入国管理法改正と外国人雇用の最前線

第2回 外国人雇用を働き方改革のチャンスに変える

人事労務
佐野 誠 株式会社ACROSEED

目次

  1. 人事評価制度の構築で外国人材の流出を防ぐ
  2. 外国人労働者をめぐる日本企業の勘違い
  3. 外国人雇用をグローバル化のきっかけに

2019年4月1日、出入国管理及び難民認定法(以下、「入国管理法」)が改正され、労働力不足が深刻な14業種への、5年間で最大34万5000人の外国人労働者の受け入れが始まった。新たに設けられた在留資格「特定技能」では同業種に限って転職が認められるため、企業からは早くも外国人社員の流出を不安視する声が聞かれ始めている。国内の労働人口が減少する中、多くの企業が避けては通れない外国人雇用。しかしそこには意外な成長のチャンスが隠れているという。

年間3000件以上の就労ビザの入管手続を行い外国人雇用に関するコンサルティングを手がける株式会社ACROSEEDの佐野誠氏に聞いた。

人事評価制度の構築で外国人材の流出を防ぐ

第1回「新在留資格「特定技能」は人手不足解消の特効薬になりえるか」では、ようやく採用にこぎつけた外国人社員が入社後すぐに辞めてしまうという企業の悩みについてお話がありました。この問題についてもう少し詳しくお聞かせください。

日本にお金を稼ぎに来た外国人労働者の最大の関心事は「どうすれば給料が上がるか」に尽きます。しかし、日本には彼らの疑問に答えるための評価制度が整っていない企業が多く、この点で外国人社員から不満が出てしまうことが多いのです。外国人社員の離職を防ぐためには、企業の仕組みとして昇給の条件を示す必要があります。

明確な指針がなければ、働く側も何をどう努力すればよいかわかりませんね。

特に中小企業の場合には、従業員に求める成果やフォーカスしてもらいたい業務が明確になっていないことが多いですね。その点では、年功序列型の日本の給与制度は、外国人労働者のうけが非常に悪いです。ならば成果主義にしようという話になりますが、あまり性急に成果に振りすぎると、今度は日本人従業員から反発を招いてしまいます。両者をいかにバランスさせるかが、大事なポイントになるわけです。

なるほど。では外国人社員を採用したい企業は、どのような方法で、募集・採用活動を行うのでしょうか。

外国人雇用には、大きくわけて3つのパターンがあります。1つめは外国人留学生の新卒で採用する場合、2つめは国内に在住する外国人転職者を採用する場合、3つめは海外に在住する外国人を呼び寄せる場合です。

外国人の採用パターンと典型的な分類

①外国人留学生の新卒採用 ②国内在住の転職者 ③海外在住者の呼び寄せ
日本語レベル 読み・書き・会話 会話(読み・書き) これから
日本の一般常識 十分に知っている 十分に知っている これから
ビジネススキル これから 高い 高い
家族への配慮 原則として不要 人により異なる 必要
渡航への配慮 不要 不要 必要
ビザ手続き 必要 必要 必要

株式会社ACROSEEDグループ(行政書士法人・社会保険労務士法人・税理士法人)提供

一般的に、企業が外国人社員を採用する場合は、アルバイトの募集か「技・人・国(技術・人文知識・国際業務)」の在留資格を持つ正社員ということになります。これらの場合、国内で採用するのであれば、日本人を採用する場合とほとんど変わりません。

海外から優秀な人材を連れて来たい、というケースではいかがでしょうか。

その場合は比較的規模の大きな企業が該当しますね。最近ではIT系の企業が積極的に外国人材の採用を行っています。2014年に「高度専門職」という在留資格ができたように、国も高度外国人材の受け入れ拡大を目指していますので、採用手続の面で問題になることはそれほどありません。そんな中で企業側が一番頭を痛めているのは、そもそも優秀な外国人材が日本に来てくれないということ。そして、来てくれてもすぐに辞めてしまうということです。

その原因はどこにあるのでしょうか。

外国人労働者が世界を見渡したとき、日本で働くということに魅力が感じられないためです。

どういうことでしょうか。

日本の働き方が国際的ではないということです。日本は賃金が安く、労働時間は長く、さらに外国人社員には理解しにくい暗黙のルールが数多くあります。たとえば、給与面もそうです。日本でシステム系の営業職に就き700万円の年収を得ている外国人労働者がいるとします。その方がサンフランシスコに行くと、平均年収1300万〜1400万といったレベルに上がっていきます。英語が話せて能力があり、働く国を自分で選べる外国人労働者なら、どちらを選ぶかは明らかですよね。先進国の中で日本の労働環境はかなり見劣りしてしまっているのが実情です。

