職場の受動喫煙対策は「対立」から「共感」へ 改正健康増進法全面施行まで8か月 シンポジウム「令和の「新」たばこ対策 ~タバコ新時代にどう対応するか~」レポート

人事労務

目次

  1. 改正健康増進法は世界標準へ近づく大きな一歩
    (片野田耕太氏/国立がん研究センター)
  2. 加熱式タバコの登場でタバコ対策は難しくさせられた
    (田淵貴大氏/大阪国際がんセンター副部長)
  3. 受動喫煙対策は「対立・糾弾」から「共存・理解」の戦略へ
    (岩永直子氏/BuzzFeed Japan Medical)

来年4月の改正健康増進法や東京都受動喫煙防止条例の全面施行を見据えて、社内禁煙化を検討する企業が増えているようだ。そんななか、新時代のタバコ対策を考えるシンポジウム「令和の「新」たばこ対策 ~タバコ新時代にどう対応するか~」が8月7日、タバコ問題研究の専門家らを招き、東京・築地の国立がん研究センターで開催された。

シンポジウムには、企業や教育機関の受動喫煙対策担当者など、約200人が参加。世界保健機関(WHO)が、従来の紙巻タバコと同様の規制が必要という見解を示した加熱式タバコの対策についても議論が及んだ。

改正健康増進法は世界標準へ近づく大きな一歩
(片野田耕太氏/国立がん研究センター)

2016年の厚生労働省「喫煙と健康 喫煙の健康影響に関する検討会報告書」(いわゆる「たばこ白書」)の編集責任者を務めた、国立がん研究センターの片野田耕太部長からは、改正健康増進法と東京都受動喫煙防止条例の概要のほか、飲食店などの事業者が理解しておくべきポイントが紹介された。

片野田耕太氏(国立がん研究センター副部長)

片野田耕太氏(国立がん研究センター副部長)

国の改正健康増進法では、資本金5000万円以下かつ客席面積100平方メートル以下の小規模な既存飲食店について、店内が喫煙可能な場所であることを店頭に掲示することで喫煙可という経過措置が設けられている。しかし、東京都受動喫煙防止条例では、従業員を1人でも雇っていれば原則屋内禁煙となることに注意が必要だ。

改正健康増進法 概要
(2018年7月18日成立、2020年4月施行)

(出典)片野田耕太「たばこ新時代の温故知新 平山論文から改正健康増進法まで」、「シンポジウム令和の新たばこ対策 たばこ新時代にどう対処するか」講演資料

※1 一定の条件を満たした屋外の喫煙所は設置可能
※2 経過措置として、「資本金5000万円以下かつ客席面積100平方メートル以下」の既存飲食店は店頭に表示すれば喫煙可
※3 経過措置として、加熱式タバコは飲食可の喫煙専用室で使用可


(出典)片野田耕太「たばこ新時代の温故知新 平山論文から改正健康増進法まで」、「シンポジウム令和の新たばこ対策 たばこ新時代にどう対処するか」講演資料、厚生労働省Webサイト(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000189195.html)


東京都受動喫煙防止条例 概要
(2018年6月27日成立、2020年4月施行)

(出典)片野田耕太「たばこ新時代の温故知新 平山論文から改正健康増進法まで」、「シンポジウム令和の新たばこ対策 たばこ新時代にどう対処するか」講演資料

※1 一定の条件を満たした屋外の喫煙所は設置可能
※2 経過措置として、「資本金5000万円以下かつ客席面積100平方メートル以下」の既存飲食店は店頭に表示すれば喫煙可
※3 経過措置として、加熱式タバコは飲食可の喫煙専用室で使用可


(出典)片野田耕太「たばこ新時代の温故知新 平山論文から改正健康増進法まで」、「シンポジウム令和の新たばこ対策 たばこ新時代にどう対処するか」講演資料、東京都福祉保健局Webサイト(http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kensui/tokyo/kangaekata_public.html)



