NFTと法
第4回 事例でわかる「リアルアート」と「NFTアート」の法律関係の比較
IT・情報セキュリティ
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目次
「リアルアート」「NFTアート」の創作・流通の法律関係
前回の議論を前提に、Aが「アート」を創作し、AからB、BからCと転々流通する過程における民法、著作権法のデフォルトルールを中心に、リアルアートとNFTアートを対比させながら検討します 1。なお、「NFTアート」については、NFTの提供の技術的な方法によって、問題となる支分権等の分析は異なり得ますが、議論の便宜のために一定程度模式化しています。
Aによる「アート」の創作
「リアルアート」創作の場合
まず、Aが、絵の具やキャンバス等、材料を自分で調達し、それらを利用して「リアルアート」である絵画を描いた場合、有体物としての絵画の所有権はAに帰属します。A以外の第三者が、絵の具やキャンバスを購入してAに提供し、Aが絵画を描いた場合、有体物としての絵画の所有権は、原則として第三者に帰属し、Aの加工によって価格が著しく超える場合はAに帰属します(民法246条1項)。いずれにしても、「リアルアート」には、「所有権」が発生し、Aとは別に「所有権者」が存在することになります。
他方で、「リアルアート」である絵画の「著作権」や「著作者人格権」は、原則として、創作したAに帰属します。これは、絵の具やキャンバス等の材料が、第三者から提供された場合でも、原則として変わりません 2。Aは、著作権法上の「著作者」になり、同時に「著作権者」になります。「リアルアート」に帰属する著作権の支分権のうち、複製権(法21条)、展示権(法25条)、譲渡権(法26条の2)、翻案権(法27条)が主に問題となります。
「NFTアート」創作の場合
次に、Aが、「NFTアート」作品を創作したとします。すでに述べた通り、NFTは形のある有体物ではなく、民法上の「物」には該当しません。したがって、民法のデフォルトルールでは「NFTアート」には「所有権」は発生せず「所有権者」も存在しません。
他方で、「NFTアート」の「アート部分」が、著作権法で要求される創作性を備えていれば、「著作物」に該当することになり、創作したAが「著作者」として「著作権」や「著作者人格権」を保有することになります。NFTアートでは、著作権の支分権のうち、複製権、翻案権、公衆送信権(法23条)が主に問題となります。
法律上のデフォルトルールでは、リアルアートの創作時点までに、リアルアートに対する権利として「所有権」と「著作権」がそれぞれ別個に発生します。
NFTアートが創作された時点では、「著作権」は発生しますが「所有権」は発生しません。
Aによる「アート」の譲渡
「リアルアート」を譲渡する場合
次に、AがBと「リアルアート」作品の売買契約を締結し、「リアルアート」作品をBに譲渡した場合、「リアルアート」の所有権は、AからBに移転します(民法176条)。
しかし、この場合でも「リアルアート」の所有権と著作権は別個独立の権利であることから、AとBとの間の「リアルアート」の売買契約の中で、著作権もAからBに移転することを規定しない限り、「リアルアート」の著作権は、Bに移転することはなく、著作権者Aに帰属したままです。また、AからBに著作権を譲渡することを規定した場合でも、翻案権(法27条)や二次的著作物を利用する権利(法28条)は、譲渡の対象として特に掲げられていない場合には、譲渡人であるAに留保されるものと推定されます(法61条第2項)。
そうすると、契約で特段の定めがない限り、所有権がB、著作権がAに帰属するという状態が発生します。
「NFTアート」を譲渡する場合
次に、AがBとの間で「NFTアート」作品の売買契約を締結した場合を考えます。これまで見てきた通り、NFTは、有体物ではないため、「所有権」は発生しません。したがって、AからBへの「NFTアート」の譲渡によって、「所有権」が移転することはありません。
