2021年株主総会想定問答と想定質問 - 従業員の副業・兼業、選択的夫婦別姓、雇用調整助成金など

コーポレート・M&A
小川 尚史弁護士 日比谷パーク法律事務所

目次

  1. 想定問答の役割
  2. 従業員の副業・兼業
    1. 質問
    2. 回答例 1
    3. 回答例 2
    4. 解説
  3. 選択的夫婦別姓
    1. 質問
    2. 回答例 1
    3. 回答例 2
    4. 解説
  4. 雇用調整助成金
    1. 質問
    2. 回答例 1
    3. 回答例 2
    4. 解説
  5. その他の想定質問(時事問題関係)
    1. コロナ禍
    2. 政治、経済、為替
    3. 人事・労務
    4. コンプライアンス
    5. リスク管理
    6. その他

想定問答の役割

 前回に続き、2021年の株主総会における想定問答および想定質問を取り上げます。

 想定問答の役割は、答弁役員が事前にどのような質問がなされそうかを把握し、回答の方向性を確認したり回答の練習を行ったりすることや、実際の質疑応答の際の参考資料とすることにあります。実際の質疑応答の場面では想定問答を読み上げることなく、答弁役員自らの言葉によって回答・説明が行われることが理想です。

 本稿では本年の株主総会において想定される質問および回答例をまとめるとともに、末尾にはより多くの想定質問を掲載しています。想定質問に基づいて、各社の状況に応じた回答例を作成し、また、答弁役員の事前準備に活用していただくことを目的としています。回答の方向性や説明方法を参考にしていただければと考えています。

 本稿は、同様の構成に基づいて異なる内容の想定問答および想定質問を取り上げた2編構成としています。

 第2編の本稿では、主として近時の時事問題に関係する想定質問を掲載しています。具体的には、従業員の副業、選択的夫婦別姓、雇用調整助成金に関する問題のほか、コロナ禍に関連する質問等を取り上げました。株主が関心を持っている時事問題に関連して「当社ではどうなっているのか」「A社では●●だそうだが、当社ではどうなのか」といった質問をすることはしばしばみられるため、十分に準備をしておく必要があります。

従業員の副業・兼業

質問

 厚労省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を公表するなど、副業を認める流れが加速している。当社では従業員による副業に対してどのような姿勢なのか。また、実際に副業を行っている従業員はどれほどいるのか。

回答例 1

 当社では、従業員の働き方の多様性を確保するため、近時改定された厚労省のモデル就業規則に準拠して、就業規則において原則として副業を認めています。ただし、当社の労務提供に支障の生じる場合、当社の業務上の秘密が漏洩する場合、当社の名誉や信用を損なうような場合には、副業を制限することができることとしています。これを受けて、◯◯年は約◯◯名が副業に従事しています。

回答例 2

 当社の就業規則では、副業・兼業について許可制をとっていますが、厚労省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の趣旨も踏まえ、従業員が副業を希望した際には、当社への労務提供に支障が生じる場合や企業秘密が漏洩する場合などを除いて、原則として許可を与えるという方針のもとに運用しています。当社で実際に副業を行っている従業員は◯◯名ほどいます。

解説

(1)副業・兼業の促進という流れ

 従来は就業規則において副業・兼業を禁止したり許可制をとったりする企業が多く見られました。しかし、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由であり、各企業がそれを制限することが許されるのは、労務提供上の支障がある場合、業務上の秘密が漏えいする場合、会社の名誉や信用を損なう行為がある場合等に限られるというのが裁判例の考え方でした。

 そのようななかで、副業・兼業を希望する者が増加する社会状況を踏まえ、2018年には厚労省の「モデル就業規則」が改定され、兼業を禁止するルールから原則自由に変更されたほか、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が策定されました。当該ガイドラインにも「労働時間以外の時間については、労働者の希望に応じて、原則、副業・兼業を認める方向で検討することが求められる」と記載されています。

