J-REITの敵対的買収防衛の実務

第2回 J-REIT買収の留意事項と買収の対応策

コーポレート・M&A

目次

  1. J-REIT買収の留意事項
    1. 導管性要件の喪失
    2. 上場廃止による課税の増加
    3. 保有資産の全部譲渡に関する手続
    4. 公開買付け後にスクイーズアウトをする場合の、買収者が留意する事項
  2. 敵対的買収への対応策
    1. 買収提案の妥当性の検討
    2. 買収防衛策について
    3. 対抗的な公開買付け
    4. 委任状勧誘等による買収提案への反対票の確保
  3. おわりに

J-REIT買収の留意事項

導管性要件の喪失

 J-REITにおいては、租税特別措置法(以下「措置法」という)67条の15第1項に定める一定の要件(以下「導管性要件」という)を満たした場合、課税所得の計算上、投資主へ支払う配当等の額を損金に算入することができる。これにより、J-REITの投資主は、事業会社の株主に比べてより多くの分配金を得ることができるため、導管性要件の維持はJ-REITにおいて重要なことである。

 しかし、以下のとおり、投資主総会の決議によってJ-REITの解散や保有資産の全部譲渡をした場合や、公開買付けをして50%超の投資口を取得した場合、導管性要件を喪失するリスクがある。

喪失の原因 導管性要件
(措置法67条の15第1項)
喪失する場合
投資法人の解散
(1号イ)
投信法187条の登録を受けていること 投資法人を解散した場合
(投信法187条の登録は「解散したとき」に失効する(投信法192条2項、同条1項3号))
保有資産の全部譲渡
(2号ト)
当該事業年度終了の時において有する投信法2条1項に規定する特定資産のうち有価証券、不動産その他の政令で定める資産の帳簿価額がその時において有する資産の総額の2分の1に相当する金額を超えていること すべての保有資産を売却することで、当該事業年度終了時における不動産等の特定資産の帳簿価額が資産の総額の2分の1に相当する金額以下であった場合
公開買付け
(2号ニ)
当該事業年度終了時において、投資主の1人およびこれと特殊の関係のある者が有する投資口(または議決権)が50%を超えないこと 公開買付けにより、当該事業年度終了時に公開買付者およびこれと特殊の関係のある者が有する投資法人の投資口(または議決権)が50%を超えていた場合

 上記③の導管性要件について、前回「J-REITの買収防衛の特徴と敵対的買収の方法」で紹介したリプラス・レジデンシャル投資法人の事例では、公開買付けおよび第三者割当により取得する投資口の上限が約48.40%とされており、導管性要件を喪失することになる持分比率の増加を行わないよう最善の努力をすることが合意されていた 1

 導管性要件を満たさず投資主への配当等の額について損金算入ができなくなると、投資主の分配金が減少するため、投資主にとって不利益となる。投資主の分配金が減少するにもかかわらず、それを考慮せずに保有資産を全部譲渡したり、J-REITが公開買付けに賛同意見を表明したりした場合、役員は分配金の減少を理由に投資主から善管注意義務・忠実義務違反を問われるリスクがある 2。保有資産の買取価格や公開買付価格は、このような課税も考慮して定める必要がある。

上場廃止による課税の増加

 J-REITが解散することは上場廃止事由(有価証券上場規程1218条1項1号a(a))となっている。そのため、保有資産を全部譲渡して投資法人を解散した場合、株式会社東京証券取引所不動産投資信託証券市場での上場が廃止される。
 上場廃止となった場合、源泉徴収税率の上昇等によって投資主への課税が増加する。特に個人投資家については、上場していれば20.315%の源泉分離課税が課されるのみであるが、上場廃止により総合課税方式となり、所得の額によっては最高税率56%を課される可能性がある。課税が増加する結果、投資主は手取りの分配金が減少するなどの不利益を被る。
 上場廃止により生じる課税についても、保有資産の買取価格や公開買付価格を設定する際に考慮すべきである。

保有資産の全部譲渡に関する手続

 J-REITが買収者に保有資産を全部譲渡する場合、投資法人の役員にとって留意が必要な点は以下のとおりである。
 まず、J-REITの規約を変更する必要がある。J-REITは、不動産等の資産を譲渡する場合、規約に定める資産運用の対象および方針に従わなければならない(投信法193条)。
 規約には、通常、中長期にわたり安定した収益の確保と運用資産の着実な成長を目指すことなどが資産運用の方針として定められている。J-REITが解散を予定して資産の全部を譲渡することは、当該方針に従っているものといえず、投信法193条に違反するおそれがある。そこで、投資主総会の特別決議により規約における資産運用の方針等を変更する必要がある

