「ティラミスヒーロー」のブランドロゴにそっくり! 「悪意の商標登録出願」から商標を守る戦略とは?

知的財産権・エンタメ
杉尾 雄一弁護士 弁護士法人内田・鮫島法律事務所

目次

  1. 他人の使用している商標を出願する場合の問題点
  2. イラストの利用における著作権侵害
  3. ティラミスヒーロー社が求められる請求とgram社の対応
  4. 「悪意の商標出願」から自社の商標を守るための戦略

2012年に創業し、現在シンガポールを本拠地として、日本でもティラミス等を販売する株式会社ティラミスヒーローが、自社のブランドロゴがコピー商品で使用されているため、ブランド名を「ティラミスヒーロー」から「ティラミススター」に変更することを公表した。

事の発端は、株式会社HERO'Sが商標出願していたティラミスヒーロー社のものに類似するブランドロゴ等だった。同社は2019年1月20日に国内初のティラミス販売店舗をオープン。当初は「他社のティラミスに関する商品とは関係ない」と主張していたが、1月22日に一転、自社が取得した商標の使用権をティラミスヒーロー社へ譲渡すると発表した。HERO'S社は、人気パンケーキ店を運営する株式会社gramと同じ経営者が創業し、ほかにも他社商品に関する商標出願を申請中だと見られている。

一方、権利侵害を訴えていたティラミスヒーロー社のブランドロゴ自体が、第三者であるデザイナーのイラストに基づき作成されたものであることが判明し、gram社との関係に影響を与えるのか、関心が寄せられている。

そこで、他人の使用する商標を出願する場合の問題点や、悪意の商標出願への対応について、弁護士法人内田・鮫島法律事務所の杉尾 雄一弁護士・弁理士に聞いた。

他人の使用している商標を出願する場合の問題点

今回の事例では、gram社はティラミスヒーロー社の商標、イラスト等とほとんど同じ商標を商標登録出願し、既にその一部について商標登録を受けています。そもそもこのように他人の使用している商標について、まったく関係のない者が無断で商標登録出願をし、また、商標等登録を受けることに法的な問題はないのでしょうか。

商標法では、商標登録出願について登録要件(商標法3条)や不登録事由(商標法4条)を定めています。つまり法律で定められた要件を満たせば、どのような商標であっても商標登録を受けられることになっています。

ここで他人の使用している商標を出願する場合、商標法4条1項10号、11号、15号および19号に基づく不登録事由に該当するか否かが問題となり得ます。

【他人の使用している商標を出願する場合に問題となる不登録事由】
  • 商標法4条1項10号:他人の周知商標
  • 同11号:先願にかかる他人の登録商標
  • 同15号:商品または役務の出所の混同
  • 同19号:他人の周知商標と同一または類似で不正の目的をもって使用をする商標

まず、商標法4条1項11号は、他人の商標登録との関係で商標が同一または類似、指定商品等も同一または類似の場合に、商標登録を受けることができないものとされています。本件で、ティラミスヒーロー社は日本国内で商標登録を受けていなかったことから、gram社の出願に関し本号が適用される余地はないことになります。

一方、商標法4条1項10号、15号および19号は、他人の周知商標を無断で出願した場合に問題となります。同10号および15号は国内での周知性が問題となりますが、19号は外国の周知性も勘案されます。  

今回の事例では、商標法4条1項10号の不登録事由に該当する可能性はありますか。

本件では、ティラミスヒーロー社の商標が日本国内において周知であると認められれば、同10号が適用されることになります 1。ここでの周知性とは、地理的範囲としては必ずしも全国的な範囲で周知であることまで求められるものではなく、一地方における周知で足りるとされています。また、最終消費者にまで広く認識されていることは求められず、取引者間での周知性で足りると考えられています。

ティラミスヒーロー社の商標が周知であるかどうかは微妙なところではありますが、シンガポール発であることを踏まえると、同19号において外国の周知性も勘案された方が、周知といえる可能性が高いのではないかと思われます。

では、商標法4条1項19号の不登録事由に該当する可能性はあるのでしょうか。

商標法4条1項19号は日本国内または外国での周知性に加え、gram社に不正の目的(自己の利益を図る目的または他人に損害を加える目的)が必要とされています。

本件では、ティラミスヒーロー社の商標はネコのキャラクターが特徴的であり、gram社の商標にも同様の猫のキャラクターが用いられています。gram社の商標は偶然ティラミスヒーロー社の商標と類似したのではなく、gram社がティラミスヒーロー社の商標に化体した信用にただ乗りしようとしていることや、ティラミスヒーロー社から商標の使用料を取得する等の目的で出願されたことが推認されます。

さらに、gram社はティラミスヒーロー社以外の商標についても、第三者の使用する商標と同一または類似の商標を出願していることから、偶然他社の商標と同一または類似の商標を出願したのではなく、意図的に他社の商標と同一または類似の商標を出願したことが推認されます。