他方で、著作権についても「リアルアート」同様、別途合意がない限り、著作権は著作権者Aに留保されます。「NFTアート」であっても、この点は「リアルアート」と何ら変わりありません。すなわち、「NFTアート」自体の譲渡と著作権の譲渡は連動しないことに注意が必要です。
法律上のデフォルトルールでは、リアルアートの譲渡によって、リアルアートの「所有権」が譲渡されたとしても、当然には「著作権」は譲渡されません。
「NFTアート」が譲渡された場合でも、当然にはNFTアートの「著作権」は譲渡されません。いずれも、当事者間の契約次第で、譲渡するかどうかが決まることになります。
譲受人Bによる「アート」の利用
「リアルアート」を利用する場合
まず、Bは、「リアルアート」の所有権を取得した結果、当該「リアルアート」作品の所有者として、「リアルアート」の使用、収益、処分を基本的に自由に行えることになります(民法206条)。また、この権利を誰に対しても主張することができます。
「リアルアート」の典型的な利用方法としては、「リアルアート」を自分で鑑賞したり、自分以外の誰かに鑑賞させたりすること、すなわち「リアルアート」の表現を享受する(あるいは第三者に享受させる)ことが想定されます。また、「リアルアート」を第三者に譲渡するなどして処分し、経済的対価を得るという利用方法も考えられます。
しかし、Aに著作権が残ったままである場合、Bの「リアルアート」作品の利用について、Aの複製権、翻案権、展示権、譲渡権等の著作権が及びます。たとえば、美術の著作物や未発行の写真の著作物を、これらの原作品(すなわち、オリジナル)によって公に展示することは、著作権者の展示権の対象として、著作権者の利用許諾が必要となります(法25条)。すなわち、Bは、「リアルアート」の所有権を持っていても、Aの著作権に抵触する利用はできないことになります。
もっとも、所有権は本来、その対象となる物を自由に利用できる権利であるため、著作権法は、一定の範囲で所有権者と著作権者との利害の調整を図っています。展示権については、美術の著作物や写真の著作物の原作品の所有者またはその同意を得た者は、著作権者の同意を得ることなく、その原作品を公に展示することができます(法45条1項)。すなわち、所有権者Bは、仮に著作者Aから著作権を譲り受けたり、Aから利用許諾を取得したりしていないとしても、「リアルアート」作品を展示することができます。
また、「リアルアート」作品を展示するにあたって、著作権者の利益を不当に害さない限り、「リアルアート」作品を解説もしくは紹介する小冊子に「リアルアート」作品を複製したりすることもできます(法47条)。
「NFTアート」を利用する場合
まず、これまで繰り返し述べてきた通り、NFTには「所有権」が発生しません。したがって、BがAから譲り受けた「NFTアート」作品をどのように利用できるかは、基本的には、著作者Aの著作権を踏まえて、関係当事者間の取り決めに従うことになります。
この点、「NFTアート」も「リアルアート」と同様に「アート」である以上、Bは自分で鑑賞したり、自分以外の誰かに鑑賞させたりする方法で利用することが考えられます。すなわち、「NFTアート」の表現を享受する(あるいは第三者に享受させる)ことが、「NFTアート」の利用方法として想定されます。
また、将来的には「リアルアート」と同じように「NFTアート」をさらに第三者に譲渡することが考えられ、その場合には、譲渡先でも同様に「NFTアート」を享受し、享受させるという方法で利用することが想定されます。「NFTアート」では「サブライセンス権付きのNFTアートへのアクセス権」とでもいうべき利用方法が想定されていると考えられます。
他方で、著作者Aの著作権については、まず、著作物である「NFTアート」がインターネットを通じて送信される(あるいは送信可能な)状態となります。著作権法上の「公衆」は、特定・多数を含み(法2条5項)、公衆送信には、「送信可能化」(いわゆる「アップロード」の状態)も含みます(法23条1項)。したがって、著作者Aの公衆送信権は「NFTアート」にも及ぶことになると考えられます。また、「NFTアート」を、Tシャツなどに複製することについても、「リアルアート」と同様に、著作者Aの複製権の対象となると考えられます。他方で、展示権は、あくまで有体物である「原作品」によって公衆に提示する権利であるため、「NFTアート」に及ぶことはありません。
