2019年6月に暗号資産への新たな規制にかかる法律が公布、ICOやデリバティブ取引への影響は?

ファイナンス
福田 隆行弁護士 弁護士法人片岡総合法律事務所

目次

  1. 法改正の経緯等および改正点の全体像
  2. 資金決済法の改正のポイント
  3. 金融商品取引法の改正のポイント

先の第198回国会で、「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」(令和元年法律第28号)が5月31日に成立し、6月7日に公布された。同法は、公布日から起算して1年を超えない範囲内で政令で定める日から施行となる。

同法による改正は、銀⾏法や保険業法を含む金融取引にかかる法律を広くその対象とするが、弁護⼠法⼈⽚岡総合法律事務所の福⽥ 隆⾏弁護⼠によると「暗号資産の取引には、特に資⾦決済法および⾦融商品取引法の改正が関わっており、関連事業者にとって影響が⼤きい」という。暗号資産の取引に関わる改正点の全体像について、同弁護⼠に聞いた。

法改正の経緯等および改正点の全体像

なぜ今回の法改正に至ったのでしょうか。

日本では、2017年4月に資金決済に関する法律(以下「資金決済法」といいます)の改正法の施行 1 により、暗号資産(後述のように、現行法上の「仮想通貨」の呼称から変更されました)の交換業者の登録制が導入され、また、口座開設時の本人確認等の義務付けや、顧客への情報提供その他利用者保護の観点からの一定の制度的な枠組みが整備されました。

しかしながら、その後交換業者の顧客の暗号資産が流出する事案が発生し、また、これに続く金融庁の検査において、交換業者の態勢整備に関して不十分な点が指摘されるなどしました。さらに、暗号資産が投機対象化すると共に、ICO 2 やデリバティブなど、暗号資産を用いた新たな取引が登場しました。こういった暗号資産に関する近時の動向に対応すべく、今回の法改正により、利用者保護やルール明確化のための制度整備が図られました 3

暗号資産に関する改正点の全体像を教えてください。

まず、暗号資産の交換および管理に関する業務への対応として、暗号資産の流出リスクへの対応のほか、暗号資産の管理のみを行う業務(以下「カストディ業務」といいます)への規制や、過剰な広告および勧誘への規制が導入されました。
また、暗号資産の取引の適正化に向けて、問題がある暗号資産や暗号資産を用いた不公正な行為等への対応が盛り込まれました。
さらに、暗号資産を用いた新たな取引への対応として、暗号資産の証拠金取引 4 が規制対象とされたほか、ICOに適用されるルールが整理されました。
これらの点は、資金決済法および金融商品取引法(以下「金商法」といいます)の改正により対応されることになります。

資金決済法の改正のポイント

資金決済法の今回の改正のポイントは何ですか。

細かい点も含めると多岐にわたりますが、事業者に影響が大きいという観点からは、①顧客資産の保護に関する事項と、②カストディ業務への規制導入の2点が重要です。

1点目のポイントの顧客資産の保護に関する事項とは、具体的にどのような内容ですか。

まず、交換業者が顧客から預かった金銭(預り金銭)については、内閣府令で定めるところにより、信託銀行等に信託を行うことが義務付けられました(信託義務、改正資金決済法63条の11第1項)。これまでも信託保全の検討は進められていたところですが、今回の改正により金銭の信託保全の取組みが本格化されることになります。

また、交換業者が顧客から預かった暗号資産(預り暗号資産)については、業務の円滑な遂行等のために必要なものを除き、信頼性の高い方法(コールドウォレット等)で管理することが義務付けられました(改正資金決済法63条の11第2項)5。なお、ホットウォレット(オンライン)で管理する顧客の暗号資産については、別途、これに見合う弁済原資(同種・同量の暗号資産)を保持することが必要とされました(履行保証暗号資産の保有・管理義務、同法63条の11の2)。

暗号資産の流出リスクへの対応(出典:金融庁「「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案」説明資料」(2019年3月)2頁)

暗号資産の流出リスクへの対応(出典:金融庁「「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案」説明資料」(2019年3月)2頁)