 さらに2020年9月には、副業・兼業を促進する厚労省は企業の副業社員の労務管理の簡素化を図るため(労働基準法では、企業に従業員の労働時間を本業と副業の通算で把握することを義務付けるが、副業先の労働時間を正確に把握するのは難しいという問題がありました)、ガイドラインが改定され、従業員の自己申告に基づいて副業時間を把握することが認められました。

 以上のとおり、副業・兼業に関しては会社の業務運営等に支障の生じないかぎりこれを認めることが社会的な流れとなっています。

(2)回答の方針

 このため、副業・兼業に関する質問がなされた場合に、会社として否定的・消極的な姿勢が見られる回答を行うと、社会状況からの隔たりを指摘されることになりかねません。そこで、仮に副業に関して許可制を採用している場合であっても、上記の回答例2のように、実際の運用では支障の生じる場合を除いて許可を与えるようにしていることを強調するなど、副業・兼業に前向きな姿勢をとっていると述べることが望ましいと考えられます。

選択的夫婦別姓

質問

 選択的夫婦別姓の導入が議論されているが、当社ではどのような考え方なのか。そもそも当社では旧姓使用を認めているのか。

回答例 1

 当社では旧姓使用を認めており、実際に旧姓を使用して働いている従業員がおります。選択的夫婦別姓の導入に関しては、将来の法制度の有り様に関わる問題であり、様々な考え方があり得ますので、当社として何らかの見解を表明することは差し控えさせていただきますが、幅広い議論を踏まえて方針決定されるべきものと認識しております。

回答例 2

 当社では、従業員の正確な識別のために原則として旧姓ではなく戸籍名の使用を求めることとしております。

解説

(1)選択的夫婦別姓制度

 選択的夫婦別姓制度の導入が議論されています。夫婦が望む場合には、結婚後も夫婦がそれぞれ結婚前の氏を称することを認める制度です。

 現在の民法では、結婚に際して、男性または女性のいずれか一方が必ず氏を改めなければならないとされています(民法750条)。実際には、男性の氏を選び、女性が氏を改める例が圧倒的多数ですが、女性の社会進出等の進展に伴い、改氏による社会的な不便・不利益がかねてから指摘されているところであり、選択的夫婦別姓制度の導入を求める意見が高まっています。

(2)夫婦同姓を定める法令の合憲性をめぐる裁判

 また、夫婦同姓を定める民法750条と婚姻届の手続きを定める戸籍法74条について、「法の下の平等や両性の本質的平等を定めた憲法に反する」と主張する裁判が提起されています。2015年に最高裁は「婚姻前に築いた個人の信用、評価、名誉感情等を婚姻後も維持する利益等は、憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとまではいえない」として、民法規定を合憲と判断しました(最高裁平成27年12月16日判決・判時 2284号38頁)。

 しかし、その後、あらためて民法750条および戸籍法74条の合憲性を論点とする新たな事件が最高裁で審理されており、近く憲法判断がなされることが見込まれています。

(3)職場における旧姓使用

 以上のとおり法律において夫婦別姓が認められていない状況の中では、職場における旧姓使用の可否も問題となり得ます。現在では多くの企業で旧姓使用が認められていますが、一方で旧姓使用を認めない職場も存在しています。

 職場での旧姓使用を認めないことが違法であるとして争われ、「職場という集団の中で戸籍姓の使用を求めることは合理性、必要性があるとして、職場で戸籍姓の使用を求めることは違法ではない」と判断された事例もあります(東京地裁平成28年10月11日判決・判時 2329号60頁)。他方で、上記の2015年の最高裁判決では、「夫婦同氏制は、婚姻前の氏を通称として使用することまで許さないというものではなく、近時、婚姻前の氏を通称として使用することが社会的に広まっているところ、〔夫婦同氏制〕の不利益は、このような氏の通称使用が広まることにより一定程度は緩和され得るものである」と指摘されています。

(4)回答の方針

 旧姓使用を認めているかについては事実を回答することになりますが、認めていない場合には、それを合理化する何らかの説明が必要になります。現在では多くの企業において旧姓を通称として使用することが認められている状況にあるため、使用不可の場合の説明は難しいところですが、積極的な理由を準備しておくべきです。

