ファイナンス法の基礎

第2回 コーポレート・ファイナンスとは? デットとエクイティの区別を踏まえて

ファイナンス

目次

  1. コーポレート・ファイナンスとは? - 法的観点からの整理
    1. 広義:企業の観点から見た金融取引全般
    2. 狭義:企業の信用力に基づく資金調達
    3. 最狭義:企業全体の信用を引当に行うdebt finance
  2. デット・ファイナンスとエクイティ・ファイナンス
    1. デットとエクイティの意義
    2. キャッシュフローに対する権利の差異
    3. コントロールに関する権利との関係
    4. エクイティにおける責任の程度:有限責任と無限責任
    5. まとめ
    6. 証券の設計(Security Design)の理論
  3. ハイブリッド証券とメザニンファイナンス
    1. ハイブリッド証券
    2. メザニンファイナンス
  4. 優先劣後構造とキャピタル・ストラクチャー
  5. デット・ファイナンス – ローンと社債
  6. 担保

※本連載は、「ファイナンス法- 金融法の基礎と先端金融取引のエッセンス」(商事法務、2016)のダイジェスト版です。本文中、「本書」とはこちらの書籍のことを指します。

 コーポレート・ファイナンスやデットとエクイティの区別については、「第1回 ファイナンス法とは?」でも簡単な説明を行ったが、今回はより踏み込んだ説明を行う。

コーポレート・ファイナンスとは? - 法的観点からの整理

 コーポレート・ファイナンス(企業金融)は、非常に頻繁に使用される一方で多義的な概念である。

広義:企業の観点から見た金融取引全般

 まず、経済学上、コーポレート・ファイナンスと呼ばれる学問分野が存在する。経済学におけるコーポレート・ファイナンスは、企業の財務活動全般を取り扱うため、①企業の資金調達手法のみならず、②企業の投資理論(インベストメント)や配当政策などを含んだ、幅広いテーマを取り扱う分野である。具体的には、資金調達コスト資本コスト)、企業価値の評価、最適資本構成MM理論エージェンシー理論など)などが議論されている(詳細については本書第4章第2節参照)。

狭義:企業の信用力に基づく資金調達

 次に、資産自体の収益力による資金調達(アセット・ファイナンス)に対する意味において、企業の信用力に基づく資金調達を狭義のコーポレート・ファイナンスと呼ぶ場合がある。この意味におけるコーポレート・ファイナンスは、デット・ファイナンスとエクイティ・ファイナンスの両方を含む形で使用されている。

最狭義:企業全体の信用を引当に行うdebt finance

 さらに、コーポレート・ファイナンス(企業金融)という言葉は、企業全体の信用を引当に行うdebt financeを指す意味であると説明されることもある。この意味におけるコーポレート・ファイナンスは、デット・ファイナンスというカテゴリーの中において、同じくデット・ファイナンスに含まれるノンリコース・ファイナンスと対比される意味で使用されている。

 狭義または最狭義のコーポレート・ファイナンスは、企業の伝統的な資金調達方法であり、投資家から見た場合、資金調達者の総財産全てを引き当てにできるメリットが存在する。
 しかしながら、他方では、資金調達者と投資家の間には情報の非対称性があり、これを埋める会計に基づく情報開示も完全ではないから、①資金調達者の資産の全てに実質的な経済価値があるかどうかの調査や判断は必ずしも容易ではなく、可能な場合でも費用や時間がかかり(資産価値の調査可能性・容易性)、②資金調達者の負担する債務(競合する他の債権)は、バランスシート上確認可能なものには限られず、突発的な事故などにより発生する偶発債務や、バランスシート上に記載されていない簿外債務などが存在する可能性も否定できず、その調査が可能な場合でも費用や時間がかかる(負債価値の調査可能性・容易性)。また、③資金調達者に対しては、一般の取引債権者を含んだ不特定多数の債権者が存在するのが一般的であるため、債権回収の場面ではこれらの債権者と回収が競合する関係にある(回収競合性)。

 このように、コーポレート・ファイナンスにおいては、個々の状況次第ではデメリットまたはリスクも存在する。これらを回避したいという投資家のインセンティブに対応するのが、アセット・ファイナンス、ストラクチャード・ファイナンス、ノンリコース・ファイナンスといったファイナンス手法となる(詳細は連載第3回で解説)。