2点目のポイントのカストディ業務への規制導入とは、具体的にどのような内容ですか。

カストディ業務は、現行法上は資金決済法上の規制の対象外ですが、暗号資産の流出リスクや業者の倒産リスク、マネロンリスクなど、交換業と同等のリスクを有するとの指摘がありました。

そこで、改正資金決済法において、カストディ業務、すなわち「他人のために暗号資産の管理をすること」が暗号資産交換業の定義に追加されました(同法2条7項4号)。これにより、カストディ業務を行う者にも、交換業登録制度のほか、本人確認義務や分別管理義務など、暗号資産の管理に関する規制が適用されることになります。

なお、「他人のために暗号資産の管理をすること」にあたる行為の外縁が必ずしも明確ではないため 6、今後ガイドライン等での明確化が望まれます。

その他、資金決済法における改正には、どのような点がありますか。

資金決済法におけるその他の改正点の概要は、以下のとおりです。

(1)「暗号資産」への呼称変更
近時では、国際的な議論の場でCrypto Asset(暗号資産)の用語が用いられることが多くなってきたことを受け、現行法上の「仮想通貨」の呼称が「暗号資産」へと変更されます。

(2)過剰な広告および勧誘への対応
現行法のもとでは、交換業者による広告や勧誘に関する特段の規定がありませんでしたが、今後は虚偽表示・誇大広告の禁止や投機を助長するような広告・勧誘が禁止されます(改正資金決済法63条の9の3)。

(3)信用供与にかかる情報提供義務
交換業者が利用者に対して信用を供与して暗号資産の交換等を行う場合には、その交換等にかかる契約内容についての情報提供や、その他利用者保護等の観点から必要な措置を講じる必要があることとされました(改正資金決済法63条の10第2項)。

(4)暗号資産の取引の適正化
交換業者が取り扱う暗号資産の変更が事前届出制とされ、行政当局のチェックを受ける仕組みが整備されました(改正資金決済法63条の6第1項)。また、資金決済法上の認定資金決済事業者協会(一般社団法人日本仮想通貨交換業協会(JVCEA))に加入していないことが登録拒否要件とされたことから(同法63条の5第1項6号)、交換業登録を受けようとする者にとって、JVCEAへの加入が事実上必須となりました。

(5)利用者の暗号資産返還請求権に対する優先弁済権
交換業者の倒産時に、利用者の交換業に対する請求権は一般債権となり、利用者保護の観点からは不十分との見方があったことから、そのような場面で、利用者の交換業者に対する暗号資産返還請求権に関する優先弁済権が認められることになりました(改正資金決済法63条の19の2第1項)。

改正資金決済法にかかる経過措置によって、どのような影響が生じますか。

改正法の経過措置により、既存の交換業者は、改正後は暗号資産交換業者として登録を受けたものとみなされます(改正資金決済法附則4条1項)。

現行法のもとで登録を受けずに暗号資産のカストディ業務を行っている者は、改正法施行日後6か月以内に登録申請を行うことで、原則として施行日後1年6か月間は、登録前でも既存の業務を継続することができます。ただし、その業務範囲は、改正法施行時に現に行っている業務の範囲内において、当該業務の利用者のために行うものに限られます。また、かかる経過措置の適用を受けるには、施行日から起算して2週間以内に所定の届出を行う必要があるので注意が必要です(改正資金決済法附則2条1項・2項、3条1項・2項)。

金融商品取引法の改正のポイント

金商法の今回の改正のポイントは何ですか。

大きく分けると、①ICOへの対応としての電子記録移転権利の概念の導入②暗号資産のデリバティブ取引に対する規制および③不公正な行為の禁止の3点が挙げられます。

1点目のポイントで「ICOへの対応としての電子記録移転権利の概念の導入」が挙げられていますが、そもそもICOとの関係で何が問題となっていたのですか。

これまでは、 ICOの実施者(トークンの発行者)やICOにより発行されるトークンには、暗号資産に関する資金決済法が適用されるのか、それとも有価証券に関する金商法が適用されるのか、またはこれらが重畳適用されるのかといった点が明らかではありませんでした。

