法務の未来を変える「Hubble」チームはどうやってできたか

ベンチャー

目次

  1. IT分野の起業で勝負したいと思っていた
  2. スタートアップは自分1人では絶対にできないから、一緒にやろうと決めた
  3. 一緒に働きたい人がいれば、領域を超えてでもチャレンジできる
  4. このチームでできなかったら、人生でスタートアップは成功しないと思った
  5. 法務ナレッジの横断的な利用の促進を目指す

契約書等のドキュメントバージョン管理サービス「Hubble(ハブル)」が、2018年10月に正式リリースされた。「一人の知識・経験を、みんなで使える法務ナレッジへ。」をキーワードに、Microsoft Word(以下、Word)を用いて作成されたドキュメントについて、クラウド上で、バージョン・修正履歴やコメント機能によるコミュニケーション等を一元管理することができるサービスだ。

同サービスの開発を進め、新しい法務の働き方を支援しているのは、株式会社HubbleのCEO 早川 晋平氏、CTO 藤井 克也氏、CLO 酒井 智也氏だ。「契約書のバージョン管理を「GitHub」のように実現する、「Hubble」の誕生秘話」では、サービス立ち上げの経緯について取材した。今回は、3名のこれまでのキャリアや今後の事業の展望などについて語っていただいた。

IT分野の起業で勝負したいと思っていた

早川さんはHubbleのサービスを立ち上げられるまでに、どのようなキャリアを歩んでこられたのでしょうか。

早川氏:
大学生の頃から起業したいと思っていて、さまざまな業種の資金調達の方法を学ぶために新卒で会計事務所に入りました。起業するならITの分野で勝負したかったので、会計事務所に入所して1年ほど経ってから、プログラミングスクールに通うようになりました。スクールの営業時間は11時から23時までだったのですが、仕事終わりの22時30分でも残りの30分のためだけに行っていました。僕は、継続することだけは取り柄なんです。
まったく技術がないにも関わらず、受託案件を取りながらプログラミングの経験を重ね、受託業で起業しました。

なぜITの分野で勝負しようと思われたのですか。

早川氏:
僕が会計事務所で働いていたのは、ちょうどマネーフォワードが流行りだした時でした。
従来はお客さまから領収書をかき集めて会計ソフト上で入力しなければならなかったので、領収書の合計金額ではなく釣り銭欄を見て反映してしまう人為的なミスが多く発生していました。
マネーフォワードであれば、クレジットカード明細から自動で支払いを登録してくれますし、通帳残高や仕分けも把握することができます。同サービスを目の当たりにして非常に感動しましたし、専門性が高いといわれている公認会計士の仕事はソフトウェアに置き換えられてしまうのではと衝撃を受けました。IT系で起業したいと考えたのは、それがきっかけです。

株式会社HubbleのCEO 早川 晋平氏

株式会社Hubble CEO 早川 晋平氏

スタートアップは自分1人では絶対にできないから、一緒にやろうと決めた

早川さんと藤井さんとの出会いは、どういう形で始まったのですか。

藤井氏:
僕はもともと技術コンサルティング会社を経営していたものの、会計知識がまったくなかったので、税金関係のイベントに参加したんです。そこで早川と知り合いました。
大勢の前でも「このように使ったら税金を支払わなくても良いですか」などと臆面なく質問をする僕に、早川が興味を持ったらしいです。
出会った当時、早川は受託会社を経営していて、「スタートアップ的なプロダクトをこんなアイデアで作りたいけれど、どうしたらいいか」と訊かれ、技術屋としてアドバイスをしました。

早川氏:
知り合って1週間後、あらためて時間を設けて、藤井にアイデアを相談しました。その時にはすでにプロトタイプができていましたね。

藤井氏:
スーパープロトタイプでしたけどね。それ以降RUC(当時の会社名)の技術コンサルティングを行い、半年ほど一緒に開発を進めていきました。そしてHubbleのアイデアが出てきたタイミングで本格的に作り始めようと決断しました。

