固定資産税の実務上のポイント(1)- 課税ミスがあった場合、払いすぎた固定資産税は全額還付されるか?

税務
山田 重則弁護士 鳥飼総合法律事務所

当社では毎年、多額の固定資産税を納付していますが、固定資産税の金額は本当に正しいのでしょうか。また、仮に誤っていた場合、払いすぎた固定資産税は全額還付されるのでしょうか。

自治体が固定資産税の計算を誤った結果、納税者から固定資産税を過大に徴収する事案は多発しています。2014年度以降、東京23区と20政令市において納税者に還付された固定資産税相当額は、毎年約70億円にも上ります。
 固定資産税を過大に徴収された場合には、納税者は自治体から還付を受けることができますが、過大徴収が数十年にわたってなされていたとしても、わずか過去5年の還付にとどまる可能性があります。

解説

目次

  1. 固定資産税の課税ミスの実態
    1. 総務省調査結果
    2. 新聞報道等
  2. 過大徴収が発生した場合のリスク
    1. 過大徴収は毎年繰り返し行われる
    2. 過大に支払った固定資産税の全額が返還されるとは限らない
  3. まとめ

固定資産税の課税ミスの実態

 固定資産税は、納付すべき金額を自治体が計算して納税者に通知する「賦課課税方式」の税金です。自治体(市町村および東京都)は、毎年4月頃から6月頃にかけて、土地、家屋の所有者に対し、固定資産税の納税通知書、課税明細書を送付します。そして、納税者は、通常、その年度の固定資産税を4回(第1期から第4期)に分けて納付します。

 納税通知書、課税明細書には非常に細かな数字が記載されていますので、固定資産税というのは機械的、自動的に正確な金額が計算されているかのような印象を受けます。また、自治体が計算する以上、誤りなどないようにも思います。

 しかし実際には、自治体が固定資産税の計算を誤った結果、納税者から長年にわたって過大に固定資産税を徴収する事案が多発しています。しかも、過大に徴収された固定資産税は必ずしもその全額が還付されるとは限りません

総務省調査結果

 総務省は、固定資産税の課税ミスが多発したことを受け、平成21年度から平成23年度までの課税ミスの件数等を調査し、その結果を平成24年8月28日に公表しました(平成24年8月28日付総務省「固定資産税及び都市計画税に係る税額修正の状況調査結果」)。この調査の結果、回答に応じた1,592市町村のうち97%の市町村において何らかの課税ミスがあったことが判明しました。

 課税ミスの内容は、納税者から過大に固定資産税を徴収した場合(過大徴収)と、納税者から過小に固定資産税を徴収した場合(過小徴収)に分かれます。土地については過大徴収が約7割、建物については過大徴収が約6割と、土地、家屋ともに過大徴収が大きな割合を占めます。

 総務省は、この調査結果を重く受け止め、その後も各自治体に対し固定資産税の課税ミスを減らすよう各種の対策を講じるよう求めていますが、以下の新聞報道等からも明らかなとおり、課税ミスは一向に減少していません。

新聞報道等

 固定資産税の過大徴収に関する報道は古くから存在しますが、ここでは近年の新聞報道等からその一部を取り上げます。

自治体による固定資産税の過大徴収の例

対象 期間 過大徴収額 返還額(利息含む)
静岡県静岡市 109人 20年 約2億1,700万円 約3億3,600万円
千葉県館山市 14年 1億351万2,800円 1億351万2,800円
+約3,600万円
東京都武蔵野市 家屋2棟 18年 約2億6,000万円
千葉県印西市 家屋1棟 21年 2億2,770万円 3億550万円
大阪府大阪市 家屋10,057件 最大20年 約71億円

(1)静岡県静岡市

 静岡市は、静岡競輪場の駐車場の土地について、駐車場の一部が用途変更になった際、本来、安い路線価を適用すべきところ、これを見落としました。その結果、駐車場所有者109人に対し、20年間にわたり、合計約2億1,700万円の固定資産税の過大徴収を行いました。静岡市は、駐車場所有者に対し、利息を含め約3億3,600万円を返還しました(2015年10月31日付け朝日新聞朝刊)。

