AI開発契約では権利帰属ではなく利用条件で「実」をとる AI開発でもめないための法務・知財セミナーをSTORIA法律事務所が開催

IT・情報セキュリティ

目次

  1. 日本は機械学習を行ううえで恵まれている
  2. AI開発では「権利帰属」でなく「利用条件」を重視すべき

人工知能(AI)技術の進化は目覚ましく、画像の認識や生成、異常検知、生体認証など一定の分野において実用化に至っている。一方で、AIの開発過程でのトラブルや、活用時に事故が発生した際の責任のマネジメント方法については、まだ各社が試行錯誤している段階だ。そうした課題に取り組むにあたっては、法務や知的財産の知識が必須となる。そこでSTORIA法律事務所は2018年12月19日、東京 大手町にて「AIビジネスの最前線からお送りする『AIと契約・知財・法律』」と題するセミナーを開催した。

登壇したのは、2017年12月~2018年3月に経済産業省の「AI・データ契約ガイドライン検討会」の検討委員を務め、AIと法律、AIと知的財産について積極的な情報発信を行ってきた柿沼 太一弁護士。116名が参加した同セミナーでは、AIビジネスにおいて法律や知的財産権が関わる領域の全体像を提示するとともに、事前に寄せられた質問への回答を通じて、実際にAIビジネスの現場で起こる法的問題を解決していくための勘所について解説した。

日本は機械学習を行ううえで恵まれている

AI開発においては、加工が施されていない「生データ」を利用してデータセットや学習済みモデルを生成する。データの種類は医療画像や工場のセンサデータ、著作物など様々であり、その取得方法も多様だ。自分で生成するケースやWeb上で収集するケース、契約を結んだうえで相手から譲渡してもらうケースなど、生データの取得方法によって考慮すべき法的問題は異なってくる。

たとえば、第三者が著作権を有している生データから適法に学習用データセットや学習済みモデルを生成するにはどうすべきだろうか。柿沼弁護士は、「MakeGirls.moe」という美少女キャラクターをAIが自動生成するサービスを例にあげて説明した。同サービスは、AIと法律・知財に関する論点を理解するのに非常に適した題材だという。

MakeGirls.moeでは、AI生成に必要なデータとして「Getchu.com」というWebサイト上の立ち絵キャラクターの画像を利用している。利用に際してGetchu.comから許可を得ていればもちろん問題はないが、仮に、第三者である Getchu.comの許可を得ずにこれらの画像をダウンロードしてAI生成に利用した場合、「権利者の了解なく勝手に画像を利用して良いのか」「つくられた学習モデルは誰のものなのか」「自動生成した画像の権利は誰が有するか」「自動生成した画像が偶然、元データに似てしまった場合、著作権侵害にならないか」などといった論点が生じるだろう。

実際に学習用データセットや学習済みモデルを生成するために必要な作業は大きく分けて、データのコピー・ダウンロード(=複製)、複製したデータの整形(=翻案)、機械学習・深層学習(=複製・翻案が行われる場合もある)といった流れで進められるが、いずれの作業も著作権法上の「複製」や「翻案」に該当するため、原則として著作権者の承諾なく行うことはできない。

しかし、日本における著作権法には、47条の7という条文がある(2018年12月時点、2019年1月1日に廃止され、後述のように新30条の4や新47条の5が新設予定)。一部例外はあるものの、「情報解析」のためであれば、必要な範囲で著作権者の承諾なく著作物の記録や翻案ができるというものだ。柿沼弁護士は「生データ収集、データベース作成、学習用データセット作成、機械学習を一連の流れとして行い、当該学習済みモデルを提供・販売する行為はこの条文によって適法となります。この条文は世界的に見ても特殊です。海外では非営利目的の利用に限定されています」と説明する。

著作権や特許法は国ごとに定められており、「利用行為地」の法律に従わなければならない。では機械学習や深層学習の場合の利用行為地はどこを指すのだろうか。現状としては、サーバの所在地が利用行為地であるという考えが一般的だ。

