平成28年6月公布!改正消費者契約法のポイントと対策 (第1回)

取引・契約・債権回収
古川 昌平弁護士 弁護士法人大江橋法律事務所 吉村 幸祐弁護士 弁護士法人大江橋法律事務所

目次

  1. はじめに
  2. 不実告知における「重要事項」の拡大
    1. 不実告知による取消しの要件は何か
    2. 本改正により「重要事項」はどのように変わるか
    3. 「重要事項」として追加される上記③の事情に該当する事情はどのようなものか
    4. 本改正法により「重要事項」として追加されなかったが今後追加を検討される可能性がある事情はどのようなものか

はじめに

 企業が事業活動を行うに当たっては様々な契約を締結することになり、それには本来民法や商法が適用されます。しかし、企業(事業者)と消費者との間には、契約に関する構造的な「情報の質及び量並びに交渉力の格差」(消費者契約法1条)が存在します。

 そのため、そのような構造的な格差に着目して消費者契約法が制定されています。具体的には、①事業者が不当な勧誘をし、それによって消費者が契約を締結した場合にはその契約(についての申込み・承諾)の効力を否定できるようにするといった規定や、②消費者の利益を不当に害する契約条項を無効とするといった規定が定められています。

 消費者契約法は平成13年4月1日に施行されましたが、それ以降、日本では、高齢化の進展をはじめとするさまざまな変化が生じ、また、同法に関する裁判例や消費生活相談事例等が蓄積されてきました。
 こうした状況の変化を踏まえ、下表のとおり、平成28年5月25日に、「消費者契約法の一部を改正する法律」(以下「本改正法」といいます)が成立し、同年6月3日に公布されました(以下、当該改正法による改正後の消費者契約法を「改正後消費者契約法」といいます)。
 本改正法は、一部を除き、平成29年6月3日から施行されます(附則1条本文)。

 本稿では、本改正法の概要のポイントについて、企業法務への影響や考えられる対策に触れつつ、2回に分けてそれぞれ概説します。

目次
第1回
1 はじめに
2 不実告知における「重要事項」の拡大
第2回
1 過量契約による取消権の新設
2 不当条項の追加(消費者の解除権を放棄させる条項)
3 消費者の利益を一方的に害する条項の前段要件の例示
4 取消権を行使した消費者の返還義務の範囲の限定
5 取消権の行使期間の延長
6 おわりに

不実告知における「重要事項」の拡大

不実告知による取消しの要件は何か

 消費者契約法は、事業者が「勧誘をするに際し」、「重要事項について事実と異なることを告げ」、消費者が「当該告げられた内容が事実であるとの誤認」をした結果、契約の申込み・承諾の意思表示をしたとき、その申込み・承諾を取り消すことができる旨を定めています(消費者契約法4条1項1号)。

本改正により「重要事項」はどのように変わるか

 まずは、こちらの事例を参照ください。

(事例1)
自宅を訪問した事業者が床下を点検し、「床下がかなり湿っている。このままでは家が危ない。」と言われ、床下への換気扇の購入・設置の契約を締結した。床下点検をした際、科学的な方法で水分の測定をしたわけではなかった。

(1)改正前の規定

 不実告知による取消しの要件である「重要事項」の対象は、本改正前は、①「消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容」(消費者契約法4条4項1号)に関する事項と、②「消費者契約の目的となるものの対価その他の取引条件」(同項2号)に関する事項に限定されていました((2)の表を参照)。
 事例1でいえば、「床下の水分含有量」は契約の目的の前提となる客観的事実(その契約がなぜ必要なのかという点にかかわる事実)には該当しますが、「消費者契約の目的となるもの」に該当しません。したがって、事例1の場合、「重要事項」について事実と異なることを告げるという要件は満たされず、消費者は申込み・承諾を取り消せないと考えられていました。
 なお、例えば、床下換気扇の内容や取引条件は「消費者契約の目的となるもの」に当たります。このため、仮に、事業者がこれらについて不実告知をしたのであれば、改正前であっても、消費者は申込み・承諾を取り消すことが可能でした。

(2)改正後の規定

 これに対し、本改正法により、③「物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものが当該消費者の生命、身体、財産その他の重要な利益についての損害又は危険を回避するために通常必要であると判断される事情」もまた、「重要事項」に含まれる旨の規定が新設されました(改正後消費者契約法4条5項3号)。

※不実告知による取消しに関する「重要事項」についての改正前後の比較

(3)「重要事項」以外は現行の消費者契約法と変更がない

 なお、不実告知による取消しの要件は、この「重要事項」以外は現行の消費者契約法と同様であり、その詳細につきましては消費者契約法による取消しの対象となる、不実告知とはをご参照ください。

 また、本改正により拡大されたのは不実告知による取消しの要件である「重要事項」の範囲です。消費者契約法は、事業者が、勧誘をするに際し、「重要事項」について消費者にとって利益になることを告げるとともに不利益なことを故意に告げず、消費者がその事実が存在しないと誤認した結果契約の申込み・承諾の意思表示をしたとき、その申込み・承諾を取り消すことができる旨を定めていますが(不利益事実の不告知による取消し)、この取消しに関しては、「重要事項」の範囲は拡大されていません(改正後消費者契約法4条5項柱書)。