 なお、選択的夫婦別姓制度に関しては、今後の法令改正に委ねられた事項であり、様々な意見も存在しますので、会社として特定の見解を表明する必要はなく、望ましいことでもないと思われます。

雇用調整助成金

質問

 コロナ禍の状況において、従業員に支払う休業手当を助成する雇用調整助成金の特例措置が設けられており、利用している企業も多いようだが、当社の受給状況を教えてもらいたい。不正受給のようなことはないか。

回答例 1

 当社では、コロナウイルス感染拡大の影響により売上の減少等の影響が見られましたが、従業員の雇用を維持するため、雇用調整助成金の受給を行いました。受給額等の詳細の説明は控えさせていただきますが、法令に基づいて適正な受給を行っております。

回答例 2

 当社ではコロナ禍にあって従業員のリモートワークを進めており、休業という措置はとっていませんので、雇用調整助成金は受給しておりません。

解説

(1)雇用調整助成金活用の呼びかけ

 新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため、労働者への積極的な休業手当の支給を事業主に促す手段として、政府からは雇用調整助成金の活用が呼びかけられています。たとえば、厚労省のウェブサイトの雇用調整助成金に関するページでは、冒頭に「緊急事態宣言を受けて、休業する事業主の方は、雇用調整助成金を活用して従業員の雇用維持に努めて下さい」と強調されています。

 雇用調整助成金とは、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主に対して、休業手当等の一部を助成することにより、休業等を行って労働者の雇用の維持を図るよう促すことを目的とした制度です。

 実際に、今般の新型コロナウイルスの感染拡大の状況においては、大企業でも従業員を休業させたうえで雇用調整助成金を活用して休業手当を支払うという動きが進められました。

(2)雇用調整助成金の支給要件および支給内容

 雇用調整助成金は、雇用保険法62条1項1号に定める「雇用安定事業」の1つであり、雇用保険法施行規則(102条の2以下)に支給要件や支給内容等の詳細が定められています。
支給要件に関しては、下記の事項が定められています。

  1. 直近3か月の生産指標(生産量、売上高)が前年同期と比べて10%以上減少していること
  2. 雇用保険被保険者である労働者に関する休業であること等
    また、支給内容に関して
  3. 支払った休業手当の2分の1(中小企業事業主は3分の2)という助成率とすること等

(3)新型コロナウイルス感染症に関する特例措置

 これに対して、今般の新型コロナウイルス感染拡大防止を目的とする特例措置として、「新型コロナウイルス感染症に伴う経済上の理由により、急激に事業活動の縮小を余儀なくされたもの」に関しては、上記の支給要件が緩和され、支給内容が拡充されました。
 特例措置の内容は、下記のとおり拡充するものです。

  1. 生産指標要件を1か月で5%以上低下と緩和する
  2. 雇用保険被保険者でない労働者(学生アルバイトなど)の休業も対象とする
  3. 助成率を4分の3(一部の大企業及び中小企業事業主は10分の10)とする
  4. 1人1日15,000円を上限額とする

 このような特例措置は、令和2年4月1日から同3年4月30日までの期間内の休業が対象とされています。

(4)雇用調整助成金の不正受給

 特例措置を受けて多くの企業が雇用調整助成金を活用し、申請件数は2021年3月末時点で300万件を超え、支給総額は3兆1578億円に上ります。そのようななかで、実際は従業員が勤務していたのに休業したと偽って受給するなどの手口による不正受給も相次いでおり、2021年4月までに、支給前の審査時点で不正と判断されたものが37件、総額4.3億円分、支給後に発覚した不正受給は44件、総額2.7億円分あったとされています。

 不正が発覚した企業は、支給額の2割増しの金額での返還を要求され、5年間は雇用関係の助成金の申請を受け付けられないことになります。

(5)回答の方針

 雇用調整助成金に関する質問に対しては、雇用調整助成金の受給状況のほか、従業員の雇用維持に向けた努力の内容、休業の状況等を説明することが考えられます。具体的な受給額といった詳細な内容については説明を控えても問題はありません。