(2)千葉県館山市

 館山市は、市の担当者が県の作成した土地、家屋の「評価調査書」を元に課税台帳を作成する際、本来、課税台帳のシステムに539万円と入力すべきところ、誤って1,390万円と入力しました。その結果、土地、家屋の所有者に対し、14年間にわたり、合計1億351万2,800円の固定資産税と都市計画税の過大徴収を行いました。館山市は、利息として約3,600万円を加算したうえでこれを返還しました(2016年11月26日付け千葉日報)。

(3)東京都武蔵野市

 武蔵野市は、鉄骨造と鉄骨鉄筋コンクリート造の複合構造の家屋2棟について、本来、構造別に税額を計算すべきところ、誤って家屋全体を鉄骨鉄筋コンクリート造として評価しました。その結果、家屋の所有者に対し、18年間にわたり、固定資産税の過大徴収を行いました。武蔵野市は、利息を含め約2億6,000万円を返還することとなりました(2017年8月8日付け東京新聞朝刊)。

(4)千葉県印西市

 印西市は、複数の構造で建築されている複合構造家屋1棟について、本来、主たる構造を鉄骨造として評価すべきところ、誤って鉄骨鉄筋コンクリート造として評価しました。その結果、家屋の所有者に対し、21年間にわたり、合計2億2,770万円の固定資産税の過大徴収を行いました。印西市は、利息を含め3億550万円を返還しました(2017年11月14日付け朝日新聞等)。

(5)大阪府大阪市

 大阪市が独自に定めていた家屋の基礎部分の杭の評価方法が、裁判所によって違法と判断されました(大阪地裁平成29年12月19日判決、大阪高裁平成30年10月25日判決、最高裁令和元年12月17日判決)。その結果、10,057件の家屋を対象に、最大20年間分の還付となり、還付額として約71億円が見込まれるとのことです(2020年6月30日付け大阪市報道発表資料「固定資産税・都市計画税に係る損害賠償請求訴訟の結果と今後の対応について(第2報)」)。

(6)全国の還付実績の推移

 2018年度の東京23区と20政令市(横浜市と広島市を除く)の固定資産税の還付実績(課税ミスにより事後に納税者に返還をした件数)は、14万4,500件、還付合計額は71億8,800万円に上ります。2014年度以降、還付合計額は毎年70億円程度で推移していますので、固定資産税の過大徴収の事案はまったく減少していないといえます(2019年12月2日付け日本経済新聞)。

過大徴収が発生した場合のリスク

 上記1で解説したとおり、固定資産税の過大徴収は全国の自治体で多発しており、何ら珍しいものではありません。固定資産税の過大徴収が発生した場合、以下で述べるように、納税者は大きなリスクを負います。

過大徴収は毎年繰り返し行われる

 自治体は、固定資産税の金額を計算する際、一から計算するのではなく、それ以前の計算結果、金額をベースに必要な修正を行います。毎回、膨大な数に上る土地、家屋の固定資産税の金額を一から計算するのは非効率的ですので、効率的に事務を行うという観点からはこのような計算方法は望ましいといえます。

 しかし、これは、いずれかの年度で固定資産税の計算を誤ってしまうと、それ以降の年度の計算においてもそのミスが引き継がれてしまうことを意味します。

 上記1-2であげた固定資産税の過大徴収に関する新聞報道によれば、自治体は十数年以上、過大徴収の事実に気づかず、その結果、数億円もの固定資産税を過大に徴収していました。自治体または納税者が過大徴収に気づかない限り、納税者は過大な固定資産税を毎年、負担し続けることになります。しかしながら、自治体すら気づかないような計算ミスに納税者が気づくことは困難といえるでしょう。

