LegalForceが未来を変える AI時代に目指すべきリーガル・スペシャリスト像とは?
IT・情報セキュリティ
目次
AI搭載の契約書レビュー支援ソフトウェア「LegalForce」を提供する株式会社LegalForceは、昨年から今年にかけてシリーズAラウンドにおける約5億円の資金調達を実施した。現在、LegalForceはβ版として秘密保持契約、業務委託契約など8類型の契約書自動レビュー機能、ひな形機能、および条文単位での検索機能を提供しているが、正式版のリリースに向けて今後は自動認識の対応類型やひな形の拡充や多言語対応、管理面の機能強化など、さらなるサービスの充実を図っていくという。
約5億円調達のリーガルテックサービスは、今後法務の仕事をどう変えていくのだろうか。今回は株式会社LegalForceおよび法律事務所ZeLo・外国法共同事業に所属する角田 望弁護士、南 知果弁護士に、LegalForceの概要や展望、またAI時代における法務のあり方について、お話を伺った。
契約書に潜むリスクを瞬時に見つけるリーガルテック
LegalForceのサービス概要について教えてください。
角田弁護士
LegalForceは、企業の法務担当者や法律事務所の弁護士など、法務プロフェッショナルに向けたAIソリューション・サービスです。契約書に潜むリスクを一瞬で洗い出し、修正条文例のリサーチまでをサポートします。
契約書のレビュー業務は2段階に分類することができます。
1段階目は与えられたドキュメントに対して、条項の抜け漏れがないか確認したり、相手方が差し込んできているリスク条項を発見したりするなど、経験や知識をもとに契約書に潜むリスクを探すという知識による情報処理の側面が大きいプロセスです。2段階目は、1段階目で発見したリスクについて、相手方と交渉をする、あるいは修正をする、受け入れるといった判断をしていくプロセスです。
2段階目のプロセスにおいては、取引先の担当者はどういう人か、取引先と自社とのパワーバランスはどうか、スキームは妥当か……などといったさまざまな情報を考慮し、経験も踏まえて判断するため、ソフトウェアで代替することは難しいです。
しかし1段階目のプロセスにおいては、頭の中にある契約書の完成形と突合するような作業が必要で、この部分を人が行うとぶれてしまうという課題があります。たとえば、同じ人がレビューするにしても、2日酔いの状態と、前の晩ぐっすり寝た状態とではクオリティが変わりますよね。また、30分しか時間をかけられない場合と2時間かけられる場合とでもクオリティは変わります。網羅的なチェックリストを作成したり、完璧なひな形を用意しておいてそれと見比べたりすることにより確認漏れを防ぐという方法もありますが、その突合作業を人の手で行うと膨大な時間がかかってしまいます。LegalForceを利用すれば、ボタンを押すだけでこの作業が完了します。
現在はβ版を提供していますが、正式版を今年4月にリリースする予定です。
ユーザーの反応はいかがですか。
角田弁護士
現在、約100社のお客様にご利用いただいていますが、とても良い反応をいただいています。
南弁護士
一度使い始めたら、LegalForceなしでは作業ができなくなるくらい便利という声はよく聞きますね。私自身も、LegalForceの条文検索機能はほぼ毎日利用しています。たとえば、契約書に合意管轄条項が漏れていた場合、ボタンを押すだけで条文を挿入できるので、規定したい条項を探したいときにも使えます。
角田弁護士
「LegalForceライブラリ」というデータベース機能では、LegalForceユーザーの方であれば契約書のひな形をダウンロードして使っていただけるようになっています。現在、ひな形の数は60個弱ですが、今年の3月末までに100個まで増やす予定です。ゆくゆくは契約書レビュー用の類型も増やしていき、どんな類型の契約書でもスクリーニングできるようになることを目指しています。
バーンアウトが目前に迫るなか、短期間でβ版をリリース
LegalForceを立ち上げようと考えたのはいつごろでしたか?