藤井さんはどういう会社でキャリアを積まれてきたのですか。

藤井氏:
僕はいわゆるコンピュータ・サイエンティストとしてのキャリアを歩んできました。東京大学で博士前期課程を修了した後に、米国のマサチューセッツ工科大学のメディアラボで研究をしていました。当時はいろいろなスタートアップ企業からプロトタイプ的なものを作りたいという相談を受けていましたので、それを受託で開発するような活動が中心でした。
日本に帰った後も同様にスタートアップの受託開発やコンサルティングを続けて、2016年に法人化しました。ただ受託業務は、自分の技術と知識を放出するのでキャッシュフローは良いのですが、飽きてくるんですよね。一度は自分で投資を受けてスタートアップ企業を立ち上げ、サイクルを回す経験を積みたいと思っていた矢先に、早川と出会いました。ビジネスとは1人でできるものではなくチーム力が大事だと思っていたので、早川と一緒にやろうと決めました。

藤井さんは多くのスタートアップに関わられていたので、ジョインする企業は他にもありえたのではないでしょうか。早川さんやHubbleの魅力はどこにありましたか。

藤井氏:
僕は大ざっぱな性格なので、細かいことを担当してくれる早川との相性が良かったのだと思います。
また最近のIT系スタートアップのCTOには、「俺がいなければプロダクトは作れない。他の人は俺のプロダクトを売っているだけだ」といった調子で、エンジニアがすべてだと思っている人が多くいます。僕にもそういう時期がありました。しかし、CFOを務めている友人に会社の資本政策や資金調達などの資料を見せてもらった際に、会計も法律もわかる人たちとチームを組まないと会社として成り立たないということを痛感しました。そんな時にちょうどファイナンスや会計知識のある早川と出会えたというわけです。Hubbleはスタート段階でファイナンスと技術の2つが揃ったチームだったので、始動しやすかったです。

早川氏:
僕は税金が詳しくて、藤井はスーパーテッキーです。出会った当時、藤井は個人事業主としての売り上げと法人の売り上げがあって、訳が分からなくなっていたので、それを僕がすべて請け負いましょうと持ちかけて仲良くなりました。後は、シンプルに一緒に飲んだ酒が美味しかったから共に働くことに決めました(笑)。

株式会社Hubble CTO 藤井 克也氏

株式会社Hubble CTO 藤井 克也氏

一緒に働きたい人がいれば、領域を超えてでもチャレンジできる

酒井さんはもともと顧問弁護士として外から関わられていたと思います。そこへジョインしようと考えた理由を教えてください。

酒井氏:
以前は法律事務所に所属しながら、最も多い時期には10社以上の企業の顧問弁護士を務めていました。その顧問先の1つがHubbleでした。早川とはイベントで会って、すぐに意気投合しました。出会って早速飲みに行って、2人で泥酔したところがすべての始まりでしたね(笑)。法律面のみならず、事業のこととかいろんな話をして、一緒に仕事をしたいなと思える人でした。
僕自身がHubbleにジョインしたのは、弁護士として働くという枠を取っ払って考えたときに、自分の共感できる仲間と一緒に価値提供できることをしたいという思いがあり、Hubbleでそれを実現できるなと感じたからです。

起業への興味はあっても、弁護士業からスタートアップという道に進むことができる人はあまりいないように感じます。そこへの一歩を踏み切れたのは、なぜですか。

酒井氏:
僕自身、弁護士の資格を取ったがゆえに、その範囲で働くという固定概念に縛られてしまうのが少し怖かったのです。20歳前後で弁護士を志しましたが、弁護士になった後のほうが多くのことを経験するはずである環境のなかで、自分が本当に興味を持つものや、自身の可能性を発揮できる領域に接したときに、そこに飛び込みたいなという漠然とした考えはずっとありました。
実際に早川、藤井、そしてチームのエンジニア陣たちと出会って、自分の価値も発揮でき、かつ社会的にインパクトあるプロダクトを開発していこうというタイミングが合ったので、Hubbleで新たなチャレンジをしようという意思決定は、僕の中では自然でした。