その他の想定質問(時事問題関係)

 以下は想定質問となります。各社の状況に応じた回答例を作成し、また、答弁役員の事前準備にご活用ください。

コロナ禍

  • ポストコロナ時代に向けて新たな事業展開を視野に入れている会社も多いようだが、当社ではどのような検討を行っているのか。
  • 巣ごもり消費に対応した商品やサービスが活況のようだが、当社でもそのような観点からの新商品・サービスは検討していないのか。
  • コロナ禍により当社の事業運営にはどのような変化がもたらされたのか。ネガティブな側面だけでなく、ポジティブな側面も教えてもらいたい。
  • コロナ禍により長距離移動が制約されている状況下で、海外子会社の監査は実効的に行うことができているのか。
  • コロナ禍の影響による限定された株主総会の運営(来場自粛の呼びかけ、お土産の中止など)は、来年以降は正常化できる見込みなのか。
  • リモートワークやWeb会議が増加する中で、労働生産性が低下しないように、どのような取り組みを行っているのか。
  • リモートワークの増加に伴って従来どおりのオフィススペースは不要となり、事業所を縮小したり移転したりする会社が増えているようだが、当社もオフィスの縮小や移転の検討は行っているのか。保有する本社ビルを売却すれば資産効率の向上にもつながるはずであるが、それは検討しているか。

政治、経済、為替

  • 日経平均が3万円の大台に乗るなど地合いが良いにもかかわらず、当社の株価が低迷しているのはどうしてなのか。
  • 2021年に入って以降円安ドル高が加速しているが、それに伴う当社業績への影響を説明してもらいたい。
  • 原油価格が高騰しているが、当社業績への影響はどうか。また、リスクヘッジ対策は十分に行っているのか。
  • 本年中に衆議院議員選挙が見込まれているが、選挙の帰趨によって当社業績には何らかの影響が見込まれるのか。
  • 政府は地方創生を政策に掲げているが、当社には地方創生につながる取り組みはあるか。

人事・労務

  • 優秀な人材を確保するために新卒の新入社員に多額の報酬を支払う会社も出ているようであるが、当社ではそのような工夫は考えていないのか。
  • 業務の見直しや削減により将来的に大幅な人員削減を見込んでいる企業も多いようであるが、当社では大幅な人員削減の計画や予定はないのか。
  • ハラスメントに関する報道が後を絶たないが、当社におけるハラスメント事案の発生状況はどうなっているか。また、どのような防止策を講じているか。

コンプライアンス

  • 国家公務員が職務の利害関係者から接待を受けたことが倫理規程に違反しているとされた事案が報道されているが、当社の関係省庁はどこになるのか。また、そのような関係省庁の公務員に対する接待を行っている事例はあるのか。
  • 政治家による女性蔑視発言が話題になっていたが、当社においても女性の処遇をめぐって不適切な事例が発生したか。当社としてはどのように対応したか。

リスク管理

  • LINEが利用者に関するデータ等を中国や韓国のサーバーに保管していたことなどが問題となっている。当社の事業運営にLINEを活用していた事実はあるのか。あるとすれば情報流出の問題はないか。
  • 東日本大震災から10年が経過したが、同種の大震災やその他の自然災害への備えは万全なのか。
  • 広告宣伝に起用しているタレントの不祥事案件が週刊誌等で報道された場合、当社のレピュテーションに悪影響が及ぶことが懸念されるが、身体検査はしっかりと行っているのか。

その他

  • 東京オリンピック・パラリンピックの開催是非や運営方法が議論されているが、当社にはどのような影響が見込まれるのか。
  • ISSやグラスルイスなどの議決権行使助言会社は、本総会の各議案に対してどのような理由でどのような意見(推奨)を行っているのか。反対推奨の場合、当社から助言会社に対して行った反論等の対応内容を説明してもらいたい。

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