障害者差別解消法が施行、事業者に求められることとは?

コーポレート・M&A

目次

  1. 障害者差別解消法の基本的な考え方
  2. 事業者に求められる不当な差別的取扱いの禁止と合理的な配慮の提供
    1. 「不当な差別的取扱い」と「合理的配慮の提供」とは
    2. 基本となる考え方
  3. 事業者における相談体制の整備、従業員に対する研修・啓発
  4. おわりに

 障害者差別解消法(正式名称は、「障害を理由とする差別の解消に関する法律」)という法律が、本年(平成28年)4月1日から施行されていることをご存じでしょうか?
 この法律は、障害者基本法が定める、障害を理由とする差別の禁止という基本原則を具体化するものとして平成25年に制定されたものであり、その目的は「全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資すること」とされています(障害者差別解消法1条)。
 そして、国民はその責務として、上記のような社会を実現する上で障害を理由とする差別の解消が重要であることに鑑み、その推進に寄与するよう努めなければならないとされているのです(同法4条)。

 このような、障害者を包容するインクルーシブな社会の実現を目的とする法律の施行後間もない、去る7月26日、相模原市の障害者福祉施設において多くの入所者の方々が殺傷されるという大変痛ましい事件が発生しました。事件の被疑者においては、上記のような障害者差別解消法の目的を真っ向から否定するような発言がなされていたとの報道もあり、社会に衝撃が広がっています。

 本稿では、上記のような目的を持つ障害者差別解消法の概要について、特に同法により事業者に求められる事項を中心に、解説いたします。

障害者差別解消法の基本的な考え方

 政府は、平成27年2月、障害者差別解消法6条1項に基づき、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」を閣議決定しています。

 基本方針では、障害者差別解消法の基本的な考え方が示されています。その中では、まず、上記のような障害者を包容するインクルーシブな社会の実現のためには、日常生活や社会生活における障害者の活動を制限し、社会への参加を制約している「社会的障壁」を取り除くことが重要であるとの認識が示されています。

 「社会的障壁」とは、「障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう」とされています(同法2条2号)。つまり、障害者を取り巻く社会環境すべてが、障害者が生活していく上での妨げとなり得ると理解されているのです。

 こうした認識・理解を踏まえ、障害者差別解消法は、障害者に対する不当な差別的取扱い及び合理的配慮の不提供を差別と規定し、まず行政機関等や事業者に対して、差別の解消に向けた具体的取組を求めています。加えて、国や自治体による普及啓発活動を通じて、障害者を含む国民一人一人がそれぞれの立場において自発的に取り組むことを促すものとされています。

事業者に求められる不当な差別的取扱いの禁止と合理的な配慮の提供

 障害者差別解消法において中心となるのは、以下の2点です。

①事業を行うに当たって、障害を理由とする不当な差別的取扱いをすることの禁止
②社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするよう努めること

 同法は事業者に対して①については法的義務、②については努力義務を課しています(同法8条)。では、具体的にどのような対応が「不当な差別的取扱い」や「合理的配慮の提供」に当たるのでしょうか?

「不当な差別的取扱い」と「合理的配慮の提供」とは

 この点に関しては、事業者の主務大臣が上記①②に関して示した、関係府省庁所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針(以下「対応指針」といいます)が参考になります。

 銀行や保険会社等の金融機関については金融庁、学校や教室等であれば文部科学省、鉄道や旅行等であれば国土交通省、というように、各事業を所管する省庁が策定する対応指針において「不当な差別的取扱い」や「合理的配慮の提供」の具体例が示されているのです。

差別的取扱いの具体例

「国土交通省所管事業における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針」では、別紙において業種ごとに差別的取扱いの具体例があげられています。例えば、鉄道事業関係に関しては次の内容が挙げられています。

  • 障害があることのみをもって、乗車を拒否する。

  • 障害があることのみをもって、乗車できる場所や時間帯を制限し、又は障害者でない者に対して付さない条件をつける。

  • 身体障害者補助犬法に基づく盲導犬、聴導犬、介助犬の帯同を理由として乗車を拒否する。

差別的取扱いにあたらない具体例

 一方で、同指針は、次のような場合は、「障害を理由としない、又は、正当な理由があるため、不当な差別的取扱いにあたらないと考えられる事例」としています。

  • 合理的配慮を提供等するために必要な範囲で、プライバシーに配慮しつつ、障害者に障害の状況等を確認する。

  • 車いす等を使用して列車に乗車する場合、段差が存在し、係員が補助を行っても上下移動が困難等の理由により、利用可能駅・利用可能列車・利用可能時間等の必要最小限の利用条件を示す。

