法律の枠を超える「知識創造」コンプライアンス

第2回 SDGsと連携すれば、コンプライアンスはもっと「楽しくてかっこいい」ものになる

危機管理・内部統制

目次

  1. 『北風と太陽』のコンプライアンス
  2. SDGsの活動とコンプライアンスをリンクさせることで全社へ展開できる
  3. 「楽しいコンプライアンス」が当たり前の世界へ

法律の枠を超えてコンプライアンスについて語り合う場が「Re:houmu」です。

前回は発起人の大西 徳昭さん、三浦 悠佑さん、同会のメンバーである徳永 麻子さん、戸田 真理子さん、野口 あゆみさんに『「超」入門 失敗の本質』を題材とした「Re:houmu」の活動を振り返ってもらいました。

今回は「幸せな職場」「SDGs」をキーワードに、コンプライアンスが企業に浸透していく可能性を探ります。

参加者のプロフィール

大西 徳昭さん
Big West Brothers 合同会社代表コンサルタント。主要事業領域はコンプライアンスとグローバル人材の育成。大手国際海運企業勤務時代から通算36年間、38か国でビジネスを展開中。時代の変化に適合しない事柄に創造的破壊を起こし、新しい価値提供を行うことがモットー。

三浦 悠佑さん
渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 パートナー弁護士。大学時代は阿久津 聡教授のゼミに所属し、マーケティングを学ぶ。法律事務所から出向した際に大西さんの部下として働き、以来セミナーを共同して企画、開催している。

徳永 麻子さん
株式会社ロマーシュCEO、一橋ビジネススクール 阿久津研究室。大学時代はブランド論を専攻、三浦弁護士と同じ阿久津 聡教授ゼミ出身。外資系企業でのブランドマーケティングを経て現職。アカデミアとビジネスをつなぐハブとして、研究知見の企業実践を支援する。

戸田 真理子さん
清州橋法律事務所 弁護士。ファンド会社のゼネラルカウンセル兼コンプライアンスオフィサー。新卒で国内メーカーの人事部に配属。相次ぐ不祥事と関連する労務問題を経験し、インハウスロイヤーとしてのキャリアを歩むことを決意。過去4社で企業法務全般について幅広く経験。コンプライアンスにおいては、特に、労務問題、ハラスメントに関する案件対応の経験を豊富に有する。

野口 あゆみさん
メーカーで技術開発を担当、トラブルのメカニズムを研究している。プライベートでグラフィックレコーディング(グラレコ)に出会い、Re:houmuでも議論内容をビジュアルにまとめ、コンプライアンスに親しみを持つことができると評判。今回の座談会もグラレコを担当。

『北風と太陽』のコンプライアンス

大西さん:
最近、心して『北風と太陽』のメタファー表現を使っています。自分で言いだしていうのもなんですが、「言い得て妙」だなと。(笑)

今までのコンプライアンスは法律やルール、そしてリスクを喧伝したうえで、守らなかった場合の罰則・懲戒処分や悲惨物語を示す、いわば「北風」のアプローチでした。ほぼ100%、これですね。

もちろん、「北風」はコンプライアンス活動において不可欠です。でも、それだけではうまくいかないと最近強く思うのです。ネガティブな話をてんこ盛りにして、これでもか、と押し付けても、コンプライアンス活動において一番大切な「ジブンゴト」、自分にとって必要な事だという気付きを得るには限界がある気がしています。人はネガティブなことには進んで近寄ろうとはしないからです。

もっとポジティブなアプローチ、「太陽」作戦を取り入れてバランスを取ってもいいのではないかと考え、それを集中的に広めています。

具体例を1つお話します。

最近、セミナーで「太陽アプローチワークショップ」というのをやってます。そこでは、まず「幸せな職場ってどういう職場だと思いますか?」「幸せな職場をつくるために、コンプライアンスはどうやって貢献できる・するべきだと思いますか?」と参加者の方に聞いています。法律の話をまったくしないコンプラセミナーです。(笑)

コンプライアンスリスクフリー、ハラスメント問題フリーの幸せな職場を作るために、何が必要か質問し、考えていくと議論が前向きになります。特に若い皆さんから「ジブンには関係ないと思っていたコンプライアンスがジブンゴトになりました」と感想を多くもらっています。