角田弁護士
リーガルテック自体は、2016年にニュースで見かけた時からおもしろそうだなと思っていました。自分たちでやろうと考えたのは、2016年の秋から冬にかけてです。そして2017年2月末に独立して、株式会社LegalForceと法律事務所ZeLoを設立しました。当時は弁護士になって5年目だったのでまだ顧客もいなかったです。リーガルテックをやろうと考えたは良いものの、いったい何をやればよいのかわからないという状態でした。
南弁護士
LegalForceのサービスが現在のような形になったのはつい最近です。私が法律事務所ZeLoに入った昨年4月の時点では、LegalForceの製品は今とはまったく違うものでした。もともとは契約書専用のAIを搭載したエディタを開発しようと考えていたんです。現在提供しているレビュー機能や条文検索機能は、本来このエディタに組み込むためにサイドプロジェクトとして並行して開発を進めていた機能でした。
しかしエディタの開発は、技術的に非常に難しく、Wordとの互換性をうまく維持できなかったため、仕方なくエディタ部分を切り落として、レビュー機能と条文検索機能に絞ったというのが実際のところです。振り返ってみれば、それが逆によかったのかもしれません。
角田弁護士
複数の大手企業ユーザーさんに、昨年の春頃からプロダクトパートナーとしてご協力いただき、何度もヒアリングを重ねて開発を進めてきました。たとえば法務の課題として、誰が契約書を何本担当してるか把握しづらいというものがありますが、LegalForceでは、自社の各ユーザーがいつ、どの契約類型を、どれだけレビューしたか等をカウントできるので、それをもとに担当案件数を集計するということも可能です。こうした機能は、プロダクトパートナーとの会話から生まれてきたものだといえると思います。
昨年11月と今年1月に、シリーズAラウンドとして約5億円の資金調達実施を発表されましたね。
角田弁護士
会社で雇用するスタッフが増える一方で売上が立っていないなか、資金調達を2018年内に行うことは既定路線でした。夏ごろから資金調達に向けて動いてはいたのですが、先ほどお話ししたエディタの開発を見切ったのが6月頃でした。年内に調達しなければ資金がバーンアウトしてしまうのに、思ったような製品がなかなか出来上がらない状況というのは非常につらかったですね。
その後短期間で機能開発を進めて同年8月にLegalForceのβ版をリリースし、それに対するお問い合わせ件数やトライアルの利用者数などの数字をもとに資金調達に向けた動きを進めていきました。前のプロダクトのままだったら、問い合わせ数もユーザー数も伸びず、資金調達できなかったかもしれません。調達額については、必要資金を調達したに過ぎず、計画通りに行った結果であると考えています。
「ヒリヒリする経験」を味わってこそ、グレーゾーンを走る判断ができる
LegalForceをはじめ、法務向けのAIソリューションが次々に登場してきています。こうしたAI時代において、弁護士や法務担当者などリーガルのスペシャリストはどうあるべきだとお考えですか。
南弁護士
法律事務所ZeLoはスタートアップのお客様が多いのですが、スタートアップのビジネスのスピードを見ていると、「本当に社会が変わっていくんだろうな」と肌で感じることができます。現在加速しつつある第四次産業革命においては、AIなどのテクノロジーがものすごい勢いで発達しています。こうした状況では、テクノロジーに合ったルールがきちんと整備されておらず、イノベーションを起こそうとしている会社は確実にグレーゾーンを走ることになると思うんです。したがって、グレーゾーンを適法なゾーンに位置づけてゆくための法務戦略を立案した上で「Go」と言えるかどうか、法の趣旨を捉えた戦略的な判断ができるかどうかということが、弁護士や法務部員にとって大事なスキルのひとつになるのではないでしょうか。
自分自身で会社を経営している人たちは、ビジネスがうまくいかなくなったり、アクシデントが起きたり、資金が底をつきそうになったり……と、「ヒリヒリする経験」をしていると思います。そうした人たちからすると、法務部員は一歩下がったところにいるように見えるかもしれません。
角田弁護士
確かに、これまでの法務はそういった仕事として位置づけられてきたかもしれないですね。
南弁護士
自分自身がビジネスと並走して「ヒリヒリする経験」をしていかなければ、グレーゾーンに対して戦略的に「Go」と判断できる力が身につかないのではないでしょうか。個人的にもできるだけそんな環境に身を置きたいと思っています。