そこで、改正金商法において、同法の適用対象となる「電子記録移転権利」という概念が新たに導入され(改正金商法2条3項柱書)、併せて、改正資金決済法において、「暗号資産」の定義から電子記録移転権利を表示するものを除外することとされました(改正資金決済法2条5項ただし書)。これにより、ICO(STO)で発行されたトークンが「電子記録移転権利」に該当する場合には、金商法上のルールが適用され、これに該当しない場合は、トークンの性質に応じて、資金決済法上の暗号資産、資金移動業または前払式支払手段にかかる規制が適用されるという形で、適用ルールの明確化が図られました

ICOへの対応(出典:金融庁「「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案」説明資料」(2019年3月)4頁)

ICOへの対応(出典:金融庁「「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案」説明資料」(2019年3月)4頁)

新たに導入された「電子記録移転権利」とは何ですか。

電子記録移転権利とは、金商法2条2項各号に掲げる権利(第二項有価証券)のうち、「電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されるものに限る。)に表示される」ものをいいます。電子記録移転権利は、第一項有価証券として扱われます(ただし、「流通性その他の事情を勘案して内閣府令で定める」ものはその定義から除かれます 7)(改正金商法2条3項柱書)。

STOで発行されるトークンは、いわゆる集団投資スキーム持分(同法2条2項5号)に当たるものが多いと思われます 8。集団投資スキーム持分それ自体は第二項有価証券ですが、かかる権利がSTOで発行されるトークンに付与されている場合には、当該トークンは、「電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値」として、第一項有価証券たる「電子記録移転権利」に該当する可能性があります。

電子記録移転権利を扱う場合、どういった規制が及ぶのですか。

電子記録移転権利には、金商法上の開示規制が適用されます(改正金商法3条3号ロ)9。また、電子記録移転権利が第一項有価証券とされたことから、業としてその売買等や募集の取扱い等を行うには、「第一種金融商品取引業」にかかる登録を受ける必要があります(同法28条1項1号、29条)。

他方、電子記録移転権利に該当する集団投資スキーム持分の発行者自身による取得勧誘行為については、現行法上の取扱いから変更はありません。すなわち、当該行為は、「有価証券の募集又は私募」(同法2条8項7号へ)として「第二種金融商品取引業」に該当し、原則としてその登録が必要となりますが(同法28条2項1号、29条)、所定の要件を満たせば適格機関投資家等特例業務の例外が認められます(同法63条第1項)。

2つ目のポイントの、暗号資産のデリバティブ取引に対する規制について教えてください。

暗号資産の証拠金取引は、国内の暗号資産の取引の約8割を占めるといわれますが 10、現状は、暗号資産を原資とし、または暗号資産に関する指標を参照指標とするデリバティブ取引は、金商法の規制の対象とはなっていません。そこで、改正金商法では、外国為替証拠金取引(FX取引)と同様に、これらの取引にも金商法上の規制を適用することとされました。

具体的には、金商法上の「金融商品」の定義に暗号資産が、「金融指標」の定義に暗号資産の価格または暗号資産の利率等がそれぞれ追加されました(改正金商法2条24項3の2号・25項)。これにより、暗号資産を原資産とし、その価格や利率等を参照指数とするデリバティブ取引も金融商品取引業に該当することになり(同法2条8項)、その取引態様等に応じて、金商法上所定の登録制や行為規制が適用されることになります。

証拠金取引への対応(出典:金融庁「「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案」説明資料」(2019年3月)4頁)

証拠金取引への対応(出典:金融庁「「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案」説明資料」(2019年3月)4頁)

3つ目のポイントの、不公正な行為の禁止について、どういった行為が対象となるのでしょうか。

一定の不公正な行為について、有価証券の取引に関しては金商法で禁止されていましたが、暗号資産の取引に関しては、金商法上も資金決済法上も特に規制は設けられていませんでした。もっとも、暗号資産の取引においても、不当な価格操作その他の不公正な行為が行われているとの指摘がありました。

そこで、暗号資産の売買等や暗号資産に関するデリバティブ取引について、以下の不公正な行為が禁止されることになりました 11。なお、行為主体が「何人も」とされており、金融商品取引業者や暗号資産交換業者に限られない点に注意する必要があります