 また、保有資産の全部譲渡は実質的な解散であり、解散と同様に投資主総会の特別決議を経るべきである 3。そもそも、J-REITの投資主は安定的に中長期的な利益を得るために投資していることが通常であり、解散等により投資先を失い、分配金を得られなくなることは想定していない。保有資産の全部譲渡は、合併等の他の買収方法に比べて投資主への影響は大きなものとなる。そこで、投資主総会において、譲渡価格の妥当性や前述した課税の問題を含め、投資主への影響等を説明して投資主の理解を得るべきである。

 上記規約の変更や投資主への説明を行わない場合は、投資法人の役員は、投資主から善管注意義務・忠実義務違反を問われるリスクがある。

公開買付け後にスクイーズアウトをする場合の、買収者が留意する事項

 公開買付け後、買収者は、公開買付けに応じなかった少数投資主を排除(スクイーズアウト)することも考えられる 4
 J-REITにおけるスクイーズアウトは、以下の方法により、少数投資主の有する投資法人の投資口を端投資口にして換金することで行うことができると考えられている。

端投資口交付合併 買収対象の投資法人を消滅投資法人として他の投資法人と吸収合併させ、合併の対価として端投資口を交付する方法
投資口の併合 買収者以外の投資主の投資口が端投資口となるように併合割合を定める方法

 端投資口交付合併と投資口の併合のいずれについても投資主総会の特別決議が必要となる。投資主への対価が不公正であれば、合併や投資口の併合を承認した投資主総会決議の取消しにより合併・投資口の併合自体が無効となったり、投資主から公正な対価との差額について損害賠償請求をされたりするリスクがある。

 また、投資口の併合については、事業会社の場合と異なり、投資口の併合について反対する投資主が投資口の買取りを請求する権利はなく、少数投資主の保護が不十分であり、公正さに疑義が生じる 5

 スクイーズアウトについては、公開買付けの強圧性の問題もある。事業会社では、スクイーズアウトの価格を公開買付価格よりも低くするか公表しないことによって公開買付けへの応募を促すことは、MBO指針において強圧性のあるものとして不適切な方法とされており、J-REITについても強圧性のある公開買付けは避けるべきである。
 そのため、事業会社の場合と同様、スクイーズアウトを行う場合の価格は、公開買付価格と同一の価格を基準にして、その旨を開示資料等において明らかにすべきである 6。さらに、公開買付けにより公開買付者が有する投資法人の投資口が50%を超えた場合、導管性要件の不充足により投資主は分配金の減少という不利益を被るリスクが生じる関係で、そのような不利益を避けるために投資主が公開買付けに応じてしまうこともありうるため、導管性要件との関係にも留意する必要がある。

 以上のとおり公開買付けをしてスクイーズアウトをすることにはいくつかの問題点があることを踏まえると、J-REITの保有資産を売却して利益を得ようとする買収者としては、スクイーズアウトの手法よりも投資主総会を通じてJ-REITを解散する手法をとることが通常であると思われる。

敵対的買収への対応策

買収提案の妥当性の検討

 解散を前提とする保有資産の全部譲渡の提案や公開買付けがなされた際に、妥当性のない価格で保有資産を譲渡したり、公開買付けに賛同したりした場合、役員の善管注意義務・忠実義務違反が問題となりうる。買収防衛策を導入していない場合でも、買収者が提示した価格の分析にあたっては、提示価格を一口あたりの投資口価値で評価して当該投資法人の投資口価値と比較するなどして、妥当な価格であるかを慎重に検討する必要がある。
 前回紹介したFCレジデンシャル投資法人の事例でも、提示価格の妥当性について慎重に検討したとされている 7。投資口の取得価格が高いほど投資主の不利益は大きくなるため、高い価格で投資口を取得した投資主にも配慮すべきである。また、前述のとおり、導管性要件の不充足や上場廃止により生じる課税についても考慮する必要がある。

 さらに、事業会社における一般的な実務と同様に、意思決定の公正性を担保し、慎重に検討するため、法務や税務のアドバイザーの助言を得たり、独立した委員会を組成したりする方法も考えられる。委員会の組成にあたっては、中立的な立場にある監督役員や、投資委員会等の外部委員、外部の専門家を委員とすることで独立性を確保すべきである。
 保有資産の全部譲渡の提案については、譲渡の条件や必要性、投資主への影響等を踏まえ、丁寧に検討すべきである。保有資産を譲渡すること自体は受諾できるとしても、提示価格が妥当でなければ提案を拒否して第三者により高く売却することも考えられる。

 前回ご紹介した米投資ファンドのローン・スター・ファンドがオーストラリアのREITであるアストロ・ジャパン・プロパティ・グループ(AJA)に対して、当該REITの解散を前提として、当該REITが日本に保有するすべての不動産を約836億円で買い取る旨の提案を敵対的に行った事案についても、AJAは、提案価格の観点からローン・スター・ファンドの提案を拒否し、その後2017年8月に米投資ファンドのブラックストーン・グループに日本に保有する全ての不動産を約986億円で売却することで合意している 8

