不動産への投資スキームにはどのような形態があるか

ファイナンス

 実物不動産への投資以外の形態による不動産投資が増えていると聞きました。どうしてでしょうか。不動産への投資スキームにはどのような形態がありますか。

 実物不動産を信託した信託受益権という形態による取引の場合、実物不動産の形態での取引と比較して、主に登録免許税・不動産取得税を中心とした取引・流通コストが安いため、このような形態での取引が増加しています。また、集団投資スキームを組成する場合、実物不動産以外の形態による不動産投資を行う方が様々な面でメリットがあることも大きな理由の一つです。

解説

目次

  1. 不動産投資の諸形態
    1. 投資形態にはどのような形態があるか
    2. 取引の状況
  2. 実物不動産と信託受益権の取引コストの比較
    1. 実物不動産(土地7億円、建物3億円、合計10億円)の場合
    2. 実物不動産(土地70億、建物30億、合計100億円)の場合
    3. 信託受益権(土地7億円、建物3億円、合計10億円)の場合
    4. 信託受益権(土地70億円、建物30億円、合計100億円)の場合
  3. その他の形態の取引のコスト
    1. 特定目的会社による取得の場合(売却の際には軽減されない)
    2. 不動産特定共同事業法に基づく取得の場合(売却の際には軽減されない)
  4. その他、有価証券形態での投資の取引コスト

不動産投資の諸形態

投資形態にはどのような形態があるか

 不動産への投資形態には、以下のような形態があります。③以下の投資形態は、主に集団投資スキーム(他社から金銭などの出資・拠出を集め、当該金銭を用いて何らかの事業・投資を行い、その事業から生じる収益等を出資・拠出者に分配する仕組みのことをいいます)での投資に利用されますが、単独の投資家でも利用できます。

 なお、信託受益権については「不動産を信託した信託受益権とは」を参照ください。

  1. 実物不動産

  2. 実物不動産を信託した信託受益権(以下「信託受益権」といいます)

  3. 信託受益権を保有する合同会社(以下「GK」といいます)に対する匿名組合出資(以下「TK出資」といいます)(GKとTKを用いたスキームを「GK-TKスキーム」といいます)
    ※「合同会社」とは、会社法575条で定義される持分会社(合名会社、合資会社、合同会社)のうち一つであり、持分会社の中では、社員(=出資者)全員が有限責任という特徴があります。
    ※「匿名組合」とは、商法535条に規定される契約(当事者の一方(匿名組合員)が相手方(営業者)の営業のために出資をなし、その営業より生じる利益の分配を受けることを約束する契約)をいいます。

  4. 資産の流動化に関する法律(以下「資産流動化法」といいます)に基づく特定目的会社(以下「TMK」といいます)に対する優先出資(以下「優先出資」といいます)(TMKスキーム
    ※「特定目的会社(TMK)」とは、資産流動化法に基づき設立された法人をいいます。特定目的会社が業務を行うには、資産流動化計画を添付した内閣総理大臣宛の業務開始届出書を財務局に届け出る必要があります(資産流動化法4条)。
    ※「優先出資」とは、均等の割合的単位に細分化された特定目的会社の社員の地位であって、当該社員が、特定目会社の利益の配当又は残余財産の分配を特定社員に先立って受ける権利を有するものをいいます(資産流動化法2条5項)。

  5. 信託受益権を組合財産とする投資事業有限責任組合に対する出資(以下「LLP出資」といいます)
    ※「投資事業有限責任組合」とは、投資事業有限責任組合契約によって成立する無限責任組合員および有限責任組合員からなる組合をいいます(投資事業有限責任組合契約に関する法律2条)。

  6. 不動産特定共同事業法に基づく不動産特定共同事業契約に基づく出資(以下「不動産特定共同事業出資」といいます)
    ※「不動産特定共同事業契約」とは、不動産特定共同事業法2条4項に規定される契約で、主に不動産取引に関して共同事業・出資を行い、収益等を分配する契約をいいます。

  7. 不動産投資法人(いわゆるREIT)の投資口(以下「REIT投資口」といいます)
    ※「不動産投資法人(REIT)」とは、資産を主として一定の資産(特定資産)に対する投資として運用することを目的として、投資信託及び投資法人に関する法律に基づき設立された社団をいいます(投資信託及び投資法人に関する法律2条12項)。

不動産投資スキームのイメージ

GK-TKスキーム

TMKスキーム

※その他スキームも基本的な構造は同様・類似

取引の状況

 実物不動産以外の形態による不動産取引は増加しつづけており、特に信託受益権形態での取引は、法人間取引の過半を占めるとも言われています。ちなみに、平成26年度における信託受益権形態での不動産取引高は約5.5兆円、1,232件であり、証券化されている不動産概算資産額は、REIT約12兆円、不動産特定共同事業約0.4兆円、TMK約8.8兆円、GK-TKスキーム約7.9兆円の合計約29.1兆円です(国土交通省「平成26年度不動産証券化の実態調査の結果」)

実物不動産と信託受益権の取引コストの比較

 信託受益権形態での取引は、実物不動産形態での取引と比較して、主に登録免許税・不動産取得税を中心とする取引・流通コストが安いという特徴があります。特に、不動産の価格が高額になればなるほど取引・流通コストの差が拡大する傾向があります。

