保険商品の販売勧誘に関する最新動向 「コミッションバイアス」、「フィデューシャリー・デューティー」を踏まえた特定保険契約の代理店手数料の自主的開示とは

ファイナンス

目次

  1. 「コミッションバイアス」とは
  2. 改正保険業法と「コミッションバイアス」
    1. 改正保険業法の規制内容
    2. 保険業法の規制と「コミッションバイアス」の関係
  3. 手数料開示義務について
  4. 銀行における特定保険契約の代理店手数料の自主的開示
    1. 手数料の自主的開示の流れ
    2. 投資信託販売との関係
    3. フィデューシャリー・デューティー

 保険商品の販売勧誘に関し、「コミッションバイアス」の問題や代理店手数料開示の必要性については、従来から議論されてきたものです。これらについて、近時、平成26年の保険業法改正(平成26年5月30日公布、平成28年5月29日に施行)や、金融庁が打ち出している顧客本位の業務運営(フィデューシャリー・デューティー)の考え方が一定の影響を与えることとなっています。
 本稿では、実務的に関心が高いと思われる、この2つのテーマに関する近時の動向等について、解説します。
 まずは「コミッションバイアス」について見てみましょう。

「コミッションバイアス」とは

 複数の保険会社の保険商品を取り扱う保険代理店のことを、乗合代理店といいます。
 乗合代理店が、自らに支払われる代理店手数料の多い保険会社の保険商品を、顧客のニーズに必ずしも合わないにもかかわらず選別・販売する行為に対する問題意識(「コミッションバイアス」という語で表現されてきました)は、相当以前より指摘されてきました。

<コミッションバイアスのイメージ>

 この点、平成26年改正保険業法に関する金融審議会「保険商品・サービスの提供等の在り方に関するワーキング・グループ」(以下、金融審議会保険WG)報告書においても、「比較販売手法について問題が存在するおそれがある場合などには、必要に応じて、乗合代理店に支払われる手数料の多寡によって商品の比較・推奨のプロセスが歪められていないかについて、当局の検査・監督によって検証を行うことが重要である」(下線筆者)と「コミッションバイアス」にかかる問題意識・モニタリングの必要性が指摘されています。
 加えて、平成26検査事務年度の金融モニタリングレポートにおいても、「保険会社が乗合代理店に支払う募集手数料の設定が保険料収入の獲得を過度に重視したものとなった場合、顧客の意向に沿わない商品の販売につながるおそれがある。」との記載があります。
 このように、現在でも当局は「コミッションバイアス」に注目しており、まさに古くて新しい問題といえます。

改正保険業法と「コミッションバイアス」

改正保険業法の規制内容

 この点、平成26年改正保険業法で導入された、乗合代理店に対する比較推奨規制は(保険業法施行規則227条の2第3項4号)、「コミッションバイアス」防止に相応の効果が期待できる規制です。
 この比較推奨規制について、簡単に説明します。
 比較推奨規制は、複数の所属保険会社の比較可能な同種の保険商品の中から、一定の保険商品を選別・提案する場合に適用される規制です。
 顧客の意向に沿った保険契約を選別」するか否かで規制内容が異なることがポイントで、以下の説明がそれぞれ求められることとなります。

① 「顧客の意向に沿った保険契約を選別」する場合
 取扱保険商品のうち、顧客の意向に沿った比較可能な同種の保険契約の概要、およびその提案の理由(推奨理由)、の各説明を行うこと(保険業法施行規則227条の2第3項4号ロ)

② 「顧客の意向に沿った保険契約を選別」しない場合
 その提案の理由(特定の保険会社との資本関係やその他の事務手続・経営方針上の理由等)を説明すること(保険業法施行規則227条の2第3項4号ハ)

保険業法の規制と「コミッションバイアス」の関係

(1) 「顧客の意向に沿った保険契約を選別」する場合に求められる対応

 この規制と、「コミッションバイアス」との関係について見ます。
 乗合代理店が、①「顧客の意向に沿った保険契約を選別」するを選択する場合に、「コミッションバイアス」が生じると違法となります。「顧客の意向」と関連性のない代理店手数料の多寡という代理店都合で提案保険商品を選別しているからです。
 なぜ違法かというと、この場合、実際には、代理店手数料の多寡という代理店都合で提案保険商品を選別していますので、②「顧客の意向に沿った保険契約を選別」しない場合に該当するのですが、法令上求められる「提案の理由(特定の保険会社との資本関係やその他の事務手続・経営方針上の理由等)」の説明を行っていないためです。