デット・ファイナンスとエクイティ・ファイナンス

 デット・ファイナンスとエクイティ・ファイナンスの区別は、広義・狭義・最狭義いずれのコーポレート・ファイナンスにおいても、最も基本的かつ重要な概念となる。

デットとエクイティの意義

 一般的に、デットとは負債を意味し、この場合の負債とは、一般的に、予め定めた条件で元本の返済を行う債務をいうとされる。他方、エクイティとは、 (ⅰ)狭義においては、法人(会社)の自己資本を意味するものとして使用されるが(本書において狭義のエクイティという)、(ⅱ)広義においてはこれに限られず、一定の期限までに元本を返還する義務(債務)のない出資(金)の性質を有するものを一般的に含む意味で使用される(本書において広義のエクイティという)。

キャッシュフローに対する権利の差異

 デットはエクイティよりもキャッシュフローに対する権利(キャッシュ・金銭の流れ・支払いに対して有する権利をいい、株主が保有する利益配当請求権や残余財産分配請求権、社債権者が保有する利息支払請求権や元本償還請求権などを含む)において優先する。このため、デットとエクイティでは、資金調達者の信用リスクにつき差異が存在する。また、デットでは、資金調達者は一定の期限で投資元本とリターンの支払義務を負う反面、資金調達者が投資家に支払うリターンは一定限度に固定される。他方、エクイティでは、資金調達者は投資元本の返還義務を負わない反面、資金調達者が投資家に支払うリターンは投資元本を超過する運用益(アップサイド)全てに及ぶ。デットはローリスク・ローリターンの投資であるのに対し、エクイティはハイリスク・ハイリターンの投資であるといえる。

コントロールに関する権利との関係

 デットとエクイティの区別は、資金調達者に対する投資家のコントロールに関する権利(株主の株主総会における議決権(とりわけ取締役の選任権)のみならず、債務者倒産時における債権者の倒産手続における議決権も含む)の内容や範囲でも差異を有する。エクイティ投資家は、出資者として資金調達者(法人)の所有者になるため、資金調達者に対する組織法上の支配権(本書において狭義のコントロール権という)を取得する。他方、デット投資家は資金調達者(法人)の所有者ではないため、資金調達者に対する組織法上の支配権を有しない。デット投資家が資金調達者に及ぼすことができるコントロール権(本書において広義のコントロール権という)は、コベナンツなどを通じて行う投資回収目的のものに限定される

エクイティにおける責任の程度:有限責任と無限責任

 エクイティの中には、資金調達者がデット投資家に負担する債務につき、(ⅰ)投資元本の毀損を限度とする責任を負うにとどまり、これを超える責任をエクイティ投資家が負わない場合有限責任)と、(ⅱ)投資元本の毀損のみならず、これを超える責任をエクイティ投資家が負う場合無限責任)の2つがある。

まとめ

 以上を踏まえ、デットとエクイティの区別をまとめたのが【図2-1】である。

【図2-1:デットとエクイティの区別】

法的根拠 信用リスク リターン 支配権 有限 / 無限責任
デット 契約 エクイティより優先
(ローリスク)
固定額
(ローリターン)
なし (有限責任)
エクイティ 組織法 デットより劣後
(ハイリスク)
アップサイド全額
(ハイリターン)
あり (ⅰ)
有限責任の場合
(ⅱ) 無限責任の場合

(出典)松田千恵子『ファイナンスの理論と実務ー多様化する企業の資金調達と新しい融資業務』(金融財政事情研究会、2007)の図をもとに筆者が独自に作成

証券の設計(Security Design)の理論

 MM理論などの伝統的なファイナンス理論では、個々の証券の内容は所与のものとした上、その組み合わせによる最適資本構成などが議論されてきた。これに対し、最近では、証券の内容であるキャッシュフローに対する権利(①)とコントロールに関する権利(②)という2つの要素の配分に注目し、例えば、情報の非対称性が存在する中で資金調達を行うにはいかなる内容の(金融)契約が最適かという議論が行われている(証券の設計<Security Design>の理論)。