過大に支払った固定資産税の全額が返還されるとは限らない

 自治体による計算ミスの結果、過大に固定資産税を納付してしまった場合、納税者としては、当然、払い過ぎた固定資産税は全額が返還されると考えるでしょう。しかし、法律上も実務上も、必ずしもそのような結論とはなっていません。固定資産税を払い過ぎてしまうと、その後、全額が返ってこない可能性があるという点は大きなリスクといえます。

(1)地方税法に基づく返還

 固定資産税の過大徴収が発生した場合には、通常、地方税法に基づき、過大に支払った固定資産税が過去5年に遡って返還されます(地方税法417条1項、同法17条の5)。

(2)国家賠償法に基づく返還

 地方税法では、過大に支払った固定資産税について、最大で過去5年に遡って返還を受けることができるにとどまります。それより以前に過大に支払った固定資産税の返還を求める場合、法律上は、自治体に対して国家賠償請求をするほかありません。

 国家賠償法に基づく返還を求める場合、納税者が自治体の「過失」を立証しなければならないという大きなハードルが存在します。また、国家賠償請求を行ったとしても、最大でも過去20年に過大に支払った固定資産税の返還を求めることができるにとどまります。国家賠償請求権は、20年で消滅時効にかかるためです(国家賠償法4条、民法724条2号)。

(3)自治体の「返還要綱」に基づく返還

 上記のとおり、地方税法に基づく返還は最大でも過去5年にとどまり、また、国家賠償法に基づく返還は納税者が自治体の「過失」を立証しなければならないというハードルが存在します。

 しかし、これまで述べたとおり、固定資産税は、自治体が納付すべき金額を計算して納税者に通知する賦課課税方式の税金であるため、過大徴収が発生した場合、その責任は全面的に自治体が負うべきです。このような固定資産税の法的性質を考慮すると、わずかな期間しか還付をしないことや納税者に立証責任を課すことは、何ら落ち度のない納税者にあまりに酷といえます。

 このような事情も考慮されたためか、多くの自治体では、過去20年に過大に支払った固定資産税相当額を返還する旨の要綱(返還要綱)を定めています。もっとも、自治体によっては、納税者が過去にその年度の固定資産税を納付したことを裏付ける資料(たとえば領収印の押された納税通知書)の提出を求めることがあります。自治体側では、通常、10年前までの納税通知書や課税明細書しか保管しておらず、それ以前の資料については廃棄しているためです。この場合、納税者から納付を裏付ける資料の提出がない限り、通常、自治体は返還要綱の適用を認めません。

 また、返還要綱が適用されるための要件として、自治体に「過失」があることを定める自治体も数多く存在します。この場合、返還を受けることの困難さは、国家賠償法に基づく返還の場合とさほど変わりません。

 このように、自治体において返還要綱が定められていたとしても、それにより納税者が救済されるとは限りません

(4)小括

 以上のとおり、固定資産税の過大徴収が発生した場合、通常、地方税法に基づき、過大に支払った固定資産税が過去5年に遡って還付されますが、それよりも前の年分については、還付が受けられるとは限りません。過大徴収が数十年にわたって継続したとしても、わずか過去5年の還付しか受けられない事態が起こりえます。これは、納税者にとっては大きなリスクといえます。

過大徴収された固定資産税の返還請求の難しさ

根拠 還付期間の上限 納税者の負担
地方税法417条1項、同法17条の5 5年
国家賠償法4条、民法724条2号 20年
  • 過失の立証責任を負う
自治体の返還要綱 20年
  • 自治体によっては納付を裏付ける資料の提出や過失の立証が求められる

まとめ

 法人税などの所得に課される税金は、基本的には売上の減少とともに税額も減少する関係にありますが、固定資産税などの資産に課す税金は、売上の減少が税額に影響しません。そのため、納税者にとっては業績が悪化した場合の固定資産税は大きな負担となります。

 固定資産税は、毎年恒常的に発生する固定費ですので、納税者としてはその金額の妥当性について関心を持つべきといえるでしょう。

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