大西 徳昭さん

大西 徳昭さん

ルールを伝えていくのではなく、幸せな職場にするために必要なことを議論するのですね。

大西さん:
そうです。これはSDGsの話に収斂します。「幸せな職場」でなければ持続可能なんてありえない。企業は利益を得るのと同等に、決してきれいごとではなく、公器として社会に存在するための理由が必要です。ESG経営を求められる現在、実は利益の極大化にも間違いなく寄与するのです。

若い世代の価値観は本音のベースで日々、そして相当程度変化しています。企業は持続可能な組織体であり続けたいのであればその変化に敏感である必要があります。たとえば人事部門の最重要課題の1つ、人材のリテンションですね。優秀な人材の離職は企業にとっては大きなロスですが、お金やポジションを与えることのみでは防げません。彼らの価値観に適合しそれを満たす「幸せな職場」を提供しないと残ってもらえないのです。

コンプライアンス活動は企業の最重要経営戦略であるSDGs活動と密接に連携し、それを強力にサポートすべきです。部門間の垣根を軽々と飛び越えて、人事や経営企画等の部門と連帯し企業を面で動かすべきです。コンプライアンス活動は経営戦略なのです。

「幸せな職場」を生む、太陽アプローチ。コンプライアンスの界隈ではかなり珍しい切り口なので多くの企業の皆さんからお問い合わせを多数頂いています。面白いのはコンプライアンス部門だけでなく、人事や経営企画、SDGs推進部門の方も興味を持ってくれています。まさに「コンプライアンスは経営」ですね。

戸田さん:
コンプライアンスは自分の人生、自分の家族のためのものです。様々な企業で不祥事を見てきて、そう思います。

「やってはいけない」行為を定めると、事業部の方からは「この場合はどうなんですか?」と例外を探すような質問が出てきてしまいます。

相手を幸せにするためにできることは何か、という根本的な話をすれば主体性をもって行動が変わります。

三浦さん:
普通に考えれば、誰だってブラックな職場では働きたくないですよね。

コンプライアンスが実現すべきことはシンプルで、自分のやっている仕事が人の役に立ち、堂々と胸を張って、誇りをもって仕事ができる世界を作ることです。

大西さん:
海外で長く仕事をしていて思うのは、基本的に日本・日本人は「善き人でありたい」という気持ちがすごく強い、性善説の文化がベースです。「性悪説」をベースにし、契約で縛る、という文化を持つ国が海外では少なくないなか、とても特徴的です。

「どうしたら良くなる?」と問いかける方が実は日本人には向いています。

逆に「〜をしてはダメ」という伝え方をし過ぎると、受け手は必要以上に身構えて、かえってジブンゴトにする機会を逸失してしまいます。

私が「太陽」のバランスをつくるべきだと結論付ける理由です。この考えに共感してくれる人が増えれば、企業のコンプライアンス活動もぐっと変わるんじゃないかな、と思います。

グラレコ

座談会の当日に野口さんが描いたグラフィックレコーディング

個人的にも共感できる、理想的な世界だと思います。一方で、『失敗の本質』でもあげられているように、集団の空気に染まってしまうと「幸せな職場」のことを考えられなくなる場面もあると感じます。

大西さん:
難しいですよね。綺麗事だけでは収まらない場面も、もちろんあります。

人は弱い生き物です。長いものには巻かれやすい。皆さんご理解の通り、同調圧力を時にとても強く受けやすい文化風土もこの国には厳然として存在します。

だから「北風と太陽」のミクスチャーが必要で、その配分は企業が置かれた状況、風土、そして経営者の考え方次第で変わります。会社の理念、経営者が会社を進めようとしている方向によって決まるのだと思います。

戸田さん:
不祥事が起きた部署であれば、問題の原因を部署内で話し合い、自分たちがやりたいことや利益向上と、コンプライアンス上最善の行動とを結びつけて、どう実現できるのかアイデアを出してもらうと良いと思います。部署全体の意識や行動改善を図っていく自浄作用は非常に大事です。

