弁護士はサービス業」だと理解することが重要
隼あすか法律事務所とクライアント企業はこれまでどういった関係性を築いていましたか。
多田弁護士
私たちの事務所も例に漏れず、クライアント企業から持ち込まれる案件に受け身の姿勢で対応してきました。結果として企業法務分野に幅広く対応できる総合法律事務所となりましたが、今後はそういった強みを活かしつつ、時代の変化にも対応していかなければならないと思っています。
鈴木弁護士
企業が法律事務所を使いわける時代なのであれば、私たちも、それを前提にして、企業から選ばれる法律事務所になる必要があります。どうすれば選ばれる法律事務所になれるか、答えは1つではないと思いますが、それを考えていかなければなりません。
幅野弁護士
私は、弁護士はサービス業だと理解することがその答えの1つだと思っています。普通の企業がクライアントに対して当たり前に行っている対応を法律事務所も実行するだけで随分違うのではないでしょうか。
具体的にはどういうことでしょうか。
幅野弁護士
たとえば、法律事務所が提供するサービスの内容や費用を明確にすることが考えられます。企業法務分野のリーガルサービスは、これまでタイムチャージが一般的でしたが、一般企業が行うサービスでタイムチャージのものって少ないですよね。タイムチャージは依頼業務に実際にかかった時間によって金額が変化するため、クライアントからすると費用が読めず頼みづらいという側面があるでしょう。こうした点をはじめ、徐々に変えられるところはあるはずだと思っています。
鈴木弁護士
また専門化、あるいは分業化といった方がわかりやすいかもしれませんが、ここも改善の余地があると思います。これまで弁護士は何でもできるスーパーマンみたいな役割が当たり前だったと思うのですが、普通の企業なら、部や課がわかれていますよね。医師も専門領域はわかれています。
私は海外案件を取り扱うことが多いですが、海外の弁護士は日本よりずっと専門化が進んでいます。たとえば海外では中堅規模の事務所でも、自身の担当分野でない案件を所内で専門性をもつほかの弁護士に融通する仕組みが整っているなど、弁護士個々人が専門分野に注力することが前提となっているようです。日本でも企業法務分野では一応、専門化が進んではいますが、今後より一層、細分化・先鋭化していくのではないかと思います。そうすることで、より専門的でクオリティの高いリーガルサービスを提供できるようになるのではないかと思っています。
当事務所でも、知的財産やファイナンス、労働をはじめとした特定分野に関しては、主担当の弁護士を決め、その分野の案件は連携しながら対応することで、ノウハウの蓄積と活用、専門化を図っています。
幅野弁護士
また選ばれる法律事務所になるうえで重要だと考えるのは、業務効率化ですね。私は企業に出向していたこともありますが、一般企業に比べて法律事務所は業務効率化の意識が低いと思います。たとえば一般企業では業務効率化のためのコンサルを活用しているところもありますが、法律事務所でそうした取り組みをしているところはごく少数でしょう。まだまだ弁護士事務所は、時間をかけてでも目の前の業務に愚直に取り組む文化だという印象があります。リーガルテックなども徐々に普及してきていますし、そういったものも導入しつつ効率化を図るべきだろうと思っています。効率化できる部分はきちんと効率化し、本当に弁護士しかできないことに注力することでアウトプットのクオリティを上げる、これが結果として、クライアント満足につながるのではないかと思います。
多田弁護士
はい。専門化による他事務所には真似できないクオリティのリーガルサービスや、効率化により価格を抑えることが可能なサービスも出てくるだろうと思っています。
幅野弁護士
結局大切なのは先ほど述べた「弁護士はサービス業」であると理解することだと考えているのですが、物を買う例でいえば、他で売ってない物であればその会社から買うしかないですし、同じような品質なら多くの人は安い方を買いますよね。リーガルサービスにも同じことがいえるのではないかと思います。
弁護士がサービス業であるとした場合、企業法務を扱う法律事務所も価格競争の時代に入ると考えますか。
多田弁護士
すでに価格競争の時代は来ていますし、これからよりそうなっていくとは思います。ただし、安ければよいというわけではなく、提供サービスのクオリティは維持・向上させる必要があります。適正価格を目指したいですし、目指すべきだと思っています。