(消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)
第4条 (略)
2~4 (略)
5 第1項第1号及び第2項の「重要事項」とは、消費者契約に係る次に掲げる事項(同項の場合にあっては、第3号に掲げるものを除く。)をいう。
一 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容であって、消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの
二 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの対価その他の取引条件であって、消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの
三 前2号に掲げるもののほか、物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものが当該消費者の生命、身体、財産その他の重要な利益についての損害又は危険を回避するために通常必要であると判断される事情
6 (略)

「重要事項」として追加される上記③の事情に該当する事情はどのようなものか

(1)基本的な視点

 本改正法により「重要事項」として追加される上記③の事情に該当するか否かについては、特に、「損害又は危険を回避するために通常必要であると判断される事情」に該当するかということが核となると考えられます。ただし、その意義は一義的に明確とはいえず、今後消費者庁による解説や裁判例等の蓄積が待たれるところです。

 少なくとも、「通常必要であると判断される」か否かは、具体的な事案における当該消費者個人の動機となっていたかという観点ではなく、当該消費者契約を締結しようとする一般平均的な消費者にとって必要であるかを基準に判断されると考えられます。

 そのため、事業者としては、自らが締結しようとする契約について、一般平均的な消費者を想定して、当該消費者にとって契約の目的となるものが「通常必要であると判断される事情」はどのようなものかを念頭に置き、その事情について不実告知をしないようにするといった対応が重要であると考えられます。

(2)立法段階で検討された具体例

 なお、本改正法の立案担当者によれば、本改正法立案の前段階で設置された消費者契約法専門調査会において対象に含めることを前提として検討された事例における事情は、全て本改正法により新設された「損害又は危険を回避するために通常必要であると判断される事情」に該当すると考えられるとされていますので(須藤希祥「消費者契約法の一部を改正する法律の概説」NBL1076号9頁脚注10)、当該事例について、第22回消費者契約法専門調査会資料1より数例引用します。

(事例1)
自宅を訪問した事業者が床下を点検し、「床下がかなり湿っている。このままでは家が危ない。」と言われ、床下への換気扇の購入・設置の契約を締結した。床下点検をした際、科学的な方法で水分の測定をしたわけではなかった。

 上記2-2でも取り上げた事例1において、そのまま床下を放置すると自宅滅失・損傷を招く危険があるほど床下が湿っているという事情は、自宅の滅失・損傷を予防するために契約の目的となる床下換気扇(設置含む)が「通常必要であると判断される事情」であると考えられます。
 このため、その点について不実告知があり、その他の要件を満たす場合には、消費者は申込み・承諾を取り消すことができることとなります。

(事例2)
ガソリンスタンドで給油したところ、「溝がすり減ってこのまま走ると危ない、タイヤ交換が必要」と、その場で交換を勧められた。不安になって、勧められるままに交換してしまったが、本当にその必要があったのかどうか不明だ。

 事例2において、古いタイヤのまま走ると事故を起こす危険があるほどにタイヤの溝がすり減っているという事情は、生命又は財産の喪失を予防するために「通常必要であると判断される事情」であると考えられます。
 このため、その点について不実告知があり、その他の要件を満たす場合には、消費者は申込み・承諾を取り消すことができることとなります。

(事例3)
山林の所有者が、測量会社から電話勧誘を受けた際、当該山林に売却可能性があるという趣旨の発言をされ、測量契約と広告掲載契約を締結したが、実際には市場流通性が認められない山林であった。

 事例3において、現時点において所有する山林を売却する機会があるという事情は、山林の売却機会を喪失しないために(消極損害の発生を回避するために)「通常必要であると判断される事情」であると考えられます。
 このため、その点について不実告知があり、その他の要件を満たす場合には、消費者は申込み・承諾を取り消すことができることとなります。

本改正法により「重要事項」として追加されなかったが今後追加を検討される可能性がある事情はどのようなものか

 本改正法により新設されるには至りませんでしたが、平成27年12月「消費者契約法専門調査会報告書」(消費者委員会 消費者契約法専門調査会)は、「重要事項」として、「当該消費者契約の締結が消費者に有利であることを裏付ける事情」(例:販売価格と市価を比較していた場合の市価)や、「当該消費者契約の締結に伴い消費者に生じる危険に関する事項」(例:保証契約における主債務者の資力)を列挙することや、列挙事由を例示として位置づけるべきとの意見があることを紹介した上で、「重要事項」の規律の在り方について引き続き検討を行うべきであると示しています。
 「重要事項」の拡大は実務に影響を及ぼす可能性がありますので、今後の動向には留意が必要です。

 以上、改正消費者契約法のポイントのうち、不実告知における「重要事項」の拡大について解説しました。
 次回は、その他にも注意すべき事項を網羅的に解説します。

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