「海賊版の利用は作り手に1円も還元されない」、小学館マンガワンの編集長と「漫画村」訴訟代理人弁護士が等身大のアプリ運営論を語る

知的財産権・エンタメ

目次

  1. マンガワンの一読者に法務相談ができる安心感
  2. 従来の出版業界では扱ってこなかった法律知識が必要
  3. アプリビジネスの根幹を揺るがす不正に向き合う
  4. 海賊版対策に「マンガワン祭り」で地道な啓蒙活動を

今年7月、違法アップロードサイト「漫画村」の運営者が逮捕され、マンガなどのコンテンツを保護するための対策について、議論が巻き起こっています。

株式会社小学館が2014年にリリースした「マンガワン」は、多くのマンガファンに愛用されているスマートフォン用マンガアプリです。一方で、従来の出版業界にはなかった不正や、「漫画村」に代表される著作権侵害などの法的問題にも晒されています。

人気マンガアプリを運営する 株式会社小学館 マンガワン事業室の和田 裕樹編集長と、同事業室の顧問や「漫画村」に関する訴訟の代理人を務める 弁護士法人東京フレックス法律事務所の中島 博之弁護士に、コンテンツの未来を守るための「等身大のアプリ運営論」を語っていただきました。

マンガワンの一読者に法務相談ができる安心感

マンガワンのアプリの成り立ちを教えてください。

和田編集長
マンガワンの原点は、2012年5月にサンデー編集部の有志で立ち上げた「裏サンデー」というWEBマンガサイトです。その調子が良かったこともあり、2013年7月に裏サンデー編集部が独立しました。2014年12月に、「これからはアプリでマンガを読む時代ではないか?」と、「マンガワン」の名称でアプリを作ったところから、マンガワンとしての歴史が始まりました。

その後、2016年5月に国内で1000万ダウンロードを突破するなど順調に成長し、現在では累計1850万ダウンロード、日本の人口の1%である約120万DAU 1 の読者が毎日マンガワンを開いています。

オリジナル作品や過去の名作をスマートフォンで読めるアプリ「マンガワン」

オリジナル作品や過去の名作をスマートフォンで読めるアプリ「マンガワン」
マンガワンオフィシャルサイトより引用)

マンガワンと中島弁護士は、どんなきっかけで関わるようになったのですか。

和田編集長
マンガワンの事業は、出版社として従来手掛けてきた紙の本を作る事業とは、大きくジャンルが異なります。まったくノウハウのないデジタル領域に踏み込んで、アプリの立ち上げや運営を行うとなると、当然これまで触れてこなかった規制や法律などが関わってくるようになります。そうした知識が無いと、間違えたまま進んでしまうことがあるので、ご意見をいただける弁護士の方が必要でした。

中島弁護士
私はもともと裏サンデーの作家の方々が、コンテンツ投稿サイト「新都社」で活躍されていた頃からの読者でした。マンガワンはコンテンツも面白いですし、WEBマンガの作家をスカウトして作られたというサービスの成り立ちに興味を持っていたところ、たまたま初代編集長にお会いしたのがお付き合いの始まりでした。

アプリをリリースした当時は、法務の仕事がそれほどなかったので、プレスリリースの作成を担当したこともあります。今となってはすごく懐かしいですね。現在は、マンガの書籍化だけでなく、コンテンツを活用したビジネスも展開しており、法務的な判断やビジネススキームの考案といった面でも協力しています。

和田編集長
中島弁護士はマンガワンの一読者でもあるので、トンボ 2 が残ったまま掲載されているページを、午前0時のマンガ更新後いち早く見つけていただいたこともあります。何か問題があると法務面に限らず一番初めに教えてくださるんです。マンガワンのよき理解者に法律的な相談ができることは、非常にありがたいですね。

ビジネスの企画段階で法的に引っかかるかどうか、といったレベルの問題は、どうしてもすぐに判断したいと思っています。その場で中島先生にアイデアを相談し、契約書に落とし込んだ後、当社の法務室の確認を経ることで、事業をスピーディーに進められている実感があります。

