労働条件通知書の電子化解禁 働き方改革を人事労務から加速させる

人事労務
小嶋 陽太弁護士 株式会社SmartHR

目次

  1. 雇用時に交わす書面の完全電子化が可能に
  2. 人事担当者の能動的な企画立案を支えるサービスを提供したい
  3. これからは最適なツールを見極めて運用する力が必要

人事担当者は、煩雑な労務手続きや情報管理など、多くの業務を抱えています。その業務負担の削減が叫ばれるなか、改正労働基準法施行規則の施行により、2019年4月1日から労働条件通知書の電子化が解禁されました。今回は、人事・労務をラクラクに変えるクラウドサービスを提供する、株式会社SmartHR コーポレートグループの小嶋 陽太弁護士に、法改正のポイントや、最先端のツールを使いこなす時代に必要なスキルについて伺いました。

雇用時に交わす書面の完全電子化が可能に

今回の労働基準法施行規則の改正で、実務ではどのような点が変わるのでしょうか。

労働者を雇用する場合には、労働条件の通知と雇用契約の締結が必要です。 後者の雇用契約は、従前から書面作成が義務でないため、電子化が可能ではありました。しかし、前者の労働条件通知は、書面の交付によることが義務づけられていたことから、あえて雇用契約だけを切り出して電子化するインセンティブが働きづらい状況が続いていました。典型的な実務では「労働条件通知書 兼 雇用契約書」として、両者を1つの書面にまとめて行う企業が多かったのではないでしょうか。

ところが、今回の改正で労働条件通知の電子化が解禁され、雇用時に企業と従業員との間で交わす書面の完全電子化が可能になりました。たとえば、全国各地に支店がある企業だと、本部と支店との間で郵送で書面をやり取りするという、時間と経済的なコストを削減できることになります。

企業は労働条件を明示する際に、どんな方法がとれるようになったのですか。

従来の労働条件明示時には、「書面の交付」の方法のみが認められていました(労働基準法施行規則(改正前)5条3項)。これに対し、今回の改正で、新たに「ファクシミリ」および「電子メール等」の送信の方法による明示も認められるようになりました(労働基準法施行規則(改正後)5条4項ただし書)。

ただし、「電子メール等」によって労働条件を通知する場合には、①労働者本人の希望があること、②電子メール等の送信の方法によること、③書面での出力が可能であることという3つの要件を守る必要がある点には注意すべきです。

  1. 労働者本人の希望は、口頭での同意でも足りると解されていますが、後日の労使間の紛争を防止するため、できるかぎりメールやクラウド上などで、エビデンスの残る形により同意することが望ましいとされています。
  2. 「電子メール等」の具体例としては、EメールやSNSのメッセージ機能があげられます。それに加えて、クラウドサービスの個人ページ上での明示も認められると考えられます。
  3. 書面での出力については、実際に出力まで行うことは要件に含まれていませんが、労働条件の全文を紙に出力できる状態におくことが必要です。

SmartHRの労働条件通知機能

「SmartHR」の労働条件通知機能は、「電子メール等」によって労働条件を通知する場合の要件を踏まえたうえで、
自動的にすべての要件を満たせる仕様になっている

他方、労働者側にとって、注意したほうがよい点があれば教えてください。

労働条件をめぐって、後日労使間で食い違いが生じないように、労働者側でもエビデンスを残すよう心がけることが望ましいでしょう。

たとえば、上記①や②の要件について、できるかぎりメールやクラウド上などで返信をし、自身が電子通知を希望した旨および電子通知された条件を確認した旨の証跡を残すといった工夫が考えられます。当社のサービスをはじめ、労働条件の電子通知に対応し、証跡が自動的に残る仕組みを備えているクラウドサービスも多いかと思います。

労働条件通知以外の書面についても、電子化が検討されているのでしょうか。

税金や登記分野ではすでに約70%がオンラインで申請していると言われていますが、社会保険分野ではわずか10数%にとどまります。そこには政府も課題感を持っていて、社会保険手続きのデジタル化も推進されています1

その取り組みの1つとして、2020年4月1日以降は、資本金等が1億円を超える企業について、一部の社会保険手続きを書面ではなく電子申請で行うべき義務が生じます 2。対象企業においては、2019年度中に社会保険の電子申請サービス等の検討・導入を進める必要があります。