「たとえばAWSのリージョンが日本でない場合や仮想サーバを利用している場合などには、日本の著作権法が適用されない可能性があります。逆に物理的に日本で機械学習を行う、具体的には日本国内に置かれたサーバにおいて日本国内にいる人が機械学習を行うのであれば日本の著作権法が適用されます。この意味で、日本は機械学習において非常に恵まれた環境であると言えます」(柿沼弁護士)

さらに2019年1月1日の著作権法改正により、AI生成のために許容される領域はさらに拡大する。上記の著作権法47条の7は廃止されるが、新30条の4や新47条の5により、従来は違法であった学習用データセットを不特定の第三者に公開・販売する行為や多数の人が参加するコミュニティへ共有する行為などが適法となる。

また、新47条の5により、AIモデル提供サービスや学習用データセットの販売、AI成果物出力サービスに付随したものであれば、元データの軽微利用が可能となる。柿沼弁護士は「著作権法が改正されることによって、データセットの販売ビジネスが盛り上がってくるだろう」と予想している。

STORIA法律事務所 柿沼 太一弁護士

STORIA法律事務所 柿沼 太一弁護士

AI開発では「権利帰属」でなく「利用条件」を重視すべき

AI開発は一般的なシステム開発とは異なり、複数の材料、中間成果物、成果物が存在していることが特徴だ。なおかつそれらが高い価値を持っており、ユーザー・ベンダとも独占や再利用したいという需要があるのでトラブルが生じやすい。

スムーズに開発を進めるためには、生データ、学習用データセット、学習用プログラム、学習済みモデル、学習済みパラメータ、これらをつくるにあたってのノウハウの6点に対して誰がどのような権利を持っているのか、何が知的財産権の対象になるのかというデフォルトルール(=法律上のルール)を把握したうえで、契約条項をデザインしていく必要がある。

現行の知的財産法で上記6点に関わるのは「特許法」、「著作権法」、「不正競争防止法」だ。特許法、著作権法保護の対象外となるものもあるが、不正競争防止法の営業秘密や限定提供データに該当するものであれば、6点すべてが保護対象となる可能性をもっている。

契約条項は、これらを踏まえたうえで自社に有利な形にデザインしていくが、その際、「対象物の『権利帰属』ではなく、『利用条件』で『実』をとることが重要」だと柿沼弁護士は強調する。

「権利帰属」の視点で考えると、ユーザーとベンダがお互い権利を主張することになる。どちらが権利を持っているかということに双方がこだわる限りは、ユーザーとベンダの溝は永久に埋まらず、交渉に多大な労力と時間を要してしまう。

柿沼弁護士は、「権利よりも『どう利用できるか』という発想が大事です。たとえば、『学習モデルの第三者提供を含め、何の制限もなく学習モデルを自由に利用できる』という利用条件を設定できれば、実質的には学習モデルの権利を保有していることと同じになります。権利の帰属を主張しあうよりも、対象物の利用条件を設定してお互いが納得するほうがスムーズです」と、例を紹介しながら説明した。

また、AI開発契約に関してよく聞かれる質問として柿沼弁護士は「AI開発契約交渉のポイントと進め方」をあげ、次のように回答した。

「契約条項からまず考えはじめる、というのは順番が逆です。契約締結交渉「前」の段階で、AIを用いたビジネスの展開方法について自社内で十分に検討できているかを確認し、そのうえで、契約条項を考えていかなければなりません。具体的に言うと、今回のフェーズは検証なのか、学習モデルの開発なのかなど、その目的を確認し、成果物(検証であれば解析レポート、開発であれば学習済みモデルなど)、成果物の納品方法(API経由で出力のみを提供、暗号化したモデルを納品、ソースコードを納品など)、成果物に関する知的財産権の権利帰属・利用方法という流れで検討していく必要があります」(柿沼弁護士)

そのほか参加者から多くの質問が寄せられ、AIと法律、AIと知的財産に対する関心の高さがうかがえるなか、セミナーは終了した。

(文:周藤 瞳美、構成:BUSINESS LAWYERS 編集部)

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