グローバルな人材獲得の面で、日本は遅れをとっているわけですね。

そうですね。ただ面白いのは、日本にいる外国人に「日本で生活したいですか?」と聞くと、大部分の人が「絶対に生活したい」といいます。つまり、住む国としての日本のイメージはすごくいい。安全で、サービスが良く、物価も安く、親切な人が多い。外国人のみなさんは、ベタベタなほど日本に好感を持ってくれています。でも「日本で働きたいですか?」と聞くと、今度は「絶対に嫌」と。

住みたいけど、働きたくはない、というわけですね。

「アメリカで働いてお金を貯めて、日本で生活をしたい」と、みなさん口をそろえていいますね。


日本への留生・元留学生による、日本の生活及び就労魅力度の評価

日本への留生・元留学生による、日本の生活及び就労魅力度の評価 経済産業省「内なる国際化研究会」報告書、平成28年3月

出所:経済産業省「内なる国際化研究会」報告書、平成28年3月

IT分野についていえば、中国なども人材獲得競争力が高いという印象があります。

中国は今、とても勢いがありますね。また、中国に限らず、さまざまな国が国策として高度な人材を引き寄せようと知恵を絞っています。中でも、アメリカ、スイス、オーストラリアなどには毎年いろいろな国からどんどん人材が集まってきている状態です。そういった国々は、毎年、高度な人材がどんどん入ってきて、グラフがプラスになっていくのですが、それが日本はマイナスになっているのです。

つまり日本から高度な外国人材が流出しているということでしょうか。

残念ながら、その通りですね。


1999年〜2013年の高度人材(研究者)の流出入数

1999年〜2013年の高度人材(研究者)の流出入数 OECD, Science, Technology and Industry Scoreboard 2015 JAPAN HIGHLIGHTSから作成

出所:OECD, Science, Technology and Industry Scoreboard 2015 JAPAN HIGHLIGHTSから作成

外国人労働者をめぐる日本企業の勘違い

外国人社員の勤務態度が悪かったり、トラブルを起こしたりしたときには、懲戒処分や場合によっては解雇などを検討することも考えられます。その際企業が気をつけるべきポイントはありますか。

日本人の場合には、良くも悪くも「相手が汲んでくれる」という意識がありますが、外国人社員に対する説明においては、何よりもまず「理由」が必要です。「あの人は許されているのに、なぜ私の場合はダメなのか」といった話はよく出てきます。特に、欧米の方と中国の方は、このような傾向が強いですね。
外国人社員ときちんとコミュニケーションしながら、信頼関係を築いていくうえでは、評価制度や就業規則をきちんと整え、「あなたは会社の就業規則のこの部分に違反した」といったように伝えられるかどうかが大切です。そのような手法で説明すれば、ほとんどの外国人社員は納得するはずですし、ペナルティがあることが事前にわかっていれば、そもそも問題行動をとることもないでしょう。それを事前に伝えずに後出しでやると、たいていトラブルに発展します。

外国人社員の定着と評価制度の構築は、セットで考える必要があるのですね。

「外国人ならきつい仕事を安い賃金でやってくれるかもしれない」と考える日本人経営者は今も多くいますが、それは勘違いです。きちんとした評価制度を持たなければ、外国人労働者を採用すること自体が難しい、というのが現在の日本企業が置かれた立場であることを認識してもらいたいと思います。

採用の際に外国人労働者が特に気にする点はありますか。

特に欧米の方に関していえば、一番多いのが職務内容についてですね。よくいわれることですが、欧米と日本では採用の仕方そのものが違います。日本では「営業職」や「事務職」などというように、大まかに業務範囲を示した募集が多く、応募者にとっては面接してみるまで仕事内容がわからないことも多いです。しかし、欧米の場合はあらかじめ募集するポジションが明確に定まっています。また、そのポジションに必要とされる能力も具体的に決まっているので、応募者自身が入社後にやるべきこと、求められているパフォーマンスを理解したうえで応募してくるのが一般的です。

ジョブ型とメンバーシップ型の違いですね。

その違いはかなり大きいですね。また、ホワイトカラーの外国人労働者が最も恐れているのが、いわゆるブラック企業の問題です。長時間労働だけは避けたい、という方が外国人には非常に多いです。面接の場で面と向かって「残業は多いですか?」と質問する方は多くありませんが、逆に企業側から積極的に開示することで有利に採用活動を進めることができると思います。

企業の側にも自社をアピールする姿勢が求められますね。

つまるところは、働き方改革ですよね。日本人社員の働き方改革がうまくいかない企業は、外国人社員の採用面でも苦戦しています。

大企業であれば、職務内容をクリアにしたり、賃金を上げたり、福利厚生を充実させるといった対応が考えられますが、中小企業の場合にはなかなか難しいことも多いと思います。中小企業が外国人社員の採用力を強化し、定着させていくコツはありますか。