たとえば、ハラスメント問題の裏側には労働環境、業務プロセス、サプライチェーンとの関係性といった本質的な問題が隠れていることがあります。

この本質的な問題を改善すると、部署の業務効率が上がって、利益に繋がることもあります。

一方で、問題を起こした当事者の話だけを聞いて対応していると、本質的な問題にはたどりつけませんし、かえって部署の空気がギクシャクしてしまいます。

 戸田 真理子さん

戸田 真理子さん

三浦さん:
Re:houmuでも、「不祥事を起こした部署のトイレが老朽化していて臭いが酷かった」という発表をされた方がいました。職場環境を改善しない会社に対する不信感が不祥事の根っこにある、と感じたそうです。

不祥事の原因を分析したレポートを見ると「企業風土」で片づけがちです。

しかし、もっと掘り下げて現場の一人ひとりに話を聞かないと、本社にいる管理部門の人が職場の雰囲気を知ることはできません。

雰囲気の悪い職場環境で働いている人の気持ちに思いを馳せて、本当の原因につながる情報を聞き出すことが大事です。

大西さん:
社員の働く環境のひずみが不祥事の原因だった場合、法律をもとに社内ルールを作っても解決しませんよね。分厚いマニュアルを作っても、誰も見ないでしょう。

不祥事が起きるのは、そこに起きる理由があるのです。

繰り返しになりますが、コンプライアンスは経営の写し鏡なのです。経営の失敗とその失敗が生み出す様々なひずみが、深い水面下にいつしか大きな負の連鎖の塊を作り、一部分が水面上に露出しコンプライアンス上の問題となり、不祥事として発覚します。不祥事は経営不全が作り出す負の連鎖の氷山の一角に過ぎないのです。

第三者委員会の報告書を読むと、不祥事を起こした役員・社員の「倫理観の欠如」が原因と指摘しているものを多く見ます。が、まさにこれこそ木を見て森を見ず、だと私は思います。

「本気で言っているのか?」と。

不祥事を起こした大概の人達は真っ当な倫理観を持っていますよ。その倫理観をもってしても不祥事に手を染めざるを得なかった厳然たる理由があるのです。その理由を突き止めなければ不祥事は必ず再発します。

三浦さん:
小さい頃、学校の先生と「やって良いことか、良くないことかわかる?」と言われて「やっちゃいけないことです」「じゃあ、なんでやったんだ?」というやりとりをしたことありませんか? これとまったく同じことを大人の世界でやっているわけです。

三浦 悠佑さん

三浦 悠佑さん

SDGsの活動とコンプライアンスをリンクさせることで全社へ展開できる

「幸せな職場を作ろう」という活動を全社へ展開していくにはどうすれば良いでしょうか。

大西さん:
繰り返しになりますが、会社も経営者も経営戦略としてすでにコミットしている・コミットせざるを得ないSDGsの活動への合流がオススメです。

コンプライアンス担当の方は、自分たちの取り組みを多部署も含めて巻き込んでいく「横展開」が苦手な人が意外に多いというのが私の理解なのですが、SDGs運動への合流はこの弱点を解決するテコになります。

三浦さん:
SDGsに明記されている169のターゲットの中の、「働きがい」(4.4、8.5)にコンプライアンスの活動をリンクさせることで、経営や人事に「SDGsの活動をしている」と説明できます。

大西さん:
マーケティング部門とコンプライアンス部門が連携できる可能性もあるね。まさにブランドクリエーションだな。

三浦さん:
そうですよね。マーケティング部門が自社のSDGsに関する活動を発信するときに、コンプライアンス部門の取り組みを加えることも考えられます。

「マーケティング部門と連携してコンプライアンスの取り組みを発信したら、お客様の反応が●%ポジティブに変化した」という情報を経営に伝えられれば、社内におけるコンプライアンス活動の説得力は格段に上がるはずです。