以上の理由等から、gram社の不正の目的が認定される可能性はあると考えられます。

今回問題となったgram社により出願された商標登録第6073226号の登録商標

今回問題となったgram社により出願された商標登録第6073226号の登録商標

仮に、商標法4条1項10号または19号に該当する場合、gram社の商標登録出願または商標登録はどうなりますか。

gram社はティラミスヒーロー関係の商標につき、ロゴの商標、文字の商標、その組み合わせの商標を複数出願しており、商標登録されているものもあれば、いまだ出願として審査中のものもあります。

特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)の商標出願・登録情報の「ティラミスヒーロー」の検索結果

特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)の商標出願・登録情報の「ティラミスヒーロー」の検索結果には、gram社とHERO'S社が出願した商標が並ぶ

審査中の場合、審査において拒絶理由が通知される可能性はありますが、商標法4条1項10号または19号のように周知性の有無や不正の目的の有無が問題となる拒絶理由は、審査において判断がしがたいことから、拒絶理由が通知されることなく商標登録査定がされることが多い傾向にあります。これは、審査官が周知性の有無や不正の目的の有無に関する証拠を独自に収集するには限界があるためです。

また、本件では一部の商標登録について、登録異議の申立てがされています。登録異議の申立ては、何人も商標登録掲載公報発行から2か月間行うことができる制度です(商標法43条の2第1号)。

かかる登録異議の申立ては、ティラミスヒーロー社が行っているものと思われますが、ティラミスヒーロー社が自己の使用状況を明らかにするなどして、周知性、不正の目的の立証に成功すれば、登録異議の申立てにおいてgram社の登録は取り消される可能性があります。

イラストの利用における著作権侵害

gram社は、ティラミスヒーロー社の作成したイラストをそのまま流用し商標登録出願をしているようです。著作権の侵害の問題は生じないのでしょうか。

著作権侵害は、複製、譲渡等、法定の利用行為に対して成立します(著作権法21条〜28条)。商標登録出願を行うこと自体は、著作権侵害に該当するものではありません。しかし、gram社がティラミスヒーロー社の作成したイラストをティラミスの瓶に付す等する行為は、著作物の利用行為にあたりますので著作権の侵害に該当します。

また、著作権の侵害とは別の観点ですが、剽窃的な商標登録出願は公序良俗違反であるとして、商標登録を受けることができません(商標法4条1項7号)。今回、gram社はティラミスヒーロー社のロゴをイラストも含めて流用し出願をしていますので、このような態様の商標登録出願は剽窃的なものであるとして、商標法4条1項7号に違反する可能性があります。

その後、ティラミスヒーロー社のロゴに含まれるネコのイラストも、第三者であるデザイナーのイラストに基づいて作成されたものであることが判明しました。このことは、ティラミスヒーロー社とgram社との関係に何か影響を与えるのでしょうか。

ティラミスヒーロー社は、第三者であるデザイナーの作成したイラストに改変を加え、自社のロゴとしているようです。ティラミスヒーロー社がかかるロゴを利用する行為は、デザイナーの著作権を侵害する可能性があります。


本件ではティラミスヒーロー社による改変行為の程度によりますが、改変の程度が大きい場合、ティラミスヒーロー社も新たな創作行為を行ったこととなり、二次的著作物の著作権を取得します。このように、ティラミスヒーロー社が著作権を取得している場合は、上記のgram社による著作権の侵害行為や、商標法4条1項7号違反は成立し得ます 2

ティラミスヒーロー社による改変は程度が少なく、新たな創作行為に該当しない場合は、ティラミスヒーロー社は著作権を取得していないことから、gram社による著作権の侵害行為は成立し得ないこととなります。商標法4条1項7号違反については、ティラミスヒーロー社のイラストを剽窃したものではなくなりますが、結局のところ第三者のデザイナーのイラストの著作物を剽窃したことになりますので、成立し得ると考えられます。

ティラミスヒーロー社が求められる請求とgram社の対応

gram社が用いているキャラクターや名称等のコンセプトについて、ティラミスヒーロー社のものと似ていると話題になっています。ティラミスヒーロー社はgram社に対して、使用の差止めや損害賠償等を請求することができますか。

ティラミスヒーロー社は上記で述べた著作権を保有する場合、著作権侵害を理由に、gram社に対して差止請求や損害賠償請求等をすることができる可能性があります。
また、ティラミスヒーロー社は商標権こそ保有していませんが、不正競争防止法に基づく周知表示混同惹起行為(不正競争防止法2条1項1号)、著名表示冒用行為(同2号)を理由に、差止請求や損害賠償請求等をすることができる可能性があります。

gram社は自社が取得したロゴ商標の使用権に関し、ティラミスヒーロー社へ「使用権をお渡しする」との発表をしていますが、この対応をどう評価しますか。

「使用権をお渡しする」との意味が若干不明確ですが、正確には「商標の使用許諾をする」、「商標権を譲渡する」のいずれかの意味であると考えられます(おそらく前者の意味ではないでしょうか)。
ロゴの商標はティラミスヒーロー社の作成したイラストを含むものであり、上述のとおり、登録異議の申立てにおいて取り消される可能性があることから、gram社はロゴの商標に限って、「使用権をお渡しする」と言っているものと思われます。