たとえば、社員旅行やお花見など、日本企業にはプライベートなのか仕事なのかが曖昧な「行事」がありますよね。その線引きを明確にしてあげることは意外と効果的です。日本独自の会社行事は、おおむね外国人労働者からの評判がよくありません。企業側もオン、オフの使い分けをはっきりする意識が不可欠です。

株式会社ACROSEED佐野誠代表

外国人社員を定着させる鍵は「日本人と同じことをさせないこと」と語る佐野氏

外国人雇用をグローバル化のきっかけに

外国人社員に定着してもらうためのアプローチは、見方を変えれば、日本人社員の獲得の面でもプラスに働きそうですね。

考え方はまったく一緒ですね。外国人社員を定着させるための努力を通じて、企業の労働生産性が上がり、採用活動も上手くいくという好循環が生まれます。現時点で「外国人社員が欲しい」と四苦八苦している企業は、多くの場合生産性を上げるための仕組みづくりに手をつけられていません。今回の改正入国管理法で新設された「特定技能」の在留資格を持つ外国人労働者は、同じ業種に限って転職することができます。逆に考えると、人手不足を解消するためだけに特定技能の外国人を採用する企業は、労働者の転職リスクが高いと認識すべきでしょう。特に、地方の企業では、外国人労働者がより条件の良い都市部の企業に流出するのではないかと見られています。

人材流出を防ぐ方法はありますか。

魅力的な仕事を創出し、十分な賃金を払い、生産性を上げていく、という点に尽きると思います。企業自体が強くなるという方向に向かっていかなければ、中小企業や地方企業にとっては今後も難しい局面が続くでしょう。

生産性を高め、収益力を上げていくということですね。

収益性を高めるということは、本来、企業にとって非常にベーシックな部分です。それができなければ、社員の給料を上げることはできません。それを実現するためには、働き方を考える必要が出てきます。年功序列という日本独自のシステムでは、良い人なら採用、仕事はあとで考える、ということもしばしばです。いきなりすべてを変えることはできませんが、成果主義をはじめとする合理的な働き方を取り入れて、個々の企業の実情に合わせてアレンジしていく工夫が必要です。

外国人雇用を成功させるためにやってはいけないことはありますか。

これまで多くの日本企業がたくさんの失敗を経験してきましたが、なぜ失敗を繰り返すかというと、それは、外国人にも日本人と同じことをやってもらおうとするからです。日本人と同じように挨拶に励んでもらい、日本人と同じように朝礼に出てもらう、というような考え方ですね。そもそも、日本人社員を定着させられない状況があり、その分析がなされないまま外国人を入れて、日本人とまったく同じことを要求したとして、彼らが日本人と同様に辞めてしまうのは、当然のことともいえるのです。

外国人雇用を通して体質改善に成功した企業の例はありますか。

たとえば、弊社のクライアントでいうと、経営者の方がどんどん、新しいことにチャレンジしている企業に成功例が多いようです。外国人労働者を入れると、「考え方が違う」などの理由で必ずトラブルが起きます。それを排除しようとするか、それを踏み台にして上を目指すか。その考え方の違いですね。先ほど例をあげたクライアントは、外国人社員を入れてトラブルが生じると、日本人社員、外国人社員の間で話し合いの場を持ってもらい、合意のもとで新たなルールを作っています。そのような形で社内が変革していくと、自然と競争力がついてきます。気がつくと外国人の従業員と共存していくうえで必要なルールや取り決めは自然とできあがっていたそうです。

ドメスティックな企業であっても国際化は必要不可欠ということでしょうか。

そうですね。外国人雇用を進めていくと、企業の人事制度自体が国際化せざるを得なくなりますからね。また、たとえば外国人労働者の中には、母国に何らかのコネクションがあったり、パイプ作りが得意な方も多くいます。そのような外国人社員のおかげで、自社製品の販路が国外へと広がっていく例も多いですね。

それはうれしい副産物ですね。では、「特定技能」が創設されたことであらためて日本に関心を寄せてくれている国はありますか。

最大の受け入れ人数を抱える介護、宿泊などの分野においてはフィリピンです。ところが日本の人気は高くありません。フィリピンは伝統的に海外への出稼ぎ労働者が多い国で、彼らの働き先として人気なのが、中東やアラブ諸国です。それからシンガポール、香港、タイと続き、ようやく日本の名前が出てくるという状況です。同じく高度人材と呼ばれる外国人からも、日本は選ばれにくい状況があります。

日本は外国人労働者に選んでもらって当然な国ではないわけですね。

これからの外国人雇用に関しては、「よく日本を選んでくれました」というのが、私たち日本人のとるべきスタンスなのだと思います。外国人労働者の採用をきっかけに、会社を国際化させていくこと。これができれば、日本企業はまだ大きな伸びしろを持っていると思います。

(取材・構成・写真撮影:BUSINESS LAWYERS編集部)

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