 また、買収者以外にも買収希望者がいれば、より良い条件で売却するために入札方式を採用することも考えられる。さらに、J-REITの解散に繋がる買収を受け入れることは、中長期的な利益を期待する投資主の投資の機会を奪い、J-REIT全体の発展をも阻害するおそれがあることも考慮して、慎重に買収提案の分析を行うべきである。

買収防衛策について

(1)買収防衛策の導入

 事業会社のような買収防衛策を導入しているJ-REITは見当たらない。前述した導管性要件の存在等によりJ-REITの買収自体が少ないことや、事業会社で導入される差別的な新株予約権の無償割当てに相当する防衛策は導入できないこと 9 などがその要因として考えられる。
 もっとも、理論的にはJ-REITにおいても買収防衛策を導入することは敵対的買収への対応策の一つとなる。今後J-REIT買収の動きがあれば、買収防衛策を導入するJ-REITが現れることも予想される。
 また、買収防衛策を導入しない場合でも、買収提案を分析する際には、後述する独立した委員会の設置など事業会社の買収防衛策と同様に慎重な手続を経るべきである。

(2)第三者割当増資

 前回解説したとおり、割安感のあるJ-REITほど買収を受けるリスクがあるところ、資産規模の拡大等によりJ-REITの価値を向上させることで、買収を受けるリスクを軽減する方法が考えられる。たとえば、スポンサーなどに新投資口の第三者割当てを行うなどして資金調達を行い、その資金で不動産を購入することがあげられる。
 もっとも、第三者割当てには、以下のとおり投資口発行の差止めや損害賠償請求のリスクがあることには留意する必要がある。
 (a)投資口の発行が法令または定款に違反する場合や、(b)投資口の発行が著しく不公正な方法により行われる場合において、投資主が不利益を受けるおそれがあるときは、投資主は、投資口発行の差止めを請求することができる(投信法84条1項、会社法210条)。上記(a)(b)にあたる投資口発行をした場合、J-REITの役員等は、善管注意義務・忠実義務違反を理由としてJ-REITや第三者から損害賠償請求をされるリスクもある(投信法115条の6第1項、115条の7第1項、民法709条)。

 (a)の法令違反との関係では、J-REITの投資口発行における払込金額は「公正な金額」でなければならず(投信法82条6項)、事業会社における有利発行と異なり、投資主総会の決議を経て有利発行をすることはできない。払込金額は買収者の提示価格以上にすべきである。
 スポンサーを引受人として第三者割当増資をする場合には、利益相反関係に留意する必要がある。J-REITと資産運用会社およびスポンサーとの間には構造的な利益相反関係が存在しており、J-REITの執行役員は、J-REITおよびその既存投資主の利益が害されることがないよう慎重に契約の交渉および締結を進めるべき善管注意義務・忠実義務がある。

 実際に、スポンサーグループと利益相反関係がある状況でなされた新投資口発行の差止めが求められた事案で、スポンサーグループの利益も考慮して新投資口の払込金額を低額に抑えたとして、払込金額は「公正な金額」とはいえないとし、投資口発行の差止めが認められた裁判例がある(東京地裁平成22年5月10日決定・金商1343号21頁) 10
 同裁判例では、払込金額の決定については、これが実質的な利益相反関係に基づき不利な条件で契約したものでないことを合理的な根拠をもって説明できなければならないとされている。特に、買収提案への対応策を検討している際に第三者割当増資をする場合は、買収提案への対応策を検討する者と第三者割当増資を担当する者を分けるなど、利益相反関係を考慮した特段の措置をとるべきである。
 また、既存のスポンサーの他にも第三者割当てをすることでスポンサーを追加することができれば、既存のスポンサーの利益を重視しているという疑義を避けることで差止めのリスクを低減することが期待できる。

 (b)の著しく不公正な方法による発行については、事業会社と同様、支配権維持を主要目的としてなされた発行がこれにあたると考えられる。買収提案への対応策を検討している際に第三者割当てをすることは、買収者の提案を拒否して支配権を維持することが主要目的であるとして差止めの対象となるリスクは高いものとなる。具体的な資金調達の計画を示すことで差止めのリスクを軽減することはできるため、資金調達の予定があれば、その計画を具体的かつ合理的に説明できるように準備しておくべきである。

