警察が偽造品販売の捜査を開始した場合に商標権者として注意することは

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 警察が偽造品販売について商標権侵害罪の捜査を開始した場合、どのような点に注意をする必要がありますか。

 警察が捜査を開始した場合には、警察から要請を受けて、捜索差押の立ち合い、真贋鑑定、被害者としての事情聴取を受けるほか、警察からの必要書類の作成・提出要請、情報照会に対し迅速に対応する必要があります。
 この際に、権利者調書や真贋鑑定書に記載される内容は、裁判の際に提出される証拠として後日偽造品業者の目に触れるため、重要な真正品の仕様等、将来の偽造品対応に支障を与えかねない情報を記載しないよう注意する必要があります。
 また、警察による捜査・公判中は、警察に事前に連絡・相談することなく、偽造品業者に対する連絡、和解交渉、訴訟提起等の対応を行うことは避けた方がよいでしょう。

解説

目次

  1. 警察の強制捜査の方法
  2. 商標権者の捜査への関与
  3. 警察から必要書類の作成・提出要請、情報照会を受けた際の留意点
  4. 真贋鑑定書における真贋ポイント記載の留意点
  5. 捜査・公判中における偽造品業者への対応に関する留意点

警察の強制捜査の方法

 警察は、偽造品業者による偽造品販売の立件を目指した強制捜査の着手を決定すると、裁判所から令状を取得した上で、偽造品業者の逮捕や、偽造品の販売が行われている偽造品業者の店舗、事務所、倉庫等の捜索差押を行うのが通常です。
 商標権者の法務担当者や代理人弁護士は、この警察による捜索差押に立ち会い、捜索差押の現場にある商品が偽造品であるか否かの真贋鑑定をその場で行うことも多く、警察は、この鑑定結果に基づき、偽造品と鑑定された商品の差押えを行います。

 また、捜索差押の現場である偽造品業者の店舗等において、偽造品の販売を行っていることが警察により確認された時点で、偽造品業者のほか偽造品販売の業務に従事している従業員等を、商標権侵害罪で現行犯逮捕するケースも少なくありません。

商標権者の捜査への関与

 商標権者の法務担当者や代理人弁護士は、上記の偽造品の鑑定のほか、警察署において、被害者である商標権者として事情聴取を受け、商標権侵害罪の対象となった登録商標の権利関係、登録商標を付された真正品の種類と流通経路、捜索差押の現場で行った鑑定の方法・結果、法務担当者・代理人弁護士の鑑定能力・経験等の陳述が記載された供述調書(いわゆる権利者調書)が警察官により作成されます。

 また、警察から捜査事項照会を受けて、商標権者はこれに回答する形で、警察が差し押さえた偽造品業者の商品が偽造品であることを証明するための真贋鑑定書を作成し提出します。真贋鑑定書には、偽造品であるとの鑑定結果の根拠として、偽造品と真正品の仕様の相違点を記載し、必要な場合は写真等でその仕様の相違点を示します。この真贋ポイントを真贋鑑定書に記載する際の留意点については後述します。

警察から必要書類の作成・提出要請、情報照会を受けた際の留意点

 警察官は、偽造品販売について商標権侵害罪で偽造品業者を逮捕した場合、逮捕時から48時間以内に検察への送致手続を行い、検察官は、警察から送致を受けた時から24時間以内に、逮捕された偽造品業者について、裁判所に勾留請求を行いまたは起訴を行う法的義務があります(刑事訴訟法203条1項、205条1項、2項)。
 裁判所が勾留を決定した場合には、検察官は、勾留請求日から10日以内(勾留延長がされた場合には20日以内)に、逮捕した偽造品業者を起訴するか、起訴をしない場合には釈放しなければなりません(刑事訴訟法208条)。

 そのため、警察・検察は、逮捕した偽造品業者を商標権侵害罪で起訴するには、この法定期間内に、偽造品業者について商標権侵害罪で起訴するために必要な証拠を揃えなければならず、商標権者の法務担当者・代理人弁護士は、権利者調書作成のための事情聴取を受けるほか、警察から要請を受けた真贋鑑定書、委任状等の必要書類を迅速に作成し、警察に提出する必要があります

 また、捜査や起訴の準備手続を遅延させないよう、警察からの都度の問い合わせに対しても商標権者の法務担当者・代理人弁護士は迅速に回答を行う必要があります。特に商標権者が海外の会社である場合は、これらの必要書類の内容確認、警察の問い合わせ等に対し、遅滞なく確認・承諾をもらえるように、海外にいる法務責任者等との間で、案件内容、日本の捜査・起訴手続の概略、商標権者側で作成すべき必要書類の種類・内容について、事前に説明、打ち合わせ等の準備を行っておく必要があります。

法定期間内に起訴できるよう、書類の作成・提出、問い合わせに対応する必要がある

真贋鑑定書における真贋ポイント記載の留意点

 商標権者の法務担当者・代理人弁護士の権利者調書や真贋鑑定書は、後日の商標権侵害罪の裁判において検察官から証拠として提出され、被告人である偽造品業者も、その内容を目にします。そのため、権利者調書や真贋鑑定書に記載された内容・情報が、後日他の偽造品業者にも伝達される危険があります。
 したがって、この権利者調書や真贋鑑定書の作成にあたっては、その内容が偽造品業者やその他の第三者の目に触れることを意識しつつ、将来の偽造品販売に対する商標権者の対応に支障を来すことがないよう、その記載内容に注意を払う必要があります
 特に、真贋鑑定書の真贋ポイントとなる偽造品と真正品との仕様の相違点については、誰の目からも外観上容易に視認可能な仕様の相違点(例えば、デザイン自体の相違、素材、材質等の相違、縫製のほつれの有無、等)に極力限定し、精巧な偽造品を鑑定する場合の真贋ポイントとなる重要な真正品の仕様を、権利者調書や真贋鑑定書に記載しないよう注意を要します。

捜査・公判中における偽造品業者への対応に関する留意点

 警察への相談以降、警察による捜査中、起訴後も含め、警察に事前に連絡、相談することなく、商標権者のみの都合で、被疑者・被告人である偽造品業者やその関係者に対し、連絡をとったり、和解交渉を行ったり、訴訟提起等の民事上の法的措置を講じることは、警察・検察が行っている捜査・起訴準備・公判に支障を与えたり、警察・検察による捜査・立件の意欲を失わせるおそれがあり、また、将来の商標権侵害について警察から協力を得にくくなりかねません。
 したがって、少なくとも警察に何ら事前に連絡・相談することなく、このような行為を行うことは避けた方がよいでしょう。

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