改正健康増進法と職場の受動喫煙対策

第7回 成功する社内禁煙化の実務とプロセス 最先端企業ファイザーに聞く トップダウンとボトムアップの2方向から「なぜ禁煙するか」を全社で共有

人事労務

目次

  1. 就業規則改定と禁煙施策の進め方
  2. トップダウンで社内禁煙の空気を醸成

 本連載の第6回「喫煙率ゼロへひとつずつ ファイザーが育んだ最先端の禁煙カルチャー」で紹介したとおり、2011年に就業規則で就業時間中の禁煙を規定するなど、社内禁煙化を積極的に進めてきた製薬大手ファイザーは、2019年11月末までに社員の喫煙者をゼロにするという「喫煙者ゼロ最終宣言」を打ち出している。2018年時点での社内喫煙率3.5%を達成。今回は、喫煙率を減らすための就業規則の作り方や社内禁煙化推進のノウハウについて、ファイザー株式会社 労政グループの田形敏郎氏に聞いた。

就業規則改定と禁煙施策の進め方

2011年の就業規則の改定はどのように進めていったのでしょうか。

 我々人事部門が中心となり、労働組合を通じて社員から意見聴取するなどして進めていきました。法務部門とも連携し、適宜アドバイスをいただいていました。

前回のお話では比較的受け入れられやすい空気が社内にあったとのことですが、労働組合を通じた意見聴取のなかにはネガティブな声もあったのでしょうか。

 喫煙をすること自体は個々の社員の権利であるという意見は実際にあがっていました。ただしそれについては当社としても理解していますので、そのうえで我々がなぜ禁煙を推進したいのかという目的をしっかり伝えていくようにしました。禁煙の目的から就業規則として制定する理由までしっかりと話し合ったうえで、労使の合意に至ったと考えています。就業規則の改定に1年間の準備期間を設けたことも、否定的な反応が少なかった理由の1つになっているのではないでしょうか。

就業規則の改定にあたっては、具体的にどのようなステップで進めていったのでしょうか。

 改定に向けてなるべく早めにアナウンスをしたほか、ウェブページやグッズを作るなどして就業規則の改定に関する情報が社員の目に触れやすいようにしていきました。「タバコをやめたい」と思っている人が実際に止められるだけの期間を設け、時間をかけてきちんと段階を踏んで進めていったのがポイントだったと思います。

 たとえば社内喫煙ルームをなくす際も、まずは5箇所あった喫煙ルームを1箇所に集約するのが第一ステップ、1箇所に集約された喫煙ルームを会社の外に持っていくことがその次のステップ……といったように、一足飛びに禁煙とするのではなく、きちんとした段階を経て進めていくようにしました。

 また今から約10年前には、敷地内禁煙の実現に向け、当社が入居している本社ビルの飲食店等に禁煙化の提案をしたりしました。禁煙化によるお店への影響について丁寧に説明をすることで「わかりました、思い切ってやりましょう!」とご賛同いただける店もありました。今でこそ全面禁煙の飲食店は珍しくありませんが、当時禁煙に踏み切ることには相当な勇気が必要だったと思います。また、入居ビルで「世界禁煙デー」に肺年齢測定会を実施するなど、内外から禁煙の意義を理解いただけるよう、担当者各自が熱意を持って取り組んでいましたね。

ファイザー株式会社 労政グループ 田形敏郎氏

ファイザー株式会社 労政グループ 田形敏郎氏

そのようにじっくりと準備を進めてきたことで、禁煙が企業のカルチャーとして根ざすようになったんですね。

 そうですね。実際にはニコチン依存症という疾患によって禁煙がなかなか難しい方がいることも理解しています。だからこそ、きちんと段階を踏んで社内禁煙に取り組んできたことには、従業員からも一定の評価をいただいていると考えています。

 またファイザーは、労使の関係にも良いカルチャーがあると思っています。労働組合によって現場のさまざまな意見がしっかりと吸い上げられています。労働組合の組合員は、各職場において従業員が抱えている思いを案件ごとに吸い上げます。そして、それを中央に持ち寄り、労使で話し合うイメージです。お互いが丁寧に時間をかけて理解し合うことは、禁煙を進めていくうえでも非常に大事なことだと思います。皆が理解していれば、皆で一緒に同じ方向を向いて進んでいくことができますので。

トップダウンで社内禁煙の空気を醸成

社員の就業時間中の自主的なタバコ休憩については、どのようなスタンスをとっていますか。一般論として、タバコ休憩を取らない社員はタバコ休憩を取る社員に対して不公平感を抱くこともあるようです。

 当社の規則上、一斉休憩のとき以外はタバコを吸えないことになっています。現在ではビル内に喫煙所も設置されていませんので、生産性の部分で何かしら支障を来しているということはないですね。もともと当社では、2008年5月31日(5月31日は世界禁煙デー)から「医療関係者や特約店など、業務時間内でビジネスパートナーと接している時間は禁煙」「顧客やビジネスパートナーの建物や敷地内は終日禁煙」というルールを設けていたため、タバコ休憩を取る社員はそのときからほとんどいませんでした。

 働き方改革の文脈で言えば、時間でがっちりと社員を管理するという感覚は、当社としてはあまり持っていません。たとえば、喫煙はだめですが、5分、10分、場合によってはそれより長くても、休憩をとってリフレッシュすることで集中して仕事ができるのであれば、それはそれでOKということです。こうした時間軸に縛られないものの考え方を前提としていれば、そもそも生産性に関する非喫煙者と喫煙者の対立軸という考え方は存在しないことになるかと思います。

今後はどのような取り組みを進めていく予定でしょうか。

 2019年4月に発足した社内禁煙を推進する協同体「禁煙推進企業コンソーシアム」に、設立当初から参加しています。今後はそこで当社の社内禁煙化のノウハウや成功事例を共有していきたいと考えています。

 ところで、禁煙推進企業コンソーシアムでは、企業の禁煙推進にあたっては経営者自らが禁煙にコミットしていく必要性があるとしています。当社でも3代続いて社長自らが禁煙推進に向けた強いメッセージを発信していました。

トップの熱意も禁煙化を成功させるためには重要なんですね。

 ファイザーの前任の社長は、毎月22日の禁煙の日に社員へメールを送るなど、非常に熱い思いを持って取り組んでいました。時には、直筆でまとめたメッセージを全社員に配布していました。一字一字、本当に丁寧に書いた文章でしたね。

 現社長の原田も、社長就任後すぐにこの活動を引き継ぎ、四半期に一度、社員に向けたメッセージを送っています。喫煙者ゼロを1年前倒しにして、それに向けてどういうことをしていくのかといった非常に熱い気持ちを発信し続けています。このようにトップ自らの意志で発信していくことには、大きな意義があると思っています。

こうしてさまざまな取り組みをされているからこそ、喫煙率3.5%という成果が出ていることがよくわかりました。ありがとうございました。

(取材・構成・写真:BUSINESS LAWYERS編集部/文:周藤瞳美)

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