 保険会社向けの総合的な監督指針II -4-2-9においても、「形式的には商品の推奨理由を客観的に説明しているように装いながら、実質的には、例えば保険代理店の受け取る手数料水準の高い商品に誘導するために商品の絞込みや提示・推奨を行うことのないよう留意する。」、「各保険会社間における「公平・中立」を掲げる場合には、商品の絞込みや提示・推奨の基準や理由等として、特定の保険会社との資本関係や手数料の水準その他の事務手続・経営方針などの事情を考慮することのないよう留意する」との監督上の留意点が記載されています。

 いずれにしても、①「顧客の意向に沿った保険契約を選別」することを選択する(コンサルティング販売を標榜する)乗合代理店において、「コミッションバイアス」が生じると、違法となるのです。このような代理店において「コミッションバイアス」が生じることは、顧客に対して明らかにアンフェアで問題視されて然るべきものと思え、平成26年改正保険業法において違法と整理されたことは、意義あることだと思います。

(2) 「顧客の意向に沿った保険契約を選別」しない場合に求められる対応

 一方、②「顧客の意向に沿った保険契約を選別」しないことを選択する乗合代理店については、どのようになるのでしょうか。
 この場合、乗合代理店は代理店都合で商品を選別することを顧客に明示していますので、「コミッションバイアス」が生じても、必ずしも「顧客の意向に沿った保険契約を選別」することを選択した代理店の場合のようにアンフェアとは言えません
 後は、この場合に求められる「特定の保険会社との資本関係やその他の事務手続・経営方針上の理由等」の理由をどこまで具体的に説明すべきか、代理店手数料が多いから選んだというところまで言うべきか、という問題が残るのみです。

 筆者としては、当該理由説明が求められる目的・趣旨は、「自分は、顧客の意向に沿った保険契約を選別する者ではない」という、保険募集人の立場を表示する機能にあるものと理解しています。
 そして、「募集コンプライアンスガイド【追補版】(日本損害保険協会)」22頁に例示される「当店は、□□損保・生保の商品を主に取り扱う経営方針である」程度の説明でも、代理店都合で選んでいることは伝わり「立場表示機能」の効果は発揮されているのではないか、と考えます。
 以上から、個人的には、代理店手数料が多いから選んだとまで言う必要はないように思います。ただし、「平成26年改正保険業法(2年以内施行)に係る政府令・監督指針案」に対するパブリックコメントの結果の回答521番に以下の当局見解が示されていますので(下線筆者)、当局がこの見解を現在でも維持しているかどうかにより、結論が決まる問題と考えます。

 「保険募集人が特定の商品を提示する理由等は様々であると考えますが、いずれの場合においても、その理由が合理的なものである必要があるとともに、理由が複数ある場合にはその主たる理由を説明する必要があり、また、分かりやすく説明を行う必要があります。貴見のような場合は、上記の観点から、個別具体的にその適否を判断する必要があります。
 例えば、主たる理由が手数料水準である場合には、そのことを説明する必要がありますが、主たる理由が手数料水準であるかどうかは、実態に照らして、個別具体的に判断する必要があります。」

手数料開示義務について

 次に、「フィデューシャリー・デューティー」を踏まえた特定保険契約の代理店手数料の自主的開示について見ていきたいと思いますが、その前に保険代理店の手数料開示義務について解説します。
 保険業法において、保険仲立人(ブローカー)には、保険業法297条で、顧客から求められた場合に、手数料を開示すべき義務が課せられています。保険仲立人は、顧客から委託を受けた、まさに顧客の代理人であり(バイヤーズエージェント)、しかも同法299条の誠実義務(ベストアドバイス義務)で顧客に対し最善の保険商品を提案する立場にあることがその理由です。

 一方、保険会社からの受託者であり顧客の代理人ではない保険代理店については、保険業法上、手数料開示は義務付けられていません
 先ほど引用した金融審議会保険WGの際にも、保険代理店の手数料開示義務について議論がなされましたが、その報告書では「手数料の開示については、上記のような見直しを通じて、乗合代理店による保険商品の比較販売について、一定の適切な体制が整備・確保されると考えられることから、現時点において、一律にこれを求める必要はないと考えられる。」と結論づけられています(下線筆者)。
 このように、保険業法では保険代理店に手数料開示は義務付けられていません。