これによりティラミスヒーロー社は、再び自己の商標について、ロゴの商標のみならず、文字の商標も含めて使えるようになるのでしょうか。

gram社は文字のみの商標を含め複数の商標登録出願を行い、また、商標権を取得していることから、ロゴの商標のみの使用許諾を受ける等しても、ティラミスヒーロー社が自己の商標の使用を再開できるとは言い切れないことになります。つまり、ティラミスヒーロー社が自己の商標の使用を再開するためには、gram社が保有するすべての商標登録に関し使用許諾を受けるか、あるいは登録を取り消す等の形で、問題をクリアする必要があります。

もっとも、gram社がティラミスヒーロー社に対し商標権を行使した場合に、必ずしも商標権の行使が認められるとは限りません。gram社の商標登録には無効理由がある可能性もありますし、剽窃的な態様で出願を行った商標権に基づく権利行使は、商標権の行使の濫用として、認められない可能性もあります。

ティラミスヒーロー社は、商標を「ティラミススター」に変更すると公表しています。

ティラミスヒーロー社はgram社との関係で、商標権の問題をクリアにできないと判断したものと考えられますが、名称を変更しても需要者が同一ブランドであると認識できるのであれば、今回の状況では商標の問題をクリアにするのは難しいため、適切な判断であると思います。ティラミスヒーロー社の提携・協力会社である株式会社ベンチャープランニングが、既に「ティラミススター」の商標について、商標登録出願(商願2018-126927、商願2019-21704)を完了しているようですので、商標についても慎重に進めている様子が伺えます。

「悪意の商標出願」から自社の商標を守るための戦略

自社の商標を「悪意の商標登録出願」から守るには、企業としてどのような対応をとることが考えられますか。

上記にも述べたとおり悪意の商標登録出願がされたとしても、剽窃的なものであれば、商標権の行使が認められない可能性があります。しかし、法的な紛争に巻き込まれることを回避するために商標権の買取りによる解決を余儀なくされること等、悪意の商標登録出願がなされた時点で、企業にとってダメージが発生する可能性があります。

悪意の商標登録出願への対策としては、企業が自ら使用する商標については、必ず商標権を取得するという意識を徹底することに尽きると思います。商品の販売やサービスの開始前には、商標登録が完了している状態にすることが好ましいですが、せめて、商標登録出願が完了しているという状態には持っていく必要があります。
商標登録出願自体は誰でもすることができますので、商品名やサービス名等が明らかになってしまいますと、悪意による商標登録出願がされる可能性が生じます。商標トロールと呼ばれる者達は、毎日、新聞やテレビ等をチェックしており、他人が使用するまたは使用しそうな商標を見つけては、日々商標登録出願をしていると言われています。

もちろん「自社で使用するすべての商標について、商標登録を受けることは現実的に難しい」という指摘もあるでしょう。しかし、ビジネスの世界では、継続的に使用する商標はすべて商標登録を受けるのが原則となります。

商標として扱うものと扱わないものの線引きは難しいようにも思います。

企業のホームページやカタログ等を見ていると、商標として認識や管理までは行っていないものの、そういった機能を果たしている文字等は意外と多いです。このような商標は企業が商標として認識していませんので、必ずしも商品名やサービス名の用に継続的に使用しなければならないものではありません。したがって、仮に第三者が当該商標につき権利を取得した場合は商標を変更することもできますので、商標登録出願をする必要性は低いと考えます。

最後に、商標登録出願に関する方針について、企業の担当者へアドバイスをお願いします。

企業として、商品名、サービス名のように継続的に使用することが前提となる商標はすべて出願を行う一方で、重要度が低い商標で第三者が商標登録を受けた場合に商標を変更することを許容できる商標は例外的に出願をしないという方針で、商標登録出願をするか否かを決定するのが良いのではないかと思います。


  1. ティラミスヒーロー社の使用している商標とHERO'S社の登録商標は類似し、商品等も、少なくとも「ティラミス」や「飲食物の提供」において同一となります。 ↩︎

  2. ティラミスヒーロー社が新たな創作行為を行った場合でも、第三者であるデザイナーのイラストの本質的特徴を感得し得るか否かにより、ティラミスヒーロー社の行為が、デザイナーの著作権または著作者人格権を侵害するか否かが分かれます。しかし、仮に、ティラミスヒーロー社の行為が、これらの行為を侵害するものであったとしても、ティラミスヒーロー社が新たな創作行為を行っているかぎり、ティラミスヒーロー社は、著作権を取得することができますので、gram社による著作権の侵害行為や、商標法4条1項7号違反は成立し得ます。 ↩︎

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