徳永さん:
企業ブランディングにSDGsを絡める形で全社的にSDGsに取り組めば、コンプライアンスといろいろな事業部が合流するポイントが多くありそうです。

徳永 麻子さん

徳永 麻子さん

三浦さん:
コンプライアンスの問題には、経営上の要素が詰まっています。複雑な機械を様々な工具を使って分解するような作業をしなければ改善できません。

でも、コンプライアンス部門が持っている問題を解決する工具は法律しかありません。他に必要な道具は事業部や他の部署から集めてこなければなりません。

会社がSDGsの方針を掲げているなら、その方針を利用して事業部にお願いして力を借りましょう。

難しい経営上の問題を法律だけで解決しようとするからおかしくなる。ネジ山が潰れているのに無理矢理ドライバーで分解しているようなものです。

「楽しいコンプライアンス」が当たり前の世界へ

徳永さん:
この座談会はRe:houmuのディスカッションを追体験するような時間でした。私のように途中から参加した人や、コンプライアンスとは違う分野の人でも共感できる部分がたくさんあります。異なる分野の人がどんどんRe:houmuに入って広がってほしいですね。

野口さん:
「幸せな職場にするためにどうしたら良い?」と様々な立場から議論できるプロジェクト、純粋にワクワクしました。こういう取り組みが当たり前になれば嬉しいです。

野口 あゆみさん

野口 あゆみさん

三浦さん:
いろいろな人たちが知恵を出し合うと、思った以上にすごいことができる。繋がったらもっとすごいことができるのではないか、という希望が持てます。

大西さん:
コンプライアンスがチームを束ねるポジティブな力になってほしいね。日本人は本来チームワークが得意な民族です。まとまれば強くなる。これは日本人の世界に誇る強味。世界中でビジネスをやってきた私は断言できます。

コンプライアンス活動が楽しくなりそうですね。

三浦さん:
「楽しく」「かっこよく」ですね。かっこいいって思われたいじゃないですか(笑)。

大西さん:
幸せなこと・楽しいことに人は集まりますよ。嫌なことには関わりたくないでしょう?(笑)

ほら吹きとのそしりを受けることを覚悟で言いますが、僕たちは本気で今の企業コンプライアンスの現状を変えたいと思っています。でも1人ではできない。だから、志を同じにする仲間を増やしたいのです。この仲間で社会を変えたら、10年後くらいに「楽しいコンプライアンスが当たり前」と皆が言えるようになるかもしれません。そうなったら日本社会はすごく良くなるんじゃないかな。

三浦さん:
「かっこいいからコンプライアンスをやりたい」という人が増えてほしいですよね。

戸田さん:
コンプライアンス担当で辛い思いをしている方がいれば、ぜひRe:houmuに参加いただいて議論に加わってほしいです。

大西さん:
コンプライアンスを担当される方は誠実で正義感の強い人が多いよね。でも、今は戦うのに必要十分な武器と弾薬を持たずに戦場に行かされているのではと思います。力尽き、バーンアウトしている人達も大勢いると思います。私たちのセミナーにもそんな迷宮の中で方向性を失った方々が大勢参加してくれています。

今はまだささやかな取り組みですが、「会社を良くしたい」「より良い社会の実現をコンプライアンスの切り口から試みたい」「自分の仕事に誇りをもって進みたい」。法務コンプライアンスセクションに限らず、人事・経営企画・広報・事業サイドも含めて、そんな志を持っている方々と連帯し、大きな社会変革のうねりを是非創りたいと考えています。まさに創造的破壊の実践です。

少しでもRe:houmuに興味を持った方はぜひお気軽にお問い合わせください。一緒に未来を創りましょう!

グラレコ

(写真:弘田 充、取材・編集:BUSINESS LAWYERS 編集部)

Re:houmuに興味を持った方は

音声プラットフォームVoicyで大西さんがパーソナリティを務める 「それでも地球は回ってる」 という番組で、コンプライアンス・ビジネスパーソンのスキルアップに大いに役立つグローバル系ネタ(ビジネス英語・プレゼン・異文化対応等)や時事ネタ等を毎日絶賛配信中です。

今回の座談会に参加された三浦さんや戸田さんの”弁護士トーク”は一聴の価値ありです。

この対談も番組で取り上げる予定ですので、ご期待ください。

Re:houmu のお問い合わせ先:事務局 石原様(contact@bwbcs.co.jp)
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