(3)自己投資口取得

 保有資産を主として不動産等資産に対する投資として運用することを目的とするJ-REITは、投資主との合意により当該J-REITの投資口(自己投資口)を有償で取得することができる旨を規約に定めた場合、投資主との合意により自己投資口を取得することができる(投信法80条1項1号)。この自己投資口取得により発行済投資口数が減少し、1口あたりのJ-REIT価格の上昇が期待できる。
 2017年には、J-REITで初めてインベスコ・オフィス・ジェイリート投資法人が自己投資口取得を実施したほか、いちごホテルリート投資法人、日本リテールファンド投資法人、グローバル・ワン不動産投資法人も自己投資口取得を実施し、その後、これらのJ-REITの投資口価格は上昇した。

対抗的な公開買付け

 公開買付けを仕掛けられた場合は、事業会社における一般的な実務と同様に、J-REIT側でも対抗として公開買付けを行い、スポンサーなど友好的な第三者を公開買付者にして投資口を取得してもらう方法もある。この場合は買収者の提示価格とどちらが高い価格になるかという価格の争いにならざるをえない。

委任状勧誘等による買収提案への反対票の確保

 投資主総会において買収に関する議案が提案された場合、その買収提案が否決となる可能性を高めるためには、買収提案に反対する旨の委任状を集める方法(委任状勧誘)により、買収提案への反対票として投資口を確保することが考えられる 11。また、大口投資主に投資主総会で買収提案に反対してもらうことも考えられる。
 実際に、FCレジデンシャル投資法人の事例では、大口投資主が投資主総会の招集以前に買収提案に反対する意向を表明したことで買収提案が否決となる蓋然性が高くなったことなどから、投資主総会を招集しないことが決定された。買収提案を慎重に分析した上で拒否すべき提案であると判断したのであれば、大口投資主に買収提案を拒否すべき理由を具体的に説明し、買収提案に反対してもらうことも敵対的買収への対応策となる。

おわりに

 本稿では、J-REITの敵対的買収についてその方法や対応策等について説明してきた。妥当性や合理性のないものについては、当該J-REITひいてはJ-REIT市場の発展のためにも買収提案を拒否すべきであるが、他方で、投資口価格が低迷している状況では、敵対的買収等によって投資法人のガバナンスを効かせることができるという良い面もある。各J-REITやその資産運用会社としては、近時の動向を踏まえ、敵対的買収への対応策を十分に準備していくことが求められる。


  1. リプラス・レジデンシャル投資法人ほか(2008年8月28日)「アップルリンゴ・ホールディングス・ビー・ヴィによる本投資法人投資口に対する公開買付けに関する意見表明のお知らせ」(日本賃貸住宅投資法人) ↩︎

  2. 投資法人の執行役員および監督役員は投資法人に対して善管注意義務・忠実義務を負っており(投信法97条・109条5項・111条3項、会社法355条)、その任務を怠ったときは投資法人に対して損害賠償責任を負う(投信法115条の6第1項)。6か月前から引き続き投資口を有する投資主は、投資法人に対して、役員等の責任を追及する訴えの提起を請求することができ、投資法人が請求の日から60日以内に訴えを提起しないときは、自ら訴えを提起することができる(投信法116条、会社法847条)。 ↩︎

  3. 投資法人の解散は投資主総会の特別決議事項である(投信法93条の2第2項4号)。 ↩︎

  4. 新家寛ほか編『REITのすべて(第2版)』558頁~572頁(民事法研究会、2017) ↩︎

  5. 経済産業省「企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する指針」(2007年9月4日)(以下「MBO指針」という)13頁では、事業会社のスクイーズアウトについて、「反対する株主に対する株式買取請求権又は価格決定請求権が確保できないスキームは採用しないこと」とされている。なお、2019年2月現在、経済産業省が立ち上げた「公正なM&Aの在り方に関する研究会」において、MBO指針の見直しが検討されており、MBO指針の改訂が予定されている。 ↩︎

  6. 経済産業省のMBO指針13頁では、「公開買付け後に完全子会社化(スクイーズアウト)を行う場合の価格は、特段の事情がない限り、公開買付価格と同一の価格を基準にすると共に、その旨を開示資料等において明らかにしておくこと」とされている。 ↩︎

  7. FCレジデンシャル投資法人ほか(2011年2月18日)「投資主総会の招集請求に関する本投資法人の決定事項のお知らせ」(いちごオフィス) ↩︎

  8. 「豪アストロ・ジャパン、日本関連の不動産をブラックストーンに売却へ」『時事通信社』2017年8月2日 ↩︎

  9. 新投資口予約権を発行することはできるが、ライツ・オファリング目的に限定されている(投信法88条の4第1項・88条の13)。 ↩︎

  10. 同裁判例の時点では、投信法は会社法210条を準用しておらず、執行役員の違法行為等の差止請求(投信法109条5項、会社法360条1項)が請求の根拠となっている。 ↩︎

  11. 上場株式会社の委任状勧誘規制はJ-REITに適用されない(金融商品取引法194条参照)。 ↩︎

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