  • 車いす等を使用して列車に乗車する場合、段差にスロープ板を渡す等、乗降時の対応にかかる人員の手配や車いす座席の調整等で乗降に時間がかかる。

合理的配慮の具体例

 また、合理的配慮の具体例について、たとえば「金融庁所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針」では、次のようなものがこれに該当するとされています。

〔意思疎通の配慮の具体例(一部抜粋)〕

  • 入店時に声をかけ、障害の状態を踏まえ、希望するサポートを聞き、必要に応じて誘導する。

  • (身体的障害のある顧客に対しては、)書類の開封、受渡し等の対応が困難な場合に、必要なサポートを提供する。

  • (視覚に障害のある顧客に対しては、)窓口まで誘導し、商品の内容を分かりやすい言葉で丁寧に説明を行う。また、顧客の要請がある場合は、取引関係書類について代読して確認する。

  • (聴覚に障害のある顧客に対しては、)パンフレット等の資料を用いて説明し、筆談を交えて要望等の聞き取りや確認を行う。

  • (盲ろう者に対しては、)本人が希望する場合、障害の程度に応じて、手のひら書き等によりコミュニケーションを行う。

  • (吃音症等の発話に障害のある顧客に対しては、)障害特性を理解した上で、顧客が言い終えるまでゆっくりと待つ、発話以外のコミュニケーション方法も選択できるようにする。

基本となる考え方

 対応指針が示している具体例は単なる例示であり、不当な差別的取扱いや合理的配慮に該当する類型がこれらに限られるものではありませんが、これらの内容から感じられることは、「相手の立場・気持ちに配慮して対応すること」が基本となるということではないでしょうか。

 インクルーシブな社会の実現の基盤には、「他者理解」があると考えます。障害の態様も千差万別である中で、実際にそのような立場に置かれたことの無い人にとっては、障害者がどのような環境に置かれており、日常的にどのような配慮を必要としているのかについて想像が及ばないこともあると思いますが、上記のような具体例や啓発活動を通じて、障害に関する理解を深めていくことが必要です。

 内閣府は、どのような合理的配慮の形があり得るかについて、障害の種別や生活の場面から検索することができる合理的配慮サーチを公表しており、「他者理解」を深めるために有用なデータベースとして活用されることが望まれます。

事業者における相談体制の整備、従業員に対する研修・啓発

 各省庁が策定している対応指針では、障害者における「社会的障壁」を取り除くために、各事業者において相談体制を整備することや、従業員に対する研修・啓発を実施することを求めています。

 相談体制としては、既存の顧客相談窓口を活用することも可能ですが、相談の実効性を確保するためにも、障害者からの相談対応等に必要な研修を受けた従業員が配置されることが望ましいといえます。

 このような体制を確保するためにも、また上記に述べた「他者理解」を促進するためにも、従業員に対して継続的な研修を実施することは重要です。今後、国や自治体による啓発活動が更に進んでいくことは期待されるところですが、民間における自発的な取組としてこのような対応が取られることは、障害者差別解消法が期待するところであると考えられます。

 なお、障害者差別解消法では、事業者の主務大臣は、特に必要があると認めるときは、対応指針に定める事項について、事業者に対して報告を求めること等ができるとされており(同法12条)、 事業者が報告をしない場合、又は虚偽の報告をした場合には過料が科せられることとなっています(同法26条)。

おわりに

 2020年には、東京でパラリンピックが開催されることが決定しています。開催に向けて注目が高まっていくことが予想されますし、開催に合わせて出場選手が多数来日することとなるでしょう。このような大きなイベントにより、真に、障害者を包容する社会となっているかが問われることとなると思われます。

 もちろん、このようなイベントの開催を契機とするまでもなく、インクルーシブな社会の実現に向けた取組みは、各事業者が意識して対応する必要がある社会的課題です。障害者差別解消法の目的規定を念頭に置いた取組みが求められます。

(目的)
第一条
この法律は、障害者基本法(昭和四十五年法律第八十四号)の基本的な理念にのっとり、全ての障害者が、障害者でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有することを踏まえ、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本的な事項、行政機関等及び事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置等を定めることにより、障害を理由とする差別の解消を推進し、もって全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを目的とする。

この特集を見ている人はこちらも見ています

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

1分で登録完了

無料で会員登録する