J-REITの敵対的買収防衛の実務

第1回 J-REITの買収防衛の特徴と敵対的買収の方法

コーポレート・M&A

目次

  1. はじめに
  2. J-REITの買収防衛の特殊性・困難性
  3. J-REITの敵対的買収の方法
    1. J-REITの投資主総会における買収提案
    2. 公開買付け
  4. 小括

はじめに

 J-REIT(不動産投資法人)は、投資家から集めた資金でオフィスビルや商業施設、マンションなど複数の不動産などを購入し、その賃貸収入や売買益を投資家に分配する商品だ。
 もともとは、REITという仕組みはアメリカで生まれ、「Real Estate Investment Trust」の頭文字を取っており、日本では頭にJAPANの「J」をつけて「J-REIT」と呼ばれている。J-REITは2001年9月に初めて証券取引所に上場され、2018年10月現在、約60存在している。

J-REITの仕組み

J-REITの仕組み

 過熱気味ともいわれる日本の不動産市況に比べて、投資口価格の低迷が続いているものがあり、割安感があるとされる。そのようなJ-REITの割安感に着目し、J-REITが保有する優良な不動産を取得するため、資産運用会社やスポンサーの意に反してでも、敵対的にでもJ-REITを買収しようとする気運が高まっており、実際に提案されている事例もあるといわれている 1

 2017年3月、米投資ファンドのローン・スター・ファンドは、オーストラリアのREITであるアストロ・ジャパン・プロパティ・グループに対して、当該REITの解散を前提として、当該REITが日本に保有するすべての不動産を約836億円で買い取る旨の提案を敵対的に行った。日本のJ-REITもいつ同様な提案を受けてもおかしくない状況にある。
 特にNAV倍率(現在の株価を純資産価値(NAV)で割ったもの)が1.0を下回っていて割安感のあるJ-REITは、解散などを通じて保有資産を売却してその利益を投資主に分配すべきであるとして、買収提案を受ける可能性が高い。すでに敵対的な買収提案を受けたJ-REITも存在しているとのことである。

 かつてJ-REITにおいても、FCレジデンシャル投資法人の投資主が、同投資法人を解散して全資産を売却させるため、投資主総会招集請求をした事例がある。このFCレジデンシャル投資法人の事例では、3分の1を保有する大口投資主が買収提案に賛同しなかったため、最終的には不奏功に終わったが、逆に当該大口投資主が賛同すれば資産運用会社の意に反する買収が成立していた可能性も否定できない事例であった。
 J-REITやその資産運用会社としては、今後起こりうるJ-REITの敵対的買収についてあらかじめ検討しておくことが有益である。そこで、本稿ではJ-REITの敵対的買収についてその方法や対応策等について2回にわたって検討する。

J-REITの買収防衛の特殊性・困難性

 J-REITが、J-REITの役員会、資産運用会社またはスポンサーの意に反する敵対的な買収を仕掛けられた場合、事業会社の敵対的買収に比べ、買収防衛は困難なものとなりうる。まず、提示価格が高い買収提案を拒否し難いという点がある。

 事業会社であれば、たとえば新商品の開発等により会社が将来的に成長することで市場株価よりも実際の株価はより高いものになるなどとして、中長期的な観点から買収提案に反対することを株主に呼びかけることができる。
 たとえば、2019年2月、伊藤忠商事株式会社の完全子会社による株式会社デサントへの敵対的な公開買付けについて、株式会社デサントは、 事業拡大を目指すなど、現在の経営体制の下で更なる企業価値の向上に向けた施策を実施・検討しているという中長期的な観点も述べたうえで、 当該公開買付けに反対の意見を表明している。
 しかし、投資法人は、資産運用会社に資産運用業務を外部委託し、保有する不動産の利益を投資家に分配するビークルであり、商品の開発など資産運用以外の行為を営業とすることはできないし、開示資料によりJ-REITの保有する不動産の価値が公表されている。

 したがって、J-REITの場合、投資口価格よりも高い価格の買収提案がなされた場合に、価格を理由として提案を拒否することは困難であり、むしろ一般の投資主としては高く売れるなら売るべきであると考えるのが通常ではないかと思われる。