「疑問があったらすぐに弁護士法人東京フレックス法律事務所 中島 博之弁護士に相談できる環境なので、新しい事業につながりやすい」と株式会社小学館 マンガワン事業室 和田 裕樹編集長(写真左)

「疑問があったらすぐに中島弁護士に相談できる環境なので、新しい事業につながりやすい」と和田編集長(写真左)

従来の出版業界では扱ってこなかった法律知識が必要

マンガアプリの運営には、さまざまな法律が関係してくると思います。

中島弁護士
マンガワンは、1日最大8話まで無料で読めますが、さらに読みたければ課金をし、それが作家さんや編集部に還元されてより良いコンテンツが作られる仕組みになっています。このように有償のアイテムを販売していますので、特定商取引法や資金決済法、消費者契約法などといった法律が関わってきます。

和田編集長
従来出版業界では、出版物のみを対象に契約をしてきましたが、現在はデジタルの領域で次々に新しい商品・サービスが出てきています。作家さんとの契約でそれをカバーできるかどうか、頭を回さないといけないかなと思っています。

特に、口約束や暗黙の了解で仕事が進んでいく商慣習があったのですが、今ではお金の動きに伴う契約がどうなっているのかを確認することが当たり前になりました。

いろいろな問題に対応するなかで、特に気をつけている点はなんですか。

中島弁護士
たとえば、マンガワンで扱っている著作物が、他社で利用されるようなシチュエーションでも、作家さんの権利がきちんと守られる契約内容になっているかなど、現場での権利処理関係の契約は注視しています。

もう1つは、アプリ内で有償で販売されているチケット(マンガを読むための権利)の扱いです。読者が現金でアプリ内のチケットを購入する場合は、資金決済法上の前払式支払手段にあたりますので、運営側はチケットの残高管理を徹底しなければいけません。この点は注意を払って、マンガワン事業室や法務室と連携しながら、半期に一度財務局へ定期報告をしています。

和田編集長
読者にとっては「そのアプリには、どんなマンガが載っているか」が一番大事だと思うのですが、諸々の権利処理がグレーなまま運営されているアプリも、なかには結構あります。しかし、小学館という出版社としてアプリを出す以上、読者に安心して使っていただけるものでなければいけないと思います。

法的な問題がきちんとクリアされていることで、マンガワンを活躍の場に選んでくださった作家さんたちにとっても、アプリそのものがなくなったり、訴訟沙汰に陥ったりするリスクが減ります。作家さんが余計な心配をせず、思う存分マンガの制作に注力できるように足元固めをしています。

「みんなが面白いと思っているものを作り出した人たちが、ちゃんとそれで食べていける形を維持したい」と株式会社小学館 マンガワン事業室の和田 裕樹編集長

「みんなが面白いと思っているものを作り出した人たちが、ちゃんとそれで食べていける形を維持したい」と和田編集長

アプリビジネスの根幹を揺るがす不正に向き合う

不正は、アプリビジネスの根幹を揺るがす問題だと思います。アプリを運営するなかで、具体的にどんな不正が見られますか。

和田編集長
大きく3つの不正があるかなと思っています。1つめは、マンガワンや小学館というブランドを勝手に使って何らかのビジネスを考えるような、不正競争防止法に触れる行為。2つめは、有償のアイテムを不正に取得しようとする行為。3つめは、海賊版をはじめとした著作権法に違反する行為ですね。

不正競争防止法に違反する行為には、これまでどういった事例がありましたか。

中島弁護士
マンガワンをリリースしてから2〜3年後、ちょうど急成長していた時期に「マンガワン プラス」というアダルトマンガを集めたアプリを無断で作った方がいました。アプリストアで「マンガワン」と検索すると、我々のアプリのすぐ下に表示されてしまう状態になっていたんです。いわゆるマンガワンや小学館の知名度を借りて、自身のアプリにユーザーを流入させようと企んでいるものでした。

不正競争防止法違反に基づき、アプリの停止をするよう処置をし、発見から5日ほどで削除されました。年末の出来事だったので、問題が解決して気持ちよく年を越せました。

有償のアイテムを不正に取得しようとする行為についても、事例はあるのでしょうか。

中島弁護士
過去に、マンガワンのシステムデータを改変して有償アイテムを不正に取得し、マンガランキングを操作しようとした事例がありました。せっかく編集部の方々や作家さんが心をこめて作った作品が、不正な手段でタダで見られ、本来1位になるべきものとは違う作品が1位になってしまう事態は、あまりにもひどいですよね。