  • 不正の手段、計画または技巧をすること(改正金商法185条の22第1項1号)
  • 重要な事項について虚偽の表示があり、または誤解を生じさせないために必要な重要な事実の表示が欠けている文書その他の表示を使用して金銭その他の財産を取得すること(同法185条の22第1項2号)
  • 取引を誘引する目的をもって、虚偽の相場を利用すること(同法185条の22第1項3号)
  • 相場の変動を図る目的をもって、風説を流布し、偽計を用い、または暴行もしくは脅迫を行うこと(同185条の23第1項)
  • いわゆる仮装売買や馴合売買等による相場操縦行為等(同185条の24第1項)

改正金商法にかかる経過措置によって、どのような影響が生じますか。

改正法の経過措置により、現行法のもとで既に今回の法改正にかかる金融商品取引業を行っている者は、施行日後6か月以内に登録申請を行うことで、原則として施行日後1年6か月間は、登録前でも既存の業務を継続することができます

ただし、その業務範囲は、改正法施行時に現に行っている業務の範囲内において、当該業務の顧客を相手方とし、または当該顧客のために行うものに限られます。また、かかる経過措置の適用を受けるには、施行日から起算して2週間以内に所定の届出を行う必要があります(改正金商法法附則11条1項・2項、12条1項・2項)。


  1. 情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律(平成28年6月3日法律第62号) ↩︎

  2. ICO(Initial Coin Offering)とは、企業等がトークン(電子的な記録・記号)を発行して、投資家から資金調達を行う行為の総称をいいます。特に、有価証券的な性質を有するトークンを発行するものは、STO(Security Token Offering)と呼ばれます。 ↩︎

  3. 法改正の検討過程における議論の内容等については、金融庁「仮想通貨交換業等に関する研究会報告書」(2018年12月21日)のほか、拙著「交換業者への規制強化、ICOへの対応等 暗号資産をめぐる法務ポイント」(旬刊経理情報No.1550、40頁)も参照のこと。 ↩︎

  4. 証拠金取引とは、一定額の証拠金(保証金)を担保にして売買することをいいます。 ↩︎

  5. 具体的なウォレットの要件や管理方法等については、今後定められる内閣府令に委任されているので、その内容が注目されます。 ↩︎

  6. たとえば、マルチシグ(マルチ・シグネチャー。暗号資産の移転に対し、複数の異なる秘密鍵で電子署名を行う必要がある仕組みのこと)における秘密鍵を1つ預かるだけで、ここでいう「管理」に該当し交換業登録が必要になるのかといった形で問題となります。なお、暗号資産の移転を容易にするようなソフトウエア(ウォレット)のみを提供する行為は、ここでいう「管理」には該当しないとされています(衆議院 第198回国会 財務金融委員会 第14号(令和元年5月17日(金曜日))三井秀範政府参考人答弁参照)。 ↩︎

  7. 内閣府令がどのような適用除外の範囲を定めるかは現時点では不明ですが、適用される開示規制や必要となる登録の種類等の点で業務に与える影響が大きいことから、その内容が注目されます。 ↩︎

  8. 集団投資スキーム持分とは、出資者が出資または拠出した「金銭等」を充てて行われる事業(出資対象事業)から生ずる収益の配当または当該事業にかかる財産の分配を受けることができる権利をいいます(金商法2条2項5号)。 ↩︎

  9. 電子記録移転権利のSTOの場面では、これらの開示義務を回避する観点から、いわゆる適格機関投資家私募(金商法2条3項2号イ)や少人数私募(同号ハ)の方法で取得勧誘を行うことが実務上の選択肢となるものと思われます。 ↩︎

  10. 一般社団法人日本仮想通貨交換業協会「仮想通貨取引についての現状報告」(2018年4月10日)17頁 ↩︎

  11. なお、暗号資産の取引にかかるいわゆるインサイダー取引規制については、暗号資産の発行者の特定や暗号資産の変動要因について確立した見解がないこと等の理由により、改正金商法での導入は見送られました。 ↩︎

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