 さらに、事業会社への敵対的買収であれば焦土化経営を行う目的の場合は保護に値しないとされているが、J-REITは必ずしも資産や顧客等が有機的一体として機能しているわけではなく、個々の資産を売却してその利益が投資主に分配されるのであれば、むしろ買収者に売る方が良いという見方もできる。
 そのうえ、投資法人は従業員を雇用することができないため、雇用の保護という点も買収防衛の理由とすることができない

J-REITの敵対的買収の方法

 J-REITの敵対的買収の方法としては、具体的には次のような方法が考えられる。まず、J-REITが保有する不動産を売却して利益を得るために、J-REITとその資産運用会社に対して、J-REITが保有するすべての不動産を購入することを希望する提案を行う。
 その際、保有資産の全部譲渡は実質的な解散であり、不動産の売却利益を得ることまたは将来得ることを目的とする買収者においてはJ-REITを存続させる必要もないことから、J-REITの解散を前提として保有資産の全部譲渡を求める提案を行うことが通常であると思われる。
 そして、J-REIT側が提案に応じなければ、J-REITの解散を議案とする投資主総会の招集を求め、招集された投資主総会において委任状勧誘等により議案を可決させることでJ-REITを解散させ、保有資産を全部譲渡させるという方法が想定される。

J-REITの投資主総会における買収提案

(1)投資主総会の招集

 J-REITの投資主総会では、通常の事業会社と同様、発行済投資口の1%以上の投資口を6か月前から引き続き有する投資主は、投資主総会において一定の事項を投資主総会の目的とすることを請求し(投資信託及び投資法人に関する法律(以下「投信法」という)94条1項、会社法303条2項)、また、議案の要領を投資主総会の招集通知に記載することを請求することができる(投信法94条1項、会社法305条1項)。投資主総会の開催が近ければ、敵対的買収者としては、J-REITの買収に関する議案を当該投資主総会において提案する方法をとることができる。

 もっとも、投資主総会は、事業会社の株主総会と異なり、実務上は2年に1回しか開催されない 2。J-REIT側による投資主総会の開催がなければ、買収者は、J-REITの解散や資産運用委託契約の解約等を投資主総会で決議するため、投資主総会招集請求をしなければならないケースが多いと思われる。

 事業会社の株主と同様、J-REITの投資主も、発行済投資口の3%以上の投資口を6か月前から保有していれば、投資主総会の招集を請求することができる(投信法90条3項、会社法297条1項)。遅滞なく招集の手続が行われなければ、投資主は、通常の事業会社とは異なり、裁判所ではなく、財務(支)局長の許可を得て投資主総会を招集することができる(投信法90条3項・225条1項・同条6項、同法施行令135条3項、会社法297条4項)。

(2)委任状勧誘(みなし賛成制度)

 投資主総会においても、通常の事業会社と同様、自己の提案する議案への賛成票を集めるために、提案に賛成する旨の委任状を投資主から取得する委任状勧誘を行うことができる。この際、J-REIT側が買収提案に反対であれば、敵対的買収者側とJ-REIT側との委任状争奪戦になることが想定される。

 J-REITの委任状争奪戦においては、みなし賛成制度に留意する必要がある。すなわち、J-REITの場合、通常の事業会社とは異なり、規約によって、投資主が投資主総会に出席せず、かつ、議決権を行使しないときは、当該投資主はその投資主総会に提出された議案について賛成するものとみなす旨を定めることができる(投信法93条1項)。実務上は、J-REITの投資主は議決権行使に積極的でなく、規約にみなし賛成制度を定めているJ-REITが一般的である 3。そのため、買収者により提案された解散等の議案についても、通常はこのみなし賛成により可決となりやすい。

 もっとも、相反する趣旨の議案があればみなし賛成は適用されない(同項かっこ書)。たとえば、J-REITを解散する議案が提出された場合には、解散に反対する旨の議案を提出することで、みなし賛成の適用を排除することができる 4

(3)FCレジデンシャル投資法人の事例

 J-REITの解散を議案とする投資主総会招集請求がなされた事例がある。2010年11月24日、FCレジデンシャル投資法人の投資主であるエスジェイ・セキュリティーズ・エルエルシーが、同投資法人を解散して全資産を売却させるため、投資主総会招集請求を行った 5
 招集請求の理由は、「本投資法人を解散し、本投資法人の全資産を売却する手続を通じて、本投資法人の投資主に対して、早期に投下資本回収の機会を与えることは、全投資主との関係においても唯一最善の策である」ということである 6。同投資法人は、投資主総会で解散を承認して全資産を譲渡することを内容とする提案も受けている。