銀行における特定保険契約の代理店手数料の自主的開示

手数料の自主的開示の流れ

 平成28年8月後半、メガバンク等の大手銀行が、特定保険契約(すなわち、変額年金保険、外貨建て保険等、金融商品取引法上の行為規制が準用される投資性の強い保険商品)にかかる代理店手数料の自主的開示を行うと公表しました(実施は同年10月)。その後、多くの地方銀行等も、これに追従した対応を行うところとなっています。
 このような動向に軌を一にして、平成28年9月1日、生命保険協会から「市場リスクを有する生命保険の販売手数料を開示するにあたって特に留意すべき事項」という自主ガイドラインが公表されました。

 参考:「市場リスクを有する生命保険の販売手数料を開示するにあたって特に留意すべき事項」(生命保険協会)

  

投資信託販売との関係

 この一連の動向には、2つの特徴を指摘することができます。

 1つは、金融機関における投資信託販売との平仄が意識されている点です。
 「投資信託と同種商品の横断的な情報開示を求める」との観点から、自主的開示の対象は、投資性の強い保険商品と言われる変額年金保険、外貨建て保険等の特定保険契約とされています。また、上記自主ガイドラインにおいても、手数料開示関連媒体の提供先は、銀行等、第一種金商業者と、投資信託の典型的販売主体が想定されています。

フィデューシャリー・デューティー

(1) フィデューシャリー・デューティーとは

 もう1つは、「フィデューシャリー・デューティー」・「顧客本位」・「透明性」 がキーワードとなっている、という点です。
 「フィデューシャリー・デューティー」は、一般的には、「受託者責任」を示すものとして用いられてきました。その責任主体の典型例としては、金融の世界では、顧客からその資産や投資運用を受託する投資運用業者・信託業者、金融以外の世界では、医師や弁護士等をあげることが出来ます。その要素は以下の3点と考えます。

  • 受託者の高度な専門性を期待・重視して委託が行われること
  • 受託者の業務の遂行に当たり相応の裁量が与えられていること
  • 委託関係の開始および維持にあたり、委託者・受託者間の信頼関係が必須であること

(2) 金融庁が捉えるフィデューシャリー・デューティー

 この点、金融庁は、「フィデューシャリー・デューティー」を「受託者責任」よりも広い意味合いで捉え、「他者の信任に応えるべく一定の任務を遂行する者が負うべき幅広い様々な役割・責任の総称」と解しています(「平成27事務年度金融行政方針」(平成27年9月18日))。
 近時は同様の意味で、「顧客本位の業務運営」との語を用いるようにもなっています。
 当局は、顧客本位の業務運営(フィデューシャリー・デューティー)について、「平成28事務年度 金融行政方針」(平成28年10月21日)で以下のような考えを示しており、今般の、銀行における特定保険契約の代理店手数料の自主的開示も、このような当局の考えに沿うものと理解できます。

  • 国民の安定的な資産形成を実現するためには、販売会社についても、顧客本位の業務運営(フィデューシャリー・デューティー)の確立と定着を図っていく。
  • 手数料の水準や商品特性(リスクの所在)は家計にとって分かりにくく、金融機関と顧客との間には、いわゆる「情報の非対称性」が存在しているため、顧客が支払う手数料の明確化を進めるとともに、商品の説明資料の改善や、金融機関による顧客本位の取組みの自主的な開示を促進する。
  • 金融機関の行動や組成・販売する商品の顧客にとっての「見える化」を推進することで、良質な商品や取組みが顧客から正当に評価され、選択されていくメカニズムを構築し、金融機関が、顧客の方を向いてより優れた商品・サービスの提供を競い合う環境の整備を目指す。
  • 金融商品の販売、助言、商品開発、資産管理、運用等のインベストメント・チェーンに含まれる全ての金融機関等において、顧客本位の業務運営(最終的な資金提供者・受益者の利益を第一に考えた業務運営)を行うべきとのプリンシプルが共有され、実行されていく必要がある。
  • 例えば、以下の取組みについて、関係者との対話を進めていく。
    • 運用機関 :顧客本位の活動を確保するためのガバナンス強化、運用力の向上(運用人材の確保・育成)等、顧客のニーズや利益に適う商品の提供等
    • 販売会社 :顧客本位の販売商品の選定・提案、顧客本位の経営姿勢と整合的な業績評価、顧客本位の取組みの自主的な開示、商品のリスクの所在等の 説明(資料)の改善、顧客が直接・間接に支払う手数料率(額)及びそれがいかなるサービスの対価なのかの明確化、これらを通じた顧客との 間の利益相反や情報の非対称性の排除(情報提供の充実)等

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