そうすると、「NFTアート」の著作権を保有する著作権Aの利害と、「NFTアート」を「保有」するB、あるいは将来「NFTアート」を譲り受ける可能性のあるC、Dの利害を調整する取り決めを関係当事者間で行う必要があると考えられます。
「リアルアート」の利用については、著作権と所有権とを調整する規定が、著作権法のデフォルトルールとして存在します。
「NFTアート」の利用については、「NFT」には「所有権」が存在しない一方で「NFTアート」には著作権が及ぶと考えられるため、「NFTアート」の保有者の利害と「NFTアート」の著作権者の利害との調整を関係当事者間で取り決める必要があります。
BからCへの「アート」の再譲渡
リアルアートの場合
まず、BからCに「リアルアート」の所有権が移転します。この場合、Cは、著作権Aの著作権に抵触しない限り「リアルアート」をあらゆる方法で利用することができます。
他方で、著作権についてみると、著作物の原作品または複製物の譲渡には、譲渡権が及びます(法26条の2)3。BからCへの「リアルアート」の譲渡には、著作者Aの許諾が必要になります。
ただし、著作者Aが「リアルアート」をBに適法に譲渡した場合にBからCへの再譲渡、CからDへの再々譲渡にまで譲渡権を及ぼすのは、「リアルアート」作品の流通を阻害してしまいます。そこで、著作権法は、譲渡権の例外を設け、著作権者(あるいは著作権者から許諾を得た者)からいったん適法に譲渡された著作物の原作品または複製物等の一定の場合は、以後の再譲渡、再々譲渡には譲渡権は及ばないとされています(「消尽」といいます。法26条の2第2項)。
ここでも、著作権法は、一定の範囲で所有権者と著作権者との利害の調整を図っています。ここでは、所有権の絶対性や最初の譲渡によって対価を回収する機会があったことや、流通を阻害しないようにとの配慮が根拠となっています。他方で、すでに述べた通り、BからCへの再譲渡、CからDへの再々譲渡の過程で「リアルアート」の価値が認められ、取引価格が高騰したとしても、日本の著作権法では「追及権」が認められていないため、Aは利益分配を受けることはできません。
NFTアートの場合
次に「NFTアート」を再譲渡する場合も、「NFT」が所有権の対象とならない以上、BからCに何が譲渡されるか、Cが「NFTアート」をどのように利用できるかは、著作権者Aの著作権を踏まえて、関係当事者が取り決めをすることになります。
そこで、著作権についてみると、まず、譲渡権は、著作物の「原作品または複製物」、すなわち有体物にしか及ばないため、無体物である「NFTアート」の譲渡には譲渡権は働きません。また、複製権は、BがCに「NFTアート」を譲渡した場合、「NFTアート」にアクセスできる主体がBからCに代わったにすぎず、「NFTアート」は「複製」されていないと考えられます。他方で、「NFTアート」が、インターネット上で一般にアクセス可能な状態である場合には、著作権者の公衆送信権の対象となると考えられます。
そうすると、「NFTアート」の再譲渡の場合には、「リアルアート」と異なり、再譲渡自体については著作権者Aの著作権が及ばないものの、公衆送信権を保有する著作権者Aの利害と「リアルアート」を保有するCや将来譲り受ける可能性のあるDとの利害を調整することが必要となると考えられます。
「リアルアート」の再譲渡についても、著作権と所有権を調整する規定が、著作権法のデフォルトルールとして存在します。
「NFTアート」の再譲渡については、「NFTアート」の利用と同様に、「「NFTアート」の保有者や再譲渡を受ける者の利害とNFTアート」の著作権者の利害との調整を関係当事者間で取り決める必要があります。
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