 例えば、10億円の不動産(土地7億、建物3億と想定)および100億円の不動産(土地70億、建物30億と想定)への投資(取得及び売却)について、実物不動産形態での投資と信託受益権形態での投資を行った場合に想定されるコストを検討してみます。
 なお、ここでは、売買の仲介料(実物不動産の場合は不動産価格の3% + 6万円が一般的です)は、検討外としています。なお、取引コストに要する登録免許税、不動産取得税、印紙の額は、法令の改正により変化しますので、取引時点に適用ある法令をご確認ください。

実物不動産(土地7億円、建物3億円、合計10億円)の場合

  1. 取得時:合計 3,970万円
    登録免許税(土地 1.5%≒730万円、建物 2%≒420万円 合計 1,150万円)
    ・固定資産税評価額≒公示価格の70%と仮定しました(以下も同様)
    不動産取得税(4%≒2,800万円 固定資産税評価額)
    売買契約の印紙代 20万円
  2. 売却時:同上(3,970万円)
  3. 転売時:同上(3,970万円)

実物不動産(土地70億、建物30億、合計100億円)の場合

  1. 取得時:3億9,560万円
    登録免許税 1億1,500万円(土地1.5%、建物2%)、不動産取得税 2億8,000万円(4%)、印紙代 60万円
  2. 売却時:同上(3億9,560万円)
  3. 転売時:同上(3億9,560万円)

 一方、信託受益権形態で同じ不動産へ投資する場合におけるコストを検討します。

信託受益権(土地7億円、建物3億円、合計10億円)の場合

  1. 信託設定時:231万円
    不動産取得税=0%
    登録免許税(土地0.3%≒147万円、建物0.4%≒84万円)
  2. 受益権取得時:1,200円
    受益者変更登記 1,000円
    売買契約の印紙 200円
  3. 受益権売却時
    受益権取得時と同様
  4. 信託終了時
    不動産取得税 4%(2,800万円)・・実物不動産と同様
  5. その他のコスト
    ・信託報酬(例):設定時 100万円、譲渡時 100万円(受益者変更含む)、期中1年 100万円~200万円
    ・弁護士等のドキュメンテーションコスト:取得・売却等の取引ごとに+200万円~(実物不動産の場合の弁護士報酬との比較)
    ・信託設定前のDDコスト
     信託の設定には、物件を調査して、遵法性に問題がないことを確認する必要があります。エンジニアリングレポート等、これらのデュー・ディリジェンス(DD)に費用が必要となります(もっとも、多くの場合は、不動産鑑定評価とデュー・ディリジェンスを行うことは、相当額以上の不動産取引では常態化しているため、ここでは受益権取引のコストとしては算定しないこととします。
    ・SPC(投資スキームへの使用を目的とする法人をいい、TMKまたはGKを利用することが一般的です。)を設立維持するための維持管理コスト:年50万円(税務・監査なし)~400万円(税務監査あり)

 転売までの期間を2年と想定した場合、信託報酬等が600万円、ドキュメンテーション等600万円、SPC維持管理600万円として合計1,800万円程度と予想します。従って、売却までの総取引コストは合計で2,000万円強となり、実物不動産の場合と比べると半額程度です。

信託受益権(土地70億円、建物30億円、合計100億円)の場合

 信託を終了しない場合、登録免許税が10倍になるのみです(土地1,470万円、建物840万円、合計2,310万円)。
 この場合、取引コスト総額は4,100万円強と推測され、実物不動産の取引コストと比較すると約9分の1になります。

その他の形態の取引のコスト

 信託受益権形態ではなく、実物不動産形態での取引が可能なスキームである特定目的会社・不動産特定共同事業に基づく実物不動産の取得コストを検討してみます。

特定目的会社による取得の場合(売却の際には軽減されない)

・不動産取得税が5分の2に軽減される(一定の要件を満たすことが必要)(地方税法附則11条3項)
・登録免許税(所有権移転)が2%(土地1.5%)から1.3%に軽減(租税特別措置法83条の2)

 なお、一定の条件を満たす不動産(地方税法施行令附則7条3項、4項)を取得した場合で、一定の要件(地方税法附則11条3および地方税施行規則附則3条の2の6)を満たす必要があります。

不動産特定共同事業法に基づく取得の場合(売却の際には軽減されない)

・新築家屋等の不動産取得税が2分の1に軽減される(地方税法附則11条14項)
・登録免許税(所有権移転)が2%(土地1.5%)から1.3%に軽減、登録免許税(保存)が0.4%から0.3%に軽減(租税特別措置法83条の3)

 なお、軽減措置の適用のためには、特例事業者が新築、増改築、修繕、模様替えのため不動産特定共同事業契約(任意・匿名組合型)の締結後に対象不動産を取得し、取得後2年以内に新築、増改築、修繕、模様替えに着手し、完了後10年以内に譲渡すること等が必要となります(改正租税特別措置法施行令 43条の3、改正地方税法施行令附則7条19項ないし21項)。
 特定目的会社による取得、不動産特定共同事業による取得、ともに取得時には税負担が軽減されますが、売却時(買主)には、買主が特定目的会社・不動産特定共同事業による場合など軽減措置が適用される主体である場合を除き、原則として軽減されるものではありません。

その他、有価証券形態での投資の取引コスト

 優先出資、TK出資、LLP出資、不動産特定共同事業契約に基づく出資、REIT投資口の取引・移転は、全て有価証券の取引・移転になるため、当該取引自体にかかるコストは、取引契約に対する印紙税程度と非常に安価です。
 ただし、実務上は、集団投資スキームとして投資している場合は当該スキームの終了になることや、不動産・信託受益権の保有主体となる器(vehicle)のコントロール等の観点から、出資の取引・移転ではなく、実物不動産または信託受益権の取引・移転が選択されるケースが大多数です。

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