株式会社Hubble CLO 酒井 智也氏

株式会社Hubble CLO 酒井 智也氏

このチームでできなかったら、人生でスタートアップは成功しないと思った

事業を続けていくと、時には心が折れそうになるタイミングもあると思います。その時に事業を続けられる秘訣はありますか。

早川氏:
心が折れるというのは今まで経験したことはないのですが、チームのみんなが頑張っているから自分も、もっと頑張ろうって思うだけですね。
みんなで成功したい、これは本気で思っています。その成功のために、僕はいつまでも泥臭く生きていたいです。つらいことがあってもお酒が解決してくれます(笑)。
ただ正直な話、長期的なビジョンだけではなかなか長続きしないので、今楽しいことにもとても重きを置いています。先日、チームメンバーで電話営業して、アポイントを取れるのは誰か、みたいなこともしました。長期の成功のために、今を全力で楽しむのが、事業を続けられる秘訣ですね。

酒井氏:
判断が難しいことなどには日々ぶつかります。ただ、その際にも、しっかり議論できるチームの根底での信頼関係が築けているのは大きいと思います。判断に迷うことがあれば、すぐにディスカッションして解決していくという体制があるのはとても良いです。

藤井氏:
ブレーンストーミングをして出てきたアイデアは、たいてい1週間も経ってから見直すと微妙であることが多いです。ところがHubbleに関しては、ここに至るまでそういう疑問を覚えたことがありません。
アイデアが絶対に良いものだという自信はもちろんありますが、弁護士が取締役におり、ファイナンスもでき、エンジニアのチームも少数精鋭で最大限のバリューを発揮しているという組織としての強みも誇れる点だと感じています。このチームメンバーでできなかったら、僕の人生でスタートアップは成功しないと思います。

スタートアップですと、投資家の方々との関係性もありますよね。

早川氏:
僕たちは投資家には、本当に恵まれています。1番最初の調達の時、15分で出資を決めてくれた投資家もいました。純粋に良い仲間とプロダクトを作り、お客さまに使ってもらって組織が成長し、僕らの影響力も広がっていくのが、今のやりたいことです。何十年後のビジョンを考えるよりは、今目の前にいるお客さまと向き合って話をしていきたいです。
背伸びをして「この市場を独占します」とは言わないところに僕らの強みがあります。投資家の方々もそのスタイルを理解してくれていてありがたいです。

酒井氏:
確かに早川は、背伸びはしない経営スタイルですね。早川は「国民の後輩」を目指しているらしいので(笑)。投資家の方はもちろんですが、まだプロダクトをローンチする前にも多くの企業の方や弁護士の方にヒアリングさせていただいたり、周りの方には本当に恵まれているなという感覚があります。

左から株式会社Hubble CLO 酒井 智也氏、CEO 早川 晋平氏、CTO 藤井 克也氏

法務ナレッジの横断的な利用の促進を目指す

今後はさらに会社の規模を拡大されていくのでしょうか。

早川氏:
規模について明確な数字はありませんが、メンバーは増やしていきたいですね。そのためにはやはり純粋に売り上げを伸ばしていく必要があると思います。

酒井氏:
Microsoft Wordは世界的に使われていますし、HubbleのUIを英語化すれば世界で使ってもらえるプロダクトにもなりえます。

藤井氏:
今はメンバーが少なく、遊び心のある開発ができる環境ではないですが、チームのエンジニアがAIやブロックチェーンなど新しい技術を使えるような余裕が欲しいですね。エンジニアの人たちは新しい技術を使ってみたいという考えがあるので、それができるようなチームの雰囲気作りをしていきたいです。

最後に、今後の展望とサービスにかける思いをお聞かせください。

早川氏:
Hubbleを今のお客さまに最適化するのが、私たちの当面のミッションです。さらなる業務の効率化へ向けて、法務や弁護士の方々がバージョン管理に時間を割いたり、過去のドキュメントを1日がかりで探したりするようなことの無いように、彼らがすべきことをちゃんと普通にできるプロダクトに早く仕上げていきたいです。
僕たちが持っている強みを最大限に生かしつつ、将来的にはさまざまなソフトウェアとコラボレーションしていければと考えています。