そこで、編集部、事業室、法務室と協力し、いろいろなデータや証拠を集めて、法的手続きをしました。そのうえで被疑者の氏名・住所までを特定し、警察に持ち込み、私電磁的記録不正作出罪・同供用罪という刑法違反にあたるとして、送検に至りました。

和田編集長
実際に書類送検された事例の公表が進めば、ある程度、抑止効果も表れると思います。まずは、「不正な行為をすると犯罪になってしまう」「不正にコンテンツを閲覧すれば、犯罪に加担することになる」と皆さんにしっかりと知っていただくのも大事かなと。不正を放置しておくと、アプリの運営にも関わってくるので、きっちりと対処しています。

「モンスターストライクなどでは不正を行った者が書類送検されニュースになったが、マンガワンでも同じく不正対策に力を入れており、過去何度か被疑者が送検されている」と弁護士法人東京フレックス法律事務所の中島 博之弁護士

「モンスターストライクなどでは不正を行った者が書類送検されニュースになったが、
マンガワンでも同じく不正対策に力を入れており、過去何度か被疑者が送検されている」と中島弁護士

和田編集長
訴えるレベルにまでいかないものについても、たとえば、コメント欄に著しく秩序を乱す発言やヘイトスピーチにあたる差別的な発言、卑猥な発言といった、本来の用途と異なる書き込みをするユーザーに対しては、警告やアカウント停止などの措置をしています。コメントが感想なのかどうかを見分けるのは、非常に難しいと思っていて、基本的には手を入れたくはないのですが、皆さんが気持ち良く使えるようにと考えています。

中島弁護士
コメント欄があると、読者の交流のような良い場面もありますよね。私も、手塚治虫先生の『ブラック・ジャック』をマンガワンで読んだ後、コメント欄を見ると「そのコマはこういう意味だったんだ」といった色々な感想があって、もう一度ページを戻って読み返すこともしばしばです。昔読んだマンガで、自宅にも全巻揃っているのですが、アプリのコメント欄で新しい刺激をもらっています。

和田編集長
マンガワンでは、亡き手塚先生の作品などの名作が、初めて今日生まれた作品と、同時に載っていたりするんです。マンガって、いろいろなアイデアが詰め込まれているから、古い作品でも、初めて読む人にとっては新鮮だったりするし、面白いですよね。

マンガワンのコメント欄では、作品の話ごとにコメントをして、読者同士で交流できる。(マンガワンアプリの手塚治虫『ブラック・ジャック』各話コメント欄より引用)

マンガワンのコメント欄では、作品の話ごとにコメントをして、読者同士で交流できる。
(マンガワンアプリの手塚治虫『ブラック・ジャック』各話コメント欄より引用)

海賊版対策に「マンガワン祭り」で地道な啓蒙活動を

著作権侵害については、どう考えられていますか。

和田編集長
昨今ニュースで、「漫画村」をはじめとした海賊版サイトによる大規模な著作権侵害が話題になっていました。マンガワンも売り上げの約2割が減るという影響を受けました。

この問題は、日本全体あるいは世界全体で取り組んでいかなければならない非常に大きなものであり、単体ではなく各所と情報共有をしながら対応に動いています。当然、一アプリとしても、あまり規模の大きくない著作権侵害に対しては、編集者や作家さん、読者の皆様から報告をいただいて、気づいた時に警告を送るなどの対応をとっています。

最近ではスマートフォンでマンガを読んでいる人たちをよく見かけるようになってきました。それに比例して、海賊版サイトに掲載された著作権侵害コンテンツを閲覧する人も増えてしまっていると実感しています。しかし、無料で読めて当たり前な雰囲気ができあがると、コンテンツの作り手の収入につながらず、結果的にマンガ業界の衰退を招いてしまいます。著作権侵害への対応は普段の業務を圧迫しますが、利益の逸失を防ぐため、そして将来的な損失を防ぐためにも真摯に取り組んでいく必要がありますよね。