 同投資法人の資産運用会社は、投資法人の解散と全資産の売却を内容とする提案について、将来の投資口価格上昇による投資主価値のさらなる向上の可能性を完全に否定するものであるとして提案を慎重に検証し、以下の点などを総合的に勘案して、提案を受けることが適切である旨の意見は表明できないとした。

  1. 提示価格が同投資法人の直近の期末算定価額総額を下回っていること
  2. 提示価格の3%相当の違約金を支払わない限り、購入希望者以外の第三者へ物件を売却できないこと
  3. 投資法人が解散される場合には、投資法人としては、原則として、もっとも高い価格を提示した買主に物件を売却することが投資主に対する善管注意義務および忠実義務の観点からは必要になると思われること

 同投資法人は、大口投資主2社から解散を目的とした議案に反対する意向表明を受領し、発行済投資口総数の3分の1を超える反対が見込まれ、解散を目的とする決議が成立する可能性が非常に低いものとなった。そこで、同投資法人は投資主総会の招集を行わないことを決定したのである。
 本件の招集請求は、資産運用会社の意に反してJ-REITを解散させ、保有資産を売却させようとした敵対的買収ともいうべき事例である。

公開買付け

 J-REITの買収方法としては、買収者が買収対象のJ-REITの投資口を買い集めることも考えられる。投資口を取得する方法としては、投資口を市場で買い集める方法のほか、公開買付けを行う方法等がある。J-REITの公開買付けの手続については、基本的に事業会社の場合と同様である。
 これまでJ-REITに対する50%を超える公開買付けや、敵対的な公開買付けの実例はない。公開買付けの実例としては、J-REITで初の公開買付けであるリプラス・レジデンシャル投資法人の事例があげられる 7。2008年8月、アップル・リンゴ・ホールディングス・ビー・ヴィが、リプラス・レジデンシャル投資法人に対して公開買付けを行った。同投資法人は、公開買付けが決定された当初から公開買付けに賛同しており、友好的な公開買付けである。公開買付者とそのグループ会社に対する第三者割当増資も実施しており、第三者割当増資と公開買付けを合わせて、公開買付者を含むグループ会社が同投資法人の発行済み投資口数の約48.40%を取得した 8

小括

 以上のとおり、第1回ではJ-REITの買収防衛の特殊性・困難性、J-REITの敵対的買収の方法について解説した。次回はJ-REIT買収の留意事項、敵対的買収に対する対応策を解説したい。


  1. J-REITは投資法人の形態がとられており、本稿においてJ-REITは投資法人であることを前提とする。 ↩︎

  2. 執行役員の任期は原則として2年を超えることができないため(投信法99条1項)、2年に1回は投資主総会を開催する必要がある。 ↩︎

  3. 新家寛ほか編『REITのすべて(第2版)』150頁(民事法研究会、2017)、森・濱田松本法律事務所編『投資信託・投資法人の法務』353頁(商事法務、2016) ↩︎

  4. 投資主は、投資主総会において解散に反対する議案を提出することができる(投信法94条1項、会社法304条)。 ↩︎

  5. FCレジデンシャル投資法人ほか(2011年2月8日)「投資主総会の招集請求書受領後の一連の経緯と今後の方針について」(いちごオフィス) 、FCレジデンシャル投資法人ほか(2011年2月18日)「投資主総会の招集請求に関する本投資法人の決定事項のお知らせ」(いちごオフィス) ↩︎

  6. FCレジデンシャル投資法人ほか(2010年11月24日)「投資主による投資主総会の招集の請求に関するお知らせ」(いちごオフィス) ↩︎

  7. リプラス・レジデンシャル投資法人ほか(2008年8月12日)「アップルリンゴ・ホールディングス・ビー・ヴィによる本投資法人投資口に対する公開買付けに関する意見表明のお知らせ」(日本賃貸住宅投資法人)、リプラス・レジデンシャル投資法人ほか(2008年8月28日)「アップルリンゴ・ホールディングス・ビー・ヴィによる本投資法人投資口に対する公開買付けに関する意見表明のお知らせ」(日本賃貸住宅投資法人) ↩︎

  8. リプラス・レジデンシャル投資法人ほか(2008年11月11日)「本投資法人投資口に対する公開買付けの結果に関するお知らせ」(日本賃貸住宅投資法人) ↩︎

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