大幅な例外が認められた改正健康増進法だが、東京都のほか千葉市、大阪府などで国の基準よりも厳しい上乗せ条例の制定が続いていることを念頭に、片野田氏は「世界標準へ近づく大きな一歩」と一定の評価を与えた。

また、片野田氏は、改正職業安定法が全面施行される2020年4月以降、従業員の募集時に職場内で講じている受動喫煙対策の明示が、企業に義務付けられることが追い風となるとみている。慢性的な人手不足が企業を悩ませるなか、今後は、各企業の受動喫煙対策が、求職者に選ばれるための1つの基準となるかもしれない。

加熱式タバコの登場でタバコ対策は難しくさせられた
(田淵貴大氏/大阪国際がんセンター副部長)

「加熱式タバコの登場によって、すべてのタバコ対策は難しくさせられた」と語ったのは、加熱式タバコ研究の第一人者として知られる大阪国際がんセンターの田淵貴大副部長だ。

田淵貴大氏(大阪国際がんセンター副部長)

田淵貴大氏(大阪国際がんセンター副部長)

加熱式タバコは2016年4月の全国販売開始後、瞬く間に日本中に広がった。田淵氏らの調査では、2019年時点ですでに日本の成人の約10%が加熱式タバコを使用している 1 ことがわかっている。

「加熱式タバコは急速に普及しているため、『まだリスクはわからない』ではすまされない。今あるデータをもとに対策を進める必要がある」と、田淵氏は早急な対策の必要性を強調した。

一方、「紙巻きタバコから加熱式タバコに切り替えた喫煙者は、自分への害、他人への害に配慮した結果、加熱式タバコを使用している」として、参加者に「その気持ちを踏みにじるような言動を避け、禁煙を支援する姿勢を持つことが大切」と呼びかけた田淵氏は、受動喫煙対策を推し進めていくためには「職場が禁煙になることが重要。社員の健康を守るために企業が担う役割は大きい」と、改正健康増進法の全面施行に向けた各企業の取り組みに期待を寄せた。

受動喫煙対策は「対立・糾弾」から「共存・理解」の戦略へ
(岩永直子氏/BuzzFeed Japan Medical)

改正健康増進法の立法過程で、国会議員によるがん患者への野次問題をスクープしたBuzzFeed Japan Medicalの岩永直子氏は、一連の記事が「嫌煙派からの支持を集めた一方で、喫煙派との対立構造を強化してしまった可能性がある」と分析したうえで、「喫煙者は『加害者』として糾弾されることにうんざりしている」と言う。

タバコ問題の根幹にはニコチン依存の問題がある。「自己責任では片付けられない問題に理解を示すことが大切」と言う岩永氏は、対立・糾弾ではなく、共存・理解の戦略へシフトさせることが、新しい時代のタバコ対策の重要な視点と述べた。

シンポジウムではこのほか、禁煙の飲食店を紹介するサイト「ケムラン」を主宰する大阪医科大学の伊藤ゆり准教授が、社会協働型の禁煙支援の取り組みと活動の広がりを紹介。また、NPO法人 肺がん患者の会 ワンステップの長谷川一男代表からは、身近な喫煙者を禁煙させた肺がん患者の共通項が、喫煙者に対する「共感」や「依存」に対する理解の深さにあるという調査結果が発表された。

「シンポジウム 令和の「新」たばこ対策 ~タバコ新時代にどう対応するか~」は、8月23日午後5時より大阪の大阪国際がんセンターでも開催される。

(取材・文・写真:BUSINESS LAWYERS 編集部)


  1. 下記論文と同一の方法で行った2019年調査データの分析結果による。
    Tabuchi T, Gallus S, Shinozaki T et al. Heat-not-burn tobacco product use in Japan: its prevalence, predictors and perceived symptoms from exposure to secondhand heat-not-burn tobacco aerosol. Tob Control 2018; 27: e25-e33. ↩︎

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