鈴木弁護士
弁護士業務には、定型化・効率化できない部分も多いです。そういった仕事に対しては、やはりきちんと対価をいただかないといけないのかなと思います。価格を下げるというよりは、提供するサービスの価値に見合った価格にしていくという発想で考えています。既存の価格設定は、専門化・効率化は前提とされていないので、それを前提とした新たな価格設定をする必要があるのではないか、ということです。ですから価格を下げるばかりでなく、提供できる価値が大きければ価格を上げるべきリーガルサービスもあると思っています。
幅野弁護士
専門化することによって、他の法律事務所には難しいようなリーガルサービスを提供できるのであれば、そこにはやはり、高い価値が出てくると思います。
鈴木弁護士
先ほど海外の弁護士の話をしましたが、海外では専門特化が進んでいる一方、価格崩壊が起きているかというとそんなことはありません。結局は、企業がフィーに見合っていると感じる価値を法律事務所が提供できるか、ということに尽きるのではないでしょうか。
「契約書アウトソーシング」サービスをはじめ、企業内部でできる業務も弁護士が外注先となる時代に
旧来、法律事務所は受け身の姿勢だったという話がありましたが、受け身の姿勢から変わるためにはどうすべきでしょうか。
多田弁護士
当たり前のことですが、法律事務所が企業のニーズをきちんと把握することがまず出発点だろうと思います。
幅野弁護士
先日、クライアント企業の法務部門の方々を中心とした法務部門座談会を主催しました。法務部門の方々に悩みや課題を共有していただき、同時に交流を図ってもらうというものです。私たちもいまの法務部門の実情を聞くことができ、企業のニーズを把握する機会になりました。こういったところで把握した悩みや課題について、我々で解決できることはないかと考えています。
法務部門座談会では、どんな悩みや課題が出ましたか。
鈴木弁護士
ほぼ全員が共通していたのは、人手不足ですね。
幅野弁護士
この悩みは本当に多かったです。法務部門の人手不足についても、我々ができることがあるのではないかと考えています。これまで弁護士は、企業内部で解決できない問題を依頼されることが多かったと思いますが、それだけはなく、企業内部でできる業務も弁護士が外注先となる、アウトソーシング型リーガルサービスが普及していく可能性はあると感じています。
貴所が新しく開始した「契約書アウトソーシング」サービスもその1つでしょうか。
幅野弁護士
そうです。アウトソーシング型リーガルサービスの一環として「契約書アウトソーシング」サービスを開始しました。これは固定の月額費用で契約書レビューを行うというものです。このサービスは、今後一定の効率化が可能なのではないかと思っており、できれば将来的には、価格ももっと下げていきたいと考えています。
鈴木弁護士
法律事務所が業務を効率化してレビュー1件あたりにかけるコストを下げることで、企業内でやるよりも法律事務所に頼んだ方が安いとなれば、アウトソーシング型リーガルサービスのニーズはもっと広がっていくと思います。
専門化と効率化を意識し、企業が複数の法律事務所を使いわける時代でも選ばれる事務所に
隼あすか法律事務所の将来のビジョンを教えてください。
多田弁護士
法律事務所としては、アウトソーシング型リーガルサービスに限らず、サービス内容や費用をできるだけ明確にしたサービスを打ち出していくことを考えています。その中で先ほど述べた専門化と効率化を意識してやっていきたいと思います。
鈴木弁護士
サービスとして定型化することで、専門性やクオリティを高められます。同時に、業務の一定量を効率化できるのであれば、それを価格に反映できる場合もあるだろうと思っています。
多田弁護士
クオリティを上げ、価格を適正化させることで、1つの企業が複数の法律事務所を使いわける時代でも選ばれる事務所となっていきたいと思っています。総合法律事務所としてこれまで培った強みを活かしつつ、同時に個々の専門性を高め、これからの企業のニーズに合った法律事務所となる、それが隼あすか法律事務所のビジョンです。
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