ハイブリッド証券とメザニンファイナンス

ハイブリッド証券

 デット(負債)とエクイティ(資本)に関連する概念として、ハイブリッド証券がある。ハイブリッド証券とは、さまざまなデット(負債)の特徴とエクイティ(資本)の特徴を併せ持った中間的な性質を有している証券をいう。ハイブリッド証券の種類や具体例としては、以下のようなものが議論されている。なお、ハイブリッド証券は、証券の設計の理論からは、キャッシュフローに対する権利とコントロールに関する権利の組み合わせの問題として整理される。

(1)エクイティから派生したもの

 狭義のエクイティ(資本)でありながら、キャッシュフローに対する権利につき通常のエクイティ(普通株式など)よりも優先するものや(例:優先株式)、コントロールに関する権利を有していないもの(例:無議決権株式など)

(2)デットから派生したもの

 デット(負債)でありながら、キャッシュフローに対する権利につき通常のデット(普通社債など)よりも劣後するもの(例:劣後社債など)

(3)オプション型

 本体の属性はデット(負債)であるが、そのオプションとして、狭義のエクイティを取得したりまたは狭義のエクイティに転換したりできる権利が付与されているもの(例:新株予約権付社債や転換社債など)

メザニンファイナンス

 ファイナンスにおいて、メザニンとは、優先劣後構造(下記4)上、上位層のシニア債務には劣後するものの、下位層の普通株式には優先するものをいう。メザニンを利用したファイナンスメザニンファイナンスという。メザニンは、デットとエクイティの複合的な性質を有するものであり、その代表例としては、優先株式劣後社債劣後ローンなどがある。ハイブリッド証券とメザニンは、デットとエクイティの中間的性質を有する点で共通する部分が多いが、例えば劣後ローンは、メザニンには含まれるが、有価証券のみを対象とするハイブリッド証券には含まれないと整理されている。

優先劣後構造とキャピタル・ストラクチャー

 投資家が資金調達者に有する権利そのものおよび / またはその回収に関する優先順位優先劣後構造または優先劣後関係という。優先劣後構造の典型はデットとエクイティの関係となる。優先劣後構造が存在する場合には投資家相互間に階層構造が生じることになるが、その個別の階層トランシェという。優先劣後構造はバランスシートにおける資本構成の序列と一致する部分が多いので、キャピタル・ストラクチャーとも呼ばれる。
 会社法上、一般債権者(デット)と普通株式(エクイティ)の間には優先劣後関係があることが規定されているが、それ以外の場面においては、複数の一般債権者間または複数の普通株主間の権利は同順位であることが原則となる。しかしながら、ファイナンス取引実務では、様々な投資家が求めるリスクとリターンのバランスに対応して、各種の中間的なリスクとリターン(ミドルリスク・ミドルリターン)を提供するため、優先劣後構造はさらに細分化される。優先劣後構造の細分化は、(a)法律に明文の制度があるものと、(b)当事者の合意(劣後特約など)により創設するものの2つに分かれる。株式会社の場合、法律に明文の制度があるものには、(イ)会社法において組織法上の制度があるもの(社債普通株式優先株式劣後株式など)と、(ロ)民商法における契約類型を利用するもの(ローン任意組合匿名組合など)に分かれる。【図2-2】は、株式会社のキャピタル・ストラクチャーの例を示したものである。

【図2-2:株式会社のキャピタル・ストラクチャーの例】

株式会社のキャピタル・ストラクチャーの例

デット・ファイナンス – ローンと社債

 デット・ファイナンスは、各種のローンや社債などにより行われる(詳細については本書第5章第1節・第2節参照)。なお、ローンや社債による資金調達(投資)は、事業会社による伝統的な資金調達(コーポレート・ファイナンス)のみならず、LBOや不動産証券化といったストラクチャード・ファイナンスの一部としても利用される(詳細は連載第3回で解説)。

担保

 優先劣後構造と密接に関連するものとして、担保物権による優先権の確保がある(詳細については本書第5章第3節参照)。デット投資家は、資金調達者の有する責任財産の一部に担保物権の設定を受けた場合、当該担保目的物に対する優先回収権を有する。この場合、担保権者となる投資家は、無担保権者よりも上位のトランシェに位置する。

 以上、コーポレート・ファイナンスについて説明を行った。次回は、ストラクチャード・ファイナンス/アセット・ファイナンスについて説明を行う予定である。

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