中島弁護士
同じコンテンツの分野だと、音楽業界は、配信サイトで無料で聴けるのが当たり前の時代になり、CDを買う人こそ減りましたが、ライブやコンサートによってマネタイズができています。一方で、マンガをマネタイズするためには、本を売ったり、アニメ化したりなどの方法が主となり、音楽業界のような収益化はできません。よりコンテンツの価値そのものを守る必要があるという意味では、著作権侵害に対して徹底的に戦っていかなければならないと考えています。

著作権者からコンテンツ使用許諾を得て、電子出版物を配信している正式なサービスであることを示す「ABJマーク」(商標登録第6091713号)がマンガワンのアプリにも表示されている

マンガワンには、著作権者からコンテンツ使用許諾を得て、電子出版物を配信している正式なサービスであることを示す
「ABJマーク」(商標登録第6091713号)が表示されている(マンガワンアプリより引用)

「海賊版と正規版の見分け方がよくわからない」という読者の声も見かけます。読者の方々に向けて、どのような取り組みをされていますか。

中島弁護士
正規版のマンガ作品にできるだけ触れていただき、海賊版の利用は作者やコンテンツの作り手に1円も還元されないと啓蒙していくことが重要ですよね。

和田編集長
今年の8月31日に「マンガワン祭り」と題したイベントで、すべての作品を24時間無料で公開することにしました。無料で読めるという点では海賊版と同じですが、我々は正規のアプリですから、作家さんに読まれたぶんだけ還元します。

今は紙媒体だけでなく、電子コミックやアプリなど、多角的にコンテンツ制作による収入が見込める時代です。いずれも、共通しているのは読者がそれを見たいと思って、内容を読み進めていることです。我々は、それ自体にお金が発生していると捉え、金額を算出し還元するようなシステムを組んでいるんです。

「中身が同じだからといって、非正規のサイトやアプリでマンガを読んだら、それを作り出した人には一銭も届かない。結果的には、自分が面白いと思っているコンテンツの首を絞めているのと同じになる」――こうしたことを知っていただきたいというのが、マンガワン祭りを開催する一番の目的です。

>2019年8月31日限定で、当日アプリ内に掲載される全作品が無料で公開される「マンガワン祭り」のサイトには、和田編集長による海賊版問題に関する声明が掲載されている

2019年8月31日限定で、当日アプリ内に掲載される全作品が無料で公開される「マンガワン祭り」。
同サイトには、和田編集長による海賊版問題に関する声明が掲載されている

コンテンツの未来を守るため、今後はどんな働きかけをしていきたいですか。

和田編集長
ここまでお話ししてきたことは、読者の方々にとってはまったく関係のないバックグラウンドだと思います。ユーザーが何のストレスもなく、ただ面白いマンガを読みにきて、楽しんで帰っていただく。それが、きちんと作家さんにも還元されている、という状態が何より健全です。

ただ、一方で読者のみなさんに協力していただかなければ解決しないのが、やはり海賊版問題です。そもそも何も意識していない人や、それが違法であると知っていたらやらなかったのにという人は、結構多いのではないでしょうか。著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す商標「ABJマーク」の利用も始まっていますが、世間一般にはまだまだ届いていないと感じています。我々の強みは、120万DAUの読者です。こうした規模のアプリで、著作権侵害問題について地道に啓蒙活動を行っていくことは非常に重要であると考えています。

中島弁護士
マンガワンは毎日のように新作が更新されていて、編集部も作家さんもすごく頑張ってコンテンツを作り、マンガ文化を守ろうとしています。作り手ができるだけコンテンツ制作に専念できるように、法的な手続き等についてはなるべくこちらで引き取って対応していきたいなと思っています。

(文:周藤 瞳美、取材・構成・編集:村上 未萌、写真撮影:BUSINESS LAWYERS編集部)


  1. DAU(Daily Active Users)とは、1日にサービスを利用したユーザー数のこと。 ↩︎

  2. マンガの原稿用紙を仕上がりサイズに断裁する時に参照する、四隅にある線の総称。 ↩︎

この特集を見ている人はこちらも見ています

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

1分で登録完了

無料で会員登録する