角田弁護士
新しい産業領域において既存の法律の枠内に収まらないときに、自社の事業戦略と法務戦略を鑑みてルールメイクしていくという「法創造機能」を担っていくべきであるということは、時代の流れとして言えるかもしれませんね。
法創造は本来、行政と裁判所がメインプレイヤーとなる領域でしたが、事業のスピードやテクノロジーの進化、グローバル化が激しくなるなかでは、行政と裁判所のみでは法創造機能を担いきれなくなってきています。法務部や法律事務所がきちんとリードして、ビジネスの構造や向かうべき社会像を定義していく必要があると考えています。
南弁護士
「法創造」といっても、一社のビジネスのためだけにルールを変えたり作ったりすることはできないので、社会全体で何が必要とされているのかといった公益的な視点でビジネスを見なければいけません。また、実際のルールメイキングの場面では、官庁の人たちの協力も必要ですので、政府が出している情報をきちんと収集して、自分たちのビジネスとつなぎ合わせて説明できる人が求められるようになってくると思います。
角田弁護士
従来の法律家は、ルールを適用するルール・キーパーとしての仕事が多かったかもしれませんが、これからはルールをクリエイトして、社会を進歩させていくような仕事を担っていくべきということですね。
会社の未来を守るためのコストと時間を短縮する
LegalForceを開発するなかで、法務の役割について他に感じたことはありますか。
角田弁護士
LegalForceを作っていく過程で、法務の役割は会社の未来を守ることだと感じるようになりました。企業の売上を考えたときに、契約は売上を得るためのスピードを遅らせるプロセスであると言えます。なぜなら、契約書の内容を見ずにサインしてしまったほうが、その瞬間の売上は伸びるからです。
でも、それでは会社の未来がどうなるかわかりません。トラブルが起きたときに多大な損害を受ける可能性もありますし、多額の制裁金を払わなければいけなくなるかもしれません。経営リスクを未然に防いで、会社の未来を守るのが法務の仕事です。LegalForceでは、未来を守るために必要なクオリティを向上させると同時に、一定のクオリティを確保するために要する時間を加速して、交渉や意思決定支援等のより戦略的な業務にフォーカスできるよう、法務部門や法律事務所を支えていきたいと考えています。
ただし、現在のAIは鉄腕アトムのような万能なものではなく、あくまで人を支援するものです。使いこなすには相応のスキルと経験、知見が必要になります。法的な深い知識をもって考察や分析を行うトレーニングを受けた素養は、これからAI時代が本格的に到来したとしても重要になるでしょう。オンラインに情報が溢れている時代においては、知識や情報自体の価値は減っていきますが、知識をどう使って意思決定につなげていくかという「使いこなすスキル」が大事になってきますから。
南弁護士
そういう意味では、知識の共有も大切ですよね。法教育の面からみても、知識をシェアするということがスタンダードになっていけば良いと思います。
角田弁護士
人間はコンピュータと異なり、常に柔軟に成長していくことができます。社会が変化し、法律が変わり、人間関係が入れ替わるような環境にも、適応できるのです。テクノロジーを早い段階から取り入れて、それをどう使いこなすのか、使いこなした先に自分が出せる付加価値は何なのか、常に自問自答していくことが大切なのではないでしょうか。
最後に、LegalForceの今後の展望についてコメントをお願いします。
角田弁護士
現在LegalForceは契約書のレビューをコアな機能として提供していますが、将来的にはレビューにかぎらず法務業務を包み込むような基幹システムとして法務部や法律事務所に使っていただきたいと考えています。AIなどの最先端テクノロジーを搭載したソリューションを提供し、挑戦する法務のプロフェッショナルを支援し続けていきたいですね。
南弁護士
ソフトウェアの良さは、日本全国どこにいても使えるところだと考えています。これまで、企業法務といえば東京にだけ集中しているような雰囲気がありました。しかし今後はソフトウェアやテクノロジーの力によって、地方在勤の方でもクオリティの高い仕事ができるようになるでしょう。LegalForceが日本全国の法務レベルを上げるようなツールになっていくと良いなと思います。
(文:周藤 瞳美、取材・構成・編集:村上 未萌、取材:BUSINESS LAWYERS編集部)

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