株式会社SmartHR コーポレートグループ 小嶋 陽太弁護士

株式会社SmartHR コーポレートグループ 小嶋 陽太弁護士

人事担当者の能動的な企画立案を支えるサービスを提供したい

社会保険手続きの電子化が義務付けられると、人事領域に技術活用が普及しそうですね。貴社の事業では、人事業務のどの領域を扱っているのですか。

社会保険や雇用契約などの労務手続きを非常に簡単に、かつペーパーレスにできるサービスを幅広く提供しています。これまで当社のサービスは、労務タスクのオンライン化・効率化に強みをもった人事データベースとして利用されてきました。近頃は、「さらにデータベース内の社員情報を社内で活用したい」というご要望を多数いただくようになりました。

そのようなご要望を踏まえ、直近では、APIで会計や勤怠管理、採用管理といった他のクラウドサービスと連携したり、蓄積した従業員情報を「カスタム社員名簿」機能で活用する機能のリリースを行ったりしています。また、部署にまつわる最新データを集計・可視化する「ラクラク人事レポート」機能も、今年の夏頃に公開予定です。

これらの施策にとどまることなく、今後もSmartHRに蓄積された社員情報を全社的に活用いただけるような新機能を開発し、人事担当者が能動的かつクリエイティブに仕事ができるような後押しをしていきたいですね。

貴社で取得・蓄積している従業員情報は、具体的にどのように用いられるのでしょうか。

やわらかい言葉であらわすと「意味のある使い方をしていこう」と思っています。当社のサービスでは、氏名や住所のみならず、家族構成や給与額、住宅ローンの有無といった、非常に重要な情報を扱っています。こういった情報の重要性を理解したうえで、セキュリティ部門を中心に十分な管理体制を敷いていますが、法務部門もしっかりサポートするべきだと考えています。

また、法務としては、利用規約やプライバシーポリシーなどをしっかりと作り、ユーザー様へ事前に示している用途に反した運用のないように目を光らせています。
他方で、利用可能な範囲でデータを活用し、ユーザーである各企業様や従業員様にとって、より利便性の高いサービスを目指して改良を続けたいです。

株式会社SmartHR コーポレートグループ 小嶋 陽太弁護士

これからは最適なツールを見極めて運用する力が必要

各企業が業務効率化に試行錯誤するなかで、貴社のサービスをはじめとして、技術の導入が求められる時代になってきました。これからの実務担当者にはどんなスキルが必要ですか。

当初は「ITスキルが最も重視されるのかな」というイメージを持っていました。しかし、当社の「SmartHR」のように、UI・UXに工夫を凝らしている製品だと、ITスキルがそこまでなくても操作できるんですよね。当社のサービスも、操作性や使いやすさに関してユーザー様から高い評価をいただいています。

私は、法律という多くのレガシーが残る業界から、IT企業であるSmartHRへ転職してきました 3。社内では業務効率化のために様々なツールが使われていて、以前の執務環境での常識からすると、もうぜんぜんやり方が違います。おそらく他社の管理部門の方も、似たような体験をされているのではないでしょうか。
新しいツールが導入されると、自身の業務が変化しますが、それに対して抵抗感よりも利便性を感じられることが、実は一番大事な素養なんじゃないかなと思っています。

今までの業界の常識を疑って、思い切って新たなツールを試してみることも大切なんですね。

そのためには、社内のメンバーに「このツールはこういうところが良いですよ」と伝えて、適切なツールを取り入れるスキルが必須になってきます。

提案したツールについて「別のツールのほうが良いじゃん」と言われた時でも、「そのツールを社内のフローに当てはめると、この部分がうまくいきません。だから、この会社にはこちらの方が良いんですよ」と最適解を打ち返せれば、周囲の納得も得やすいですよね。

まずは社内の誰よりも幅広いツールに触れて、それぞれのメリット・デメリットを、見極められるようになると良いと思います。ただし最初からツールの詳細を熟知している方はいないので、とにかく柔軟に試してみる姿勢が必要だと考えています。

株式会社SmartHR コーポレートグループ 小嶋 陽太弁護士

(取材・文・写真撮影:村上 未萌)


  1. 2019年5月31日に公布された「情報通信技術の活用による行政手続等に係る関係者の利便性の向上並びに行政運営の簡素化及び効率化を図るための行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律等の一部を改正する法律(2019年法律第16号)」(デジタルファースト法・デジタル手続法)も参照ください。 ↩︎

  2. 2018年度の法令改正によるものです。電子化対象となる手続き等の詳細については、SmartHRガイド「【弁護士監修】「2020年電子申請義務化」対応で最大限効率化する方法を解説!」(2019年4月3日公開、2019年5月30日最終閲覧)も参照ください。 ↩︎

  3. 小嶋弁護士のキャリアに関するインタビューは、「法務キャリアの登り方|第10回 大手法律事務所からベンチャー法務に − 弁護士のキャリアチェンジの考え方」 を参照ください。 ↩︎

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