酒井氏:
個人的には、法務にもっとかっこいいというイメージをつけたいなという思いがあります。法治国家の日本の中で、本来法律を駆使できる法務の仕事に就いている人が、非本質的な事務作業に追われているのは、すごく残念だなと思います。そういう人たちがもっと本質的な業務に対して、本来の能力を最大限に発揮できる環境で働けるように、法務などの業務がより効率的なものになることを願っています。

さらに、Hubble上にも社内のリーガルデータが蓄積されていくので、他の部署がそのデータへ簡単にアクセスしていくような環境ができると思います。実際に、これまで専門知識とされていた法務知識が、テクノロジーの力によって社会にシェアされていくような状態になると、法務パーソンがバリューを発揮する領域は変化していくのではないでしょうか。知識経験に依拠して判断するのではなく、リーガルマインドを駆使してビジネスの適法性を判断するような、より事業部にコミットしていくような領域での活動が求められるようになると考えています。

藤井氏:
現在Hubbleのコアとなるプロダクトの開発をしているところなので、まずはそこで売り上げを立てていきたいです。
ロードマップを公開しているので、ぜひ見て欲しいですね。

酒井氏:
「バージョン管理はあくまでも機能であり、そこに蓄積されていく法務ナレッジにこそ価値がある」というユーザーの声は非常に多いです。Hubbleとしては、より効率的にナレッジを検索できるように機能を拡充できると、ユーザーにとって魅力的なサービスに育つのではないかと思います。

早川氏:
ユーザーにとって最もニーズがあるのは、法務ナレッジの横断的な利用です。法務担当者が会社を辞めてしまうと、その担当者のナレッジは会社から無くなってしまいますが、適切にバージョン管理を行えば、ナレッジを会社に蓄積させて、新たな担当者に橋渡しすることができます。自動で蓄積される共有ナレッジは会社の強みにもなりますし、業務の効率化にもつながります。

酒井氏:
働き方改革によって、リモートで働く人や複数の会社で横断的に働く人が増えてきたときに、法務ナレッジが1人の担当者だけの属人的なものになっている状態では業務を効率的に行うことは不可能です。あらゆる場所で働く人たちがリモートでナレッジにアクセスできる環境を整えていく必要があります。現在多くの業界でSaaSプロダクトが普及している背景にはこのような事情があると思いますが、法務にも必ずその流れが来ると考えております。Hubbleでは、こうしたナレッジのハブ的な機能を担っていきたいです。

会社概要
株式会社Hubble
所在地:東京都渋谷区神宮前3-27-15 FLAG 3-O
設立:2016年4月14日
資本金:6046万円(資本準備金を含む)
代表者:CEO 早川 晋平、CTO 藤井 克也、CLO 酒井 智也


プロフィール
早川 晋平(はやかわ・しんぺい)
関西学院大学数理科学科を卒業後、会計事務所にて40社を担当。在職中にファイナンスとプログラミングを学び、起業。

藤井 克也(ふじい・かつや)
東京大学大学院修士課程卒業。マサチューセッツ工科大学 MIT Media Lab で訪問研究員として研究に従事した後、米国でのベンチャー企業立ち上げに参入。共同設立者としてHubbleを始動、同社CTOに就任。東京大学大学院博士課程在籍中。

酒井 智也(さかい・ともや)
慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。2013年司法試験合格後、東京丸の内法律事務所でコーポレート、M&A、破産管財業務、紛争案件、スタートアップ顧問アドバイザー業務等に従事。2017年6月からRUC株式会社(現在の株式会社Hubble)の顧問弁護士を経て、2018年6月、株式会社Hubble取締役CLOに就任。

(文:周藤 瞳美、取材・構成・編集:村上 未萌、取材:BUSINESS LAWYERS編集部)

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